軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヴィレオセアンのデニス司祭

カーテンから出てきたのはこれまでの会議にも同席していた教会の代表者だった。

灰色のローブを着ており、白髪交じりの金髪には小さな帽子を載せている。年の頃は60前後だろうか、身体は衰えが始まっていたが目は油断なくヒカルを見据えている。

教会の代表者だからと、ヒカルは特に注意を払っていなかった。ここで初めて興味がそそられ、彼が5メートルの範囲に近づいたところでソウルボードを確認する。

【ソウルボード】デニス=ルグリム

年齢64 位階3

18

【生命力】

【スタミナ】2

【免疫】

【魔法耐性】2

【知覚鋭敏】

【視覚】1

【天眼】1

【魔力】

【魔力量】8

【精神力】

【心の強さ】6

【信仰】

【聖】7

【回復魔法】4

【支援魔法】3

【直感】

【直感】5

【知性】

【言語理解】1

【言語出力】1

高い「魔力量」「聖」「直感」、それに「天眼」という謎のスキル。

「天眼」をのぞけば、他の項目は信仰の道を進み続けて得た力だろう。「東方四星」のシュフィもずば抜けて優れた 回復魔法使い(ヒーラー) ではあったがデニスはシュフィ以上だ。

(「天眼」の前提の「視覚」が1というのはちょっと低いな)

おそらく「天剣」や「天射」と同じ、「天」に連なるスキルだ。

「天射」の派生が「投擲」5からだったことを考えると、「視覚」の最大値はおそらく5程度。それでも1で「天眼」が派生しているのは不思議だ。

(……他の項目との複合で現れる項目なのか?)

高さで目を惹くのは「心の強さ」6と「聖」7だ。

詳細は不明だが、いずれにせよ異質であることに変わりはない。

彼の「見る目」をパトリシアは信用しているのだろう。

「どうだい、デニス。こいつは 白(・) か?」

「おれがなにをしたっていうんだ」

ヒカルはとぼけてみせたが、デニスはじっとヒカルを見ているだけだった。

「まぁ、そこに余裕綽々で立っているがいい。それでデニス、どうなん——え」

するとデニスは、いきなりその場に跪いたのだ。

「ようやく、ようやくお姿を見ることができました。これまでその機会がなく、半信半疑でございました。今までの無礼をおゆるしください」

「え?」

これにはさすがのヒカルもあわてた。

「ちょ、ちょっとデニス!? お前、デニスになにした!?」

「いや、おれもわからない——」

「あなたほどの徳の高い方はおられません。天の御遣いでいらっしゃるでしょう?」

「あ……」

ヒカルは「それか」と気がついた。

デニスの言う「天の御遣い」は、ヒカルが今設定しているギルドカードの「職業」のことだ。今、ヒカルは【上級天ノ遣神:グレーターエンジェル】を設定している。これは「職業」を5つまで重複して設定できるという規格外能力だから使っているだけで、ヒカルとしては 天使(・・) を気取るつもりはまったくないのだが。

「……アンタ、わかるのか?」

「神に仕える者として、当然でございます」

ますますデニスが頭を下げ、「どういうことなんだよ!?」とパトリシアが頭を抱える。

「パトリシア総首領。こちらの御方はゆえあって銀の仮面をおつけでいらっしゃいます。ですが私はこの御方の身元を保証します。この御方はけして間違いを犯しません」

いや、いやいやいや。間違うから。悪いことだって時と場合によってはするから。

教会が「天ノ遣」系「職業」持ちを探していることは知っていたが、まさかそれを察知し、さらにはここまで敬っているとはヒカルとしては予想外だった。

(「天眼」で見ることができるのか?)

確信はないが、それ以外に考えようがなかった。

疑り深い視線を向けたヒカルに、デニスが言う。

「なぜ、シルバーフェイス様を敬うのか、でしょうか? 当然でございます。それこそが我らが教会の定める『聖人様の残した言葉』だからでございます」

「ああ、前の教本のことか」

確か、旧来の教本は聖人たちの行動や言葉を記した、いわゆる「聖書」だった。それを現在の教皇が自分たちの都合のいいように改ざんした教本が教会には出回っていた。

「ご存じでしたか。ここ、ヴィレオセアンでは当然、長きに伝わる教本を使用しております」

「聖人たちはなぜ『天の遣い』を探せと言った?」

「理由はわかりません。しかしながら御遣い様こそがこの世に太平と安寧をもたらすと聖人様はお考えです」

「ちょっと! 私にわかるように説明しろ!」

べし、と執務机をパトリシアが叩いた。

それからデニスは相変わらずの穏やかな笑みを浮かべてパトリシアに事情を話す。シルバーフェイスが「天の遣い」関係の「職業」を持っていること——ヒカルは認めてはいないが——それに、その人物こそ教会が保護しなければならないこと。

「なんで教会は『天の遣い』とやらを重視するんだよ」

混乱がまだ残るパトリシアが、さっきのヒカルと同じ質問をしている。

「御遣い様こそがこの世に太平と安寧をもたらすからでございます」

さっきと同じ答えが返ってくる。

パトリシアが胡乱な目をヒカルに向けてきたが、ヒカルとしては肩をすくめるしかない。デニスが勝手に言っていることだ。

パトリシアがデニスに期待していたのはシルバーフェイスが「信用に足る」人物かどうかという点だ。その点で言えばヒカルは百点満点どころか二百点か三百点となる。

「デニスがあの会議の場にいたのはその『目』を役立てるためか?」

「シルバーフェイス様は私めの『目』がふつうでないことにお気づきですか。さすがは御遣い様」

「……声やにおいで判断しているふうはなかったからな、単なる推測さ。それで?」

「いえ、教会としての役割を果たすためです。これはパトリシア総首領からも依頼いただいたことですが、ヴィル=ツェントラ市民の避難誘導には神殿騎士が当たるからです」

パトリシアは避難も視野に入れていたようだ。

「しかしながらこうして御遣い様がいらっしゃった以上、我らの仕事はなさそうでございますね」

買いかぶりすぎだと、と思ったがそう言ってもデニスは納得しないだろう。

それからパトリシアからいくつか質問があった。どうしてカグライについているのか、とか、「隠密」のやり方とかそういったことだ。答えられることは答えたが、そのほとんどはパトリシアを満足させなかった。

「……なんなんだよ、お前は!」

「ま、敵じゃないとわかっただけでもめっけもんだろ」

そこへ部屋の扉がノックされ「敵軍から、使者の旗を掲げた小舟が一隻こちらに向かっている」という情報が入り、パトリシアはにわかに忙しくなる。

ヒカルは部屋から出て行くことにした。ここからはパトリシアたちの仕事だ。

(さて、それじゃこっちは情報収集だな)

ヒカルは執務室を出て廊下を進んでいく。同じく廊下に出たデニスがまだなにか言いたげにヒカルの背を見ていたが、ヒカルには今デニスとかわす言葉はない。

彼が何者なのかヒカルは思い出していた。

ビオス宗主国の首都、アギアポール。教皇の住まう「塔」で見つけた手帳——スコット=フェアーズが遺した手帳。

そこに書かれていたのがデニスの名前だった。

ヒカルはスコットの手帳をデニスへと送っていた。彼はそれを使って地方司祭を動かし、教皇をその座から退かせようとしている。

当然デニスもアギアポールにいるのかと思ったが、彼はヴィル=ツェントラにいた。

(ま、いちいち僕が名乗り出る必要もないな。恩着せがましいのは嫌いだ)

ヒカルは「隠密」を発動し、総首領の屋敷を後にした。