軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

戦力のデモンストレーション

パトリシアの屋敷での会議——各国による連合会議の30分後、参加者たちは洋上にあった。

「これが……新大陸で開発された船」

薄い造りの顔をしたビオスの神殿騎士大隊長が興味深そうに眺めている。船はドリームメイカーの戦艦で、1,000人は乗れる大型艦だった。

操舵するのはグルゥセルたちなので、各国要人は護衛を含めてかなり大勢を連れてきたが全員を乗せても十分な余裕があった。

彼らはヴィル=ツェントラ沖へとやってきた。

「あちらの船が見えるかな? サイズとしてはこの軍艦の半分くらいか。もう取り壊す予定のオンボロだったので今回のデモンストレーションに使うことになった」

パトリシアが指差した向こう、相当離れた場所に船が1隻浮かんでいる。貨物船のようで、無人である。

「距離はどれくらいですかな」

「ざっと500メートルというところね」

「まさか……その大砲で攻撃をすると?」

たずねているのはフォレスティアの陸軍大臣で、パトリシアは答えをドリアーチに譲った。

「問題ありません」

「まさか」

半信半疑という顔の大臣だが、それでもドリアーチは平然としていた。

いくら貨物船が大きいとはいえ距離がある。彼らのいる船上からはぽつんとしか見えないほどだ。

魔道具、あるいは純粋火器としての大砲は各国が保有しているが、この距離を届かせることは不可能だ。

「当たるわけがない、この距離で。もし当たったとしたら戦争の形が変わりますぞ」

「確かに……。仮に届いたとしても当てることは無理であろうな」

陸軍大臣と大隊長が話しているが、それを遮ったのは獣人王ゲルハルトだった。

「やってみりゃわかるだろ。さっさと見せてくれや」

ぶっきらぼうではあったが、その実、瞳には隠しきれないようなわくわくを滲ませていた。

「ええ、論より証拠、見せましょう。——グルゥセル」

「ハッ」

そばにいたグルゥセルにドリアーチは命令すると、グルゥセルは胸を張って声を上げた。

「では皆様、耳を押さえてください。——装填準備!!』

後半はドリームメイカーの言葉だった。

グルゥセルの号令でドリームメイカーの兵士たちが大砲の薬室を開き、弾頭を持ち上げる。

大砲は横並びに10基、置かれてあった。

『グルゥセル様、風向き、風量ともに許容範囲です』

観測手が報告すると、グルゥセルは小さくうなずいた。

『装填!!』

重そうな——それこそスイカほどはありそうな弾頭が押し込まれる。

『魔道具起動!!』

耳を塞いでいるというのに、キンッ、と甲高い音が聞こえてくる。パッと見では変化がないが、「魔力探知」を持つ者なら砲身が光を放つことに気がついただろう。

『発射準備!! 5! 4! 3! 2! 1!』

ゼロ、の合図とともにドドドドドンと爆音が響き渡る。

発射のインパクトで爆風が起き、後方で見学している人々の服を揺らす。

大量の煙とともに発射された弾頭は山なりの軌道を描く。

そして、

「お、おお……」

誰が声を漏らしたのかはわからない。多くの人間が思わず声を漏らしていた。

弾頭は3発が海面に突き刺さり巨大な水柱を上げていたが、残りは見事貨物船に着弾した。

船が破壊されて破片が空へと舞い上がるのが見える。貨物船は傾いたと思うと、ゆっくりと沈み始めた。

「……とまあ、見ての通りの威力だ」

パトリシアが心持ち声を大きくして言ったのは、いかに耳を塞いでいたとは言え、みんなの耳は聞こえにくくなったからだろう。

いや、それでもなお、耳から手を離すことも忘れた呆然と船が沈むのを見守っている者の多いこと——。これほどの破壊力を持つ武器は、こちらの大陸にはない。

「ドリアーチ国王、この魔道具はどれほどの効果をグランドリーム大陸のモンスターに与える?」

そんな者は気にせずパトリシアは話を進めた。

「もちろん一般的なモンスターならば一撃必殺となるでしょう。しかしながらこれを何発当てたところで起き上がってくる……ヤママネキというのですが、この戦艦を縦にしたほどに大きく、このブラストキャノンでは倒しきれないモンスターもあります」

