軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

告白

「死者の国……?」

「一度僕は死んでいるんだ」

ラヴィアの目が見開かれる。

ヒカルは、元々「日本」という国で生まれ育ったことを話す。

黒髪黒目の人間が住んでいる国。魔法はなくて、科学技術が発達した国——。

そして一度死に、ローランド=ヌィ=ザラシャによって「勧誘」され、こちらの世界にやってきたことを話した。

「その条件が、モルグスタット伯爵を殺害することだった」

「……それで、なの。不思議だったわ。ヒカルがどうしてあの人を殺したのか、って」

「ローランドの命も尽きようとしていたからね」

「そう……彼にとってはどうしても復讐したい相手だったのね」

「あのさ、ラヴィア。僕の話は結構、突拍子もないものだという自覚はあるのだけど——あまり驚いていないみたいだね」

「……異世界に渡る術——魔術的なものがあるというのは聞いたことがあるの。もちろん本での知識だけれど」

「そうか。意外とふつうなのか」

「ふつうなんかじゃないわ! 聞いたことがあるって言っても——それはおとぎ話のような世界よ? その、ローランド=ヌィ=ザラシャが研究していて、しかも成功させたなんて……驚きだわ」

「死後の世界にしか行けないけどね」

「完全に元の世界に戻れるとしたら……ヒカルは戻りたいの?」

「……どうだろうな」

そのことは考えたことがなかった。

できないだろう、と思っていた。ローランドの方法ですら死後の世界にしか行けないのだ。

それに、もしできるとして、帰りたいかと問われるとわからなかった。

いろいろと不便な世界ではあるけれど、こちらの世界にもなじみつつある自分がいる。

「君がいるから……いっしょになら、帰ってもいいかもしれない」

「————」

その言葉は意外だったのか。

ラヴィアは目をパチパチとしてから、

「そういうことを急に言わないで」

頬を染めて視線を逸らしつつ、続ける。

「……でもよかった。急にヒカルがそんな話を始めたから——ヒカルが、元の世界に戻る方法を発見したのかと思った」

「え?」

「もう、戻ってしまうから、事情を全部話してくれるのかなって……」

「違うよ。勘違いさせてごめん。——それともうひとつ話さなきゃいけないことがあるんだ。僕の——力のこと」

神妙な顔でラヴィアがうなずく。

「そうよね。ここからが本番よね? まだまだ驚かされるのね」

「君は驚いているふうには見えないけど」

「これでも内心はどきどきしているのよ?」

「ではお嬢さん、心の準備は?」

「ちょっと待って」

深呼吸を一度したラヴィアは、

「ええ、いいわ」

ヒカルはうなずいて口を開いた。

「僕には、人間の能力を意図的に成長させられる特別な能力がある。僕が、戦闘の素人なのに気配を消す達人であるのはそのためだ」

「人間の能力を……? そんなこと、ほんとうに——」

「ギルドカードの『職業』だってそうだろう?」

「だってあれは、神の恩恵だから」

「僕が思うに、その『恩恵』に通ずる力なんじゃないかな。誰かがあのギルドカードを開発したわけだろ? 最初はみんな信じなかったはずだ。ラヴィアだって体感すれば僕の話を信じると思う」

「ヒカル、もしかしてそれって—— 他人(・・) の能力も成長させられるの?」

「うん。ラヴィアの能力を少々成長させたいと思ってる」

ヒカルはラヴィアのソウルボードを呼び出しながら、「魂の位階」と「年齢」が密接に関わっていることを教える。

「ヒカルがたまにそうやって宙に指先を走らせていたのはそういう理由だったのね……」

「なんだと思ってた?」

「考え事をするときのクセなのかなって」

納得した。

今後、なにをしているのか聞かれたらそう答えようとヒカルは思った。

「ラヴィア。これから先、きっと必要になると思うから——気配を消す『隠密』の初歩を君にも与えておきたい。いいかな?」

「…………」

「イヤ、か?」

沈黙するラヴィア。

その反応は少々想定外だったのでヒカルは驚いた。

なぜだろう——ひょっとしたら、勝手に他人からあれこれ能力をいじられる感じに、忌避感があるのかもしれない——。

「……ヒカル、もしかしてわたしに触れていればヒカルの『隠密』が感染するの?」

「ああ、『集団遮断』のことか。そうだね」

「わたしにそれを与えたら——ヒカルと……手をつなぐ時間が減ってしまう?」

「え?」

ラヴィアが「隠密」を成長させるのをイヤがっていたのは、「手をつなぐ時間が減る」……から?

「…………」

「ひ、ヒカル! そんなきょとんとして見ないで! わたしにとっては重要なのよ!? ヒカルったらそういうときでもない限り手を握ってくれないもの!」

顔を真っ赤にしてラヴィアが怒っている。

「ごめん。今後は——積極的に握ります」

「それなら……いいけれど……」

ヒカルはラヴィアのソウルボードをいじった。

【ソウルボード】ラヴィア

年齢14 位階29

15

【生命力】

【スタミナ】1

【魔力】

【魔力量】11

【魔力の理】2

【精霊適性】

【火】6

【魔法創造】1

【敏捷性】

【隠密】

【生命遮断】1

【魔力遮断】1

【知覚遮断】1

「気配を消す——自分の内側に、存在を押し込む感じ。やってみてくれる?」

「え、ええ……」

半信半疑ながらもラヴィアが考え込むようにする——。

「あ……すごいな。ラヴィアがそこにいるのに、なんだか存在が希薄に感じられる。うっすらとだけど。一度視線を逸らして戻すと、よほど目を凝らさない限りわからない」

「ほんとう?」

「僕がやるとこうだ」

ヒカルが「隠密」を発動させる。

「……すごい。初めて客観視したわ。周囲からはこうして見えていたのね。ヒカルがそこにいるのに——瞬きした瞬間、消えてしまったみたいに感じる」

「これがあれば大抵の厄介ごとは避けられる。ただ『直感』持ち——そういう能力を持っている人は、気づくんだけどね」

「その力……ソウルボード? は、そんなにも多様な能力を成長させられるの?」

「ああ。——どんなものがあるか、聞きたい?」

ラヴィアは静かに、首を横に振った。

「もう十分聞いたわ。聞きすぎたくらい。あのね……ヒカル。もし必要があればわたしの能力を勝手にいじってくれていい」

「それは」

「いいの。ほんとうに——前にも言ったとおり、わたしはあなたに命を救われた。そしてわたしはあなたになにも返せていないもの。これから先、返せるかどうかもわからない。だから、あなたの役に立てるのなら……わたしを好きに使って」

「ラヴィア……」

深く、心の底から、信頼されているなとヒカルは思った。

(話してよかった)

ラヴィアの反応のどこにも、ヒカルを利用しようとか、ヒカルの弱みを握ろうとか、そういうものはなかった。邪な感情が一切なかった。

(……僕は信頼されている。愛されている。だから僕も……ラヴィアを信頼できる。愛することが……できる)

それはこそばゆいような、温かな感情だった。

(……あなたの言うとおり、信頼すべき相手を見つけられたかもしれない。葉月先輩)

ヒカルは心にそう、思った。

この言葉を葉月先輩が聞いたらなんて言うだろうか、と考えながら。