軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

古老らしからぬ古老

ドリアーチはすぐにヒカルの要望を手配してくれ、翌朝からドリームメイカーの古老に会うことができた。

その人のもとへと案内してくれたのは誰あろうドゥインクラーだった。

「いいのか? 氏族の長ともなれば忙しいだろうに」

「王様の恩人、案内します。これ以上の用事はありません」

と言いながらも、でっぷりした彼らしからぬ やつれ方(・・・・) をしていた。話の端々から察するに昨晩は遅くまで飲んで、その後、彼が留守の間に滞っていた事務処理を行いほとんど眠っていないらしい。

(逆に言うと僕らはそれくらい重要人物として目されているってことだな)

六つ足のロバのようなアレが牽いている馬車に乗っていた。アレはこちらではポジドンキーと呼ばれている モンスター(・・・・・) らしい。

ヒカルにラヴィア、ポーラ、そしてコウはラヴィアの首に巻かれている。

ドゥインクラーは通訳を連れず、ヒカルと同じ馬車に乗っていた。この馬車はケイティが作っていた「巨馬車」ほど大きくはなかったが4人が乗ってもまったく問題ないほどの広さがあった。

「馬は希少です。だからこうして野生のポジドンキーを捕まえて使います」

牧畜ができるほどの土地はこの街にはなさそうだ。

「今日連れて行ってもらう古老。私の親族です」

「そうだったのか」

「他の氏族の長も案内役に立候補したが、私が選ばれたのはそれが理由」

ドゥインクラーだけでなく他の長も立候補していたことをヒカルは初めて知った。とはいえ誰が案内役になったとしてもオッサンかオバサンか痩せマッチョ(グルゥセル)しかいないので誰でも構わなかったりする。

「昨晩、シルバーフェイス様は王様となにを話しましたか?」

「ああ、やっぱり気になるんだな、そこ。ちなみにドゥインクラーはなにをおれたちが話していたと思う?」

「そうですねえ」

そのクイズを楽しむようにうんうんとうなずいたドゥインクラーは、

「――裏切り者についてではありませんか?」

ずばりと切り込んできた。

素で驚いたのでヒカルは目をしばたたかせた。その反応は仮面をしていても相手に伝わる。

「はっはっは。シルバーフェイス様は隠しごとが苦手な様子。それではすっかり相手に伝わってしまいます」

「いや、まさか一言で当てられるとはね……」

「はっはっは」

とドゥインクラーは笑っているがヒカルは、

(は?)

という感じだった。

横のラヴィアも、え、そうなの? という顔をしている。

(待て待て。「裏切り者」ってなんだよ。どうしてきな臭い話になった)

だが引き出せる情報は引き出しておいたほうがいい。ドゥインクラーは勝手に、ヒカルにとって都合のいい方向に勘違いしている。

「あらかじめ言っておくけど、国王はおれに具体的な名前を言ったわけではない」

「そうでしょう、そうでしょう。王様は聡明なので、後々問題になるようなことは言わない。ただ、よそから来たあなたの話を知りたかった。あと、ヤママネキを倒した技術についても知りたかった。違いますか」

「あの技術については教えられない」

「もちろんですとも。カードの強者は自らの手札を探らせないもの」

微妙に噛み合わない会話をしながらヒカルは頭をフル回転させる。

どうやらドゥインクラーはドリームメイカー内部に反乱分子――「裏切り者」がいると考えている。

(……そうか。ヤママネキは本来あんな場に来るモンスターではないんだ。だから守備隊もそこまで装備をそろえていなかった)

ヒカルは自分の推測を確認するために、

「ふだん、ヤママネキはどういうところに出現するんだ?」

「もっとずっと北方の山間です。ずっとずっと遠く。今回の接近は、 守護結界(バリア) の効力が意図的に弱められていたもの」

「バリア……?」

「シルバーフェイス様とはいえこれ以上は話せません。もちろん、技術の情報ですから同じ価値の情報があれば話すこともできましょうが」

ドゥインクラーはヒカルの 全能の筒(リヴォルヴァー) について聞きたいのだろうが、ヒカルとしては結界ごときのために自分の武器について話すわけもない。

「それは残念だ。軍艦に多くの火器を載せていたのに街に配備されていないのはおかしいと思っていたんだが……『裏切り者』さえいなければ問題なかったんだな」

ヒカルが情報を漏らす気がないとわかったドゥインクラーは一瞬せつなそうな顔をしたが、オッサンにそんな顔をされてもなんとも思わない。

「シルバーフェイス様のおっしゃるとおりです。裏切り者はなんとしてでも倒さねばなりません。すべては王様のために」

すべてはドリームメイカーのために、ではなく、王様と言ったあたりがドゥインクラーらしいとヒカルは思った。

(裏切り者……結界にアクセスできるような実力者となれば、当然氏族の長の誰かも一枚噛んでいそうなものだけど……)

