軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖女(5)

悲報。聖女、遊戯室のネズミレースにすっかりハマる。とんだ俗物だ、本当に聖女かコイツ。

一昨日までは死に戻っては休憩の意味で宿でじっとしてるか 村長(俺) への訪問のどちらかだったが、

「ご主人様ー、また聖女きたでー?」

「……会いたくないなぁ。よし、俺、今日はもう寝てるから帰ってもらえ。尚、この指令は寝言である。繰り返す、この指令は寝言である」

「わー、すごい寝言やぁ。こんな寝言言うんやから寝てるのは間違いないな!」

と、昨日は追い返したのだ。で、その時ゴネた聖女をなだめるためにイチカが遊戯室へ案内してやったそうな。

結果。「体を動かすわけではないから休憩の 範疇(はんちゅう) ですね」と遊び始めて、バッチリとネズミレースの虜になり、同じくハマってるギャンブラーの村人冒険者と並んでネズミレースの賭札を握りしめていた。

「ビビビ! いきなさいビビビ! 私の命令ですよ、あああダメ、だめよ、なんで逆走してるの?!」

「だめだぜ聖女様。ビビビは今まで1回しか勝ったことが無いんだ。ハズレのビビビってな、結構有名なんだ」

「そうなのですか?! どうりで倍率が高いと……」

ちなみにその1回というのは、負けが込んで破滅寸前の村人冒険者が起死回生に賭けた1回だ。さすがに村人を破産させたら面倒くさいし、村人はさっくり食べ尽すのではなく、じっくり搾取する方が長期的に見て得だからな。

俺がダンジョンにアイテムを用意する。村人の冒険者がダンジョンのアイテムを回収し、金に換える。お金に換えた後は適度にギャンブルで回収する。回収したお金をDPにしたりして、ダンジョンにアイテムを用意する。いいシステムだ、よく回っているな。これに滞在で発生するDPも加わるんだぜ?

で、ついでに言えば今日来た聖女はこんな感じだった。

「王国の二等地に金貨500枚、それとネズミレース開催の権利を与えましょう。どうでしょうか」

「お断りです。……おっと、そろそろレースの時間ですね。今日はオンソクが走るんだったかなぁ」

露骨に譲歩が増えたうえに、レースのことを言うと露骨にうずうずしだす聖女。え? 今日はもう帰る? そうですか、どうぞお気をつけて。

……凄いぞネズミ共、お前らはホント優秀な配下だ。適度に勝たせて泥沼のように搾り取ってくれ。

そうだ、今度押しかけて来たらダイス勝負で金巻き上げてやるのもいいな。勇者ワタルと同じように。

*

その日、部屋でゴロゴロしていると聖女以外にも来客があった。鍛冶屋のカンタラだ。

呼ばれて食堂まで行くと、カンタラは鉄の短剣を持って待っていた。

「おーいケーマ殿! コイツを見てくれ!」

「ん? なんだ、魔剣が出来たのか?」

「ふっふっふ、まぁその一歩ってところだな。もっとも、ケーマ殿からアドバイスをもらったおかげなんだけど……名付けて、光の剣!」

カンタラが持ってきた剣は、柄頭が光の魔道具になっていた。

……懐中電灯の後ろに刃を付けた感じだな。なぜそこを光らせた。

「というか、俺のアドバイスってモンスターをテイムして仕込むって話だったと思ったんだけど、なんで魔道具になってるんだ?」

「ああ、それも今試そうとしてるんだけど……このあたりじゃテイムするにもいいのが居なくてな。というわけで、代わりに魔道具と組み合わせてみた」

「魔道具がモンスターの代わりか」

「そういうことだ! 知ってるか? 最先端の研究では剣を魔道具にして魔剣を作ろうとしているんだそうだ。でもそうなると当然剣としての耐久度が下がるし、そもそも錬金術師が剣を作れなきゃならない。だがこの方法なら錬金術師が作った魔道具の柄に剣をつけるだけだから、鍛冶屋が作った剣の強さを維持したままにできるんだ! 革命だよこれは!」

