軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

スパイの尋問

国主たちの集まる会議に現れ、 白銀の貌(シルバーフェイス) によって捕らえられた滅びの大陸のスパイは尋問に掛けられていた。

銀髪は短く刈り込んでおり、肌の色は紫。筋肉がしっかりついているが手足が長いために痩せ型に見え、身長は190センチほどだ。

尋問は遅遅として進んでいなかった。

スパイの話す言葉を尋問官たちが理解できないからだ。

「どうする?」

「どうする、と言われても、言葉を話せないなら意味がないよな……」

「だが総首領も、隣国のお偉方も尋問の結果を待っているぞ」

尋問官たちが額を寄せ合って考えている。

テーブルに載せられてあるのはスパイが所持していたものだ。植物紙でできたメモ用紙や携帯用のペンなどはこちらの大陸にはないものだ。

特にペンは、インク壺とペンをそれぞれ用意するものではなく、1本で完結している鉛筆だ。彼らは物珍しそうにさらさらと植物紙に文字を書いている。

「ここに残されたメモも、向こうの言葉だろう?」

「おそらくな。暗号かもしれないが……いずれにせよわからん」

スパイがかぶっていた「透明の布」はない。すでに、ヴィレオセアンでもトップクラスの魔道具工房に送られ、検証が始まっていた。

(いやいや、たぶんアイツはこっちの大陸言語を理解できるぞ)

尋問官たちを「隠密」でこっそり眺めていたヒカルは小さくため息を吐いた。

ヒカルは、あのスパイが天窓から会議をのぞき込み、鉛筆とメモ用紙を取り出したのを見ている。会議を盗聴してメモを取る気だったのだ。

とはいえ、スパイがこちらの言語をわかるのだとしても、彼に話をする気がないのならあまり意味がない。

「拷問」も選択肢にはあったが、パトリシア総首領からは止められている。

このスパイは「交渉材料」なのだ——唯一、こちらが持っているカードなのだ。

傷つけると交渉カードとして使えなくなるかもしれない。

(じゃ、本人を見に行きますか)

ヒカルはひっそりと部屋を抜け出し、牢獄へと向かう。牢獄、とは言っても総首領の屋敷内にあるものだから、清潔で広々している。

鉄格子ががっちりはまっている、アパートのワンルームよりははるかに広い部屋にスパイはいた——両手両足に 枷(かせ) がつけられていたが。

うろうろ歩こうとしては鉄球がついた枷が足を引っ張り、スパイは舌打ちしている。

距離的にはぎりぎり5メートル。ヒカルはスパイのソウルボードを確認する。

【ソウルボード】ギギィ

年齢26 位階141

115

【生命力】

【自然回復力】3

【スタミナ】4

【免疫】

【魔法耐性】3

【疾病免疫】3

【毒素免疫】2

【知覚鋭敏】

【視覚】1

【聴覚】2

【嗅覚】1

【筋力】

【筋力量】5

【武装習熟】

【短槍】4

【投擲】1

【鎧】3

【敏捷性】

【瞬発力】2

【柔軟性】2

【バランス】3

【器用さ】

【器用さ】2

【精神力】

【心の強さ】3

(……典型的な 脳筋(・・) ソウルボードだな。でも、やたら「魂の位階」が高いぞ)

100オーバーはセリカ以来見ていなかったはずだ。

(それだけ滅びの大陸のモンスターが強いってことか……)

強いモンスターを何体も何体も倒し続けてきたからこそのソウルボードだろう。

(このギギィって人だけが突出して強いっていう可能性は低いよな……スパイひとりがこのレベルだと、こっちの大陸は相当苦戦するな)

ポーンソニアの騎士団は他国と比べると強いほうだ。そんな騎士隊隊長と同じか、それより強いくらいのギギィ。

このレベルが ごろごろ(・・・・) いるのなら、この戦争では犠牲が多く出るだろう。

(……ちょっと確認してみるか)

ヒカルは通路で「隠密」を解くが、ギギィは気づかずにソファに座って貧乏揺すりしている。

「……おい」

「***!?」

いきなりヒカルが現れたと思ったのだろう、素っ頓狂な声を上げるギギィ。

だが彼はヒカルの姿を見て、気がつく。

「**********!」

ヒカルが自分を捕らえた相手だと気がついたのだろう。あの一瞬、すぐに叩き落とされて気絶していたというのにあの一瞬でヒカルの姿——ローブに銀の仮面を確認したのはなかなかいい動きだ。

「静かにしろ。お前がこちらの言葉を理解できることはわかっている」

「…………」

「言葉がわからないふりをして自分が置かれている状況を探ろうとしていたんだろ?」

憎々しげにこちらをにらみつけているギギィだったが、ふう、と小さく息を吐いた。

「ああ、俺、お前の言葉わかる」

だろうな、とヒカルは思った。送られてきた手紙はこちらの大陸言語だから、500年前に分かれたとは言っても、言葉は残っているのだ。スパイとして入り込むのに、その言葉を知らないわけがない。

