軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヴィル=ツェントラの冒険者ギルド

ヒカルは、仮面を外した冒険者スタイルでラヴィアとポーラの3人で街へ出るのも久しぶりだなと思った。

実のところグランドリーム大陸での単独行や、戦闘を経て、装備品が結構磨り減っていたので日用品は買い換えてある。

夏でも活動しやすい半袖のシャツに、バックパック。背中には脇差しと短刀という格好だ。

ラヴィアは丈夫な布地のワンピースで、荷物は軽め。ポーラもラヴィアに近い格好だったがラヴィアはフード付きの薄い外套を羽織っていて、ポーラはアウターを身につけていない。

「あれが冒険者ギルドか。目立つなあ」

ヴィレオセアンには巨大な港があり、交易が盛んだ。港側にある巨大施設が市場だとするなら、街中にある巨大施設はこの冒険者ギルドだった。

南側に向いた壁面はオープンカフェのようにすべて開かれており、テーブルには武装した冒険者たちが話し込んだり打ち合わせしたりしている。

外が明るいので中が見えづらいが、近づいていくと奥行きが相当にあることがわかる。

奥には一列にカウンターが設置されており、「登録業務」「依頼受注」「依頼発注」「パーティー関連」「資金管理」と分かれてあった。

依頼掲示板は別の壁面にでかでかとあるのだが、

「……ん? 思ったより依頼が少ないな」

貼られた依頼票はまばらだった。

冒険者はそこそこいるのだがよくよく見てみると彼らはヒマを持て余しているふうだ。

ひとりの女性職員が依頼票を持って掲示板へと向かうと、ぞろぞろと冒険者たちがそこに群がっていく。

「おいおいレーヌちゃんよお、まーた護衛かよ?」

「護衛に土木に運搬に……あーあ、ろくな仕事がねぇな」

「俺の剣が泣いてるぜ」

貼られている依頼票を見てみると、確かにそんな依頼ばかりだった。

「護衛」は他の街へと向かう商隊の護衛。

「土木」は言わずもがな、土木作業である。

「運搬」は「土木」に使う木材や土砂の運搬作業——「冒険」からは遠い。

ヒカルとしては、この街を離れる「護衛」は難しく、「土木」や「運搬」はラヴィアとポーラに荷が重いと思われた。

「あの、ちょっと伺っても?」

「はい。なんでしょうか」

依頼票を貼り終えた受付嬢に声を掛けると、彼女はにこやかに応対した。

白みを帯びた金髪は長く美しい。瞳は金色で、どこかお人形めいた美しさがある。それでも、肌の白さにほんのり浮かんでいるそばかすのせいで彼女の人間くささが感じられるのだが。

細身ながら見目麗しい彼女にヒカルが話しかけたことで、「チッ」だの「なんだあのガキ、レーヌちゃんに話しかけて」だの聞こえてきた。

「見たところ依頼が少ないようですが……」

「あら。この街に来たばかりですか? もしお時間があるようでしたらヴィル=ツェントラの冒険者ギルドについて説明しますよ」

ヒカルは振り返り、ラヴィアとポーラを見やった。

これほど大きなギルドで受付嬢がここまで応対してくれるのは珍しいし、それに依頼がないなら受けることもできない。

話を聞いて損はないだろう。

「ではお願いします」

「はい。ではこちらに」

「——仲間のふたりもいいですか?」

ラヴィアとポーラに気がついた受付嬢は、ちょっと驚いたようだったが、問題ありませんと言った。

「今、ヴィル=ツェントラは空前の好景気で賑わっています」

レーヌ、と名乗った受付嬢は話し出した。

「ご存じかどうか知りませんが、東方に新大陸が発見され、そちらから多くの難民が来ています。彼らの生活をパトリシア=ジルベルスタイン総首領が保証されたことから、難民受け入れのための工事や需要が多く発生しています」

「であれば、むしろ冒険者ギルドの依頼は増えるのでは?」

「はい。『護衛』『土木』『運搬』はこの難民に伴う事業ですね。商隊は各町から様々な品を運びますし、住居建築のための仕事が多く出回っています」

「あー……その、そうではなくて、食料の調達代わりに多くの動物を狩ったり、あるいはケガを治療する薬草を集める必要があるのではないか、と」

するとレーヌは形の良い眉をひそめた。

「実は……それらの依頼もあるにはあるのですが、すべて受注されてしまっているんです」

「すべて? すべて、って……結構な量があるんじゃないですか」

「はい。ですが結構な冒険者の人数が増えましたので」

「え、まさか」

ヒカルはそこまで聞いてようやく理解した。

「ドリームメイカーの人たちが冒険者になったんですか!?」

「あら、向こうの国のお名前をご存じなんですね。そのとおりです。こちらでお金を稼ぐ手段を得たいと難民の長から申し出があり、パトリシア総首領が冒険者ギルドを推薦なさったそうです。彼らは勤勉で、能力も高く、毎朝早くから依頼を受けに来て、夕方まで働いてお帰りです」

