作品タイトル不明
叛乱軍と正規軍
戦闘が始まったという情報は、1時間ほど経ってからドランの元に届いた。
妻子とともに眠っていた彼はやってきた兵士の声に驚いて飛び出しながら、靴だけはきちんと履いたものの着衣は寝間着のまま走り出した。
向かう先は大河に浮かぶ軍船だ。
全力疾走してきたにもかかわらず、息ひとつ切らしていない彼は甲板に上がるとすぐさまマストにとりついて、その先端まで一気に登っていく。
ここには巨大な鏡があるが、こう暗くてはあまり意味がない。代わりに光を放つ魔道具に点灯し、黒の布を広げた。光を隠したり出したりすることで遠方に報せる方法である。
『気づけ……気づいてくれ』
中継地点のズズンは寝ているだろうが、代わりに見張りの者がいるはずだ。
『いた!』
早い。ドランが光を発してから1分程度で反応があった。
それは星の瞬きのようでありながら、しかし意味のある明滅だ。
——通信を始める。通信を始める。通信を始める。
——通信を始める。連絡事項をどうぞ。
——非常事態発生。至急、軍を引き上げろ。
——了解。敵は誰か。
——叛乱軍である。
——了解。健闘を祈る。
ズズンはふだん無口だが、決まった内容を送り合う通信ならば意思の疎通に問題もない。
通信が終わると、ドランはマストを飛ぶように下りていく。そこへドランに情報を届けてくれた若い兵士がやってくる。
『もういいんですか』
『大丈夫、終わった。行こう、次の仕事だ』
ドランは、兵士が持ってきてくれたプロテクターを寝間着の上に装着し、武器を手にした。
『王様を守るぞ』
船にいる兵士は他にいない。彼らは、戦闘地帯となっている宮殿へ向けて走り出した。
ドリームメイカーの宮殿は死闘が繰り広げられていた。
『ブラストキャノン、2発目、撃てェッ!!』
魔術局長のルーデンドが号令を下すと大砲が火を噴く。砲弾は間違いなく宮殿正面に展開している兵士たちに突っ込んで行き、蹴散らしていく。
『なっ……!?』
だが新たな兵士がすぐにも補充され、大盾を構えている。その後ろからはクロスボウが放たれ叛乱軍の数名に突き刺さる。
『なんなんだアイツらは! ブラストキャノンだぞ、死が怖くないのか!』
『ルーデンド殿』
衛生環境局長が息を切らしてたどり着くと、忌々しげな顔でルーデンドは舌打ちした。
『そちらは終わったか』
『ええ、鐘楼は押さえました。——しかし、ブラストキャノンの使用は最終手段ではなかったのですか』
『ドゥインクラーが生きていた』
『は?』
『ヤツが血路を切り開いて宮殿に入っていったので、ブラストキャノンを撃ち込んだまで』
『それは——しかし、あのぅ……』
ここまできて私怨を持ち込んでいるルーデンドに衛生環境局長がなんと言っていいかわからないでいると、
『そんなことよりアイツらだ! ブラストキャノンを人に向かって撃ち込めば、ふつうは蜘蛛の子を散らすように逃げるものだ! なのにああして立ちふさがる!』
衛生環境局長は、宮殿正面にいる主力らしい兵士たちを見る。整然としているが——違和感がある。
『ルーデンド殿……なぜ彼らは血まみれなのですか』
『それは戦いで負傷したからだろう』
『負傷しているにしては士気が高いのでは?』
『なにが言いたいのだ!』
苛立ちを隠そうともせずにルーデンドが声を荒げる。
衛生環境局長は兵役で軍に所属していたことがあったが、ルーデンドは魔術研究をすることで兵役を免れていた。兵役を経験していないルーデンドは、過去に何度となく「兵役もやってない意気地なし」とバカにされたことがありそれがコンプレックスらしい。
だから「兵士のことをなにもわかっていない」というふうな言い回しは完全なる地雷ワードである。
『敵に、回復魔法使いがいるのだと推測されます』
『むっ』
『聞けば、喪失した腕を生やし、死んでいても生き返らせると聞きます』
『死者を生き返らせるだと!? そんなバカな話があるか!』