革命なのか。日本人的な「とにかくくっつけてみろ」的発想なだけなんだが。

と、演説しているところに給仕していたネルネがぽつりと言った。

「魔道具は魔道具でー、剣は剣で持ってた方が便利じゃないですかー?」

「……あっ」

カンタラの演説が止まった。

「そ、それもそうだな。ネルネ殿のいう事ももっともだ。ううむ、画期的だと思ったんだが」

えっと、なんかうちの子がゴメン。けど、光の剣もうまく使えば目くらましにできるし、もっと色々組み合わせてみてもいいんじゃないかな。

「それより、その魔道具ってどうやって手に入れたんだ? さっき錬金術師がどうのとか言ってたけど、もしかして自作できるのか」

「ん? ああそうだ。簡単な魔道具は作れるよ。魔剣ほどじゃないが、ダンジョン産の方がやっぱり性能はいいけどな」

そういうスキルがあるんだろうか。それとも、鍛冶みたく技能で作るのか?

「よければ、どうやって作るか教えてくれないか。作ってみたい」

「なんだ、興味があるのか? んー……本当はあまり広めちゃダメなんだが、ケーマ殿ならいいか、世話になってるし」

「おう、わかった」

「……なら、場所を変えるか。鍛冶場の方が良いかな、道具もあるし」

というわけで、俺はカンタラから魔道具の作り方を教わることになった。

魔道具の作り方をゴーレムに応用すれば、念願の「魔法を使えるゴーレム」が作れるかもしれない。胸が熱くなるな。

カンタラの鍛冶場に行く。魔法関係ということでネルネも一緒につれてきた。

単に横で話を聞いてて目を輝かせてたネルネにも教えてやってくれと頼んだらあっさりOKくれたんだが、広めてはいけないんじゃなかったのか。……カンタラ、さては頼まれたらノーと言えないドワーフだな?

鍛冶場に着くと、カンタラは戸棚からペンとか鉄板とかこまごました道具を取り出してテーブルに広げた。

「魔道具ってのは、知っての通り魔力を流すことで効果を発揮する道具だな。作るのはキモとなる事さえ押さえておけばなんにも難しいことは無い。で、そのキモになるのがコイツだ」

カンタラが見せたのは魔石だった。

「……魔石っていうのは、魔道具を動かすエネルギーじゃないのか?」

「そうだ。だが、魔道具を作るメインの材料も魔石なんだ。例えばこれは水属性の魔物からとれる魔石なんだが、これを使うと簡単に水の魔道具が作れたりする」

そういうと、カンタラはペンを魔石に走らせる。よく見るとペンの先は針で、魔石を削って何かを書き込んでいた。「特殊な図形を描くことで効力を強めることができるぞ。力強く描くんだ」と、四角と三角を組み合わせたような、幾何学的な図形で魔石は埋め尽くされていった。

そして、10センチ四方くらいの鉄版に、同じく針ペンで魔法陣をガリガリと描く。図と文字がやたら細かく刻みつけられていく……「ここはこう、シュッと書く。水の属性を表す図形だ」って、よくフリーハンドで描けるなオイ。さらに「ここが特に大事だ。コツは勢いをつけて一度に描くことだ」と、字の部分を指さして、文字を間違えないようにと教えてくれた……ああ、描いてある文字は読めるよ。『水を注ぐ』『魔力の変換』『魔石の吸収』とか書いてある。フッ、翻訳機能さんにかかればこんなもんよ。

そうこうしている間に魔法陣が描きあがる。

「で、魔法陣を描いたら、そこにこの魔石を溶かし込むんだ。こうだ」

カンタラが魔法陣に魔石をあてがうと、魔法陣に魔石が溶けていく。

完全に溶け切った瞬間、魔法陣が青く輝いた。これで使える状態になったらしい。エネルギー用の魔石を魔法陣に置くと、発動を指定した場所から水が出てきた。

あとはこれを道具に組み込めば魔道具になる。カンタラはてきぱきと手慣れた手つきで水差しを作り上げた。魔道具『湧き水の水差し』の完成だ。

作業開始から完成まで約10分。あっという間だった。

「なっ、簡単だろ?」

カンタラは笑顔でそう言った。

――わからねぇよ!!