軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防衛ラインの攻防

『火矢、一斉に撃ち込め!』

びゅんびゅんびゅんと風を切り、炎を灯した矢が飛んでいく。城壁の向こう側にいるヤママネキの巨体に何本も突き刺さるがダメージを与えた様子はない。

それでも、火矢には意味があった。

明るくなりつつあるとはいえ、十分な光量を確保できていない城壁の向こう側は、森林とヤママネキが同化して見える。だが火矢が刺さっていればヤママネキの場所が遠目にもわかるだろう。

『来た!』

長距離を飛来した砲弾がヤママネキの頭にヒットするや、吹き飛ばす。背後にヤママネキが倒れると「オオッ」という声が上がった。

『まだだ! まだまだ敵は多いぞ!』

『こっちのブラストキャノンはまだかよ!』

『準備は整った! ——局長!』

ザハドゥが養鶏場としていた場所には、ずらりとブラストキャノンが並んでいた。

そのすべてに砲弾が装填されている。

魔術触媒を取りに戻らせた部下は、ありったけの触媒と砲弾を運んできたのだ——元の作戦通りならば「宮殿を吹き飛ばす気か」と言いたくなる量だったが、ことここに至っては「グッジョブ」である。

(それでも、撃てるのは数回)

ルーデンドは冷静に計算している。

(遠距離砲の精度も考えると、どこまでこの防衛ラインをもたせられるか……)

彼がちらりと振り返ったのは、防衛戦線を指揮している——国王ドリアーチその人だ。

国王自らが先頭に立つなどというのはこの国の存続を考えれば論外も論外なのだが、そもそもルーデンドは国王を討とうとしていたのだ。今さら注意をするのもバカバカしい。

『ルーデンド、やってください』

『…………』

うなずいたルーデンドは、ブラストキャノン部隊に砲撃指令を下す。

並んだブラストキャノンが火を噴くと城壁を削り取っているヤママネキをのけぞらせ、数体を押し倒す。

『すげえ!』

『さすが我が国最高戦力のブラストキャノンだぜ!』

先ほどまで殺し合いをしていた宮殿守備兵と叛乱兵が喜び合っている。それを、複雑な表情で見守るルーデンド。

『今のうちに城壁へ上り、押し寄せるモンスターに攻撃を!』

ドリアーチの指示が下るや、応という声とともに兵士たちが走り出した。

城壁の内側には階段が取り付けられてあり、簡単に上がっていくことができる。城壁は5メートル以上の厚さがあり、その上に兵士が展開することも簡単だ。

『うげっ、マジかよ……』

『めちゃくちゃいるじゃないか!』

ブラストキャノンによって倒れたヤママネキはもがきながら立ち上がろうとしていたが、その周囲にはモンスターがひしめいていた。

巨大なイノシシ、腕が6本あるゴリラ、顔が2つの豹——様々な動物系モンスターだ。

『ひ、怯むな! 今が好機ぞ!』

『撃て撃て撃て!』

兵士たちは弓に矢をつがえてモンスターに向けて放った。「どれかを狙う」という感じではなくとにかく全力で撃ち込んでいく。

これだけひしめいていれば、どうせ当たるのだ。

『うわぁ!?』

『足下気をつけろ!』

押し寄せ、押しつぶされたモンスターが積み重なり、狼のようなモンスターがジャンプして城壁の端に飛び乗るところだった——そこを、兵士たちが必死で剣で押し戻す。

『無理だっ……こんなの! すべての矢を撃ち尽くしても全然足りないぞ!』

『そんなことはわかっている! 時間を稼げばいいのだ! 国民が船に乗る時間を——』

城壁戦で指揮を執っていたのは年かさの兵士だ。その彼は、明るくなりつつある空を見て絶句する。

『あ、あ、あ……』

空には巨大な影があった。

翼を広げ、悠々と飛んでいるのはドリームメイカーのような大陸南部ではけして見ることのなかったモンスターだ。

『竜だ』

ただ1体だけではあったが、大きい。黒々とした体表には光沢があり広げた翼は赤色だった。

竜が口を開くや、ほとばしる咆吼は兵士たちの耳に突き刺さる。甲高く、太い。今まで耳にしたことのないとてつもなくおぞましい絶叫は兵士たちの意気をくじき、中にはへたり込む者までいた。

『う、撃て……撃てっ……』

指揮官が命令するが、弓を引き、矢を放つほどの力が残っている兵士はいなかった。それほどに竜の存在は圧倒的で——兵士たちは見た瞬間、こう思ってしまったのだ。

勝てない、と。

その竜は悠々と上空を旋回すると、兵士たちのいるど真ん中、城壁の上に降り立った。どしんと城壁が揺れて数人の兵士が尻餅をつき、すでにへたり込んでいる兵士は泣き叫んだ。

