作品タイトル不明
ヒカルたちの戦果
「もう……へろへろ、れす……」
アリスが食卓に突っ伏した。
その食卓にはコウナツを使った料理が数多く並んでいる。
コーン辺境伯が所有する王都屋敷であり、ここの料理人が「満腹亭」の主人にレシピを教わりヒカル——シルバーフェイスたちに食事を振る舞っているのだ。
「お前、結構図々しいよな。なに勝手に入ってきてほぼ毎日夕飯をごちそうになってるんだよ」
「そのくらいの権利はあるはずですよ! だってシルシルさんが引き起こした混乱の後始末をさせられてるんですから〜! あっ、このサラダのドレッシング美味しい」
「『満腹亭』のパワーサラダは絶品だから。きっとあそこの熊店長は歴史に名を残す」
「へー、そうなんですねスターフェイスさん。ウチ、『満腹亭』でサラダなんて食べたことなかったですね〜」
それは女子としてどうなんだよ、とヒカルは思いつつもツッコミはしなかった。
なんだかんだ食卓に紛れ込んだアリスは、ラヴィアとコウナツ料理の話題に花を咲かせながらむしゃむしゃ食べている。
そのあたりがアリスの、スパイとしてもっとも得意とするところなのかもしれない。
「シルバーフェイス様、アリスさんの仰った『後始末』というのは……?」
ポーラにたずねられ、ヒカルは答える。
「カグライの暗殺未遂を仕掛けた貴族3人はすぐにも捕まったんだけど、この3人は新興派の中でもさらに新顔なんだ。で、そんな3人だけでこんな大がかりなことを企むものだろうか、という疑惑があって、他の貴族の手引きがあったんじゃないかという調査を諜報部がしている」
「そうなんですね……。その貴族たちはどうしてこんなにも大それたことを企んだんでしょうか?」
「おそらく、だけれど、新興派の中でも新顔だった彼らはもっと自分たちの地位を上げたかったんだ。そのためには新興派そのものが権勢を拡大して、『甘い汁を吸えるポジション』を増やさなければ、自分たちにその席が回ってこないだろ? 右大臣失脚を考えているゼペッタ伯爵の話を聞いて、後押しをしようと考えたというところかな」
「なるほどー……」
「でも、それだけじゃないみたいなんすよね〜」
むしゃむしゃと、コウナツソースを掛けた肉を咀嚼しながらアリスが言う。
「あの3貴族は守旧派ともつながりがあったんですよ。で、いくらかの借金をしていたもので……もしかしたら守旧派の木っ端貴族からそそのかされたのでは、っていう見方もできて」
「それはありそうだな。つまり怪しい貴族は全員調べなきゃいけないってわけだ」
「そぉなんですよも〜〜〜! 調べなきゃいけないのはまだまだいますよ! ゼペッタ伯爵が牢につながれていたときに、遅効性の毒を含ませた人間もいるはずなんです! 毒物については——あっ、フラワーフェイス様、先日は大変お世話になりました……」
「いえいえ。私の力が役に立ってよかったです」
ゼペッタ伯爵の治療にはポーラの回復魔法が使われた。その魔法の使用感から、ポーラは何種類かの毒を推測しており、アリスたちはその情報も使って毒の出所を調べているのだ。
「聞きました、シルシルさん? このフラワーフェイス様の奥ゆかしいお言葉! あー! きっとその仮面の向こうには楚々とした美人がいらっしゃるので……」
「アリス。調子に乗るな」
「すすすみません!」
ヒカルが殺気を込めてにらみつけると、即座にアリスは頭を下げた。
正体を探ろうとするのならば多少見知った相手とて許すわけがない。
「だけどよかったの? 皇帝陛下の治療だけでも莫大な報酬を望めると思うのに、今回の戦果が……」
「『蔵書室への完全に自由な出入り』だな。あとはコーン辺境伯の厚意による、毎日の夕食への招待と、コウナツ料理の提供……についてはニーノ=ゼペッタからの礼か」
「わたしはうれしいけど」
「君がうれしいなら、それでいい」
ヒカルが正直に言うと、「もう」と言いながらラヴィアはサラダを食べ始めた。会話を区切るように食事を進めるのは彼女の照れ隠しなのだと、すでにヒカルは知っている。
