軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「隠密」の帰還

もう終わりだ——という局面が訪れたとき、城壁の上で戦う兵士たちの心境は絶望に染まってしまった。

モンスターが押し寄せる中、指揮官が死んだ。上空には旋回する竜までいる。

一般的な軍人ならば指揮官が倒れても任務遂行のために全力を尽くすよう、訓練される。戦況が極めて悪くなったとしても、わずかでも国に貢献できるように動けるはずだ。

しかしドリームメイカーは城壁によって隔絶された小さな世界で、実に5世紀以上もの間、生活を営んできた。街そのものが危険になったことは一度としてなく、兵士たちも「食い扶持を稼ぐ」ためのモンスター狩りでしか危険にさらされない。

さらには、他の国家がないことで大規模戦の経験が皆無であり、訓練経験もあまりに不足していた。

だから、城壁の上の兵士たちは、どうしていいかわからなくなっていた。

死ぬのだ、とぼんやり思った。

ある者は家族を思い、ある者は子どものようにイヤイヤと首を横に振り、ある者は茫然自失の体でうなだれた。

『——チッ、マジで脆弱だったんだな、我が軍は』

竜の背中にまたがり、首に回したロープでバランスを取りながらゴルジアはつぶやいた。

『 あの人(・・・) の言ったとおりだ。こんなんじゃ俺たちが手を出さなくても、いつか滅びてただろうな……』

積み重なったモンスターを乗り越え、ついに最初の1匹——巨大トカゲのようなモンスターが城壁に上がった。

兵士たちは立ち上がって逃げることすらできず、力の入らない剣を振り回したが、巨大トカゲは怯むこともなく兵士に近づくと一気に丸呑みした。

叫び声が上がる。

次々にモンスターが城壁を上っていく——。

『弱い、弱い、弱い、弱すぎだろうが! さっさと滅びちまえ、こんな国!』

ゴルジアがロープを引っ張って竜に吠えさせようとした——そのときだった。

『——あ?』

どんっ、と横から衝撃が来た。

命綱やシートベルトがあるはずもない、竜の上。

上体がかしいだゴルジアは、そのまま宙へと身体が投げ出される。

『あ、あぁっ!? クソ、なんだってんだ——』

ロープをつかみ、なんとか落ちることはなかったが空中にぶら下がったゴルジアが見上げたそこに——三角形の巨大な影がすぅーと横切っていく。

『な、なん……』

そして彼がまたがっていた竜の背には、別の人間が立っていた。

「アンタが竜に乗れるってこと までは(・・・) わからなかったよ」

『お前ッ——!?』

朝日が昇り、一条の光が差し込んでくる。

彼の顔につけられた銀色の仮面が、朱色の光を映じて濡れたように輝いた。

『シルバーフェイス!? チッ!』

ロープをつかんでいない右手で腰のダガーを引き抜いたゴルジアは即座にシルバーフェイスへと刃を投げつける。

だが、ぶら下がった状態では力が入らず簡単に避けられてしまう。

「ま、殺すかどうか決めるのは僕の仕事じゃないしな……」

ぽつりとつぶやいたシルバーフェイスはしゃがみ込むと、腰から刃を抜いた。

その刃は——「魔力探知」を持っていないゴルジアですら思わず目を奪われるほどの存在感を放っていた。

シルバーフェイスが無造作に刃を振るうと翼が切り裂かれ、痛みに竜が絶叫をあげる。

『なっ!?』

竜の表皮はふつうの刃はもちろん、ブラストキャノンのような巨大兵器すら歯が立たない——とそう聞かされていたゴルジアが驚いていると、

「じゃあな」

シルバーフェイスは竜の背中から跳んだ。

傷によって滞空のバランスが崩れた竜はきりもみしながら墜ちていく。

『あ、ああああああ!』

ぐるんぐるん振り回されながら、ゴルジアは、竜とともに城壁内側に叩きつけられ滑り落ちていった。

『ゴルジアが落ちたぞ!』

『いや、竜が血を噴いて——だ、誰かが竜に乗ってる!』

『ていうかあの三角の飛んでるやつはなんなんだ……あんなの見えなかったよな?』

『あっ、竜から跳んで城壁に降りたぞ!』

城壁にまでモンスターがやってきたことで色めき立ったブラストキャノン周辺だったが、竜が血を噴いて地面に墜落すると歓声が上がった。

ゴルジアも同様に落ちたのだが、あの高さ——20メートルほどの高さから落ちたのだから無事では済まないだろう。

「ドリアーチ国王! 我らヴィレオセアン騎士が城壁の戦闘に参加することを許されよ! 動けぬ兵士を救うべきだ!」

リュックが意気込むと、ドゥインクラーの通訳を聞いたドリアーチが力強くうなずいた。

『よろしくお願いします。他の者も城壁の防衛戦です。ヤママネキが立ち上がったらブラストキャノンを撃ち込むので、射線を開けてください』

リュックを先頭に、守備兵と叛乱兵がいっしょになって城壁へと突貫する。

ふぅー……とドリアーチは息を吐いた。

『……さすがに冷や冷やしましたよ、シルバーフェイス』

落ちる竜から跳んで、城壁へと落下するヒカルはグラヴィティ・バランサーを起動してふわりと降り立った。

そこではモンスターに兵士たちが一方的に食われる、地獄絵図が広がっていた。

すぅ……と息を吸ったヒカルは、

『動け!!』

と、こちらの言葉で叫んだ。他に言葉をよく知らなかったということもある。

そのまま腰からリヴォルヴァーを引き抜くと、巨大トカゲのモンスターに向けて引き金を引いた。

『うわあっ!?』

『な、なんだこれ——魔法!?』

業火が放たれるとトカゲ数匹を炭化しながら城壁の外へと落ちていく。

途端に、向こうでも巨大な火柱が上がった。

『動け!!』

ヒカルがもう一度叫ぶと、ハッとしたように兵士が動き出した。

上がってきたモンスターを叩きつつ、上ってくるモンスターを落としていく。

ちゃんと動けるようになれば彼らはモンスターと戦う上では非常に有能なのだ。

よしよし——と思っていたヒカルの視界が暗くなる。

「もうお目覚めか」

ゆらりと、ヤママネキが立ち上がっていた。

そこへ——数発の砲弾が撃ち込まれ、ヤママネキの上体が吹っ飛んでいく。

振り返るとこちらに手を挙げているブラストキャノン部隊と、両腕をちぎれんばかりに振っているドゥインクラーがいた。

「うわー、めっちゃこっちにらんでるなあ」

腕組みをしているのはルーデンドだ。おそらく彼は、今回の叛乱がうまくいかなかった理由のひとつにヒカル——シルバーフェイスの暗躍があると気づいているのだろう。

事ここに至っては叛乱兵も守備兵も共闘せざるを得ないのだが、割り切れない思いがあるのは当然と言える。

「まあ、こっちだってここまでコウキマル側の準備が整ってるとは思わなかったけどさ……」

ヒカルも城壁を走りつつ「隠密」を発動、兵士の手が薄そうな隙を突いて上ってくるモンスターを斬り飛ばした。

太陽はどんどん上がっていき、視界がクリアになると、森の奥からうぞうぞとモンスターが大量にやってくるのが見える。

「……これ、心が折れたら負けだな……」

ヒカルは手を腰に当てる——そこにはリヴォルヴァーの弾丸がある。

すでにチャージ済み(・・・・・・・・・) の弾丸だ。

「最後は派手にぶっ放す」