軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初心者狩り (6)

「うわあああああ! ……あれ?」

ゲスーノが目を覚ますと、そこは石造りのどこかの通路だった。キワミも一緒に居る。

そして自分の体も痛くないし、キワミの顔も元のままになっていた。

「あれ? ……そうか、夢だったんだ。変な夢を見た」

なぜこんなところで寝ていたのかは分からないが、ダンジョンのトラップに引っかかったか何かだったんだろう。

あんなことがあり得るはずがない。獲物が化け物だったり、奴隷も化け物だったり、アイアンゴーレムを操る銀髪の女が現れたり。

ましてやアイアンゴーレムの群れにボコボコにされたとか。ひどい悪夢だった。

だがこうして自分の体もキワミの顔も無事な以上、あれは夢だった。あまりにもリアルで鮮明に思い出せるが、夢だ。忘れよう。と、ゲスーノは自分に言い聞かせた。

「キワミ、おい、起きろ」

「ンん……なによぉダーリン……あれ?」

ゲスーノがキワミを揺り起こすと、キワミはきょろきょろとあたりを見回した。

「……お嬢様とエルフの護衛は? あの銀髪は?」

「は、ハニーもあの夢を見たのか」

「夢? ……そうよね、夢よね」

キワミは自分の顔を触ってそう答えた。

「それで、ここはどこなの……ダーリンが連れてきたのよね?」

「いや、僕もさっき起きたところさ。ハニーこそここがどこか分からないか?」

「分からないわよ……ダンジョンの中じゃないの?」

確かに通路の感じからするとダンジョンだろう。迷路の一部だろうか。

と、足音が聞こえた。他の冒険者だろうか? いや、数が多い。しかも、重量があり響く足音だ。

「これ、アイアンゴーレムの足音じゃないか……? それも、とんでもない数」

「アイアンゴーレムの群れ? ……ならこの部屋に逃げてやり過ごしましょう」

夢の中でアイアンゴーレムに囲まれたことを思い出し、サーっと血の気が失せる思いのゲスーノ。

キワミも夢の中で大量のアイアンゴーレムを目撃していたのか、ゲスーノを馬鹿にすることなく逃げを選択する。当然だ、こちらはCランク冒険者2人しかいないのだから。

しかしキワミは気付いていなかった。この扉が、他の部屋のものに比べ豪華であることを。

ここはこのダンジョンのボス部屋。さらなる地獄の入り口だということに。

……部屋の中は、まるで城の謁見室のようだった。だが誰もおらず、宝箱が置いてあった。

「見ろキワミ! 宝箱が置いてあるぞ」

「まってゲスーノ。罠が仕掛けられてると思うわ。慎重に行きましょう」

不幸中の幸い、役に立つものが入っているに違いない。

2人が宝箱に近づくと、入ってきた扉がバタンと閉まった。

そして―― それ(・・) が降ってきた。

ズグゥン! と腹に響く地響き。石畳の上に降り立ったそれは、体を動かすとギャリギャリと耳障りな金属音を響かせた。

羽を大きく広げ、首をもたげる。生命を感じさせない赤い宝石の瞳が、ゲスーノ達を捉えていた。

その姿はまさしく――最強種、ドラゴンであった。

『PULAAAAAAAAAA!!』

音の違う金属の笛をまとめて吹き鳴らしたような、奇妙な咆哮が部屋に響いた。

「鉄の……ドラゴン!?」

「なっ、逃げるぞ!」

宝箱を放棄し、逃げ道を探すと奥に続く扉が目に入る。

急いで向かう2人だが、その扉は鍵がかかっていた。

「早く開けろキワミ!」

「まって! これ、ダメ、開けられないわ!」

「なっ……斥候職だろ!? いいから早く開けろよ!」

「鍵穴もないのにどうやって開ければいいのよ!! ボス部屋だったのよ、ここは!」

それは、ボスを倒さねば開かない扉だった。

「ぼ、僕のせいじゃない! キワミがこの部屋に入ろうって言ったから!」

「あなたも賛成したでしょ!? 戦士職ならあのドラゴンを退治してきてよ!」

「無理に決まってるだろ、ドラゴンだぞ!」

ずしん、ずしん、とゲスーノ達に近寄る鉄のドラゴン。

言い争いをしている場合ではない。

「……ハニー、ひとつ提案がある。どちらかがあいつを引き付けている間に、もう片方が入り口の扉に逃げるんだ」

「あら、当然ダーリンが囮になってくれるのよね?」

「そこは、僕とハニーが反対側に逃げて追いかけられた方が囮になるってことでどうだい?」

「……いいわよ」

そして、2人はドラゴンの右と左、正反対の方向に駆け出す。

ドラゴンはキワミに向かい――