「シルシルさんとスターフェイスさんはラブラブっすね〜」
「茶化すようなら出て行ってくれても……」
「あー、ウソですウソ! 冗談! ほんの軽いジョーク! そ、それにしても屋敷の主のコーン辺境伯はどちらに?」
露骨な話題逸らしにヒカルはため息を吐きながらも、
「奥さんのところに通ってるよ」
「またですか? あの御方も諦めが悪いですね」
「ま、浮気は夫人の罪だとしても、国境を守ることに全身全霊を捧げ続けて夫人をないがしろにしたのは辺境伯の罪だからな」
コーン辺境伯は夫人と より(・・) を戻したいらしく、実家の屋敷に戻っている夫人(当然実家も貴族だ)のところへ毎日通っている。
それができるのもポーンソニア王国との国境が安定したからなのだが——それはまあさておき、忠義者の辺境伯には幸せになって欲しいと思うヒカルである。彼らの子どもたちはすでに成人しているので、本人同士が納得すればいいだけなのだから。
「ああ、そう言えばアリス。お前にはそろそろ別の仕事も降ってきそうだぞ」
「……は? な、なんですか、止めてくださいよ。いたいけな乙女を脅かすのは……」
「ただの事実を言っているだけで脅かしているわけでもなんでもないけどな。——と、帰ってきたようだな」
ヒカルは「魔力探知」でこの屋敷に入ってくる人物が誰なのかはっきりわかっていた。
その人物は真っ直ぐにここ、食堂にやってくると、召使いによって開かれたドアの向こうに現れた。
「——……見慣れない人がいる」
その人物、ルナムート= ディ(・・) = コーン(・・・) はぼんやりした目でアリスを一瞥した。
「えええええええええ!? ランクS冒険者のルナムート様!? なんでここに!?」
「コーン辺境伯の娘だからだろ」
「なにしれっと衝撃の事実を言うんですか!? ウチは知りませんでしたよ!?」
「ふだんは実家に寄りつかないみたいだからな」
「——……広い家が苦手なだけ」
ヒカルも、コーン辺境伯に招かれて初めてこの屋敷にやってきたとき、彼女もまたいて驚いた。
ルナムートとは、ヒカルが「コウナツ山賊」をとっ捕まえたときに再会し、「あとはよろしく」と山賊を預けて以来だった。
どうやら久しぶりの親子の会話をしていたようだが、ヒカルはそのとき、彼女もまた人の子なのだと気がつき——ふとソウルボードを確認してみたところ、するりと問題なく見ることができたのだった。
【ソウルボード】ルナムート=ディ=コーン
年齢24 位階131
9
【生命力】
【自然回復力】7
【スタミナ】2
【免疫】
【魔法耐性】4
【疾病免疫】4
【毒素免疫】4
【知覚鋭敏】
【視覚】2
【聴覚】1
【触覚】2
【魔力】
【魔力量】5
【精霊適性】
【風】5
【筋力】
【筋力量】8
【武装習熟】
【剣】7
【天剣】2
【弓】4 【天射】
【鎧】6
【敏捷性】
【瞬発力】6
【柔軟性】4
【バランス】13
【器用さ】
【器用さ】5
【道具習熟】
【楽器】6
【天楽】1
【精神力】
【心の強さ】14
【カリスマ性】4
【直感】
【直感】12
【ひらめき】
【音楽】5
見た瞬間「うわぁ……」となった。ルナムートには気づかれたようで、「また妙なことしてる」と顔をしかめられたのだが。
ヒカルはこのとき、ソウルボードの万能性を確信した。最初に会ったときにルナムートにソウルボードが通じなかったのは、彼女が何らかの防御方法を持っていたとかそういうことではない。
ヒカル自身の問題だったのだ。
一目見た彼女に気圧されたせいだ。
その後も山奥で会ったときにも確認しなかった。それもひとえに自分の心の弱さによるものだ。
そんなルナムートにもちゃんと父がいて、自分と同じ人間なのだと気がついて——それでヒカルは彼女に対する気後れがなくなった。これも、ヒカルが自分の【直感】を上げたおかげかもしれないが、検証できることではないだろう。
(それにしても、このソウルボードだよなあ……)
ツッコミどころが満載過ぎてなにから指摘していいのかもわからないほどだ。