軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

クロードとリュカ

「お前……何者なんだ? イカれてるよ。女王陛下が俺を紹介するなんて考えられない」

疑り深い、しかし完全に警戒している——とも違う口調でクロードは言った。

「僕はキリハルでも力を持つ学生を紹介いただきたいと、 ある人物(・・・・) を介してお願いしただけですよ。クロードさんと女王陛下がどのような関係かは存じておりません」

「……キリハルには詳しくなさそうだから教えてやるが、俺は王家の外戚に当たる」

「公爵家ですか?」

「キリハルにはもう公爵もクソもないけどな。それを言うと王家もクソもないんだが……それはともかく100年前の連合国建国時に、王としての正統性を争って負けた一族なんだ」

「つまりキリハル内部ではマルケド女王のミラルカ家と、クロードさんのザハード家は敵対している、と?」

「その通りだ。俺を紹介する理由なんてないだろ?」

「しかしあなたはその紹介状がニセモノだとは疑っていない。表面上、敵対しているが、あなたには女王陛下に指名される理由があるのだとうかがえますが、どうでしょうか?」

「……まあな。ツブラ出身の学院長がいる今、学院に通うなんて愚の骨頂だ、と親族からは言われた。それを押し切って入学したのが俺だから、だろうな」

ふむ、とヒカルはうなずく。

つまるところ女王からすると、ザハード家の異端者であるクロードを通じて、ザハード家とつながろうとしているのかもしれない。

「学院への入学を強行した理由はそちらの女性ですね」

またクロードの陰に隠れていたリュカはびくりとする。

「……そういうことになる」

「あっさりと認めましたね。ルダンシャの方でしょうに」

「女王陛下が俺を紹介した以上、お前は俺の敵にはならないだろう? 敵になるということは女王陛下の顔に泥をぬることにつながる。 賢い坊や(・・・・) はそんなことしないはずだ」

「そういう呼ばれ方は、あまり好きではありません」

「十分賢いだろう、お前は」

「そっちじゃなく、坊やのほうです」

ハッ、とクロードは小さく笑った。

「それで、お前の目的はなんだ? 俺になにをさせる? リュカのことで弱みを握ったなどと思うなよ。お前の頭は胴体とオサラバすることになるぞ」

「坊や」のほうを撤回する気はないらしい。

ヒカルは小さく、ため息をついた。

「クロードさん、リュカさんとの関係を隠す気があるのでしたらまずご自身を振り返ってください」

「なんだと?」

「あなたの今の物言いは『剣が得意』というものです。短槍を持っている人間なら『心臓を一突き』とかそういった言い方をするでしょう。剣が得意なのはわかりましたが、わざわざ学院で短槍を学んでいる——どんな理由をつけてルダンシャの教官の講義受講を正当化しているのかは知りませんが、少なくとも剣のことを臭わせないほうがいい」

「……それは、まあ、一理あるな……」

ぼそりとクロードは言った。ちなみに講義受講の理由は「ルダンシャの懐に飛び込んで情報を仕入れるのだ」と言い張ったらしい。周囲の人間は呆れていたとか。

「次に、講義中もリュカさんのことを見過ぎです。あれでは鈍感な短槍バカでもいずれ気づきますよ、あなたとリュカさんの関係を。リュカさんだってルダンシャの男から注目されているのでは?」

「そ、それは」

「クロード、そんなに私のほうを見ているの?」

「……すまない。こんなに近くにいるのに、お前を見ないなんて考えられなくて」

「クロード……」

「リュカ……」

なんだかピンク色の空気が流れ始めた。

ごほん、と咳払いしてそれを追いやるヒカル。

「リュカさんはルダンシャでどういう立ち位置ですか?」

「私は……現王の三女です」

王女かよ。

また面倒な関係だ。

「これまた困難の多い恋路ですね」

「はい……わかっています。私としては連合国を出ることも考えているのですが」

「リュカ! 今その話は!」

「でもクロード。私たちの周りには、お父様やザハード家の息の掛かった者しかいないわ。この——ヒカルさんのように、外を知っている人の意見は参考になるのでは?」

「それはそうだが、彼が信用できるとは限らない」

「もう信用するしかないの。私たちの関係を知られたんだから」

きっ、と決意を込めた視線をヒカルに向けてくるリュカ。

(……おいおい、どんどん面倒ごとに巻き込まれてないか、僕は?)

