軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ポーラのバイト先

「あの巨大竜石はどこで手に入れたんだい!?」

「あ、やっぱ質問ってそれですか」

質問がある——としてケイティが切り出したのはやはり竜石のことだった。めっちゃ身を乗り出してくる。

「入手先はノーコメントで」

「むう」

残念そうにしながらもケイティもヒカルの返答は想定内だったようだ。

「ではあの竜石を私に譲ってもらえないか?」

「譲る……ってなにか使い道があるんですか?」

「いっぱいあるとも! 竜石は精錬することで精霊魔法石にもなる。そうなればこのスカラーザード全体の魔導灯を数年もたせられるぞ」

「……マジですか」

「大マジだとも」

魔導灯——魔導ランプもそうだが、これら魔道具は精霊魔法石を動力源として動かすことが多い。

街を照らす魔導灯は夕暮れになると点灯夫が1本ずつ魔術を起動していく。そして朝になるとまた点灯夫が魔術を止める。

電気が発達する前の地球でもガス灯が同じように点灯夫によって点滅させられていた。

「私はね、常々巨大な精霊魔法石による魔導灯の一括運用を考えていたんだ。一箇所で魔術をオン・オフすることで街の魔導灯が一斉に点いたり消えたりする。それは壮観ではないかね!?」

「あ、はい」

つばが掛かりそうなほどだったのでお茶の入ったカップを手にして身を引くヒカルである。ケイティにとっては革新的なことかもしれないが、日本の夕暮れではおなじみの光景である。

「ケイティ先生、他の利用法はないんですか? たとえば、武器にするとか」

「武器だって!? 武器か……うーん」

ケイティは首をひねって考え込んでいるが、それが意外だった。ヒカルは真っ先に武器に使うことを考えていたのだ。

「武器にするには大きすぎるよ」

「大きすぎる……?」

「魔力を増幅する杖に加工するなら、あの竜石を支えられる支柱が存在しない。剣や大剣などに埋め込み魔法剣とするにしてもあのサイズを支えられる金属がない」

「支えられないって具体的にどういうことなんですかね」

「あの竜石を使って魔術を発動すると、おそらく溶ける」

「おおぅ……」

使い捨て武器になってしまう。

「でも魔導灯ならいいんですか?」

「攻撃するわけではないからね、一定量を放出するやり方なら安定させることができると思う」

「へぇ……」

なかなか魔道具は奥が深いとヒカルは思った。ヒカルをこの世界に引き込んだローランドの知識も、なかなかに奥が深いが、ケイティが研究しているそれとは全然方向性が違う。

「しかしねヒカルくん!」

どん、とテーブルを叩くケイティ。

「あんなふうに無造作に置いていてはダメだよ。ちょっとした魔力の刺激で竜石に込められた力が暴走し、周囲を焼き尽くすことだってあり得るよ」

「そういうことは早く言ってください」

背筋がひやりとした。どうやら自分は、寝室の棚にプラスチック爆弾に近しいものを保管していたらしい。

(……ううん、こうなると、シャクだけどコウに食べさせるという選択肢もアリなのかな……)

あの竜石をケイティの研究用に提供することは簡単だが、ケイティだってその竜石をどこから手に入れたか聞かれるだろう。やがて隠しきれなくなればヒカルのことも露見する。せっかく姿を隠してウゥン・エル・ポルタン大森林で地竜を倒したというのに——。

(まあ、あのときはラヴィアの存在を隠す必要があったから姿を隠して地竜を倒していたわけで、今はバレてもいいっちゃいいんだけど……)

バレたらどうなるだろうか?

戦争のせいできな臭いこの大陸だ。どこぞの国家に目をつけられ、従軍を強要されることもありうる。

(……めんどくさすぎる。やっぱり姿は隠しておくに限るな)

