軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

豪傑の勝負

巨大な剣と、長槍で構えるふたり——双方ともにプロテクターの類を身につけず普段着であるところに、よほどの「自信」があるのだろうというのが見て取れる。

「で、ではここに……アインビスト王ゲルハルト=ヴァテクス=アンカー陛下と、ドリームメイカー総司令官グルゥセル殿の模擬戦を開始する。双方構え」

仕切りを任されたのはクインブランド皇国の副長だ。「なんで私が見届け人を……」という顔ではあったが、どこかのトップがやらなければまとまらない勝負ではある。

しかも、ゲルハルトはバチバチの殺気をまき散らし、グルゥセルは無表情ながらも嵐の前の静けさという面持ちだ。

観客席に視線を向けると、いつの間にできていたのかイスが並べられ、その最前列にクロードやローイエ、イヴァンが座っていた。かぶりつきである。クロードの横にはリュカが若干呆れた顔で座っている。

(その気持ちわかるよ。こいつらの盛り上がり方異常だもん)

と、ラヴィアが聞けば「焚きつけたのはあなたでしょ?」とジト目されること請け合いのことをヒカルは考えていた。

わぁぁぁ……という盛り上がりがやがて落ち着いていく。ふたりが距離を空けて向かい合ったのだ。

しん、と静けさが舞い降り、遠くで鳥の鳴く声が聞こえた——。

「始めッ!」

直後、ドンッ、という音が同時に聞こえた。ふたりとも全速力で突っ込んだのだ。

「オアアアアアアアア!!!!」

『フウウウウウウウウ!!!!』

まるで木切れでも振り回すように鉄の塊を造作なく振り抜くゲルハルトと、それを真正面から受け止めるグルゥセル。

この瞬間、アインビストからやってきた者たちは「獣人王の勝ちだ」と考えただろう。それも無理からぬことでゲルハルトの肉体は、筋力は、抜群に強力だからだ。グルゥセルもまた体格に恵まれているとはいえゲルハルトから見ると小さく見えてしまう。

だが、ギイイイインという金属音とともに火花が散り、衝撃波が周囲に伝播して観客の前髪を揺らしたが、グルゥセルは吹き飛ばされることもなくその場に踏ん張った。

「ワハハハハハ!!! そうこなくちゃよお!!!!!」

『くっ、なんという力だ』

純粋な力比べになるとさすがに分が悪いと感じたのか、グルゥセルは槍を引く。その後、振り回される大剣と長槍がぶつかり合い、火花が宙を舞う。

「な……何者、なんだ、あの人は……」

「すげえ、獣人王に打ち負けてない……」

『グルゥセル様って強いんだな……』

『つかあの獣っぽい人、あのグルゥセル様の突きをあしらえんのかよ……』

観客たちは呆然としていたが、次には爆発的な歓声を上げた。

歓声を聞いてますます剣戟はヒートアップしていく——。

(思っていた以上に接戦になったな)

実のところヒカルは、一瞬で勝負が決するとは思ってはいなかった。ふたりのソウルボードを確認していたからである。

グルゥセルは「筋力量」12に「長槍」6、「天槍」1に、「瞬発力」3というバランス型(とはいえ超人レベルだが)戦闘スタイル。

ゲルハルトは「筋力量」22に「大剣」5という純然たるパワーファイターだ。

「直感」が両者ともに4ずつあるので、一瞬でどちらかが負けるということはない。

ちなみに「剣聖」ローレンスは「筋力量」16に「大剣」6、「天剣」1に、「直感」6というグルゥセルとゲルハルトの間を取ったような戦闘スタイルである。

(ま、この3人の誰であっても、正面から戦うのだけは絶対にイヤだね)

あぐらをかいた膝の上に頬杖を突いてヒカルは見下ろしていた。

ドリームメイカーでもグルゥセルは頭ひとつ抜きん出たソウルボードの持ち主だ。他国と違うのはグルゥセルの次点レベルが結構な数いるので、粒がそろっているところだろう。それもこれも大陸のモンスター相手に磨かれた戦闘スキルである。