ゲスーノには、その鋼鉄の尻尾が襲い掛かった。逃げる判断が遅かったか、だがこのくらいなら避けられる。かいくぐろうと屈んだところ、

「うごっ!」

まるで尻尾にも目があるかの如く、軌道を変えてゲスーノを薙ぎ倒し、意識を刈り取った。

「うわあああああ! ……あれ?」

ゲスーノが目を覚ますと、そこは石造りのどこかの通路だった。キワミも一緒に居る。

そして自分の体も痛くないし、キワミも無傷で寝ていた。

「あれ? ……そうか、夢だったんだ。変な夢を見た……」

なぜこんなところで寝ていたのかは分からないが、ダンジョンのトラップに引っかかったか何かだったんだろう。

……既視感。

「キワミ、おい、起きてくれ、頼む!」

「ンん……なによぉダーリン……あれ?」

ゲスーノがキワミを揺り起こすと、キワミはきょろきょろとあたりを見回した。

「……お嬢様とエルフの護衛は? あの銀髪は?」

「は、ハニー? それは夢じゃないか? それより、ドラゴンが出てくる夢は見てないか」

「夢? ……そうよね、夢よね。……ドラゴン? 見てないわよ」

キワミは自分の顔を触りながらそう答えた。

ドラゴンは見ていない? となると、今さっきの記憶は、これこそ夢?

「それで、ここはどこなの……ダーリンが連れてきたのよね?」

「え、ええと、いいから早くここから離れよう。いやな気がする」

「え? ……それじゃあ、そこの部屋に隠れましょうか」

キワミが指さした部屋。それは、先ほど夢の中でドラゴンに襲われた部屋だった。

「その部屋はよした方がいい」

「でも、足音が聞こえるわよ、しかも、かなりの数」

ゲスーノにも足音が聞こえた。数が多い。しかも、重量があり響く足音……

……キワミが覚えていないなら、本当に夢だったのかもしれない。そもそも夢でなければ既に死んでいるはずだ、とゲスーノは消極的に覚悟を決めて部屋に逃げることに決めた。

扉を開けた先に宝箱がなかったのも決め手だった。

「油断するなよハニー。天井とか」

「天井? 何もないわよ。ダーリンは何警戒してるの?」

「ドラゴンを、ね。ボス部屋、なんじゃないかなぁって」

「……ドラゴンはともかく、ボス部屋はあり得るわね」

部屋の奥には、さらに奥へ続く扉がある。……夢で見たものと一致する。

「……あの扉、鍵がかかってるんじゃないかな。それで、鍵穴もない」

「え? ここからそんなことがわかるの?」

「僕がここで入り口の扉をおさえておくから、見てきてくれないかな」

「まぁ、いいけれど……変なダーリン」

そしてキワミが奥の扉を確認しに向かったその時――

『PULAAAAAAAAAA!!』

耳に痛い、金属の咆哮。どこにいたのか、まるで姿が消されていたかのように、唐突に鉄のドラゴンが現れた。夢で見た、悪夢のそのままの形だった。

「ひっ……うわあああああああああ!!」

「ダーリン!?」

ゲスーノは一目散に逃げだした。キワミを見捨てて、部屋の外へ――

――そこには無数のアイアンゴーレムが、右左しかない通路を塞いで待ち構えていた。

「もどってください」

ゴーレムの影に隠れていたが、犬耳の奴隷がそこに居た。

なぜかゲスーノの足が震える。

褐色肌の幼女を前に、完全装備の大人の冒険者が怯えている、奇妙な絵がそこにあった。

「おかしいです、記憶は消したはずなのに……ネル? ちゃんと仕事しました?」

『しましたけどぉ、さすがに5回目ともなると消しきれないんじゃないですかね。タダでさえ死ぬ寸前の色濃い恐怖の記憶って消しにくいんですよ?』

「……こまりました。まだご主人様はドラゴンのテストをしたいようなのですけれど」

テスト? ご主人様? あの青髪の、いや、人形のことか? ドラゴンの?

頭が混乱する。

「どういうことだ!? 何が目的だ!?」

「テストですが? ……仕方ないですね、念入りにじっくり消しましょう。大丈夫ですよ、腕くらいもげても回復させれば死なないことは経験済みです。だから怖がらずにドラゴンに挑んでください――ネル、憑依」

『あいっさ! 憑依申請! ……了承きました、合体いきまぁす!』

「うわあああああ! ……あれ?」

ゲスーノが目を覚ますと、そこは石造りのどこかの通路だった。キワミも一緒に居る。

そして自分の体も痛くないし、キワミも無傷で寝ていた。

「あれ? ……そうか、夢だったんだ。変な夢を見た……夢、そう、夢……あれ、何が、夢だったんだっけ?」

ゲスーノは混乱しつつも、とりあえずキワミを起こすことにした。

それが何度目であるのかは、ゲスーノに知る 由(よし) もなかった。