だがドリアーチを治療した際、集まっていた氏族の長たちはみな一様に感激し、喜んでいた。

(……いや、そう見せていただけなんだろうな。僕と同じ「仮面」をかぶってるヤツがいる。でも、やってることが危険すぎないか? ヤママネキなんかが突っ込んできたら街は半壊じゃ済まないだろう。廃墟で天下を取ったところでなにが楽しい?)

妙な割り切れなさを感じながら、ヒカルは馬車に揺られていった。

古老が住んでいるという場所は、5階建て集合住宅の2階だった。四角い箱のような簡素な集合住宅ではあったが、エントランスを入ると黒と白を基調としたシックな装いとなっている――絶対古老が住んでいなさそうな場所だった。

「……こういうときに通されるのって、年季の入ったお屋敷とか大樹の上のツリーハウスとか洞窟の奥が定番なのかと思っていたのだけれど」

ラヴィアがぼやいていた。わかる、とヒカルも内心思っている。

階段を上がって2階の部屋に進むと、

「おー、よう来なさった。どうぞ入りんさい」

ヒカルたちにも理解できる言葉で、しかもフランクな感じの老人が出てきた。

着ているのは甚平っぽい服で、麻でできて軽そうだ。もともと銀髪が白髪になったところで変化はよくわからないが、長く伸ばした髪を丸めてお団子にしていた。

ひげが長く胸元まで垂れ下がっているあたりはやはり老人なのだろうが、しゃっきりとした動きからは古老には見えない。とはいえドリームメイカーの人たちは全般的に背が高く、この古老はひどく小柄に見える。

「おお、驚いたか? 健康の秘訣はこれ、『ブルーパパイヤ』を地中に埋めてじっくり発酵させたスペシャルジュースのおかげじゃ!」

コバエのたかっているツボが出てきたので丁重に戻していただいた。途端に古老らしくなってきたなとヒカルは思う。

「それで、ヴィレオセアンから来た客人とな」

「知っているんですか」

老人が相手となると自然と言葉が敬語になる。

「知っておるとも。ワシの爺さんがヴィレオセアンで生まれ育ち、こっちに入植してきたんじゃからな」

「えーー」

500年前だというのに、その頃生きていた人を知っている?

「爺さんは、マンノームという種族だった。ワシは爺さんの名前を継いでな、ワカマルという」

マンノーム。それは人間の3倍ほどの寿命があるために200歳を超えることもふつうにある。

となればこの老人の祖父が500年前に生きていたというのはそうおかしなことではない。

(……そう言えば、同じマンノームの皇帝カグライはやけに今回のことに執着していた。彼からすれば500年前は僕が感じるよりもずっと近い過去、ということか)

ヒカルたちは勧められて部屋の一室に腰を下ろす。大木の幹をスライスして切り出された天板の木目が美しいテーブルである。

「おれはシルバーフェイス。こっちはスターフェイスにフラワーフェイスだ」

「ほっほ。それは面白い通り名じゃな。――そっちの生き物は?」

「…………」

襟巻きに扮していたコウがバレるとは思っていなかったが、バレてしまった以上は隠しても仕方ない。

「コウと言います」

名前を呼ばれたコウが、『動いていいの?』とばかりに顔を上げたのでドゥインクラーや護衛がぎょっとする。

「そうか、コウと言うのか。これは竜の仔かい?」

「龍ですね。児白龍というらしい」

「龍とな……」

ワカマルはまぶしそうな目でコウを見つめた。しばらくしてからうんうんとうなずいてから、

「さて、昔話が知りたいのじゃな。ちょっとは 龍の話(・・・) も出てくるぞ」

ドリームメイカーの生き字引たる古老は話しだした。