軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

軍艦の沈黙

4隻の軍艦のうち、司令官が乗船しない別のものにドゥインクラーは乗っていた。先ほど、正体不明の攻撃を司令官船が受けていると連絡があり、ブリッジにやってきたドゥインクラーはそれから起きることに目を疑うばかりだった。

まず、たった1発の攻撃——おそらく砲弾を撃ち込まれたのだとドゥインクラーは考えた——に対して、兵士たちがあわてすぎだ。甲板に炎が現れるや、どうも司令官であるグルゥセル自ら事に当たろうとしている。明らかにおかしい。

ゴルジアに全部持って行かれたが、回復魔法使いを手に入れられたことはドゥインクラーにとっても僥倖だった。今なすべきは急いでドリームメイカーに戻り、王の治療に当たること——だからこそ急な撤退命令にも従った。

(いったいなにが起きている!?)

ドゥインクラーは船を近づけてさらに様子をうかがおうとした。だが、その直後に起きたのは朱色の光——まるで天から下された断罪の槍が、船に突き刺さったかのように見えた。

あの角度から見るに、船の動力体が貫かれているだろう。次に起きることはわかりきっている。

「救助艇を出せ! ありったけだ! 船が沈むぞッ!」

ドゥインクラーの指示に、部下たちが一斉に動き出す。

「なんとしても魔法使いだけは……魔法使いだけは救助せよ!!」

司令官船は火を噴き、沈んでいく。

いったいなにが起きたのだ——ドゥインクラーは呆然とその光景を眺めつつ、同じ言葉を再度つぶやいた。

「ぶはっ」

海上に浮かび上がったヒカルとポーラのすぐそばに、船があった。

「っく……」

「ヒカル様、大丈夫ですか!?」

なんとか船に上がったふたり——沈む軍艦の西方、ヒカルが乗ってきた小型船へと避難する。

「 爆火光線(フレイムレーザー) 」を利用した移動方法については最初に見たときから考えていた。だが「あまりにも危険」とラヴィアはいい顔をしなかった。こんなふうな、ポーラを救出しなければならないような窮地でなければ今後も使うことはないだろう。

単純に危険だし、なにより、リヴォルヴァーを握るヒカルへの負担が大きい。

狙いをキッチリ定めないと変な方向へ飛んでいってしまうし、あまりの反発力に骨へのダメージがすさまじい。

軍船に追いつくために小型船上で2発撃ち、司令官船からの脱出と、上空での方向転換で1発ずつ——合計4発撃ったヒカルの腕の骨にはあちこちヒビが入っていた。

ちなみにこの小型船には航行用の魔道具が積んであり、1キロメートルほどの距離ならば「魔力探知」で位置を確認できる。マントには「骨」が入れ込んであり、ウイングスーツの要領で小型船へと向かい、最後は「 重力均衡装置(グラヴィティ・バランサー) 」で速度を緩和、船のそばに着水——というコースだった。

「『天にまします我らが神よ、その御名において奇跡を起こしたまえ。右手がもたらすは命の恩恵、左手がもたらすは死の祝福』——」

ポーラの回復魔法が発動し、ヒカルの腕が治癒されていく。回復魔法ありきの脱出作戦ではあったが、超機動的な移動方法を入手できたのは大きかった。

(痛い……けど、使い道によってはいろんなことができるよな、これ)

むずがゆいような骨のつながっていく感覚にヒカルは顔をしかめる。

(毛布でも積んでおけばよかった。寒い。ソウルボードをうまく使って反動を軽減できたりしないかな)

ヒカルの前には回復魔法を使い終え、真剣な顔をしているポーラがいた。

「ヒカル様」

「——あ、はい」

「ヒカル様!」

「は、はい」

「ヒカル様!! もう、ダメです! こんな危険なことをしては!!」

「あ、あ〜……ごめん、怖い思いをさせて。でもふたりで脱出するいちばん確率の高い方法がこれだったんだよね」

「そうではありません」

ずぶ濡れのポーラの顔に、ぽろぽろと涙がこぼれていく。

「私のために、ヒカル様がこんな傷を負うことはないんです……私のためにヒカル様を危険な目に遭わせてしまうことが、イヤなんです……。でもそれより、なによりいちばんイヤなのは……私、です……。ヒカル様が危険を冒してまで助けに来てくださったことを喜んでる自分が……イヤなんです…………ごめんなさい……」

