軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

割れた魔法薬

俺が口論が起きているという裏庭に行くと、そこではオロオロするニクと、ペコペコ頭を下げるマイオドールと、土下座しているシキナがいた。

「大変申し訳ないでありますうぅううう!」

「そっ、そそそそそんな謝られても、薬は戻ってこないのです! それに悪いのはわたくしですし、ど、どうしたら……、どうしましょう、どうしましょう!? 申し訳ありませんクロ様っ」

「え、えと、ええっと」

「いや! 悪いのは自分でありますうぅうう!」

「違いますわ、悪いのはわたくしですわぁああ! あああクロ様申し訳ありません……」

「ええと……」

口……論……?

一体何が起きたのか分からないが、つまりこれは自分が悪いという口論か。

と、ニクと目が合った。

「ご、ご主人様!」

ばっ! とマイオドールとシキナもこちらを見た。

そして涙目、号泣+鼻水でこちらに縋り付いてくる。

「どどどど、どういたしましょう義父様ぁああ!」

「助けてください師匠ぉおおお!」

「さりげなく義父様いわないでくださいマイ様? えーっと、とりあえず何があったか説明してくれ……」

「で、では自分から説明させていただくであります……」

「いや、わたくしから……」

「あー、うん。そんなら間を取ってニ……クロ、説明してくれ。2人はそれを補足する形で」

俺がマイオドールの手前クロと呼びつつ尋ねると、ニクはこくりと頷いた。

「昨晩は一緒に寝れて嬉しかったのですわ、クロ様」

「仲良くとのことでしたので……」

昨晩は結局ケーマは戻ってこなかったので、ニクとマイオドールはおしゃべりに興じ、一緒に温泉に入ったり、一緒のオフトンで寝たりした。

マイオドール曰く、婚約者だから問題ないのですわ! ということらしい。

「これで既成事実成立ですわね」

「既成事実?」

ニクは首をかしげるも、マイオドールはうふふと微笑むだけで答えてくれなかった。

既成事実はともかく、実際、仲が良くなったのかお互いの呼び方もより親しいものになっていた。

「それで、わたくしと一緒に寝た感想はどうでしたか?」

「んー、マイは、良い匂いでした」

「……は、えと、に、においですか。恥ずかしいですわね……く、クロ様も、良い匂いでしたわ」

顔を赤くして、マイオドールはもじもじした。

ニクは揺れる青い縦ロールを見て、メイドのかけていた【整髪】という魔法を思い出す。

見たことのない魔法だったので、ネルネあたりに教えたら喜ぶかもしれない。と考えていた。

と、思い出したように時計を取り出す。以前ケーマからもらったゴーレム時計だ。

「それでは、わたしは日課の訓練をします」

「クロ様、そちらは?」

「そちら? ……ああ、これですか。これはご主人様から頂いた時計です」

「そのような小型の時計……ダンジョン産でしょうか。さすがケーマ様ですわね」

訓練にマイオドールもついていくことにしたらしく、一度食堂に寄って朝食のサンドイッチをいただき、一緒に宿の裏庭に向かった。

裏庭からは、昨日は無かったはずの教会が見えた。

「あ、あの、クロ様。あちらの建物は? 昨日はありませんでしたよね?」

「……? わかりません。ご主人様が何かしたのでしょう」

平然と準備運動をするニクに、マイオドールは「そういうものなのかしら」と心を落ち着かせる。

「ご主人様ですから」

「まぁケーマ様ですものね」

いくら何でも1日、いや、一晩で建物ができるなどおかしいのだが、その魔法の言葉で大体解決した。

「あ、クロイヌ殿! 今から訓練でありますな! およ? こちらの幼女はお友達でありますか? 村の子ではないようでありますが」

「ん。ツィーアからきた、マイオドール。……マイ、こっちはシキナ、後輩」

「あら。初めまして。わたくし、マイオドール・ツィーアと申しますの。クロ様の婚約者ですわ」

