作品タイトル不明
「塔」への接近
まだまだ日は高く正午にもなっていない時間帯だ。「塔」の周囲は森林を切り取られたようにぽっかりと空き地になっており、あますところなく陽の光が均等に降り注いでいた。
ストーンゴーレムは岩石によって構成されている魔導生物である。
魔力を多分に含んだ精霊魔法石や霊石といった燃料体がエネルギー源となって動いていて、術者の命令にのみ従う。命令が解除される、あるいは燃料体が尽きるまでは、何年何十年とその動きを止めない。
『・・・――――・・・』
『――・・・――・・・』
『――――・・・・・・』
人間の顔を模した頭部には眼窩があり、赤い光が明滅している。だがなにもないときにはほんのうっすらとした光を点しているに過ぎない。
3体のストーンゴーレムは森に数メートル踏み込んだところで立ち止まり、周囲を探るように見回した。首の可動部などは人間のそれとはまったく違い、ぐるんぐるんと簡単に1周2周する。
だがそれもしばらくすると止み、ゴーレムたちは一斉にもとの場所へと戻っていく。
「…………」
遠目で観察していたのはヒカルだ。念のため、相当の距離を置いて、なおかつ「隠密」全開で木の陰からこっそりと見ていた。
(動作は人間のように見えるけど人間と同じだと考えてはいけないな)
ストーンゴーレムが定位置に戻ったところで、ヒカルは観察を続けた。
今は明るい日中であり「隠密」がいちばん効きづらい時間帯ではあるから、慎重に慎重に行くしかないだろう。
だがストーンゴーレムたちは待てど暮らせどその場に止まったまま動かない。石像のようですらある。
体表には苔や草が生えているのでますます石像だ。
なので。
小石を拾って投げてみた。
「…………」
石が飛んでいくがゴーレムは反応しない。着地して転がっていく――と。
最寄りの1体が首をそちらに向けた――が、自分の足元で石が止まったのを見るとそれ以上動かなかった。
最終的にはその1体を中心に4体が小石に反応したようだった。
しばらくすると小鳥が3羽ほど連れ立って空き地へと飛んできた。
「おっ」
ゴーレムたちが一斉に顔を上げた。鳥が飛んでいる高さはそこそこ高く、5メートルほどだ。
だが、じーっと顔をそちらに向けているだけで小鳥になにかするではない。結局、小鳥の飛来ルートの周囲にあったゴーレムたちは小鳥を見送るだけだった。
森を歩いて魔力反応のある花――つまるところ 汚染(・・) されている花を見つけた。それを石に巻きつけてゴーレムへと放った。
「!!」
反応は著しかった。
石が地面に着くよりも先に周囲のゴーレム3体が動いて、花へと殺到すると、ぐしゃぐしゃに踏み潰したのだ。
その後、
『……アイツらこっち見てるよ!?』
「やばっ」
こちらへと顔を向けたストーンゴーレムが突っ込んでくる。
ヒカルはコウを連れて走り出す。
『ヒカル! 今の実験意味あったの!?』
「あったよ」
ヒカルは笑った。
「これで『塔』にはたどりつける」
『・・・――――・・・』
ストーンゴーレムは定位置に着いていた。その位置すら決まっているようで、「塔」に最も近い数体のゴーレムは、足が草に覆われている。長いこと動いてもいないのだろう。
だがそのゴーレムたちも活動を停止しているわけではない。
体内の魔力反応は相変わらず高いのだ。
(でも、ま)
ヒカルは 壁に手をついた(・・・・・・・) 。
(察知されなければどうということもないんだけどな)
「塔」の壁は白くかすかに凹凸があった。手を触れるとひんやりする。
ヒカルはすでに「塔」にたどり着いていた。
どうやってきたのか、と言えば――それはあまりにも単純で、「隠密」をフル稼働して 真っすぐ歩いた(・・・・・・・) のだ。
『ふぅ……オイラどうなることかと思ったよ』
「別に問題なかったろ?」
『それはそうだけど、なんで? アイツら目ぇついてないの?』
「見ての通りついてない」
ストーンゴーレムの探知能力は非常に高い。ソウルボードがあるとするなら「生命探知」「魔力探知」があるだろうことはもちろんのこと、音を聞くこともできる。
でも、それだけだ。
人間とは違い、目もなければ鼻もない。
日中にヒカルの「隠密」が効きづらいのは、人間の察知能力の大部分を占める「視覚」が十分に通用するからだ。ストーンゴーレムに視覚がないのなら彼らは常に真夜中にいるのようなもの。真夜中の人間相手ならヒカルは「隠密」で正面突破もたやすいのである。
コウモリや 音波探知機(ソナー) のようにゴーレムがなんらかの波を発してその反響から情報を得ているのなら困ったが、そういった機能がないのは、小石が飛来しても無視していて着地と同時に(音が鳴ると同時に)動いたことからも明らかだ。
(さて、と……問題はこの中にどうやって入るか、だよな)
棒立ちしている 門番(ゴーレム) を放置してヒカルは塔を調べるべく外周を歩いていく。
歩いた結果わかったのが、
「入り口がない!」
ということだ。
(なんだこれ……「塔」を建築したあとで入り口を全部塗りつぶしたってことか? なんのために?「魔力探知」からするといまだにとんでもない魔力反応が中にあるんだよな……さっき飛んでいった竜が魔力の持ち主じゃなかった)
そこまで考えて、
(! ……そうか、こいつもゴーレムと 同じ(・・) か)
人間のように見えるが人間と同じに考えてはならない。
ストーンゴーレムについてヒカルが考えたことである。
(人間の目線からするとこいつは「塔」だ。だけど邪悪な連中は人間の常識外にいる。そうなるとこれは「塔」じゃない――)
答えが見えてきた。
「これは『 ルーツ(根) 』だ……」
ディーナが言っていた、強力なモンスターが発生するというポイントである。
500年前、ランズハーヴェストが滅んだのも街の位置がルーツに近かったからだという。
今まで見てきたルーツよりもはるかに強大な魔力反応。
「ん……? 他のルーツより魔力反応が大きいルーツ?」
ふと違和感を覚えたが、それよりも今はここをどうするかだ。
「塔」ではなくルーツなのだとしたらそれはそれで構わない。ワカマルの言っていた、 内通者(うらぎりもの) が光学迷彩の情報を漏らしたのでは――という疑いとは若干違う結論になりそうではあるが、それはともかく調査が先だ。
ナイフを取り出して白い壁面をゴリゴリ削ってみる。ぱらぱらと簡単に削れていく。
「この粉……なにかに似てるような気がするんだけど……」
『ヒカル、どうする? 中に入るんでしょ? 中に忌々しい竜の感じがあるんだけど?』
「ん、まだ竜がいるってことか?」
『ううん。生きてない』
「死んだ竜?」
『そうじゃない。あー、うん、なんていうかな〜〜』
うんうん唸り始めたのでほうっておくことにした。
ヒカルは握りこぶしで壁をコンコンと叩く。音からするに、壁の厚さはさほどない。
ならばさっさと壁を破壊することにしよう。
「こいつの出番だな」
ヒカルは常闇の神木でできた鞘に収まった、脇差しを抜いた。