軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

神の掛布団 (2)

翌朝、目が覚めた俺は、目の前にあるロクコの顔を見た。

……だんだん頭がハッキリしてきた。

やべぇえええええ! 危なかったぁあああああ!!

生きてる、俺生きてるッ! 天罰は無いか? 大丈夫か? あああ、でも時間差で来たらどうしようもないな……

何が50%と50%を足したら100%だよ、計算の根拠自体がおかしいし、普通に考えてMAX75%だよ。さらに天罰が半分になったところで成功率とは何ら関係ないだろ、俺はどんだけ神の掛布団に目がくらんでたんだ!?

危ないのはそれだけではない。ハクさんの存在もある。そもそもこの部屋はロクコとハクさんの寝室だったはずだ、ということは、いつここにハクさんがやってきてもおかしくなかったし、今まさにその状況は現在進行形だ。

とりあえず俺は布団を出た。ふー、寝汗……とかはないな。今かいた冷や汗だけだ。

【超変身】は問題ない、俺の姿はロクコのままだ、ロリである。むしろ魔力が満ち溢れていて、勝手に解けるような気配もない。魔力が溢れているのは、神の掛布団の効果だろうか?

「とりあえず、命は無事か。少なくとも今のところ」

しかし体からいい匂いがする気がする。くんくん。なんだろう……あ、これロクコの匂いか。一緒に寝てたというのもあるけど、ロクコに変身してるんだもんな。

やべっ、思いっきり腋とか嗅いでた。ちょっとだけ罪悪感。

「んぁ……あれ、何で私がもう1人……あ、ケーマだったっけ。おはようケーマ」

「おっと、目が覚めたか。おはようロクコ」

「……これって夫婦かしら?」

「いきなり何を言っているんだお前は」

「だってほら、ケーマが私ってことは、まごうこと無き一心同体じゃない? ケーマと肉体的にも1つになっちゃってそれで一晩……これはもはや既成事実というヤツではないかしら。神の掛布団のおかげね!」

「違う! 絶対違うから!」

「……ねぇ、おいでよケーマ。二度寝しましょ? 掛布団、気持ちいいわよ?」

頬を赤くしにこりと微笑んで、ハラリと神の掛布団をめくって俺を誘惑するロクコ。

くっ……! なんて魅惑的な誘いを! その布団のめくり方、足、みえっ……なんか胸の奥とへそのあたりがキュンキュンしてるんだけど何だこの気持ち! 頭ジンジンしちゃう!

と、とりあえずこの姿のままじゃダメになりそうな気がする。頭がフットーしちゃう。

……でも、変身を解除してしまったらハクさんへの対策が無くなってしまうのではないか? 万一ハクさんに見つかっても、ロクコの姿なら逃げきれる可能性は高い。それを考えればこの姿を解除するわけにはいかない。少なくとも、『ケーマ』がこの部屋から出てくるのはダメだ。

つまり、この部屋で変身を解かなければいいのだ。自分の部屋に戻って変身を解けば問題は無い。

「ケーマ、来ないの?」

「す、すまんが、続きはダンジョンに帰ってからだ。ここはハクさんのテリトリーだし、俺がこの部屋に居ちゃまずいだろ。俺は一旦部屋に戻る」

「あー……それも、そうね。じゃあ一緒の二度寝は私のダンジョンにもどってから、ね?」

「ああ」

俺は、後ろ髪を引かれる思いを振り切って、ロクコを置いて寝室を出た。

寝室から廊下に出る。早く自分の部屋に戻って変身を解かねば。

と、その1歩目を踏み出した時だった。

「あら、ロクコちゃん」

びくぅん! と体が思わず跳ね上がる。

振り向くと、頭が痛そうにこめかみを押さえてる、顔色の良くないハクさんが居た。

まさか、これが天罰だというのか。

「あ、えっと、は、ハク、姉様!」

「ごめんなさい、あまり大きな声出さないで……響くから」

おっとしまった、ついハク姉様と呼んでしまった。これはもう誤魔化すしかない。

「昨日は一緒に寝られなくてごめんなさい、なんかお酒が進んじゃって。気が付いたら朝だったわ……あいたたた」

「えっと、二日酔いですか?」

「ええ、さっき軽く回復魔法かけたからマシになったけど――あら、その恰好」

その恰好、と言われて見返すと、俺の恰好はジャージだった。

しまった、バレただろうか。

「ロクコちゃんも寝起きね? ……もう。せっかく用意してるのだから、私としては、可愛いパジャマも着てほしいわ」

「――ん? あの、それだといつもジャージ着て寝てるように聞こえるんですが」

「何言ってるのよ、いつも着て――あたたた」

いつも着てたのか? 確かにDPで出せたはずだ。

俺はロクコが寝てるところってあんまり見てないけど、俺が居ないところではジャージで寝てるのか? よく分からないが、好都合だ。

「それじゃ、一緒にお風呂行きましょっか」

どうしようコレ。

って行けるわけないだろ! 俺は逃げることにした。

「すっ、すみませんハク姉様、先におトイレに行きたいのでっ」

「あらそう。……私も一緒に行こうかしら」

秘技『ちょっとトイレ』で逃げられないだと!?

