軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ポーラの進化と龍の……

ギルドの奥の別室を出るとき、ヒカルはセリカを日本語で呼び止めた。

『どうしたの?』

『……不本意だけどセンクンから巻き上げた1億ギランの1割を後で振り込んでおいてもらうよ』

『え? いいの? あれ冗談だったんだけど』

『冗談かよ! 結構マジ顔だったじゃないか』

『これでもランクBですからねえ、貯金はそこそこあるのよ』

『それじゃホットドッグ屋のチェーン展開がなんとかって言ってたのも冗談か?』

『あれは本気。あ! っていうかあのホットドッグ屋を仕込んだの、ヒカルでしょ!』

セリカがご執心のホットドッグ屋は、ヒカルがこちらの世界に来て何度か買っているホットドッグの屋台で間違いないようだった。

最終的にはヒカルも満足の味になっていたが、あれからまた工夫を加えて、今や行列ができるほどの人気店らしい。

『あたしはね、あの味をこの世界に広めたいの』

『そのための資金、か……』

ヒカルは思い返す。最初に食べたホットドッグはひどい味だった。だが、あそこの店主——筋肉ムキムキで戦士でもやらせたほうが上手くいきそうな店主は、地道に味の改良を繰り返した。ラヴィアも激辛ホットドッグを気に入っていた。

『……それなら僕も出資しよう。1,000万ギランでいいのか?』

『いいの?』

『ああ。乗りかかった船だし。——ただひとつだけ条件がある』

ヒカルは、日本語を理解できずきょとんとしているラヴィアを見て苦笑する。

『激辛ホットドッグは必ずメニューに入れておいて欲しい』

冒険者ギルドを出るとケイティとはここで別れることになった。ヒカルはすぐにもポーラを拾って王都経由でビオス宗主国を目指す準備をしなければならなかったからだ。

「それでは、またね」

「——先生、これを預けてもいいですか?」

ヒカルは自宅の鍵をケイティに渡した。

「僕らが春までに戻れなかった場合、家の契約が切れてしまうんです。置いてきた荷物もあるので……」

「もちろん、構わないよ。預かろう」

スカラーザードの自宅には、「古代神民の地下街」で発見した大量の霊石、それにラヴィアが宝物庫で手に入れた宝石と豪華な装丁の書物がある。さらにはアースドラゴン亜種を倒したときの巨大な竜石だ。霊石ならケイティの研究に使ってもらってもよかったが、竜石を見られた場合、ケイティの研究欲求に歯止めが掛かるという保証がない。

(そう言えばあの本の中身ってなんだったんだ?)

ラヴィアから聞いていないなと思い出す。

「……えーっと、まあ、たいしたものは部屋にはないんですけど……」

「汚部屋とかでなければ大丈夫だよ」

「はは、じゃあ、まあ、お願いします」

ケイティになら巨大な竜石を任せてもいいかなという気がしないでもないが、とりあえず使い道が他にもあるかもしれないので、あれは取っておきたい。

(でもま、使われたらそのときはそのときか。しかし、かさばる荷物はどうしようもないな)

冒険者が身軽なのは、戦利品はすぐに売り払うからだろう。価値がありすぎるというのも困りものだ。

「そうだ、ヒカルくん。弾丸のストックは問題ないかな?」

「いただいた10発があるのでしばらくは問題ないですよ」

「攻撃魔法だけでなく、他の魔法にも挑戦して欲しいんだ。たとえば魔導具の魔力とか、回復魔法とか」

なるほど、とヒカルはうなずいた。

回復魔法を弾丸に込めておけるのなら、緊急時にすぐに回復できる。試してみる価値はある。

「すでに渡している弾丸はまだまだ改良の余地があるからね。春にはまた新しいものを渡せるかもしれない」

「なにからなにまで、ありがとうございます」

「なにを言う」

びっくりしたようにケイティは目を見開いた。

「君がいたから、ツブラの遺跡を見ることができた。聖魔の研究もできそうだ。それに……兄にも再会できた。恩を返しきれないほどだよ! 弾丸を作ったり留守を預かることくらいしかできなくて、歯がゆいよ——」

春の再会を約束して、ケイティは去っていく。結果としてケイティが買い込んだあれこれは長い旅路で彼女の暇つぶしとして役に立ってくれそうだ。

「……ケイティ先生って、とてもいい人よね」

去っていくケイティを見送りながらラヴィアは言った。ヒカルもその意見に、完全に同意できる。

ヒカルはラヴィアとともに歩き出す。冷たい風が吹いて、ふたりは身を寄せ合う。ドドロノの工房にたどり着くと——表には「臨時休業」の看板が出ていた。中からはドドロノの声が聞こえるが。