ゲルハルトとグルゥセルの模擬戦は1時間に及んだ。最終的にはグルゥセルの槍が折れ曲がり、勝負が決した。

「……チッ、んな 模擬槍(オモチャ) じゃなくちゃんとした得物を持ってこいや」

汗だくのゲルハルトは不満げだったが、模擬戦用のものとはいえ純然たる金属の塊である槍をへし折った、ゲルハルトの筋力がすさまじいと言うべきだろう。グルゥセルは苦笑しつつも、

「いい勝負だった」

ゲルハルトに握手を求めた。

それに応えてやるゲルハルトだったが、ふたりの両腕から背中は赤黒くなっている。途中、暑くて上着を脱いでいたのだが、あまりの超運動によって酷使された筋肉が内出血を起こしているのだ。

「またやるぞ」

「貴殿はほんとうに戦闘が好きなのだな」

「ああ——なんせ、生きてるって感じがするじゃねえか! ワッハハハハハ!!」

観客たちは握手からのふたりのやりとりに大興奮して盛大な拍手と歓声を送っている。

「やっぱゲルハルト様だよ!」

『グルゥセル様、負けてなかったよな!?』

「つかドリームメイカーのヤツらって強いと思ってたけど……これが総司令官か……」

『獣人って強いんだな。腕がうずくぞ……』

触発されて剣を振り回したくなった者が多く、

「獣人王! このまま模擬戦をやらせて欲しい!」

真っ先にクロードが鼻の穴を広げて手を挙げたものだからリュカが顔を覆ってうつむいてしまった。どうやらクロードの「腕試し癖」はまったく治る気配がないようである。

「おお、やっちまえやっちまえ! なあ、グルゥセル、いいだろ? お前んとこの強いヤツを出してくれよ」

「あ、ああ、構わない」

なれなれしく肩を組んでくるゲルハルトに驚きつつグルゥセルは答えた。するとドリームメイカーでも腕自慢のヤツらが出てきて、なぜかジンは他の兵士たちから首根っこをつかまれて前に出されていた。

その後、兵士たちは日が暮れるまで模擬戦で盛り上がり、残り少なくなっている酒が振る舞われると国家を超えて夜更けまで飲み明かした。

翌朝になれば兵士たちの特別なイベントは終わって、いつもどおりの日常——遠征軍としての労働が待っている。

ドリームメイカーの外壁修繕は、兵士が増えたことで一気に進んでいく。各国の連携が必要になるが、そこは昨日の模擬戦を経てだいぶ円滑になっていた。

『そういうことか、シルバーフェイス』

仮面を装着したヒカルはグルゥセルに話しかけられた。

『兵士たちの心のわだかまりを解くために、模擬戦が必要だったんだな? 一時的とは言え剣を向け合った間柄だ、心のどこかで許せないわだかまりを持った者がいたはずだ。それをほぐすためにトップである私とゲルハルト殿に模擬戦をさせた。そして兵士たちはお互いの国への尊敬を取り戻した』

『さて、ね——』

ヒカルは口元だけ笑ってみせた。

グルゥセルへと背を向けて歩き出しながらヒカルは、

(……僕の見立てだとグルゥセルが勝つはずだったんだけどな……ゲルハルトと戦うとかいう面倒ごとを押しつけるだけのつもりだったのに)

わりと腹黒なことを考えていた。

(ま、グルゥセルのことだから最善を考えて国家連合全体の利益になるよう動くとは思っていたけどね——)

想定よりもずっと、いい結果になった。

『さあ、次の行動だ——本格的に森林を攻略するぞ』

『ようやく我々の出番ですか、 首領(ボス) 』

ヒカルがやってきたのは賢人ザハドゥの農場跡地だった。「花仮面の女神様親衛隊」の面々が集まっている。

『……あのー、その「ボス」っての止めない?』

『ボスはボスでしょう』

親衛隊長のガリクソンがニカッと笑うと親衛隊員たちもうんうんとうなずいた。

ポーラが「女神様」なら、ポーラとともに行動しているヒカルは「男神様」になるのかと思ったら「ボス」だった。ラヴィアは「大魔導」と呼ばれている。

この差は一体……とは思うものの、敬意の視線を感じるのでむげにするのも忍びない。

『まあ、いいや……スターフェイス、フラワーフェイスも、これからのことについて話そう』

『ん。でも連合国軍はいいの?』

『彼らとは別行動だ』

ヒカルはこともなげに言った。

『僕らは電撃的に行動して、北限の地を目指すからね』