「…………」

アイツら……とヒカルは頭を抱えたくなった。

言われてみればもっともではある。グランドリーム大陸のモンスターはこちらのそれよりもずっと強く、ドリームメイカーの兵士たちは「魂の位階」が高く、総じてソウルボードの内容も優れていた。

そんな彼らが3か月もの間、なにもせず暮らしているわけではないことくらい、ちょっと想像すればわかったはずなのに。

(いや、これは喜ぶべきだよな)

自分たちでなんとか自立しようとがんばっている。

聞けば、休む日もなくほぼ毎日依頼を受けているらしい。

(ドリアーチやグルゥセルに会ったら、今度聞いてみよう)

そんなドリームメイカーの住民たちを、彼らもまた誇りに思っているだろうから。

とはいえ——ヒカルのお財布事情が困窮しているのも変わりないわけで。

切り替えて、善後策を考える。

「では、街の周囲で解決しそうな依頼は、『土木』『運搬』以外にはない、と……」

「そのとおりです。申し訳ありません。もし必要でしたら朝早くに来ていただければその日その日の依頼が発生しますのです」

「ギルド内にいる冒険者たちはなぜそうしないのですか?」

「……それは、そのぅ」

はきはきして冷静だったレーヌが、初めて戸惑いを見せた。

ヒカルはその姿を見て、理解した。

「ああ……まあ、彼らは 勤勉(・・) ではないんですね」

「私の口からは申し上げられませんが、ご想像の内容からは遠くないと思われます」

「わかりました……いろいろありがとうございます。ここのギルドには資料室はありますか?」

「資料室……ですか?」

「ええ。依頼になくとも希少な植物や動物の発見で稼ぐこともできるでしょう。その資料を拝見したいです」

「まあ……なんという勤勉な」

どうもレーヌは「勤勉」という言葉が好きなようで、ヒカルの言葉に感激して頬を紅潮させた。

「でしたらご案内しましょう。こちらです」

「あ……その、場所だけ教えてもらえれば。これ以上お仕事の邪魔をするのは悪いですよ」

「いえいえ構いませんよ。将来有望な冒険者さんを導くのも受付嬢の仕事ですから。——でも」

ちらりとラヴィアとポーラに視線を向ける。

「あまり可愛らしい女性をはべらせているのは、他の冒険者の反感を買いますから、ほどほどになさってください」

「え!? いや、彼女たちは——」

「資料室はこちらです」

レーヌは立ち上がると応接ブースから出て行った。

「……はべらせているわけじゃないんだけどなあ」

ちゃんと、ふたりはヒカルとともに戦える戦力なのだ。

だがラヴィアとポーラは特に意に介した様子もなかった。

「じゃあ、ちゃんとヒカルのものだとわかるようにはべっておかなきゃ」

「ちょっと、ラヴィアちゃん!?」

ラヴィアはポーラの右腕を取ってからヒカルの左腕にしがみついた。

「……ラヴィア、動きづらいんだけど」

「ん。知ってる」

「知ってる、じゃなくて」

「それともヒカルは、わたしたちが他の冒険者に口説かれてもいいと思うの?」

「……それはない」

むさ苦しい冒険者にラヴィアが声を掛けられているのを見たら、たとえまともな内容であったとしてもイラッと来る自信があった。

「ふふ。ヒカルは独占欲が強い」

「わかった。わかりました。じゃあ資料室に行くよ」

「えっ、えっ、この格好でですか!? せめて私は離れますよ!?」

「ダメ。ポーラもいっしょ」

「ええ〜〜!?」

応接ブースを出ると、他の冒険者たちからの刺すような視線がまたも飛んできたが、ヒカルは完璧に黙殺した。

「あら……」

と、レーヌもまた驚いたような呆れたような顔をしてはいたが、そこには突っ込まないことにしたようだ。

(ちょっとだけ、彼女が自分を見る目が変わった気がする……)

どうやらこの振る舞いは「勤勉」からは遠いらしい。