軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決心

その日は寝具を買いそろえたり、ラヴィアが欲しいと言ったので2つそろいの食器を買ったりして過ごした。

夜は、屋台でいくつか料理をテイクアウトして、新居で食べることに。

テーブルにふたり並んで食事をするとラヴィアはとても幸せそうだった。

(……なんかこれって)

夜——新たなシーツに包まれて眠るラヴィアを横目で見ながらヒカルは思う。

(夫婦、みたいだよな……)

ポーンソニアを出国したけれど、ラヴィアはヒカルから離れる気配もない。

「対等でなくていい」と言ったあのときから、距離感は変わらない。

ヒカルとしてはどうしていいかわからなかった。

まだ15歳と14歳だ——とは思うのだけれど、 やること(・・・・) はやっているし、ラヴィアもまるで「ヒカルのもの」であるかのように振る舞っている。

(学院に通えばまた考えが変わるのかな……)

こんな状態で、ラヴィアに「好きにしていい」と言うのはある意味酷なことだとヒカルも思う。

屋敷の中で暮らし続けたラヴィアが、ようやく外に出た。

で、あとは「ご自由に」ではどう生きていいのかわからない。他の誰かにまたしばらくは依存しなければならないのだ。

なにも知らないラヴィアがどこかの誰かに依存して暮らしている——だなんて想像するだけで吐き気がする。

であればしばらく、落ち着いた暮らしをしたほうがいい。

実のところ、「学校通い」という選択肢を思いついたときにはそういう意図もあったのだ。

落ち着いた暮らしができればラヴィアも自分の人生を見つける——。

(でも僕の前からいなくなるって言われたら……僕は立ち直れるかな?)

どうにも自信がないヒカルだった。

(……余計なことを考えるのは止めよう。僕もことさらラヴィアに「自由だ」なんて強調するのも止めよう)

――生きにくいよ、それじゃ。あなたは賢いかもしれないけれど、危なっかしい。どこかで、いつか、ひょんなときに……ふっ、と死んでしまいそう。

そう、言われたことを今でもはっきり思い出す。

不思議とイヤな気持ちはしなかった。

「生意気」な少年だったのに——彼女の、葉月先輩の前ではその生意気も影を潜めていた。

「先輩……僕、先輩の言ったとおりに死んでしまいましたよ。ふっ、と」

——やっぱりね。私の予感は当たるのよ?

「でも、僕は他の世界に……やってきて、楽しく生きています。それでもまだまだ『生意気』みたいですが」

——いいんだよ。それで。

葉月先輩はヒカルには視線を合わせずに——宙を見つめて、ただ、微笑んだ。

遠い、と思った。

あの頃感じていた距離。手を伸ばせば届きそうなのに、その距離を詰めることはヒカルにはできなかった。

それでよかったのだと思っていた。

いちばん近くで、でも直接は触れずに葉月先輩を眺めていられればそれでいいと。

同じように葉月先輩も思ってくれていると。

信じていた。

——でもね、ヒカルくん。君は………………を作るべきよ。

「なん、ですか? 聞こえなかった」

——君は………………。

「葉月先輩? ——葉月先輩っ」

「——はっ」

跳ね起きた。

白々と夜が明けるころ。

ヒカルは強ばっていた全身に気がついて、深く息を吐いた。

(……久しぶりに見た日本の夢が、こんな終わり方かよ……。でも、懐かしかったな……葉月先輩)

首をかしげた。

(ん——あんなこと言わなかったよな……? 僕に、なにを作れ、って?)

「んぅ、ヒカル?」

ラヴィアもまた起きてしまったようだ。

身を起こし、「う……ん」と伸びをしている。

広いバルコニーだけでなく、天窓もあったらしい。

まだ日が昇っていないのに室内は十分明るかった。

「?」

きょとんとした顔でラヴィアがヒカルを見る。

ヒカルが手を伸ばし、彼女の手を握ったからかもしれない。

「……温かい」

そして柔らかな手。

ヒカルは、ラヴィアとともに寝るのが当然のことのように思っていた。

彼女を助けてからずっといっしょだったから。

(でも……あのころは、そんな人いなかった)

親が遠くて。

友だちもろくに作れなくて。

葉月先輩にも触れられなかった。

(そういう……ことなのかな)

葉月先輩が言おうとしていたことに、ふと思い当たった気がした。

(僕に……作れ、って。 心から(・・・) 信頼できる人(・・・・・・) を作れ、って……)

「変なの、ヒカル。朝から真面目くさった顔して。悩みすぎるのはあなたの悪い癖よ?」

ラヴィアの顔が近づいてくる。

唇と唇が触れるだけの、優しいキス。

「ラヴィア」

「なあに?」

いつか(・・・) は、と思っていた。

それが いつ(・・) になるのかは、そのうちなんとなくわかるのだと思っていた。

(待っているだけじゃ、来ない……僕から触れに行かなければ、その日はずっと来ないんだ。いつだってそのチャンスはあったのに、僕はただ先延ばし先延ばしにしていただけなんだ)

「ど、どうしたのヒカル? ほんとうに……。疲れてる?」

「ラヴィアは不思議に思っているよな、きっと。僕がどうやって姿を消す——いや、他人から『隠密』状態を維持しているのか」

「————」

僕が話し出した、僕の秘密の根幹。

それに気がついてラヴィアがハッとする。

「ヒカル、でもそれは無理して話さなくても——」

「ラヴィア。いつか話すべきだと思っていた。でも、それは……いつだってよかったんだよ。僕さえ望めば話すことはできた」

「それが今だと言うの?」

「そう」

「どうして今なの?」

「わからない。……でもさ、ラヴィア。聞いてくれるかい?」

「————」

神妙な面持ちだったラヴィアは、居住まいを正して座り直した。

「はい」

そんな彼女に——自分に、信じられないほど真っ直ぐに向き合ってくれるラヴィアに、ヒカルは心の底から感謝した。

「じゃあ……話すね。なにから話したらいいかな——最初からか。うん、そうだね……僕が、ローランド=ヌィ=ザラシャと、死者の国で会ったときのことから話そう——」