ほこりが収まっていく——ところへ、上から声が降ってくる。

『もうちょっと反抗するかと思ってたけど、腰抜けばっかりかよ』

『!? お前は——』

黒の竜には男がまたがっていた。

『ゴルジアではないか!?』

街の外縁で城壁の戦いを見守っていた国王ドリアーチやドゥインクラー、ルーデンドらも竜の襲来に気がついた。

『あれはなんだ!』

『王様! 避難をお願いします! 空を飛んでくるとなればここも危険です!』

大勢の兵士が押し寄せて、ドリアーチを下がらせようとする。しかしドリアーチは腕組みをしたまま一歩も動かない。

『私には最後まで見届ける義務があります』

『王様。お聞き分けください。あなた様あってのドリームメイカーなのです……』

懇願するドゥインクラーにもドリアーチは首を横に振る。

『国民がいてこその国王。最後の兵士が撤退するのと同時に、私も引きます』

『王様……』

『それにあの竜に乗っているのは、我が国民ですよ』

えっ、という顔で全員が城壁の上を見やった。

まさか竜を飼い慣らした者がいるのか? 味方なのか? という淡い期待を兵士たちは持ったが、ドリアーチの表情は厳しかった。

『ゴルジア! まさか戦力として竜を確保してくれたのか!?』

指揮官が問うと、

『……くっくく。あはははは……はははははははははは!!』

喉をそらしてゴルジアは笑い出した。

『なにがおかしい!?』

『はははははははは!! おかしいに決まってるだろ。なに——戦力だって? 竜が? ドリームメイカーの味方だって? 笑える冗談だ! 有史以来、モンスターが人間の味方だったことがあったか!?』

『し、しかしお前は現にそうして竜に乗っている——』

『そうだ。俺が 人間の敵(・・・・) だからな』

ゴルジアの言葉に、指揮官が返答することはなかった。ぐるんと身体を回転させた竜の尻尾が指揮官を真横からとらえると、へし折るように吹き飛ばしたからだ——城壁の外へと。

巻き込まれて4、5人の兵士もまた空中に放り出される。

叫び声が聞こえてくる。

彼らが落ちていった先は、モンスターのひしめくこの世の地獄だ。当然、その後に起きる運命は決まっている。

『ああ、なんてことを……』

ドリアーチが嘆息する。突如として起きたこと——ゴルジアらしき人物の裏切り行為に、周囲の人々は絶句している。

『……ブラストキャノンを撃ち込みましょう、王様』

『ドゥインクラー、それは』

『兵士たちを巻き添えにしますが、やむを得ません。油断して城壁に停まっている今がチャンスです』

『…………』

『ルーデンドッ!』

決断しきれない国王を差し置いて、ドゥインクラーはルーデンドに声を掛けた。明らかな越権であり到底許されざる罪ではあるが、この戦いが終わればどんな罰を受けてもいいとドゥインクラーは思っていた。

ルーデンドもまたドゥインクラーの覚悟を悟ったのだろう。厳しい顔でうなずいて、ブラストキャノンの砲撃準備を命令する。

だが、

『ああっ……』

失望の声が誰かから漏れた。

ひるるるる……と砲弾が飛来したのだ——それはあまりにタイミングが悪かった。いくら竜が大きい的だと言っても単発の砲撃で運良く当たるわけもない。城壁を越えて、向こう側で炎が上がった。

このせいでゴルジアはブラストキャノンを思い出した。

竜を操り、その場に飛び上がる。

『……こちらに気づいたか』

『局長、どうします。高度が下がってくれば狙うこともできますが』

『止めろ、当たらないだろうし砲弾は限られている』

「私たちが囮になって竜を引き寄せるのはどうだ」

それまで戦いを見守っていたリュック=ランドンが声を上げた。

ドゥインクラーたちの言葉は理解できなかったが、彼らのやろうとしていることはすぐにわかった。視力の良いリュックには竜に乗っているのが誰なのか見えていた。

「彼とは、ヴィレオセアンにいたときからの付き合いです。私なら彼を引きつけることができるでしょう。そのタイミングで一斉に矢を撃ち込んでください。竜に歯が立たなくともゴルジアを落とすことはできる」

リュックの言った内容を、ドゥインクラーが翻訳して伝える。

ドゥインクラーにはなかなかよいアイディアだと思われた。と言うより他に採れる方法がない。

『いかがでしょう、王様。お願いしてみるのもいいかと——』

『却下します』

『……王様』

『共闘であればまだしも、囮のような真似を他国からの客人にはさせられない。これは我が国の戦い。そうでしょう』

『ならばどうするというのです!』

ルーデンドが興奮して口を挟んできた。

『使えるものはなんでも使わなければならない、今はそういうときです! それができないから、あなたは国王失格だというのだ!』

『ルーデンド、貴様!!』

敬愛する王を侮辱されたドゥインクラーがいきり立つが、ドリアーチは落ち着き払っていた。

その目は、上空をゆったりと旋回するゴルジアに向けられている。

『王様……?』

異様だ、とドゥインクラーは思った。

いくらドリアーチが平和主義者だと言ってもこの窮地はとっくに理解しているはずだ。

落ち着きすぎている。

『 そろそろ(・・・・) でしょうね』

『……そろそろ? なにがですか?』

彼らは気づかなかった。城壁まで続く草原を、滑るように進んでいく三角形の影があったことを。