「! これはこれはご丁寧に。お初にお目にかかるであります、自分はシキナ・クッコロと申すであります」

マイが自己紹介すると、シキナは姿勢を正してそれに応えた。

「クッコロ? もしやかの『獣ノ王』と名高いダイン・クッコロ様の――」

「父をご存知でありますか。自分は娘であります。……それよりクロイヌ殿の婚約者というのは?」

「そちらは言葉通りの意味ですわ」

ちなみにシキナの父、ダイン・クッコロの『獣ノ王』という二つ名は、軍団に匹敵する数の召喚獣を1人で従えることからつけられたらしい。

「ダイン様の娘とあれば、やはり召喚獣を?」

「……自分はそこのところ出来損ないでありましてな。今ケーマ師匠に鍛え直してもらっているのでありますよ」

「まぁ! クッコロ家とも交友があるとは、さすがケーマ様ですわね」

「むしろツィーア家の姫とクロイヌ殿が婚約している方が驚きでありますな」

マイオドールとシキナが2人で仲良く盛り上がっていたので、ニクはとりあえず素振りを始めた。素振り用の木製ナイフがひゅん、ひゅんっと空を斬る音がする。

「……時に、マイオドール殿は、実は男であったりはしないでありますよな? いや自分、クロイヌ殿が女の子であることは確認したことがあるのでありますが……」

「ええ、女ですよ。ですが、実はこういうものがあるので問題ないのです」

そう言って、マイオドールは【収納】から鮮血のような赤色の魔法薬――『フタナール』を取り出した。

「これは、ポーションでありますか?」

「性別を混沌に変える薬ですわ」

「……混沌神の魔法薬でありますか!? それは邪法でありますよ! 帝国騎士として見逃すことは……」

「え? これって、その、違法なお薬なのですか?」

「………………違法では無いと思うのでありますが、その、非常にグレーな存在というか……混沌神の魔法薬は依存性があるものが多く、種類と濃度によっては違法な場合もありまして……この透明度では永続ではないことは確実なのでそこの判定が……あっ! そうであります、今ちょうど騎士団長、サリー様が来ているのであります! ちょっと聞いてみるでありますよ! だからお薬を貸してほしいであります」

がし、と魔法薬の瓶を掴むシキナ。当然、マイオドールは抵抗した。

「えっ、いや、そ、それはっ……こ、これがないとクロ様と結婚できなくなってしまいますし、見なかったことにしていただけませんか?」

「そうはいかないであります! しかし無事に問題ないということが分かれば、ちゃんと返却するでありますゆえ、ここはひとつ」

「だ、だめです! それじゃ返ってこないかもしれないじゃないですかっ」

やいのやいの、と魔法薬を引っ張り合う2人。……どちらも離そうとしない。

「ぐぐぐ、強情でありますね……」

「み、見なかったことにしていただければそれでいいのです。それだけで誰も困らない、皆幸せになるのですよ? これは神の日陰による癒しというものでしょう」

「日の下を堂々と歩くためにも、ここはひとつサリー様に判断を下していただき……」

ぴしり、と、音がした。魔法薬の瓶にヒビが入る。

「へ?」

「きゃっ!?」

その音にマイオドールは思わず手を放し、勢い余ったシキナは転びながら手を滑らせて、瓶がぽーんと空高く舞った。

「……それで薬は粉々になって地面に吸収されたと」

この場合、地球がフタナリに?

いや、ここはダンジョンの領域内。つまりダンジョンが……そう、ロクコが……?

いやいや、そんなことになってたら膝枕でなにか気付いたんじゃ、え、ちょっとまって。少し考えさせて。

「いえ、それが……」

「その、でありますな、えーっと」

とても気まずそうに目を逸らすニクとシキナ。

「なんだ、歯切れが悪いな。……マイ様、どうなったんですか?」

「……その、『フタナール』はですね、シキナ様の頭の上に降り注ぎまして」

ふむ、なるほど。つまり――

「……師匠ぉおおお! 自分、オチンチンの使い方なんて分からないでありますぅうううう!!」

残念エルフがますます残念になったと、そういうことらしい。