軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たな移動手段

「魔力探知」での大蛇の反応は徐々に徐々に弱っていく。魔力の反応とはヒカルの脳に直接情報として流れ込んでくるものの、正確な形を知ることはできない。簡単に言えば魔力を帯びた物体や生き物の「形に沿って」感じ取れるものだが、魔力の多寡によって大きさが変わる。

たとえば小さな石ころに巨大な魔力が宿っていたら大岩のようにも見えるし、巨人に少量の魔力しかなければ小人のように見える。

動いていたときこそ大蛇にも魔力反応はあったが、今はじっとしておりその反応はどんどん小さくなっていく。

ここでまたヒカルが胴体を踏みでもしようものなら動き出すだろうが、その反応はさほど早くない。巨体が地面に落下するくらいの時間は必要なのだ。

(よし……行くぞ!)

ヒカルは脇差しを 逆手に(・・・) 握りしめた。切っ先を大蛇の頭に向け、担ぐように――槍投げの選手のように持つ。

ビュウッ。

と風を切る音が鳴る。大蛇は――瞳を閉じた大蛇の眉間に切っ先から吸い込まれていく。なんの障害も感じないように。

鍔の部分で勢いが止まると蛇の頭がぷらーんと空中で揺れた。

さすがは「投擲」10(MAX)に「狙撃」3(MAX)……といったところだろうか。

「……? やったのか? ……って」

ずる、ずるずるずる――と頭が落下してくる。「生命探知」に切り替えたヒカルは大蛇が絶命していることを知り、次の行動に移る。

死んだ生き物だ。みっちりと要塞内部に詰まっていた肉に力がなくなり、ずるりと落ちてくる。そこから光が差し込んできて中の様子がよく分かる。

ヒカルは自分の真上にも蛇の胴体が降ってくるのを確認し、横に走りながら隙間を探す。壁から離れている場所、ヒカルの身体くらいは通れそうな場所を見つけて跳躍した。

「う、わ――」

めちゃくちゃ高くジャンプできる。ただ、そのぶん筋肉がとんでもない悲鳴を上げる。ヒカルは大蛇の身体をすり抜けて壁面に取り付いた。

ずずぅんと地響きを立てながら大蛇は落ちた。竜石もその崩落に巻き込まれ、バキッ、と半分に割れて発光する石が顕わになる。

大蛇がフタのように落ちてきたらわずかな隙間を狙ってジャンプする必要があったので「瞬発力」に振ったが、これならばソウルボードをいじる必要はなかったようだ。

とはいえ、大蛇を仕留めたおかげで「魂の位階」は1つあがったようだが。

「っつう……」

砂塵が舞い上がっているが、痛みがぶり返してきたヒカルはもう一度下に降りた。蛇の死体は気味が悪かったが足場はその上にしかない。

急いでリヴォルヴァーに「回復魔法」を装填し、患部に向けて撃った。親指だけでなく急激なジャンプによって断裂した筋繊維も回復した。

「要塞」の屋上――今は屋上のスペースがない、ただの外壁がそびえているだけだが、そこに立ったヒカルは周囲を見回した。

まだ、竜石には手を出しておらず大蛇の死体もそのままだ。

「あっちか」

復活した左手でちゃんと地図を握りしめ、コンパスで方角を確認する。今回はしばらく街を空けることになっていたので、「 業火の恩恵(フレイムゴスペル) 」5発、「 爆火光線(フレイムレーザー) 」2発、「回復魔法」3発という構成にしておいてよかった。いきなり大怪我を負うとは。

ここからは見えないが、次のルーツの方角を確認する。その途中に、急峻な山がそびえており、ルーツそのもは見ることができない。山まではここからは7、8キロといったところだろうか。

「 ちょうどいい(・・・・・・) 」

ヒカルは背負ったリュックから、新たな装備品を取り出した。立てる場所は1メートルの幅もないので若干危ういが、荷物を広げるくらいなら問題ない。

骨と、丈夫な布によってできた「やじり」のような形をしたもの――これがヒカルの今回の新装備だ。ドリームメイカーで、ドゥインクラーに頼み大急ぎで造らせた。

ハンググライダーである。

もちろん、日本で経験したことがあるとかそういうことはまったくない。最初の「塔」のように高層の建物に竜石があるのなら、ハンググライダーを使って移動できるのではないか――という思いつきである。もしもうまくいかないなら捨てていけばいいだろうというくらいの気持ちだった。

「軽量で、強度は……うん、大丈夫そうだな」

一応、出掛けに庭園邸宅の屋根の上から飛んでみたりしたがヒカルの体重を十分支えることができた。夜間に「隠密」を使っていたので誰かに見られたということもないだろう。

ほとんどぶっつけ本番ではあるが、ヒカルとしては失敗しても構わないという程度の気持ちである。グラヴィティ・バランサーがあるというのはほんとうに大きい。

「うーん……ポイント手に入れたばっかりだけど、しょうがないか」

ヒカルはソウルボードを操り「バランス」に1ポイントを振った。

【ソウルボード】ヒカル

年齢16 位階50

0

【生命力】

【魔力】

【魔力量】1

【筋力】

【筋力量】3

【武装習熟】

【投擲】10(MAX)

【天射】0

【敏捷性】

【瞬発力】8

【バランス】1

【隠密】

【生命遮断】5(MAX)

【魔力遮断】5(MAX)

【知覚遮断】5(MAX)

【暗殺】3(MAX)

【狙撃】3(MAX)

【集団遮断】5(MAX)

【直感】

【直感】2

【探知】

【生命探知】1

【魔力探知】3

【探知拡張】3(MAX)

