軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

96 モナカアイスの試作

ひとまず、焼き機の制作はシトラリー金物工房に任せるとして。

出来上がる間にアルメが考えるべきことは、肝心のモナカ皮の生地についてである。

モナカ皮の材料は米粉、もしくは小麦粉だが、さてどちらを使おうかと悩んだ。

この世界では米粉はほとんど出回っていない代物なので、材料の入手のしやすさで選ぶなら小麦粉だ。

そういうわけで、早速小麦粉で試作をしてみたのだった。

――試作というほど大がかりな準備はせず、夜ご飯を作るついでに、自宅二階のキッチンで試してみた程度だが。

ボウルの中に小麦粉を入れ、少しの砂糖と塩、水を加える。ざっくりと混ぜたら生地を適量ちぎり取り、平らに潰してフライパンに押し付ける。

スープレードルの底でぎゅっと押しながら焼いたら、とりあえず完成だ。

焼き上がりを食べてみて、う~んと首をひねった。

「モナカというより、パンみたいね。もしくは小麦お煎餅」

これはこれで美味しいし、しっかり成型すればモナカっぽいアイスを仕上げることもできそう。だが、いまひとつ想像とは違う仕上がりだ。

「……やっぱり、米粉の方も試してみようかしら」

ものは試しだ。せっかくの機会なので、米粉作りにもチャレンジしてみよう。

アルメは大きな密封瓶に入った米を取り出して、ボウルに入れた。

この街では一般的に、料理にはサラサラとした米が使われている。が、アルメはたまに、無性に前世の白米が恋しくなる時がある。

そういう気分になった時のために、もちもちした米を常備している。どちらかというと希少なので、少々お高い米である。

粉にしてしまうのはちょっと惜しい気もするけれど……そんな気持ちはぐっとこらえておく。

米を入れたボウルに水を張って、キッチンの隅に置いておいた。こうして米がふやけるのを待つ間に、夕食を食べることにする。

そうしてご飯を食べ終え、数時間経った頃。

米を水からあげて、しっかりと水分を切る。フライパンに広げて火にかけ、炒って乾燥させる。

これで下準備は終わりだ。あとは明日、ナッツ用のミキサーで粉にすれば米粉の完成である。

なんやかんやと作業をしているうちに、もうすっかり夜中になってしまった。そろそろ寝ようか――と思ったが、もうひと作業してからにする。

先ほど試作した小麦生地の残りをちぎって、フライパンに押し付けた。そこにナッツをまぶして、ギュウギュウ押しながら焼く。

「小麦お煎餅、明日のおやつにしましょう」

深夜にお菓子を作るのは、罪悪感と高揚感が合わさって、妙な楽しさがある。

煎餅を焼きながらアルメはこっそりと笑った。

そうして翌朝。

開店したアイス屋の調理室で、昨夜下準備をした米をミキサーにかけてみた。

今日の店番はジェイラに任せて、アルメはエーナと共に米粉モナカ皮の試作に取り組む。

ミキサーにかけた米は無事にサラサラの粉になった。出来上がった米粉とコーンの粉を混ぜて、水で練り合わせる。

焼き型はプリン用の小さなカップを代用することにした。エーナが数個棚から出して、準備をする。

「カップは二個セットで使うのよね? 両方油を塗っておくでしょ?」

「えぇ、お願い。片方のカップの中に生地を入れて、上から別のカップを被せて押してみるわ。上手く器型に焼けるといいのだけれど……」

二人でカップに生地を仕込んでいく。モナカを器型に仕上げるために、カップとカップではさんで焼いてみることにした。

生地をはさんだカップを木製の洗濯ばさみで固定して、準備完了だ。

並べて火魔石のオーブンに入れる。加減はちょくちょく様子を見ながらの手探りだ。専用の焼き機ができたら、もう少し楽に作業ができるのだけれど……今回は仕方ない。

アルメは焼き上がりを待つ間に、昨夜作った煎餅を出した。

「よかったらおやつにどうぞ。モナカ皮の試作お煎餅」

「あら、これはこれで立派なお菓子じゃない? ――うん、ナッツが香ばしくて美味しい! ジェイラにもお裾分けしてくるね」

エーナは煎餅の容器を持って店の表へ出て行った。煎餅の端をパキリと折って、アルメは空魔石の荷箱へ近づける。

契約している荷守りの精霊、スプリガンにも差し入れだ。光の粒子がキラキラ舞って、煎餅はあっという間に消えていった。

おやつを食べつつ、オーブンからカップを取り出しては様子を確認して――という作業を繰り返して、ようやくちょうどよい焼け具合になった。

カップをテーブルに出して、モナカ皮をそっと型から抜いてみた。ドキドキしながら、仕上がりを確認する。

「どうかしら……? ――あ、結構いい感じ、かも?」

「試作にしてはばっちりじゃない? ちゃんとカップ型の器になってるし」

モナカ皮はしっかりカップの形に焼きあがっていた。即席の代用焼き型なので、ところどころ生地の厚さにムラができてはいるけれど。

とりあえず形にはなったので、アルメはホッと胸をなでおろした。

軽くモナカ皮の熱を冷ましたら、店の表に持って行く。カウンターで店番をするジェイラにも披露した。

「モナカ皮、できました!」

「おっ、いい感じじゃん! これにアイス盛るの? 試食しようぜ!」

ジェイラは待ってましたとばかりに、アイススプーンを握った。

「アタシは蜂蜜レモンにしようかな~!」

「私はまずはプレーンなミルクアイスで」

「じゃあ、私はミックスベリーにしようっと!」

モナカの中身を決めて、アイスカウンターからちょいといただく。

楽しげな三人の様子を見て、店内の客たちが興味深そうにこちらに目を向けていた。

――この世界において、庶民の個人店はのんびりとしたものだ。接客対応が必要な時以外は、勤務中でも気楽に過ごせる。

なので、あまり客の目も気にすることではない。というより、むしろ新作の宣伝効果が期待できそうだ。

浅いカップ型のモナカ皮にアイスを盛って、もう一つの皮でふたをする。

アルメの前世のモナカより白っぽい皮に仕上がったが、形としては立派なモナカアイスだ。

完成したアイスをひとしきり眺めた後、三人でパクリと頬張った。

モナカがサクッという気持ちのよい音を立てた。

「サクサクじゃん! 皮が香ばしくて美味い!」

「食感がいいわね。この皮、アイスにすごく合う!」

「アイスを詰めても、思ったよりしなしなにならないわね。これならお祭りの食べ歩きにも耐えそうだわ」

焼き機が仕上がったら、もっとクオリティ高く仕上げられそう。早くも四季祭りが楽しみだ。

あれこれお喋りをしながら、サクサクパリパリと軽快な音を立ててモナカアイスを食べる。

その様子を見ている客たちの中に、真っ赤な口紅の女性ライターもまざっていた。彼女はもうすっかりアイス屋の常連客である。

ライターは美しい唇の端をニヤリと上げて、小声でつぶやく。

「またおもしろいアイスが出てきそうね。『街角・新作スイーツ特集』の企画も無事に会議を通りそうだし、そろそろ取材の依頼書を作っておかないと」

ゴシップ記者の肩書きがいよいよグルメ記者に変わるのは、あと少しだけ先の話だ――。