軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ラヴィアの奔走

モンスター侵攻の親玉、討伐される——その報告がもたらされてからというもの、ドリームメイカー内はこれまでとは違った空気の喧噪に包まれていた。その情報が正しいのかどうかの確認が行われており、正しかった場合に次になにが行われるのか——みんな知っているからだ。

地図作り、新種の生き物、植物の探索、鉱脈の探査——。

正しくこの大陸は、新たなる開拓地、「 グランドリーム(偉大なる夢) 大陸」となるのだ。

だがそんな喧噪とは裏腹に、ヒカルたちは3日ほど他の人々との関わりを断っていた。ヒカルとポーラの体調が急激に悪くなり寝込んでいたからだ。ラヴィアも疲労のために1日寝込んだが、彼女はそれくらいで回復した。

体力度合いで行けばラヴィアがいちばん苦しみそうなものだったが案に反してヒカルとポーラが寝込んでしまったのは、

「やっぱり瘴気かしら……」

と、思わざるを得ない。

ヒカルは邪龍に接近して戦ったし、ポーラは「ピュリフィケーション」の魔法を唱え続けていたために瘴気を前にしても息を止めることができず体内に吸収していた。

「瘴気をなくすためにできること……」

ぐったりして眠っているヒカルとポーラを眺めながら、ラヴィアは考えた。

彼女がいるのはドリームメイカー内にある庭園邸宅だ。今は「シルバーフェイス」の身分を使ってここに寝泊まりしている。

ラヴィアはふたりを眠らせ、消化のよいものを食べさせたりしていたがなかなか良くなる気配もないので別のアクションを取るべきではないかと考えていた。

だが、ふたりをおいて出ていくのは気がかりだし、なにをするにも人手が足りない——。

「女神様!」

門の向こうからそんな声が聞こえてきた。ラヴィアはピンとくる—— 彼ら(・・) が帰ってきたのだと。

急いで仮面をつけて飛んでいって門を開くと、ガリクソンを始めとする「花仮面の女神様親衛隊」が勢揃いしていた。

「大魔導様、無事のお帰りをまずはお喜び……」

「そういうのいい」

跪こうとする彼らを無理に立たせた。

親衛隊たちは全身どろどろだった。まさについ今し方、戦闘から帰ってきたという体である。

ラヴィアはざっと視線を走らせる——彼らの中で 欠けている(・・・・・) 人間はいないかどうか。

ヒカルは親衛隊に、危険な任務を任せた。モンスターの侵攻を分散させ、さらには南部へと視線を引きつけるためにドリームメイカーから離れて 暴れろ(・・・) と命令したのだ。結果的にドリームメイカーは無事で、ヒカルたちも邪龍のもとへたどり着くことができた。

だからといってその代償に親衛隊に死んでもらいたいわけではなく——。

「大魔導様、問題ございません。死者はありません」

「…………」

その言葉にホッとしつつも、片腕のない者、膝から先のない者、顔を包帯でぐるぐる巻きにしている者など、なかなか厳しい状況である。 死者は(・・・) ないという点では正しいが、

「……危険な目に遭ったのね」

「なにをおっしゃいます。女神様や大魔導様、それに 首領(ボス) の成し遂げたことに比べれば我らの危険などちっぽけなもの」

モンスターの侵攻が止まり、ヒカルが戻っていることから、すでに邪龍討伐がなされたことを彼らは知っているのだろう。

「きっとフラワーフェイスに治してもらうわ」

「い、いえ、その、けして女神様の奇跡を当てにして戦ったわけではありませんので……」

「遠慮しないで。フラワーフェイスは喜んで回復魔法を使う。ただ……」

ラヴィアが言い淀んだことでガリクソンたちの顔から血の気が引く。

「もしや女神様に、なにか!?」

「……なにか、と言うほどではないのだけど」

ラヴィアは彼らを邸内の庭に通しながらこれまでの状況を話した。きっとポーラに会いたいだろうに、彼らは「眠りを妨げたくはありません」と言う。手際よくテントが立てられ、ここで休息を取ると言った。

『それで、大魔導様はなにか腹案がおありですか』

ガリクソンはドリームメイカーの言葉に切り替える。まだまだ難しい話をできるほど、ヒカルたちの言葉に慣れていない。逆にラヴィアはドリームメイカーの言葉にすっかり慣れていた。ソウルボードで「言語理解」を2まで振っていたのが大きいのだろう。