くっ、仕方ない。こうなったら奥の手だ。

「あ、と、トイレはやっぱりいいです。ちょっと私、ケーマに呼ばれてるので……」

「あら、それなら先に着替えなきゃ。そのジャージ姿で会うのはダメよ」

「いやその、すぐ行かないとっ」

「男性に会う前の身支度はレディーのたしなみよ? ダンジョンの危機ってわけでもないんでしょう、本当に急いでるなら通信で用件を言うでしょうし。急がない用なら身支度が優先よ。ケーマさんなら二度寝して待ってるでしょうし、気にしなくていいわよ」

奥義『パートナーに呼ばれています』が通用しないだとう!?

ど、どうしたらいいんだ……

「さ、というわけでまずはお風呂に行きましょうか。体を綺麗にしたら次はお着替えね。とびっきりの可愛い服を見繕ってあげる。髪も結ってあげますからね」

「えっ、あ、や、い、今はお風呂入りたくないかなぁって」

「……汗臭いとケーマさんに嫌われるわよ?」

「け、ケーマはむしろ汗臭い方が好きなんじゃないかしら。それに急いでるし、【浄化】だけでいいと思うのだけれど」

「あら、それじゃ味気ないし、私がつまらないわ。勇者工房に新しい入浴剤を作らせたの。柔らかな百合の香りでお肌スベスベになるわよ」

「今度! 今度時間があるときにゆっくり一緒に入りましょう!」

「あいたた……大声は頭に響くわ。さ、良く聞こえなかったけどお風呂行きましょうか」

なんてこった。ハクさんどんだけロクコと朝風呂入りたいんだよ。

そうこうしているうちに、ハクさんに腕をがしっと捕まえられた。

さすがAランク冒険者、逃げようにもびくともしない……逃げられないよ!? どうすんの俺、どうすんの!?

3択――ひとつだけ選びなさい。

答え1.ハンサムの俺は突如逃走のアイディアがひらめく

答え2.仲間が来て助けてくれる

答え3.逃げられない。現実は非情である。

アイディア勝負でダンジョンマスターやってる俺は、もちろん1だ!

「それならちょっと先に軽く着替えるので、その、部屋の外で待っててください」

「? どうせお風呂で脱ぐのに、その前に軽く着替えるのかしら?」

「ご飯を食べる前に軽く一口食べておくと消化が良くなるのと同じようなものです」

「そういうものかしら。それに、いつも一緒に着替えてるじゃないの」

「私にとっては男性に会う前の身支度と同じくらい、ハク姉様に会う前の身支度が大事なんです……だから、その、待っててくれると嬉しいなって。すぐ済みますから――」

「待つわ」

よぉーし!

「で、では部屋の外で待っててくださいね」

俺は寝室に戻った。

そして、二度寝しているロクコを――気持ちよく寝ている所大変心苦しいのだが――起こす。緊急事態だ、許してくれ。ああ、それにしてもこの掛布団のなんと魅力的なことか眠くなってくる。

「むにゃぁ、ケーマ、靴下を生のままじゃお腹壊すわ……温泉で茹でないと……」

「頼むおきて、頼む」

「ふぁ……何よぅ……? 靴下美味しかった?」

「食べてない。食べてないから今度食わせ、じゃなかった。起きてくれ」

「……ん、ケーマじゃないの……やっぱり二度寝、しに来たの?」

残念ながら違う。と、俺はロクコに事情を説明した。

「はふう、分かったわ。じゃあ私は部屋の前に居るハク姉様とお風呂行って来ればいいのね」

「まぁそうなる。――起こしてしまった埋め合わせは必ずするから」

「なんでもする?」

「検討して大きな問題が無ければ」

「……仕方ないわねぇ、貸し1つよ?」

ロクコは神の掛布団を【収納】に仕舞いつつ、にまにまと嬉しそうに言った。

そして寝室の外に出ていく。

「ハク姉様、お待たせしました」

「まぁ! ロクコちゃんそれ着てくれたのね! ――っつうぅ、あ、頭が」

「大丈夫ですかハク姉様。お水飲んでお風呂行きましょう?」

――2人の足音が遠ざかる。

なんとか危機は脱したか。

俺は改めて自分にあてがわれた部屋まで戻るのであった。