軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

97 新店準備の女子会

祭りの準備をしつつ、アイス屋二号店も着々とオープン作業を進めていく。

物件を押さえたのと同時にカウンター周りの工事に着手したのだが、その作業が数日前に完了した。

前のテナント――カフェの木製カウンターを撤去して、新しくアイスカウンターを設置した。

ガラス張りで、中に置くアイスがよく見える。ここで客にアイスを選んでもらって、店員が取り分ける形だ。

大きく改修したのは、このカウンター周りのみ。あとはカフェの設備をそのまま使わせてもらうことにした。

そういうわけで内装はそれほどいじっていない。が、元々の造りが洒落ていたこともあり、現在営業中の路地奥店と比べて、こちらの二号店は洗練された雰囲気だ。

アルメは設置されたアイスカウンターを掃除しながら、造りを確認していく。

今日は丸一日かけて、二号店の店内を整える予定である。エーナも手伝いに入ってくれていて、この後ジェイラも加わる。

そして店先では、今タニアが看板の仕上げ作業をしている。その様子をちらりと覗いて、 刷毛(はけ) を握る彼女に声をかけた。

「タニアさん、看板は今日中に出来上がりそうですか?」

「えぇ、もうあと防水液を塗って、乾かしたら完成です」

看板は遠くからでもよく見えるような、大きなものだ。アルメの身長よりも横幅がある。完成次第、大工を頼って、店の屋根あたりに設置してもらう。

空色の青地に、白い字でティティーの店と書かれている。そしてその隣に店のマスコット――白鷹ちゃんアイスのイラストが並ぶ。

白鷹ちゃんは、チビッとした小さな翼の付いたデザインに決まった。まるっこくて可愛らしいゆるキャラだ。

店先で仕上げ中の看板を見て、通りがかりの子供が指をさしてはしゃいでいた。

「見てママ! 白いヒヨコちゃん!」

「あら、可愛いわね」

そんな会話が耳に届いた。ひとまず子供ウケは抜群のようだ。ゆるキャラを採用してよかった。

アルメは笑ってしまったけれど、タニアは不安そうな顔をしていた。

「ヒヨコ……まぁ、どう見てもヒヨコですよね。……このゆるキャラが白鷹様だと知れたら、街の人から『不敬だ!』って叩かれたりしないですかね……ちょっと心配だわ」

「看板の白鷹ちゃん、言い出しっぺは本人ですから……その場合、もし世間が不敬罪だと騒いだりしたら、真っ先に本人が捕まってしまうのかしら?」

「え……?」

ふと考え込んで呟いてしまったが、タニアはキョトンとしていた。

看板を見ながらお喋りをしていたら、隣の店から人が出てきた。お隣さんも今、新店オープンの準備中である。

なんと隣の物件には、セルジオの姉のケーキ屋が入ることになった。前に内見で南地区を回った時に、セルジオが検討していた物件だ。そのまま、そこに決めたらしい。

知り合い――と呼ぶには馴れ馴れしいかもしれないが、繋がりのある人と隣同士になるのは、なんとなく心強い。

工事に携わる職人たちにまざって、隣の店主――セルジオの姉が出てきて、声をかけてきた。

彼女の名前はリト・セルジオ。

癖のある黒髪に、短い前髪が愛らしい。青い目は優しげで、おっとりとしたお姉さんといった雰囲気だ。

「こんにちは、アルメさん。作業は順調ですか?」

「はい。先日ようやく新しいカウンターが入りました」

「まぁ、素敵。うちはまだ少しかかりそうだわぁ。オープン目指して、お互い頑張りましょうね~、ってことで、差し入れを持ってきました! じゃ~ん!」

「わっ、ありがとうございます!」

リトはのほほんと喋りながら、背中に隠していたケーキ箱を差し出してきた。

「ラズベリータルトよ。フルーツ苦手だったらごめんねぇ。みんなで食べてちょうだい」

「すみません、お気遣いいただいて。私も今度アイスをお持ちしますね」

「ありがとう。楽しみにしてるわ」

アルメはありがたくタルトを受け取った。ちょうどよい時間だし、そろそろ休憩にしよう。

店先のタニアと奥で掃除をしていたエーナを呼んで、おやつ休憩をとることにした。

店の丸テーブルを使って客の気分でくつろいでみる。紅茶を入れて、もらったタルトを皿によそった。

タルトをつつきながら、エーナが楽しそうに言う。

「なんだか店の雰囲気もあって、優雅な気分になるわね!」

「この雰囲気に合わせて、アイスの盛りつけもお洒落にした方がいいかしら?」

「そういえば、メニュー表にアイスのイラストを載せるって話だったけど……イラスト映えを狙うなら、華やかな盛り付けの方がいいかもしれませんね」

タニアに意見をもらって、ふむと頷いた。

現状、白鷹ちゃんアイス以外は見た目が少し地味である。一応、オープンに合わせて、洒落たパフェもお披露目するつもりだが……その他も少し手を加えた方がいいのかも。