どうにもこうにも「敏捷性」に偏ったソウルボードである。自分で自分のソウルボードに苦笑したヒカルだったが、

「よし、それじゃ行こう」

リヴォルヴァーに「 業火の恩恵(フレイムゴスペル) 」を装填すると、背後に向かってぶっ放し、すぐにもホルダーに戻す。

「行くぞッ!」

ハンググライダーに身体をあずけるようにして壁の縁を蹴った。すすーと身体が滑るように動き出したとき――。

「!」

背後で大爆発が起きた。

火魔法が竜石に誘爆し、要塞はまるで煙突のようになり炎が吹き上がる。それによって起きた風圧がヒカルを前に押し、しかし乱れた気流によってぐるんと身体は回転する。

「これは、予想、以上……!」

爆発は想定していたし吹き上がる上昇気流に巻き込まれることもありうるとは思っていたが、ヒカルが考えていたよりもずっと爆発の規模が大きい。ルーツの成長が進んでいたからだろうか?

ハンググライダーは回転しているものの「バランス」1が仕事をしているのか、ヒカルは自分が今どうなっているのか把握ができる。

腕を使ってハンググライダーの骨組みを引っ張り、体勢を立て直すと、気づけば「要塞」から相当な距離を稼いでいた。

方角は、若干ズレていたがそれは飛びながら修正できる。

「よしよし。これは思っていた以上に快適だな」

眼下には森林が広がっているのだが「隠密」を発動しているヒカルに気がつく動物はいない。

降下場所がなければ手を離し、グラヴィティ・バランサーを使いながら着地することを想定していた。1回こっきりの使い切りかもと考えていたこのハンググライダーだったが、予想以上に飛ぶことができる。突起物のようにそびえ立つ山の付近には草原があり、ヒカルはそこに降り立った。

次のルーツに至る途中にそびえていた山が、もう目の前である。

「これは……めっけものかもしれない」

もはや「要塞」ははるか後方だ。たった、10分そこそこの飛行で。

このハンググライダーは大事に使おうと心に決めた。

* *

ドリームメイカーは閉じた街だ。土地は限られ、すべての道を歩きつくすのにも数日あれば事足りるだろう。だが、中には、表通りからはけして入れないような道がある。いくつかの家屋を通り抜けていった先に、ひっそりと営業している料亭が数軒あり、それらは関係者以外には極秘とされていた。

そのうちの1軒は庭園邸宅の土地を一部利用しており、窓から外に広がる鬱蒼とした森はドリームメイカーの中ではほとんど見られぬ景観だ。

集まった年寄りたちは難しい顔で――いや、あるいはふだんどおりの顔なのかもしれない。常に難しい顔をし続けるとそれが普段の顔として固定化してしまうものだから。

『ふむ……。グルゥセルは旅立ったか』

『王様に心酔している者を中心に連れて行くと言っておったな。人選は問題なかったのかえ』

『問題はないようじゃ。確かに、グルゥセルのヤツは我々の意を汲んで行動しておる。たとえ我らを 謀(たばか) ろうと考えておったとしても、街を出てしまえばどうにもならぬ。我らの計画を阻害する要因にはならんじゃろう』

『では好機ということか』

『……しかしなあ、あまりに急に過ぎないか。グルゥセルが我らのもとについたのは5年ほど前からだとしても、プリミーヴァルからの連中が来て、王様は快癒し、今度はルーツの破壊などという絵空事を言い出した。これほど急速に事態が展開しているときにことを起こすのはあまりうまく行かぬ気がする』

『臆したか? むしろ今こそ好機であろう。ここで王政を廃し、有力氏族から持ち回りで代表を立てる。王様は、やはりプリミーヴァルの連中には治せなかったと言えばみなも納得しやすい』

『それは無理があるじゃろ』

『いやいや、一理あると思いますぞ。腹を割いて治すなんていう荒療治、聞いたこともありませぬ』

『しかしあの 仮面(・・) は重傷者を次々治癒していると言うではないか』

『病気は治せないそうですな』

『然り』

『ふむ……あのままドリアーチ様が身罷ってくださればそれが一番簡単であったのだが』

『まあ、まあ、まずは決を取ろうか。ここにいる5氏族……グルゥセルは意思決定をこの長老会に預けると言っていたので、我ら5氏族で決めようではないか。ことを起こすか、否か』

『私は反対だ』

『わしは賛成』

『私も賛成』

『ふーむ……棄権、とさせてもらおう』

『では2対1となるな』

『議長はどうなんじゃ』

『わしか? うむ、棄権じゃな』

『棄権ということは、国家代表の座が回ってくるのはいちばん最後となるがよろしいな?』

『なにっ。それとこれとは話が違う。最後はグルゥセルのところじゃ』

『それこそなにをおっしゃる。グルゥセルはすでに行動を起こしているではないか。そなたらは棄権という道を選んだ。これは反対よりも消極的と言えよう』

『然り』

『ぐぬ……。わかった、わかった。賛成する』

『……私は棄権のままでよい。今回はじっとしておく。先に出るぞ』

ひとりが部屋を出ていった。

『臆したようだ』

『あれでグルゥセルをのぞけば最年少じゃからの。年の割に慎重と言えば聞こえがいいが、単に決断せずにここまで生きてきただけに過ぎん』

『では行動を起こすことにしようぞ』

『然り。ついにあの憎きドゥインクラーのケツを蹴飛ばせると思うと年甲斐もなく胸が高鳴る』

『私怨で動くではない。あくまでもこの国を維持するために我々はやむなく立ち上がるのである』

『そのとおりじゃ。決行日についてじゃが――』

室内では話し合いが続いていった。