軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

地下の大穴

「断絶の刃」と「闇夜のマント」をこのまま持ち去ることだってできたが、とりあえずは放置することにした。今日明日、研究が進展して使えるようになるということもないだろう。今は相手に気取られずにいろいろと情報を集めるべきだ。

(——この聖魔武具とかいうのは、教皇にとってトップシークレットなんだろうな。それを嗅ぎつけたスコット=フェアーズ司祭は殺された……と考えるのが自然だ)

ヒカルが小部屋から出ると、扉の脇にいた男は食事中の輪に加わっていた。安心してヒカルは元の通りにカギを戻す。

(あと調べるべきは、地下か)

上から目線で仕掛けてきた司祭や修道士を出し抜くために情報を得に来たのだが、思いもしなかった獲物が掛かった気分だ。この情報をどう利用するべきか考えながら、ヒカルは壁際を進んでいく。ミレイ教官に教わった「小剣講義」での身のこなし。すっかりヒカルの身についており、歩くとき音は立たない。

研究所の入口までやってくると周囲に誰もいないことを確認してヒカルは外へと出た。

分岐路へ戻り、さらに下へと続く道を選ぶ。

階段は緩やかなカーブを描きながら下っていく。ちょうど研究所の向こうに向かっているような形だ。

「強烈な魔力だ……他に何人かいるけど、わからないな」

魔力反応が大きすぎるためにヒカルの「魔力探知」では他に人間がいるかどうかがわからない。おそらくいる。が、大きな魔力の「揺らぎ」のせいで誤差に見えてしまう。

やがて階段は大きな空洞へとたどり着く。

「……!」

その空洞は縦穴であり、自然にできた空洞のように見えた。天井は高く、床面から見上げても高さがわからない。

(魔法陣……これが魔力反応の原因か)

空洞の直径はおよそ100メートルといったところか。円に近いが、楕円形である。

中央には50メートルを優に超える魔法陣が発動していた。

光の二重円が外周にあり、内側には精霊言語と呼ばれる幾何学模様がびっしりと描かれている。陣の中心部は巨大な九芒星だ。星の頂点を含む三角形の内側には、巨大な文字が浮かんでいた。

これら魔法陣は黄金色の光を放っており、緩やかに回転している。

(ラヴィアの精霊魔法が起こす魔法陣はすさまじいと思ったけど、あれが可愛く見える日が来るなんて。……これはなんのための魔法陣なんだ?)

魔法陣の下には大穴が空いており、それを塞いでいる——そう考えるのが適当だろうか。

(こんなにも大きな穴を? なんのために? というか、誰がこれほど巨大な魔法陣を組んだんだ?)

魔法陣は、魔力の発露である。起こしたい事象を精霊に伝えるための魔法陣が精霊魔法だ。ゆえに精霊言語が魔法陣には描かれる。しかしこの精霊言語を読解できる人間は今のところいない。

精霊は見ることができず、触ることも聞くこともできない。ただひとつ精霊魔法を介してのみアクセスできる存在だ。

(ここにも武装している人間が——ん、あれは「青の騎士」か?)

武装している男たちが研究所と同様に、この場に10人ほどいる。魔法陣そのものが発光しているためにこの大空洞には明かりがない。

男たちは神殿騎士ではない。だが、彼らを統括しているらしき「青の騎士」がここにはいる。茶色のくせっ毛を短く刈り込んでいる、中年の騎士だった。

ちょうど魔法陣の反対側にいるのでなにかを話しているらしいが聞こえない。

(近づくか——)

ヒカルが動き出そうとしたときだ。

————ォォォォァァァァアアアアアアアアアア——————。

大穴から、震えるような声が聞こえてきた。続いて足に伝わるわずかな震動も。

「——うへぇ、やべえよやっぱここ」

「——大丈夫だっつーの。あの魔法陣がある限りモンスターは出てこねえよ」

比較的ヒカルの近くにいた、武装した男たちが話すのが聞こえた。

(モンスター? この大穴に?)