庶民向けの路地奥店なら気にならないが、表通りの店ならば、雰囲気に合わせて華やかさを足す必要がありそうだ。

「そうね、アイスの盛り付けを工夫してみましょう。華やかに――となると、お花でも飾ってみる?」

「お花なら花屋に任せてちょうだい。食用花で可愛いのがあるわよ。今度持ってこようか?」

「是非! もちろん、代金もお支払いさせていただきます。せっかくだし、たくさん使ってみたいから」

「ふふっ、新しくお得意先ができるわね!」

まいどあり、なんて笑って、エーナは悪戯な顔をした。

そんなアルメとエーナの賑やかなやり取りを眺めて、タニアがなにやらしみじみとした声を出した。

「いやぁ……はぁ……なんかこう、つくづく夢みたいだわ……。こうして元気な女子たちとテーブルを囲って、ケーキを食べるなんて……この私が……」

「タニアさん、なんだか干からびた老人みたいなこと言うわね」

「その通り、干からびてましたからね……絵画工房の隅っこで。おかげさまで、同年代とお喋りをする楽しさを、久々に思い出しました……」

「そういえば、同年代の女子といえば、タニアさんはジェイラさんとはまだ会っていませんよね? この後もう一人、女性の従業員が来る予定なので――」

そう説明しているうちに、話の人物が店の玄関から顔を出した。

「――あ、噂をすれば。ジェイラさん、こんにちは」

「よっすよっす! なんか美味そうなもの食べてるじゃん! アタシも入ーれて!」

ジェイラはいつもの露出の多い服を着こなして、耳飾りをジャラジャラ揺らして寄ってきた。

その姿を見て、タニアがおののいた。

「ひっ……なんかチャラい人が来た……!」

「ジェイラさん、彼女がタニアさんです。店のイラスト全般をお願いしている画家さんです」

「お~。アタシはジェイラ、よろしくー」

「よ、よろしくお願いします……」

ジェイラの容姿と態度、そして気だるげな話し方に、タニアはわかりやすくビクついていた。

……アルメも初めてジェイラと対面した時には同じように怯んでしまったので、気持ちはわからないでもない。

「隣お邪魔しま~す。タニアちゃん店のマスコット描いたんでしょ? アルメちゃんから聞いてるよ~。今絵ある? 見せて見せて~」

「は、はいっ、どうぞ……っ」

そんなタニアに構うことなく、ジェイラは彼女の隣に椅子を引っ張ってきて、割り込んだ。

タニアは恐る恐るスケッチブックを差し出して、体を縮こめる。バリエーション豊かな白鷹ちゃん落書きを見て、ジェイラはゲラゲラ笑いだした。

なんだか、陰と陽という言葉がぴったりの二人だ。正反対の二人を見て、アルメとエーナは苦笑してしまった。

タルトを食べて、スケッチブックを見て。

一息ついたところで、ジェイラは気がついたように声をあげた。

「あ、そうだ。従業員募集のポスターってもうできてる? うちの焼き肉屋にも貼り出しといてあげるよー」

「ありがとうございます、お願いします!」

アルメはカウンターにまとめておいたポスターを手に取って、ジェイラに渡した。

求人ポスターはここ二号店の表にも貼り出してある。加えてエーナの花屋と、自由に使える街の掲示板にも掲げている。そしてもちろん、路地奥の店先にも。

内装などの直接的な店の準備とは違って、人材部分の準備は運の要素が大きい。従業員が無事に集まるかどうか、ハラハラしているところだ。

「いい人が来てくれるかどうか、ってところが、今一番心配だわ……」

「大丈夫だよ。表通りの店っつったら、それだけで働きたい人集まってくるって。アットホームでお洒落なお菓子屋さんのお仕事です、って言っときゃ、そこらの若者なんざホイホイ来るっしょ。そんで給金もそれなりなら、ばっちりよ」

ジェイラはスッパリと言ってのけた。彼女が言うと謎の納得感があるのが不思議だ。

ひとまず今はその言葉を信じて、応募を待つことにしよう。

――と、そう思ったのが、もう先週の話である。

求人広告を出してから一週間と少し経ったのだが……アルメは最近、別の不安を感じるようになっていた。

夕方、いつものように自宅店舗を閉めて、二階へと上がる。

自宅の窓からチラッと小広場を見ると、一人の男の姿があった。オレンジ色の長髪を後ろでくくった、スラリとした姿の男だ。

(あの男の人、またいるわ……)

男は閉めたばかりの店先まで歩み寄ると、しばらくそこで佇んでいく。――この人物は一週間前から、同じことを繰り返しているのだ。

いつもぼうっと立ち尽くした後、何もせずに帰っていく。今日も同じように去っていった。

……何をされたわけでもないが、なんだかちょっと気味が悪い。

前に自宅に強盗が押し入ったこともあり、アルメは恐ろしさを感じてしまった。また、あんなことがあったらかなわない……。

というような近況を、手紙でペラっとファルクに報告したのだけれど。

翌日の夕方、彼は剣を携えてアイス屋を訪ねてくるのだった。……魔物を叩き切る戦闘員の様相で。