「そ、そんなのが何匹もいるというのか」

ビオスの大隊長が焦ったように言う。「聞いていないぞ」とでも言いたげである。

「ええ……我がドリームメイカーを滅ぼされたときにはヤママネキが10体ほど押し寄せました。ヤツらの前ではどんなに高い防壁も無意味です」

大隊長がごくりとつばを呑んだ。ようやく、向こうの大陸の脅威が伝わったようだ——わかりやすい実感として。

「ですがシルバーフェイスが教えてくれました。ヤママネキは身体の中心にコアがあるようで、それを破壊すればすぐに倒せると。完全に攻略不可能なモンスターはいないと……私の知る範囲では思っています」

「そ、そうか」

いくぶんホッとした顔をしながらも大隊長はヒカルをにらんで来た。「またお前か」という顔をしている。

ヒカルは涼しい顔で黙殺した。

「……おい『剣聖』の。お前、あの砲弾を斬れるか」

不意にゲルハルトがそんなことを言った。

「ええ……あの程度の速度ならばたやすいかと」

「だろうな。まあ、俺様にもできるだろうし、ゴットホルトもちょっと慣れりゃあできるだろう」

は? とヒカルは聞き返したくなった。斬る? あの砲撃を?

ゴットホルトもまたヒカルと同じ感想を持ったようで、

「できません」

とハッキリ言った。

「いや、できる。——つまり、数人はこの砲弾に匹敵する武力があるってことだ」

「できません、王よ」

「いや、できる」

とことん話を聞かない王である。

「おもしれえじゃねえか、ヤママネキ。俺様がぶっつぶしてやらあ。今日からあれを斬れるくらいまでの訓練やるぞ、ゴットホルト」

「……ハッ」

キリッとして立っているのにゴットホルトの眉尻は下がっていた。尻尾もしゅんとしている。かわいそうにとヒカルは内心で同情した。

それでも断らないのは、ゴットホルトがそれだけゲルハルトに忠実——あるいは尊敬しているからだろう。

「ふふ……獣人王よ、あなたがそういう人物でよかった。実に心強い、な、ドリアーチ国王」

「え、ええ……。まさかパトリシア殿が言ったような反応を得られるとは」

どうやらパトリシアはこうなることを予想していたようだ。ほんとうの敵の強さを見せてもマイナスにはならないと判断し、むしろ敵の強大さを知ることで、臆するのではなく、テンションを上げていく——そうすることで連合軍を強固にしたいのかもしれない。

「……これは在野の冒険者、優れた冒険者にももっと来てもらったほうがいいかもしれませんな」

「俺様も『剣聖』の言うことに賛成だ。じゃんじゃん派手にやろうぜ!」

「その金は一体誰が出すというんだ、誰が……。まあ、確かに、腕利きは多いほうがいいだろう。大砲の届かない奥地で戦うのは、個人の力だ」

パトリシアは苦笑していたが、それでも冒険者ギルドに掛け合うと約束したのは、それほどに竜石のもたらす富が大きいと判断したからだ。

実のところすでにヴィレオセアンでは多くの魔道具研究家、魔術の研究大家に研究計画を提出するようハッパをかけている。巨大竜石があることでできる研究、なければできなかった研究——それらをやることで魔術レベルを一気に高めるのが狙いだ。

様々な人々の思惑とともに、最初の連合会議は終了した。

この日のうちに、各国の冒険者ギルドに通達が走った——。新大陸のモンスターに挑むランクB以上の冒険者を求める、と。

そしてまたヴィル=ツェントラには、多くの強者たちがやってくることになったのである。