『……とりあえず詳しそうな人に話を聞く。心当たりはある?』

『ドリームメイカー内にはいないと思われます。ボスが指摘するまで、モンスターの肉に含まれている邪の気配などは誰も気づいていなかったほどですから。いちばん詳しいであろうザハドゥ殿は遠征に加わっていませんし』

『そう……。では、あなたにはいくつかしてほしいことがあるの』

『なんでも、命じてください』

表情を引き締めたガリクソンに、ラヴィアは言った。

『お風呂に入って』

ガリクソンたち親衛隊に、まず身ぎれいに——清潔にすることを命じ、それからローテーションを組んでボスと女神様の面倒を見てもらうように頼んだ。

家についてはこれで大丈夫だろう、ヒカルたちにもガリクソンたちの帰還を話し、彼らが来るときには仮面をつけるようにしておいた。

ラヴィアはひとり、庭園邸宅を出た。

「……気が進まないけれど……」

目的地は決まっていた。おそらく、ヒカルとポーラの症状の原因は「瘴気」にある。だがポーラが「ピュリフィケーション」を使用しても体調は改善されない。であれば考えられるのは1つしかない。

ポーラの「ピュリフィケーション」が完全ではないのだ。

彼女が「邪」によって影響を受けたせいだろう。邪龍と戦う直前まで使っていた魔法よりもずっと弱々しい光になっていた。

であればどうするか——。

「……『ピュリフィケーション』を使えそうな人を呼ぶ」

具合が悪いヒカルに頼んで思い出してもらったのは、ソウルボードの「聖」の項目で6以上を持っているのは誰か、ということだ。

ヒカルの答えは何人かあったが、その中でもドリームメイカーに滞在している人物はたったひとりだけだった——「東方四星」のシュフィ=ブルームフィールドである。

「東方四星」の滞在場所がわからなかったので、「ラヴィア」に戻って冒険者ギルドで聞いたりしていると、気づけば夕暮れどきになっていた。

ラヴィアは「隠密」で姿を隠しつつ「東方四星」が滞在しているらしい集合住宅へとやってきた。

「サーラ……絶対に許さないわ!」

いきなり物騒な声が聞こえてきた。

「ゆ、許してよお〜……。ちょっとした出来心じゃない?」

「よくもまあいけしゃあしゃあとそんなことを……!」

「ま、まあまあセリカも、サーラがここまで謝っているんだから」

「ソリューズ! あなたもあなたよ!」

「うわあ、怒りの矛先がこちらに向いたか」

「どうしてサーラをかばうの! サーラは泥棒猫みたいなものよ! 恋人を寝取られる気分を味わったことがあるの!?」

恋人!?

寝取られる!?

ぎくりとしてラヴィアは足を止めた。まさか、こんな修羅場の真っ最中にやってきてしまうことになるとは。

(え? え? ちょっと待って。それよりセリカの恋人って誰?「東方四星」ってそういうのから距離を置いているイメージがあったのだけど)

そわそわしつつ声の聞こえてくる窓の下へやってくる。

彼女たちがいるのは3階の部屋のようだ。

「それは言い過ぎだにゃ〜〜〜! ちょっとした出来心だって言ったじゃん!」

「『ちょっと味見しよう』で最後までいただいちゃったってことね!? 語るに落ちたとはこのことよ泥棒猫!」

え、ええっ。

最後まで。最後まで!?

「最後まで食べちゃったのはしょーがないじゃーん! お腹空いてたんだもん!」

……ん?

「あんなところにホットドッグ置いておいたセリカも悪い!」

……ホットドッグ?

「万全の準備を整えて食べようと思っていた! アタシの! 希望を! 絶望に変えたのよ!」

ラヴィアは、はぁ〜〜と長々ため息を吐いてしまった。ふたりのケンカは「ホットドッグを勝手に食べたサーラと、それに怒っているセリカ」という構図らしい。

「だからそれはごめんって〜。じゃ、ひとっ走り新しいの買ってくるから」

「それなら、まぁ、許さないでもないけど! 5本よ!」

「えぇ、5倍返し? しょうがないにゃぁ〜……でもその前に」

言葉を切ったサーラは——どうしたのか。

すとん、と小さな音を立てて彼女の身体がラヴィアの目の前に降り立った。

「盗み聞きとは趣味がよろしくないにゃ〜〜? お嬢さん?」