ヒカルが内心そう思っていると、

「ヒカルくん。他に霊石なんかもいっぱいあったろう? あれはどうするんだい?」

「先生が使うなら譲りますよ。アレなら先生が持っていてもそうおかしくないでしょう?」

「譲ってくれるか! それはありがたい!」

ケイティが作ってくれるリヴォルヴァーの弾丸を思えば、「古代神民の地下街」で拾った霊石を譲ることくらいなんでもない。相場よりかなり安く霊石を譲ることにした。

霊石は錬金術の実験でよく使うためにケイティはほくほく顔だった。冬になって実験材料を買うにも苦労しているらしい。冒険者も活動しないのでショップの入荷が少ない。

「あ、そうだ……ヒカルくん、ラヴィアくんに知っておいて欲しいことがあったんだ」

ふとケイティは、真面目な顔をした。

「『 統合賛成派(ユニオン) 』と『 統合反対派(セパレーター) 』という言葉は知っているかい?」

ヒカルはラヴィアと視線を交わす。

「いえ、知りませんね」

「そうか……。どうも連合国内でよくない動きがあるらしい。春の合同結婚式をめちゃくちゃにするべく動く一派がある、とコトビの王から連絡があった」

その店の扉は相変わらず薄汚れており中からは喧噪が漏れ聞こえていた。首にコウを巻いたポーラが扉を開くと——。

「わっはっは。またも俺の勝ちだな」

「あーっ、クソ、お前イカサマしたろう?」

「にしてもこう寒いと商売あがったりだわなあ」

「バカ野郎。昼から酒飲んでなにが商売だ」

飲んだくれたオッサンたちの声とともに、むわっと暖かく、酒のニオイの混じった空気が流れ出た。

「ん? 入るなら入りな。ドアを開けっぱなしじゃぁ寒くてかなわねぇや」

「あ、は、はいっ」

ポーラは後ろ手にドアを閉めると、店のフロアを歩いていく。客のオッサンたちは特にポーラに注意を払うでもなかった。ポーラは真っ直ぐにカウンターへと向かうと、その向こうにいるマスターへと声をかけた。

「あ、あのっ!」

「——ん? 君は確かヒカルの……」

マスターはポーラを知っていた。それもそのはずで、ここはヒカルがやってきてはよくランチを食べていた「酒万歳」だった。

「私をバイトとして雇ってくれませんか!?」

ぺこっ、と頭を下げたポーラに、マスターは目をぱちぱちとしていたが、

「いいぞ」

「——えっ!?」

「じゃ、今から働いてくれ。——この料理をあそこの角のテーブルに運んで」

「え!?」

あっさりとオーケーが出るとは思わず、さらにはすぐにも働かされるとも思わなかったが、

「ほれ、冷めるから急いで」

「は、はいっ!」

ポーラはパスタの載った皿を持ってフロアを歩き出す——。

こうして、ポーラのアルバイト先はあっさりと決まった。

控え室に外套とコウを置き、三角巾にエプロンを身につければウェイトレスのできあがりだ。

(よし、やるぞ。ヒカル様に頼らないでちゃんとお金を稼がなきゃ!)

ふんぬ、と気合いを入れてポーラはフロアへと戻る。

「ポーラちゃん、あのテーブル片づけて」

「は、はいっ!」

「ポーラちゃん、オーダー取ってきて」

「は、はいっ!」

「ポーラちゃん、このソーセージはあの赤い顔したオッサンに渡して」

「は、はいっ! ……えっと、どなたに」

フロア中に赤ら顔のオッサンたちが散らばっていた。

「おぅ、それは俺のだな!」

「バカ野郎、こっちだ!」

「ちげぇよ、俺はソーセージをもう2時間も待ってる!」

オッサンたちが口々に言い出すと、

「今日のメニューにソーセージなんて入れてないんだがな」

とマスターが言い、それを聞いた酔っぱらいたちは大爆笑している。

「え、えっと……?」

「ポーラちゃん。そんなわけだから焦らずやってくれ。それを食べてからまたやろうか」

自分の肩に力が入っていたことはすっかりバレていたようだ。

マスターの気遣いが温かかった。オッサンたちは「姉ちゃんにソーセージを食べさせるならこっちにも出せ」と大合唱しており、この日のメニューには急遽ソーセージも追加されることになった。

控え室でコウといっしょにソーセージを食べると、身体の中心から力が湧いてくるようだった。

「——それで、ヒカルは?」

再度フロアに戻ったポーラはマスターにたずねられる。

「あ、はい。ヒカル様もスカラーザードに戻っています!」

「そう。顔くらい出せと言っといてくれよ」

「……はい」

この「酒万歳」のマスターもヒカルに会いたいのだと思うと、自然、ポーラの口元もほころんだ——。

「——よかった。この店はやってた」

「…………」

そこへ、店のドアが開いてふたりの少女——この店にやってくるには似つかわしくない、少女が入ってくる。見るからに上等な外套のフードをすっぽりかぶっている。

片方がばさりとフードを外す。

ポーラはそれが誰なのか、気がついた。

「ちょっと温かいものを飲もう、リュカはなにがいい?」

「…………」

浮かない顔で首を横に振る少女——この春、結婚が決まっているリュカ——と、肌の青みが特徴のエカテリーナ。

学生連合のふたりだった。