軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

撤収の鐘

ドリームメイカーでの戦いは熾烈を極めていた。

セリカとソリューズが最初に発見した、10体を超えるヤママネキはすでに討伐されていた。セリカを始めとする精霊魔法使いたちによる大魔法、それにヴィレオセアン軍が運用する 混合魔法(ミックス) 、さらにはブラストキャノンの斉射によって撃退できていた。

その光景を街の中から見ていた娼婦は後にこう語る——「お昼なのに、もうひとつ太陽が現れたみたいに明るくて……まるで伝説に出てくる巨人の戦いみたいだった」と。

ドリームメイカーは要塞として性能は高いし、戦闘員の数も圧倒的に多かった。だが、ケガをする兵士が出るのは避けられず、簡単な傷ならば回復魔法で元に戻せるが四肢欠損レベルだと戦線離脱となる。ましてや命が失われてはどうしようもない。

修復したとはいえ城壁は万全ではなく、犠牲者は少しずつ増えている。

寄せては返す波のようにモンスターは襲いかかってきた。

「——『撤退』の可能性もあるな」

クロードは、横で戦うイヴァンに言った。

「なんでだ! 俺たちゃまだまだ戦えるじゃねえか!」

「上層部はすでに検討していると思うぞ。まずは非戦闘員から船に移していくことになるが、それにしたところで1日や2日では終わらないだろう……なにせこれだけの人数だ。早くても3日は掛かると思う」

新大陸だ、と渡ってきた人たちはいわばお客さんのようなものだが、それでも彼らは多くの荷物をドリームメイカーに運び込んできた。それらを撤収するのにも時間がかかるだろうし、ランズハーヴェストよりも広いここでは街に散った人たちを取りこぼすことなく避難させるのは相当の手間だろう。

ドリームメイカーの住人たちが、避難勧告が出るや一斉に船へと移れたのは彼らがそういった教育を受けてきたからだ。

「3日後……もっと多くのケガ人が出ているだろう。回復魔法使いも限界に近づいている」

魔力が回復すれば魔法は使えるが、1日に使える限界がある。

「だけどよお、あの人を見てるとどうにだってなると思っちまうんだよ」

「あの人かー……」

ふたりの視線の先には、

「あああああ! よええ、弱すぎる! もっとマシなヤツ出てこいよ!」

バカデカイ大剣を振り回している獣人王ゲルハルトがいた。

彼が剣を一振りするだけでまとわりついていたフォレストウルフ数体が吹っ飛んでいく。

ゲルハルトは異様にタフで、ほとんど寝ていないにもかかわらずキレッキレの動きだった。

クロードはイヴァンに同意せざるを得ない。

「ま……確かに、あの人 たち(・・) 見ていたら大丈夫な気もしてくるよな」

ゲルハルトの部下にして冒険者でもあるゴットホルトはパーティー「極虎」とともに穴のあきそうな防衛ラインをすぐさま塞ぐし、「剣聖」ローレンスはポーンソニアの騎士を率いて大型モンスターを率先して討伐する。

「愉快痛快」も地味にいい動きをしていて、敵の動きが鈍る夜中にこそこそと出かけていくと罠を仕掛けた。翌朝には身動きの取れなくなったモンスターがあちこちで発見され、即座に始末される。

そして冒険者の中では「ヒュージツインズ」が突出して討伐量をたたき出していた。軍隊も目を瞠るほどの連携で、当たるを幸いとモンスターを屠っていく。なにより彼らは人数が多く、あの一団が通り過ぎた後には雑草も生えていないと評判だった。