後悔するには遅すぎるタイミングではあった。

「ヒカルさん。クロードに協力を依頼する以上、私たちにも協力してくれますよね?」

「……参りましたね。協力を依頼したいのは僕じゃないんですよ」

「どういうことですか」

「ここまで来たら先に話しておいたほうがいいでしょう。ほんとうは、僕も人を紹介して終わりのつもりでしたが」

ヒカルの「乗りかかった船」はどんどん沖へと進んでいくようだ。

「おふたりにもメリットのある話です。7カ国の国境を越えた『学生連合』を組織するべく今、動いています」

真剣そのものの表情でヒカルの話に、ふたりは耳を傾けた。

「うーん」

家に帰ったヒカルがうなっているとちょうどラヴィアが図書館から帰ってきた。

「どうしたの、ヒカル? 難しい顔」

「いや、さ……リーグの頼みは人の紹介だったわけだろう? だけど、たぶん、それ以上に僕は巻き込まれている」

「それほどになるとは考えていなかった?」

「紹介しておしまい、にはならないとは思っていたよ。でもなあ……」

「今日会ったのだっけ? クロード——」

「クロード=ザハード=キリハル。そうだね、彼の話を聞いたせいだろう」

ヒカルはそれからラヴィアに、クロードのキリハルでの立場を話した。

女王の血縁者であること。キリハル内では対立している家であること。

ルダンシャのリュカと恋仲であること。リュカがルダンシャ王家の三女であること。

「そうなの……連合国建国と同時に王制は廃止されたはずなのに、まだまだ根深く残っているのね」

「完全に廃止されたのかな?」

「わたしが本で読んだ範囲だと、制度としては完全廃止。ただし抜け道が用意されていて、『連合国王位継承権』のような地位を用意して、過去の王族に相続させているということみたい。実質、王家の継承よね」

「行政区分は7カ国のままなんだよな」

ヒカルは地球にあったEU、ヨーロッパ連合のことを思い返した。

あれに近いが、あれよりはもう少し「国」という形が消えているはずではあった。

「マルケド女王は『女王やりたくない』オーラ全開だったけど」

「王位にあるのは傀儡のほうが都合がいいんでしょう。キリハル王家はマルケド女王に、陰に陽にプレッシャーをかけてキリハルのメリットが最大化するよう仕向けているのではないかしら」

「それをはねのけるためにジャラザックの筆頭大臣を据えた?」

「たぶん。これまでの連合国王は、同じ国出身の筆頭大臣や閣僚でまとめていたらしいし」

「10年ごとに王位だけでなく、大臣閣僚全部変わっていたということか」

「めちゃくちゃよね」

「よく生き残ったもんだ……」

ぼやきつつも、ポーンソニアの王もたいがいだったなとヒカルは思い直す。

「でも、不思議ね。クロードさんからしたら、ルダンシャの人間は敵だと昔から教えられてきたわけでしょう? なのにどうしてリュカさんに惹かれたのかしら」

「ああ……。どうも出会ったときはお互い素性を知らなかったらしい。連合国主催のお偉方が集まるパーティーに参加していたクロードは、息苦しくて抜け出したんだ。その先の庭で、同じく抜け出してきたリュカと出会った」

「へぇぇ! それで、それで?」

「いや、それで終わり——ってラヴィア?」

目をキラキラさせてにじりよってくるラヴィアにヒカルはのけぞる。

「それだけじゃ恋人同士になんてならないじゃない! その先は? どっちがどう告白したのかしら?」

「い、いや、そこまでは聞いてない」

「もう! そこからが大事なのにっ」

ああ、そうか、とヒカルは納得する。

クロードとリュカの道ならぬ恋は、まさに「 物語的(ドラマチック) 」なのだ。

リアルにそんな出来事があったことに、ラヴィアは感激しているのだろう。

「ま、まぁ……今度、直接聞いてみたら? ラヴィアが」

「そうする!」

今度、とは、3日後のことだ。

3日後は学院の休日。

予想外に早く人材が集まったことを聞いたリーグが、この休日に集合をかけたのだ。

そして当日——ヒカルとラヴィアもまた、集合場所に向かった。

フォレスティア連合国にとって、それはただの夏の休日だった。

しかしこの日は連合国の歴史上、大いなる転換へとつながる記念すべき日であった。

それを知る人間は、今のところまだ誰もいない。