ヒカルが大穴を見る——と、「青の騎士」が魔法陣へと踏み込んでいく。なんの抵抗もなく騎士は魔法陣の内側へと入っていった。

そして彼のそばには大穴を下っていく「階段」があった。「青の騎士」は下をうかがいながらゆっくりと下りていく——。

(まさか、これは……)

ヒカルは驚いた。自分の推測が正しいならとんでもないことだ。

武装した男たちが話している。

「——こんな仕事引き受けるんじゃなかったぜ……」

「——守秘義務はキツイが、割のいい楽な仕事じゃねえか。ただここで監視してるだけでいいんだから……後は、ここからなんも出てこないように祈るだけだ」

「——今まで何匹か登ってきたことはあったのか? あの階段をさ」

「——さあなあ、下りてった騎士様は何人か行方不明になってるみたいだけどな」

「——ひぇっ、おっかねぇ」

それはヒカルの推測を裏付けているとさえ言えた。

(まさか、ここは—— ダンジョンの入口(・・・・・・・・) なのか)

その日の夜遅く、ヒカルはホテルへと戻った。グランドホテルからは1段劣るレベルだが、寝泊まりするのには十分だったし、なによりこのグレードのホテルは数多くあるので自分たちの居場所がバレる心配がない。

「ただいま……ってふたりとも起きてたか」

「おかえり、ヒカル」

「ヒカル様。なにがあったんですか?」

ラヴィアとポーラは起きていた。テーブルには本が何冊か置かれてあるが、この国の教会に関するもののようだ。ラヴィアは乱読なのでなんでも読む。

いつも泊まる部屋よりはいくぶん小さな部屋だが、3人で話すくらいなら問題はない。ヒカルは別に1室取っているし。

「実はこういうことになったんだ——」

ヒカルはそれから今日起きたことを話した。「青の騎士」コニアのこと。向こうがしつこいのでとりあえずホテルを変えたこと——部屋に置いておいたメモを見て、ラヴィアたちはこちらのホテルへ移ったらしい。

とりあえず数日後に来るはずのポーンソニア外務卿に会うことさえできればこの街を出ても問題ない。数日程度ならこのホテルで十分隠れられるだろう。

それから、弱みを握るべく「塔」に侵入したこと。そこで見つけた「赤の司祭」の手記、研究所の存在、聖魔武具のこと、そして魔法陣と大穴——。

「巨大な魔法陣……」

そこにラヴィアはいちばん興味を惹かれたようだ。

ヒカルはその後、研究所が何時まで稼働して、警備の男たちが何時に交代するのかを確認して戻ってきた。あまりに腹が空いていたので部屋にあった果物——リンゴに近い果物を手に取ってしゃくしゃくと食べる。

「ヒカル。どんな魔法陣だったか覚えてる?」

「そう言われると思ってメモを取っておいた」

ヒカルは紙片に書きつけた魔法陣をラヴィアに渡した。彼女はそれを食い入るように見つめる。

「ヒカル様……あの、聖魔武具とはなんでしょうか?」

「ああ——」

リヴォルヴァーの存在はポーラも知っていたが、どうやって見つけたかという経緯については話していなかった。

ちょうどいい機会なので彼女に「古代神民の地下街」について話をする。

「えぇ!? ヒカル様、あのダンジョンを 踏破(クリア) しちゃったんですか!?」

どうやらポーラは、ダンジョン踏破の話は初耳だったようだ。

「ヒカル、この魔法陣」

ラヴィアがようやく顔を上げる。

「わたしの知ってるどの魔法陣とも違う。たぶん、だけど……既存の精霊魔法じゃない」

「……どういうことだ?」

「ふつうの精霊魔法は1属性のものなんだけど、稀に2属性を混ぜられる人がいるの。そういった場合は複雑な魔法陣になる」

「これも2属性だってことか?」

ううん、とラヴィアは首を横に振った。

「3以上……たぶん、4属性。すべての属性が混じってる。全属性を高レベルで操れる魔法使いがいれば——ひょっとしたらわかるかもしれない」

そのときヒカルの脳裏にひとりの人物が思い出された。

黒髪ツインテールの少女だ。

「精霊の愛」という特殊なスキルを持ち、精霊魔法の各属性はすべて5まで上がっている。

「……セリカならなにかわかるかもしれないな」