「お前、さっきはどうやって、俺の擬態を見破った」

「さあな? スパイとわかっているお前に言うと思うか?」

「チッ。さっさと俺をここから出せ。さもなくば 偉大なる夢(グランドリーム) 大陸の 征海軍(・・・) がこの街を滅ぼす」

強気の態度でギギィは言ってくる。彼は、自身が犯罪者や敵国のそれとしてではなく丁重に扱われているために、ヴィレオセアンが「戦いたくない」のを見抜いているのだろう。

ふぅん、とヒカルは鼻を鳴らす。

「解放するわけないだろ? 一国の首都、その元首の屋敷に忍び込んでおいて簡単に解放されるなんて思うなよ」

「ならば俺、仲間が来るのを待つだけ。お前ら破滅」

「…………」

相変わらずの強気な発言だ。

ヒカルはこのスパイの行動、それに滅びの大陸の軍勢に違和感を覚えている。

(デウ=ローク島を囲んだのは8日……長すぎる。島の主人となにか交渉をしていたのか? それにしたって、ヴィレオセアンから応援が来る可能性を思えばすぐに勝負を決めるべきだ。実際、攻撃に移った直後にデウ=ローク島は陥落している)

8日も待たなければいけない理由——。

ギギィのように「好戦的な発言をする者」が多ければもっと早く攻め込んでいたのではないか。

「なぁ、お前はスパイだよな。強いのか?」

「あ?」

「質問そのままの意味だ。 おれ(・・) は、お前の腕は確かなのかと聞いてる」

「……強いに決まってる。あんな不意打ちでなければ、お前などに負けない。負けるはずがない」

演技なのか? あるいは素なのか? ——どうやら、素のようだ。憤っている。

そんなふうにスパイが自分の感情を出してどうするのか。

そうは思ったものの、ヒカルはギギィのソウルボードが明らかに スパイに向いていない(・・・・・・・・・・) ことを思い返す。

「なるほどね……海戦だけでなく、上陸しても戦ったらおれたちに勝てると思っているんだな?」

「ふん。当然。グランドリーム大陸、魔物強い。そこで戦っている俺たち、お前らに負けるはずがない」

「だけど上層部は戦争に反対してるんだろ?」

「それはそうだが——」

言いかけたギギィは、ハッとする。

「お前! 卑怯!! ズルをした!!」

「はははは。脳筋は扱いやすくて助かる」

ヒカルは声を上げて笑ってしまった。

ギギィは見事に、ヒカルのかけた カマ(・・) に引っかかってくれた。

デウ=ローク島を8日も囲んだ末に一気に攻撃を仕掛け、制圧したこと。ギギィのようなスパイに向かない男がスパイをしていること。

この2つはやはりつながっているのだ。

ヒカルの推測は、

——和解派と開戦派の2つに分かれている。

というものだった。

おそらく指揮官は、デウ=ローク島を「平和裏に制圧する」つもりだったのだろう。だが、8日経っても交渉はまとまらず、しびれを切らした開戦派が攻撃を仕掛けたためになし崩し的に武力制圧となった。

ギギィは独断専行か、あるいは開戦派のお偉いさんに命じられて慣れないスパイ活動をしている。「探知」も「隠密」も持っていない男が「光学迷彩」だけを頼りにスパイ活動など、ヒカルからすれば悪夢である。

最初からおかしい部分はあった。「500年前の借り」と言うが、それほどの長い年月、恨みを持ち続けることなどできはしない。

となると「借り」という言葉は「交渉のための前振り」だ。

なかなか頭のいい指揮官がヴィレオセアンと交渉して「実利」を得ようとしている。

「俺、もうなにも言わない。お前、絶対に許さない!」

ギギイは怒り心頭に発すという感じでわめいている。「言ってるじゃん」と言いたいところだが、すでに騒ぎを聞きつけて尋問官たちがこちらに来ようとしている。「魔力探知」で察知したヒカルは、 おいとま(・・・・) することにした。

「隠密」を発動させながらもヒカルは考える。

(500年間、滅びの大陸で暮らしてきた彼らは、いったいどうしてこちらの大陸に渡ることにした? 大砲を開発したことで海棲モンスターを倒せるようになり、そして……なにを望む?)

いくら軍船が巨大であったとしても、それだけでヴィレオセアンという一国を制圧するのはほとんど無理だろう。首都を制圧しても、周囲から人海戦術で軍勢が押し寄せれば、彼らは撤退せざるを得ない。

そんなことくらいわかっているはずだ。

であればなんらかの目的がある。なんらかの利益を、得ようとしている。

(一体、それはなんだ?)

そのことを探り当てれば、交渉でも、戦いでも、有利に立てる。