他にも活躍している冒険者がいるのだが人が多すぎてなかなか追えなかった。

「大変だけど……来てよかったな」

それまで黙っていたローイエがぽつりと言った。

彼もまた、グランドリーム大陸に渡って腕を上げていた。魔法を使いながら大剣で敵を倒すという珍しいスタイルで、実のところ冒険者たちから密かに注目されていた。

「ここは戦闘スタイルの見本市みたいなものだ。目で見て盗み、すぐに実践できるモンスターが目の前にいる」

「ああ……まったくだ。だけど油断するなよ」

「わかってる」

実力の向上は楽しいが先の見えない戦いにはウンザリしていた。

ドリームメイカー方面からガラーンガラーンと鐘が鳴っているのが聞こえる。これは「一時撤収」の合図で、次の部隊と入れ替わって休憩せよという意味だ。

「獣人王! 撤収のお時間です!」

ゲルハルトはこんな鐘など無視して戦い続けていることが多いので、無意味かと思ったが一応クロードは声を掛けた。

「……獣人王?」

だが彼は、ゲルハルトの異変に気がついた——その場に立ち尽くしているのである。

「ゴットホルトォッ!! こっちへ来い!!」

いきなり大音声で言うものだからクロードはびくりとした。

「じ、獣人王、ゴットホルトさんは今は城壁内ですよ。どうしました?」

「……クロードか。お前、気づかねえか?」

「え?」

「モンスターがいねえ」

「…………」

クロードは周囲を見回した。

さっきまでうんざりするほど戦っていたモンスターは、周囲にいない。もちろん遠くで戦っている音は聞こえるし、空を飛行系モンスターが鳴いているようだが、この辺りにはいなくなっている。

モンスターも撤収の時間か? ——なんてバカバカしいことを考えてしまうほどには気配が少なくなっている。

「それに……この空気」

ゲルハルトはすんすんと鼻を鳴らした。空気が違うと言われてもクロードにはさっぱりだが、ゲルハルトは非常に鼻が利くと聞いている。

「まさか……いや、まさか。………………クロード!!」

「は、はいっ」

「戻るぞ!!」

「はい!」

クロードはアインビストの軍人というわけではなく客人扱いなのだし、当然ゲルハルトの部下でもなんでもないのだが、思わずそんなふうに返事をしてしまう。

ゲルハルトは風のように走り出し、ドリームメイカーを目指した。あわてて追いかけるクロード、イヴァン、ローイエの3人。

道中、クロードは否が応でも気づかされる——明らかにモンスターが減っていると。

「おう、ゴットホルト! どうなってる!」

ドリームメイカーに戻ったゲルハルトを出迎えたのはゴットホルトだ。すぐにこうなることを見越していたかのような対応である。

「はい。モンスターが引き返しているようです。今斥候部隊が確認していますが一時的な撤退ではなく本格的な撤退かと」

「なんでこんなことになってる」

モンスターがいなくなればふつう、喜びそうなものだがゲルハルトだけは違う。不満だった。まだまだ満足できる戦いができていなかった。

「わかりません——が、見張り台にいた観測手によると『まるで夢から覚めたように引き返していった』ということです」

「やはり操られていたか」

「はい。獣人王のお見立ての通りです」

「チッ、つまらねえことしやがる」

すでにゲルハルトはモンスターがなんらかの強制力でもって動いていることを知っていた。モンスターの動きが直線的で、臨機応変さを欠いていたのだ。

だからこそ捨て身の攻撃は厄介ではあるのだがそれをのぞけば手応えのない敵だったとしか言えない。

「おい、待てよ……そうなると、大元が死んだのか!?」

「はい。モンスターをけしかけていた、精神を操るモンスターが死んだということかと——」

「そうじゃねえ!」

ゲルハルトはゴットホルトを遮ると、

「ウオオオオオオオオ!! クソがッ! 先を越されたってことじゃねえかよ! アアアアアアア!!!!」

天に向かって吠えた。

周囲にいる、戦闘帰りの兵士たちがなんだなんだと見ているがその中には「剣聖」の姿もあった。

「いかがした」

「ローレンス!!」

ゲルハルトは親友を見つけたかのような顔で心情を吐露する。

「大物を! この大陸でいちばんの大物を、誰かが抜け駆けしてブチ殺しやがったんだ! 空気のニオイが全ッ然違げえだろうが!!」

「ほう……」

「悔しいじゃねえか……!」

「いや、別に」

「ア゛アァッ!?」

「敵が死んだのならば喜ぶべきだろう。防衛任務は達成された」

「従順か、てめえ!」

ゲルハルトはわーわー言っていたが、それはローレンスの偽らざる本音だった。

なにが起きたのかはこれから探るとして部下たちが生き延びたことを素直に喜んだ。

「ローレンス! 一騎打ちやるぞ!」

やるわけなかろう、と返されるのがいつもだった。

「……安全が確認されたなら、それもいいかもしれんな」

聞いたゲルハルトは目を見開き、口元をニィとする。

ローレンスもまた退屈な戦闘に嫌気が差していたのだろうと。理性では防衛戦が終わったことを喜んではいるが、本能では戦いを欲しているのだと。

「決まりだな! そうだ、いいこと思いついたぜ」

突然ニタニタし始めるゲルハルトを見て、ローレンスは失言を悟った。

こういうときゲルハルトはろくな提案をしない。

「誰がいちばん強えぇのか決めるぞ! 一騎打ち大会だ」

ほらな、と口の中でローレンスはつぶやいた。