「…………」

ヒカルは泣いているポーラの後頭部を引き寄せると自分の胸に押し当てた。

「僕は、君を守ると言ったじゃないか」

「うううぅぅぅ……ヒカル様ぁ……」

しばらくポーラは泣いていたけれど、次に顔を上げたときにはスッキリした顔になっていた。

軍船は救助活動で忙しいらしくヒカルたちを追ってくることはなかった。無事、ヒカルとポーラが港に戻ると、しばらく後からリュック=ランドン率いる船も戻ってきたらしい。

その日のうちに宿を替えた翌日、ヒカルとポーラは風邪を引いた。

それから10日が過ぎた。ヴィル=ツェントラ沖は何事もなく平穏な日々が続いていたがデウ=ローク島は相変わらず占拠されている。

ドリームメイカーの目的がなにかハッキリした以上、対応方針はあっさりと決まった。

「デウ=ローク島の返還が絶対。その後、向こうとの協議によっては回復魔法使いを派遣することもあり得る」

と——パトリシア総首領は宣言した。前者はパトリシアの強い希望で、後者はグランドリーム大陸とは敵対せず交流を深めたほうがいいと考えたカグライの希望だ。

フォレスティア連合国のマルケドにとってはいまだ自国には関係ないもめ事ではあるので静観し、国内が落ち着かないポーンソニア王国のクジャストリアは戦争を望まなかった。

といったことはすべてヒカルが風邪を引いて寝込んでいる間に決まったようだ。回復魔法は病気の自己回復力を促進できるし腫瘍がある場合は患部を劇的に治すことができるものの、全身にウイルスが回ったような場合は一発完治と行かないところが玉に瑕だった。

「シルバーフェイスはどうするのかえ」

「…… おれ(・・) は、この町に残ろうかな」

グランドリーム大陸のことは気になっているし、他にやらなければならないことも特にない。ヴィレオセアンの観光だってなにもしていないような状況だ。

逆にカグライたちは本国を長く空けるわけには行かず、帰国の途に就くらしい。敵が攻めてくることも考え、クインブランドの友軍はヴィル=ツェントラに駐屯することになっている。

「わかった。ではここまで来てくれた報酬を渡すのである」

カグライが差し出したのはこぶし大の革袋だった。中に硬貨が10枚入っていた。

それを見た護衛の騎士がぎょっとした顔をする——「皇国記念白金貨」である。白金という希少鉱物を使っており、この白金貨自体が魔道具になっている。通しナンバー付きの偽造不可能という品で、価値は1枚10万ギラン——つまりヒカルの報酬は日本円で1,000万円ほどとなる。

「——食えないヤツだな、アンタは」

にやりとして見せたヒカルに、カグライもまたにやりとした。

「手持ちがあいにくなくての。この程度の 処理(・・) ならできるであろ?」

「まあな」

ヒカルはその革袋を無造作にポケットにしまった。

つまるところこの白金貨は、カグライによって追跡可能なものなのである。シルバーフェイスとして使うぶんには問題ないが、ヒカルの名前がわかるところで使うと、カグライはシルバーフェイス=ヒカルとわかるのである。

見え見えのトラップではあったが「うまくやれるよね?」とばかりに言われれば「ハッ、当然」と応えてしまうのがヒカルの悪い癖ではあった。

「余の連絡係としてひとり残しておくゆえ、なにかあったら彼女に連絡するように」

ヒカルを遊ばせておくつもりはないようだ。カグライが鈴を鳴らすと、廊下からひとりの少女が入ってきた。

「お呼びでしょうか、陛下——ってシルシルさぁん!?」

「その略称は止めろと言ったはずだ。蹴るぞ」

「痛い!? 蹴りながら言わないでくださぁい!」

クインブランド皇国の諜報員にして、今は亡きウンケンの教え子でもあるアリス=サンボーンだった。

「ふたりは知り合いのようであるからな、好都合であろ」

そう言い残し、カグライもまたクインブランドへと帰っていった。

マルケドもクジャストリアもシルバーフェイスと話したがっていたようだったと後になってヒカルは聞いたが、話しても取り立てていいこともなかろうと勝手に決めて心の隅に追いやっておいた。

ヴィル=ツェントラに平穏が戻った——と思われたある日、ヴィル=ツェントラ沖に船が現れた。

それはたった1隻の小型船だ。

乗っていたのはやはり、ゴルジア。いくぶんげっそりした彼が、改めて「交渉したい」とパトリシアに申し入れた。