『そうでも考えなければ、彼らがああも平然と死地に身を投じられるとは思えません。ルーデンド殿はブラストキャノンの前に立てますか?』
『ぐぬぬぬ』
もちろん、死者を生き返らせることなど回復魔法ではできないのだが、彼らはそんなことは知らない。
『ならばどうするというのだ! 死者が生き返るのなら手の打ちようがないではないか!』
『魔力の限界があります。ですから、どんどん攻撃して消耗させましょう。回復魔法が使えなくなれば、一気に押し切れます』
衛生環境局長の言葉に、ふむ、とルーデンドは考えるようにする。
『その話、真実だろうな? 虚言であればタダでは済まないぞ』
『私とて今回の軍事行動に命が掛かっています。成功させなければなりません』
『……わかった、信じよう』
冷静さを取り戻したらしいルーデンドは、決断した。
次々に運び込まれてくる負傷者を、ポーラはどんどん治療していく。
(——不思議。全然疲れない……)
ドリームメイカーについてしばらくしてからというもの、毎日のように回復魔法を使い続けたポーラは、最初こそくたくたに疲れていたが徐々に楽になってくるのを感じていた。
【ソウルボード】ポーラ=ノーラ
年齢18 位階18
4
【魔力】
【魔力量】7
【魔力の理】1
【敏捷性】
【隠密】
【生命遮断】2
【魔力遮断】2
【知覚遮断】2
【精神力】
【信仰】
【聖】4
【回復魔法】8
【支援魔法】1
気がつけば「魔力量」が上がり、「魔力の理」のスキルに開眼していた。ヒカルの推測では「魔力の理」は魔法行使時の魔力消費に影響があり、消費量を下げられるものだ。
そしてポーラ自身、「隠密」もレベル2ながら使用できる。今は宮殿の広間で治療をしているが最悪の場合はひとりで逃げ出すこともできる。
「女神様、ここ、危険。逃げる」
「ガリクソンさん、お気持ちはうれしいですが、逃げたりはできません。シルバーフェイス様が今も戦っている以上、私が逃げることは絶対ダメなんです」
この街がドリアーチではない者の手によって掌握されてしまうと、ヒカルたちの帰る船を確保できない可能性が出てくる。
その話を聞いていたポーラもラヴィアも、叛乱軍が現れたら「徹底的に叩きつぶす」方向で決心している。
「では休憩してください! 休憩なし、大変過ぎる!」
「それが不思議と休憩なしでも身体は大丈夫なんです。ケガをした人をどんどん連れてきてください」
この場でポーラと意思疎通できる——共通の言語を話せる人間は、ドゥインクラーとガリクソンのふたりしかいなかった。ドゥインクラーは王様のそばで全体指揮を執っているのでガリクソンが、もどかしいながらも通訳としても動いている。
回復魔法使いがドゥインクラーとともにやってきた——という情報が入ったときの、兵士たちの興奮振りはすごかった。
——オオオオオッ! これで何度でも戦える!
——じり貧じゃねえぞ! 同じ忠義のために死ぬでも、何人何十人も道連れにできる!
——ありがてぇありがてぇ、これならブラストキャノンだって身体で止めてやらあ!
ドゥインクラーとともに突入したポーラだったが、叛乱軍の背後を突いたときには敵も混乱したせいで無事に宮殿にまで着くことができた。
だが、その直後に使用されたブラストキャノンは——そう離れていない場所に着弾したこともあって肝が冷えるような思いをした。
だというのに兵士たちは、ポーラの到着を知るや嬉々としてブラストキャノンの前に立ちはだかると言うのだ。
それほどまでに、ポーラの回復魔法活動は兵士たちの間に知れ渡っており、すでにケガのために軍属を解かれている者は「花仮面の女神親衛隊」に入ってはいたものの、現役の兵士たちも「親衛隊」に魅力を感じているのは事実だった。
もちろん「即死はダメですよぉ!?」と言ったが、通じているのかどうか怪しいところではある。
「もっともっと連れてきてください。私が、全員治します!」
ポーラは心強さを感じさせる口調でガリクソンに言った。