「……まさかとは思うけど、ポーラのために臨時休業にしたのか?」

「……一応、レニウッドさんのところに行くためもあったんじゃないかしら……」

とりあえず工房のドアを開いた。中はちゃんと暖房が効いており暖かな空気が満ちていた。

「おお! ヒカル、いいところに来たのう! 終わったぞい!」

奥から出てきたドドロノが言うが、ポーラの姿は見えない。

「えーっと……ポーラは?」

「ポーラちゃん、なぁにをもたもたしとるんじゃぁ! ヒカルが迎えに来たぞい!」

どうやら奥にいるらしい。

「——あ、あの、あの、あのあの!」

「あのもなにもないんじゃぁ! ワシのコーデは今日もばっちり王国一なんじゃ!」

「あのあのあのああああああああぁあぁぁぁ」

ドドロノは奥に引っ込むと、ポーラの腕をつかんで引っ張ってきた。

「————」

ヒカルは、唖然とした。

着ているのはドドロノの仕立てたローブだ。そのできはすばらしい。落ち着いたクラシックなデザインながら、見る人が見ればわかる高価な素材がふんだんに使われている。ボタンは黒いが、魔力が溜まればこれが白くなっていくのだろう。今までポーラが着ていた服とは一線を画する。

それは、いい。

元々現物を見ていたし、わかっていたことだ。

だけれど——これはどうしたことだろう。

特に変わったのは、髪型だ。前髪にハサミを入れて軽くし、目元はハッキリ見えるようになっている。横から後ろにかけて編み込まれた髪は、銀の髪留めでまとめられてあった。その髪留めは銀製で、彫金師がかなり細かな仕事をしている。高そうであるのは間違いないがクラシックな装いによくマッチしている。

なによりもポーラの顔がハッキリと見える。

うっすらとそばかすがあるが、その上にはパチリとした可愛らしい緑の目があった。眉は困ったように寄せられているが。

「あ、あのぅ……や、やっぱり変、ですよね?」

「——変なんかじゃないわ!!」

いきなり大声を上げたのはラヴィアだ。

「すごいわ! 磨けば輝くと思っていたけれど、ここまでだったなんて……! 髪型と全体のコーディネートでここまで変わるのね……!」

「わかってくれるのう、お嬢ちゃん!」

「ドドロノさん、あなたは防具職人としての腕だけでなく、スタイリストとしての腕前もすばらしいわ……!」

「——くっ、う、うれしいこと言ってくれる」

ドドロノが鼻声になって目元をごしごしやっている。

「ヒカルもそう思うわよね?」

「——えっ」

話を振られて、ヒカルは焦る。

ポーラの「田舎から出てきた女の子」という感じは完璧に消えていた。服と髪型が変わるだけでこんなに印象が変わるのかというほどだ。

「ラ、ラヴィアちゃん、やっぱり変なんですよね!? 私を傷つけまいとして」

「——ラヴィアは正しい」

「えっ……ヒカル様?」

様変わりしたポーラを見てヒカルは動揺したが、なんとか落ち着きを取り戻すことができた。

「見違えたよ、ポーラ。すごくきれいになった」

「——あ、あうぅ」

ポーラの顔が真っ赤になったと思うと、

「あううううう……」

両手で顔を覆うとしゃがみ込んでしまった。

ヤバイ、これはまずいことを言ってしまったか? とラヴィアを見ると、ラヴィアは「でかした」とでも言わんばかりにぐっと親指を立てて見せた。あれでよかったらしい。

「にしても、もっと早くにポーラの服とか、いろいろ用意するべきだったな」

「そ、そんな、畏れ多いですぅ……」

「ポーラの魅力にはわたしがいち早く気づいていたの」

ラヴィアが小さな胸を張ってドヤ顔をしていた。

ドドロノの工房を出る。ポーラの髪飾りはサービスしてくれると言う。レニウッドもドドロノもサービスしすぎだとヒカルは怒ったが、「レニウッドみたいに、次回も利用してほしいんじゃよ! それくらいわかって欲しいんじゃからね!」とツンデレっぽく言われた。ヒゲを三つ編みにしたスタイリッシュドワーフに言われるとなにも言えないヒカルである。

「それで——ポーラ、悪いんだけどスカラーザードにはしばらく戻れない。行き先が変更になったんだ」

ホテルへと戻る道すがら、ヒカルはポーラになにがあったかを説明した。

「君の希望も聞かずに決めてしまって、ごめん」

「私はもちろん構いませんよ。ヒカル様がいるところが私の居場所ですから」

心底満足そうに言って笑う——どこの美少女だこれ? とヒカルは内心首をひねってしまう。ラヴィアもちょっと人間離れした美しさがあるが、ポーラは親しみやすさのある美少女に進化した。すれ違う男たちがちらちら見てくるのもわかる。

