軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

女王の紹介状

フォレスティア連合国の首都、フォレスザードから、学院のあるスカラーザードに戻ったヒカルは、ラヴィアがすでにユーラバの学生に声をかけ終わったと聞いた。

うまくやったらしく、ユーラバの学生はリーグと会うことを承諾したという。

「さて……と。じゃあ僕はキリハルの学生に会ってくるか」

女王陛下の紹介状を持って、ひとり事務棟へと向かう。事務員たちはいまだにヒカルに対する恐怖心があるようで、ヒカルを見るや壁際まで逃げて、ジャンケンだか押しつけだかで指名された女子事務員がぶるぶる震えながらカウンターにやってきた。

「あ、あっ、あ、あのっ」

「学生を探しているのだけど」

「ひぃっ」

びくびくしながらも学生名簿のようなものを取り出す女子事務員。

「あ、あ、あのっ、なんというお名前の方でしょうか……?」

「クロード=ザハード=キリハルという学生」

「ひぃっ」

ページがめくられる。

「ひぃっ」が「はい」という意味なのだとヒカルは気がついた。

「……た、確かに在籍されています」

「その人に連絡を取れるかな?」

「こっ、こちらの事務でできることは事務棟の……前の掲示板に、張り紙を出すだけで……」

事務棟は「用事がなければ来ないよなぁ、ここ」という場所にある。

それだと時間が掛かりそうだ。

「クロードはなんの講義に出ているとかはわかる?」

「ひぃっ」

名簿の記載事項を震える指先で読んでいく女子事務員。

「い、一般受講生は、わ、わかりませんが……『武神九道』に関わる講義は、きょ、教官が学生の名前を記録することがありまして……」

ミレイ教官は僕のこと絶対記録してないだろうな——と思いながらヒカルは聞く。

「クロードの名前はあるの?」

「は、はい。短槍講義です」

「…………」

短槍講義、と聞いてヒカルは記憶を掘り返す。

「あのー。その講義の教官って……?」

「キルネンコ教官です」

ジャラザックの大剣教官、ミハイルが「控えめに言ってもクソ野郎」と言った相手がキルネンコだ。

学院長の部屋でも2回ほどヒカルは会っている。

(キリハルとルダンシャは犬猿の仲だよな? 女王が紹介した以上、クロードは有力者の息子ということになるけど……なんでルダンシャの教官の講義に?)

腑に落ちないながらも、短槍講義の行われている運動場へと向かった。

木立に囲まれ、外部から見えづらい小規模の運動場だ。

ヒカルが見に行くと、ちょうど講義中だったようでキルネンコを中心に学生が20名ほどぐるり取り囲んでいた。

「いいかね? 今日教える型はルダンシャで最も有名な『竜雲短槍術』の1つをここで見せるので——」

ヒカルは「隠密」を発動して近づいていく。

学生の背後から、ソウルボードで名前を確認していく。

ソウルボードの内容は特筆すべきところもない。高くても1か2というレベルだった。

(お、この学生か)

【ソウルボード】クロード=ザハード=キリハル

年齢18 位階7

12

【生命力】

【スタミナ】1

【魔力】

【精霊適性】

【風】1

【筋力】

【筋力量】1

【武装習熟】

【剣】2

【精神力】

【心の強さ】1

【カリスマ性】1

他の学生と比べるとソウルボードで多くの項目がアンロックされている。

(ん? ここは「短槍講義」なのにどうして「武装習熟」で「剣」が2なんだ……? キリハルの学生がルダンシャの講義に出ていることといい、やっぱりなにかおかしいな)

そのクロードは、身長180センチ以上という恵まれた体躯を持っていた。

がっちりと筋肉がついており、横顔は涼しげだ。

金髪に赤い目、という特徴は女王マルケドと同じである。

彼の視線はただ一点に向けられていた。

それは——キルネンコに向けられたものではなかった。

講義が終わるのを待って、ヒカルはクロードに話しかけようとした。

するとクロードは模擬武器を持ったまま着替えのできる建物には戻らず、木立の中を人気のないほうへと歩いていく。

(ん?)

声をかけようと思っていたヒカルだったが、なにか様子がおかしい。

そう思っていると、一本の大木の陰からひとりの少女が現れた。

「————」

「————」

クロードと少女は楽しげに話している。

その距離は——近い。

お互い空いた手と手をつないでいる。

(やっぱり…… そういうこと(・・・・・・) かよ)

ヒカルは頭を抱えたくなった。

その少女もまた、短槍を持っていた。つまり先ほどの講義にいたのだ。

そう、クロードが熱心に見つめていた相手でもある。

彼女の名前もソウルボードで確認済みだった。

【ソウルボード】リュカ=ロードグラード=ルダンシャ

年齢16 位階2

8

【魔力】

【魔力量】1

【精霊適性】

【水】1

【器用さ】

【道具習熟】

【楽器】1

【直感】

【ひらめき】

【音楽】1

彼女の名前に含まれている「ルダンシャ」の文字。

クロードとリュカは恋人同士か、その一歩手前くらいにいる——敵対しているキリハルとルダンシャ出身であるにも関わらず。

彼女は青色の短髪で、この世界では珍しくメガネをかけている。

大人しそうな少女だったが、クロードと話す横顔は楽しげだった。

(なにか裏があると思ったら……。つまりは彼女と会う機会を作るためにルダンシャの教官による講義を受けているってことだよな)

リーグですら、コトビ出身であるケイティの講義を受けることを躊躇していた。

犬猿の仲である相手国ならばなおさら難しいはずだ。

それでもリュカとの関係を優先した——考えようによっては肝の据わった男かもしれない。あるいは考えなしか。

そうこうしているうちに、ふたりは手をつないでさらに奥へと行こうとする。

これ以上奥まで行かれると話しかけにくい。

そう考えてヒカルは行動を起こした。

「クロードさん」

「隠密」を解いて呼びかける。

「!?」

「!!」

ぎくりとして振り返ったクロードの後ろに、リュカが隠れた。

すっぽり隠れてしまうくらいリュカは小さい。

「何者だ!!」

短槍を握りしめてクロードが叫ぶ。

案の定、めちゃくちゃ警戒されている。それもそうだろう。秘密にしていた逢瀬を見られたのだから。

「あー、そう警戒しないで。と言っても警戒しますよね。僕は、クロードさんを紹介いただいたんです。とりあえずこれを読んでください」

ヒカルはマルケド女王による紹介状を取り出し、近づいていく。

「…………」

クロードは警戒心たっぷりという感じで紹介状をひったくると、その書状に目を通す。

「……え? え?」

文面とヒカルを視線が行ったり来たりする。

ちなみにヒカルは中になにが書いてあるかは読んでいない。しっかり封をされたからだ。

「……クロード、どうしたの?」

見かねたリュカがクロードにたずねる。

「こ、これ、女王陛下の書状だよ!」

「ええ!?」

「ほら!」

「えっ、私、見てもいいの?」

「内容は無害だから大丈夫」

リュカもまた書状を見て、ヒカルと書状とを視線が行ったり来たりした。

「敵ではないとわかってもらえましたか?」

一通り理解してもらったであろうところでヒカルがたずねると、

「『絶対に信用してはならない』『面倒があれば必ず知らせるように』『なにもなくとも必ず知らせるように』『仮面にローブの男がいたら要注意』——という、敵ではないが一歩間違えると敵にしか見えない文面が書かれているのだが?」

うさんくさそうな目でヒカルを見てきた。

(女王め……)

自分で乗り込んでいって無茶振りしたくせに、ヒカルは、女王のいるフォレスザードの方角をにらみつけた。