軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

女王の悩み

窓の外は粉雪がちらちらと舞っている。屋根という屋根には白い雪がこびりつき、空は眠くなるような白。

シュシュシュとポットから湯気が噴き出していた。部屋の主である金髪の少女——少女に見えるが、実年齢はずっと上の「女王」マルケド=ミラルカ=キリハルはうめくように言う。

「またイヤな報告を持ってきたんでしょう?」

「また、とはなによ、また、とは」

苦笑しながらポットに沸いたお湯をティーポットへと注ぎ入れるのは、ゾフィーラ=ヴァン=ホーテンス。この国、フォレスティア連合国における内務卿にして筆頭大臣だ。

ふたりの関係は気安い。というのも共通の敵がいるからだ。彼女たちの敵は旧態依然としている7カ国のトップたち。「連合国」を名乗りながらまだ1つになりきれていないのは各国の権力者たちに利権が集中しているからだ。「連合」してしまえばその利権を失う。

だが時勢がそれを許さない。ポーンソニア王国は力をつけており、隣国クインブランド皇国に攻め込もうとしている——。

「——せっかく国がひとつにまとまる機会だと思ってたのに」

「ああ、ポーンソニアとクインブランドとの戦争? ポーンソニアは国王を失って内乱中だけど、クインブランドと同盟を結んだじゃない。脅威は衰えていないわ」

「ポーンソニアで内乱が起きたせいで、攻め込まれなくなると思ったんじゃないのー。各国代表を見ていると明らかに空気が緩んだわ」

「ほんとうは2国がまとまったことで大陸のパワーバランスが崩れたってことを理解して欲しいんだけどねぇ——はい、お茶」

「ありがとう。……って、苦い!」

「苦くない。いつもより砂糖の量が半分になっているだけでしょ?」

「半分!?」

「冬の間に、女王陛下におかれましては豊穣の女神に微笑まれたご様子」

「太ったって言いたいの!? ほんと!?」

手鏡を探してわたわたしているマルケド。澄ました顔で——砂糖なしのお茶をすすりながらゾフィーラは言う。

「でも、上は変わらなくとも下は変わるかもしれないよ」

「……下、って?」

執務机の下から手鏡を見つけたマルケドは——なぜそんなところにあったのか——きょとんとした顔でゾフィーラに聞く。

「ほら、春が来れば合同結婚式があるわ。あなたと同郷のクロードさんが音頭を取っている」

「ああ……」

マルケドはほろ苦い顔をした。

合同結婚式の議案についてはマルケドも賛成に1票を投じた。結果として実施されることとなったが、マルケドが想像していた以上に、

「参加数が多すぎるのよねぇ……」

「700組だっけ?」

「それがもう1000を超えてるんじゃないかって話」

「あらあら。それくらい各国の断絶は若いカップルに影響を与えていたのね」

「他人事みたいに話してるけどジャラザックの参加者も多いんだからね。しかも同じ国内のカップルよ」

「だと思ってた。ジャラザックの風習もワケわかんないから」

ゾフィーラはため息を吐く。ジャラザックは「武」の国だ。武技に優れていればちょっとやそっとのワガママは通ってしまう。若い男は「武」に物を言わせて結婚相手を得る。たとえ女性の側に、恋人がいたとしても。

それを覆す手段は「男が強くなるしかない」のだが、人には得手不得手がある。そんな彼らにとって「合同結婚式」は福音だった。

「それくらい、この連合国はいびつだったってことなんだけどね……」

ぽつりとマルケドは言った。

10年1期の王座では、短すぎる。たいしたことを成せない。むしろ国王をおざなりにするためのシステムと言える。

「連合国」という形を1つの「国」に変えようとしている動きこそが、「合同結婚式」なのだ。おかげでこの冬は——フォレスティア連合国においては政治の季節——あちこちで様々な動きがあり、派閥が出来はじめていた。

片方は「統合賛成派」である「ユニオン」。

もう片方は「統合反対派」である「セパレーター」。

ユニオンやセパレーターという言葉は自然とつけられたもので、彼ら自身がそう名乗っているわけではなかった。

ユニオンには7カ国でいちばん弱小のツブラを始め、新たな技術や才能を歓迎するコトビが多い。コトビは、明言しないながらもトップである「錬金王」がユニオンを後押ししているとも聞こえる。

セパレーターは、「反対」を明言している7カ国最大のルマニアがある。マルケドの出身であるキリハル、キリハルの不倶戴天の仇敵であるルダンシャは意外なことに旗幟を鮮明にしていない。キリハルの名家に生まれたクロードと、ルダンシャの第三王女であるリュカの結婚——そのインパクトをもろに受けたのがこの2国だったのだ。「絶対に許さない」「仲良くしたらいいんじゃねってずっと思ってた」等々、議論百出、国内はいまだ混乱しているという。

「しかしまぁ、あんな議案をよく通したものだよねえ」

「あのお面のガキがいなければ成り立たなかったでしょ」

忌々しそうにマルケドは言う。お面のガキ、とはもちろんヒカルのことだ。

各国の代表は今回の合同結婚式案件は、ツブラの王子シルベスター、ジャラザックのイヴァン、結婚当事者であるクロードにリュカが言い出したことだと思っている。

だがその陰で行動していた太陽神のお面をつけていた、黒衣の少年について知っている者はごく少数だ。

「あ、そうそう、お面で思い出した」

「なに。またイヤな報告?」

露骨にイヤそうな顔をするマルケドは手鏡を見ながらほっぺたを引っ張ったりしている。太ったかどうか確認しているらしい。

「……街道沿いで盗賊が摘発されたそうよ」

「? なにそれ? 街道ってどこのことよ。ていうかそんなことなんでいちいち報告を?」

「それが、確認されているだけで5箇所の街道——距離的に結構離れてる5箇所で盗賊一味がロープでぐるぐる巻きにされて発見されたの」

「……どういうこと?」

遠隔5箇所で同じように捕縛された盗賊一味——その異常性にマルケドは気づいた。

だがゾフィーラはやれやれとばかりにため息を吐いた。

「それが、よくわからないの。共通しているのは一夜にして組織が壊滅させられていることね。ロープでぐるぐる巻きにされた1人が街道沿いの樹木にくくりつけられていて、ご丁寧に盗賊のアジトの場所が記された紙が貼ってあった。アジトに行ってみると全員が縄で縛られていたの」

「新手の盗賊荒らしってこと?」

「それが財貨には一切手をつけられてなくて、『盗まれたものは持ち主に返却すること』ってこれまた置き手紙があったのよ」

「5箇所とも?」

「5箇所とも」

「なによそれ……正義の味方?」

マルケドが言うと、フッ、とゾフィーラは笑った。

「盗賊たちが言うには、それをやってのけたのはひとりの少年らしいわ。銀色の仮面に黒衣を纏った少年—— 白銀の貌(シルバーフェイス) と名乗った少年だって」

「…………」

銀色の仮面、と聞いてマルケドが真っ先に思い出したのは、

「……あのガキがお面を新調したってことかしら」

「そうかもね。はぁ……盗賊退治はありがたいけど、なにを考えているのかわからないのが怖いわね」

ゾフィーラはカップを持つと立ち上がり、片づける。

「さて、答えの出ないおしゃべりはこれくらいにして、お仕事の話に戻りましょう? まずは私の姪が嫁いでいる海洋国家ヴィレオセアンの妙な動きからだけど——」