「でも、ヒカル様。ビオス宗主国はヒカル様の性格的にいちばん行きそうにないところだなと思っていました」

「え、どうして?」

「あそこは教会が絶対という国です。ヒカル様は、その……教会をお嫌いなのかなと」

「嫌いってわけじゃないんだけど——まあ、合理性に欠けるところは嫌いかな」

「私、楽しみです。アギアポールの教会はほんとうに美しいと聞いていましたから。私が冒険者になって見に行きたかった場所なんです」

「そうなのか? ……ラヴィア、もしかして」

ヒカルがこの依頼を受けたのはラヴィアが「きれいな神殿を見てみたい」と言ったことが大きい。ラヴィアはポーラの希望を知っていて、その上で言ったのだろうか——そう考えたのだ。

「ヒカル、女の子はきれいなものが大好きなのよ?」

ラヴィアはイタズラっぽく笑った。

「でもヒカルは優しいから、わたしやポーラが言わなくても、今回の機会を利用しなかったとしても——なんだかんだ理由をつけてビオス宗主国へ行ったと思うわ」

「そうなの、ラヴィアちゃん?」

「ええ。コウのことを考えたらね」

コウは龍だ。神と龍は密接な関係にあるのだから、コウの力を取り戻す手段を考えたときに、神殿は避けて通れない道だ。

ヒカルは「参ったな」とつぶやく。ラヴィアはほとんどヒカルの考えていることを理解している。

『んあ? オイラがなーに?』

眠っていたらしいコウが、ラヴィアの首元で声を上げた。

「これから街を出る話をしてたんだよ。出たらいくらでもしゃべっていいから、今はおとなしくしててくれ」

『遠出?』

「そうだよ」

『そかー』

そうしてまた目を閉じる。コウは、食事以外はほとんどラヴィアの首元で寝ている。どうやら相当体力を消耗しているようだ。

『あ』

だが今回はまたパチリと目を開けた。

『オイラの力で「龍の道」、開けられるかわかんないけどいいの?』

「…………コウ、今、なんだか聞き慣れない言葉を聞いたんだけど?」

『オイラの力のこと?』

「違う。なんだよ、『龍の道』って。君が巨大化して飛ぶとかそういうことか?」

いつの間にかホテルに着いていたが、立ち止まりコウにたずねる。

『なに言ってるのさ。「龍の道」は「龍の道」だよ。あの「龍の道」で間違いないよ』

どの「龍の道」だよ、と思いながらラヴィアとポーラを見る。ひょっとしたら自分が知らないだけで、割と常識的な智恵なのかもしれない。

だけれどラヴィアもポーラも首を横に振った。

『ええ? みんな知らないの? 聖魔を流し込むことで起動する、長距離移動用の「龍の道」だよ?』

「…………」

こいつは今、とんでもないことを口走った。それは間違いない。

ヒカルはぎゅううと目をつぶって額に手を当てながら、たずねた。

「……その『龍の道』とやらについて、すべての情報を教えてくれ」

『ん。いいけど? でも眠いから今度——』

「すぐ! すぐだよ!」

『えええ……』

「すぐ教えてくれるなら屋台で好きなものを買ってやる」

『! ——や、焼きそばも?』

「ああ」

『バナナ焼きも?』

「1ダースでも2ダースでも」

『ホットドッグは?』

「ついさっき出資したばかりだからな。屋台にあるものを全部買ったっていい」

『やったー! なにから話せばいい!?』

「よし。——えーっと」

外で話すわけにはいかないが、屋台へ買いに行く時間がもったいない——とヒカルが思っていると、

「ヒカル。わたしとポーラで買ってくる。だから先に部屋に戻って話を聞いていて」

「ありがとう」

ヒカルはそこでふたりと別れ、コウとともに大急ぎでホテルの部屋へ向かう。

(もしもコウの言う「龍の道」とやらが実在し、稼働しているなら……場所にもよるけど、とんでもないぞ……)

10日以内にビオス宗主国へ行く、という依頼をクリアできるだけではない。春にスカラーザードに戻ることだってたやすい。

それどころではない。この世界の誰も知らないとてつもないツールだ。世界中の権力者が喉から手が出るほど欲しいものだろう。

部屋に戻ると、荷物の中から簡易的な地図を取り出し、テーブルに広げる。テーブルの上にはすでにコウがいた。

「さあ、その『龍の道』というのはどこからどこにつながっている? 教えてくれ」

残:182,602ギラン(+102,050,000ギラン)