軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大蛇退治

避難した冒険者たちの根城、その2階から屋根裏へと登っていく。ホコリっぽい場所で、ギガントロックヴァイパーの襲撃などなければ誰も入らないままずっと、ネズミの住処だったような場所だ。

外では魔法の炸裂する音が聞こえてくる。セリカがぶっ放しているのだろう。魔法使いである彼女が、護衛もなしにモンスターに挑むなどセオリーから大きく外れることだが、彼女は迷わなかった——ソリューズたちを救うのだ、と。

ヒカルは屋根裏を走りながら考える。今、サーラ、セリカ、ラヴィアの3人が単独で行動しているはずだ。それぞれどこにいるのかは「魔力探知」でハッキリとわかっている。

すでにギルドカードの「職業」から【凡混沌神:台風の目】は抜いて、【投擲神:デッドショット】に戻している。

(——「台風の目」か)

ヒカル、ラヴィア、ポーラの3人を馬に乗せてくれた冒険者たち。彼らは馬を操るのが上手いもののランクはEやFという低ランク冒険者だった。ふだんは商店の荷物運びや買い出しなどのお使いをして日銭を稼いでいるような男たちだ。こういった強大なモンスター討伐の場面はまず 遠慮(・・) してきたし今回も当然、名乗りを上げるつもりはなかったらしい。

だが、立候補した。

彼らはこう言った。

——なんか、行かなきゃいけないような気がしたんだ。モンスターって聞くと、いつもは震えが先に来るってのに、今日ばっかりは「行かなきゃ」って思ったんだ。

ヒカルが「職業」を「台風の目」に変えてすぐ、飛び込んで来た報せ。そして馬に乗せてくれた冒険者。

もちろん、「職業」を変える前からソリューズたちは撤退戦をしていたはずだ。報せがあのタイミングで飛び込んで来たのはたまたま。過去にさかのぼってまで事実を改変することなど「職業」ひとつでできるはずもない——。

(物事は「観測者」が「観測」するまでは事実が確定されない)

いたのがネコハの街だから、というわけではないが、ヒカルは「シュレディンガーの猫」を思い出していた。

(僕が「台風の目」にしなければ、ソリューズたちが問題なくギガントロックヴァイパーを討伐していた未来もあった……なんてね)

ともあれ、「台風の目」が面倒な能力を持っているらしいことはわかった。ヒマで死にそうなときにはいいかもしれないが、良い報せも悪い報せも運んできそうなので、使いどころは難しそうだ。

この力は、言い替えれば「ご都合主義」メーカーだし、「トラブル」メーカーでもある。どちらにしろ「なにかが起きる」という点においては「主人公」メーカーかもしれない。

「——よし、それじゃ倒すか」

ヒカルは屋根の上に登ると周囲の状況を目視で確認する——すでに「魔力探知」である程度は確認できていたが。

北側には落葉の始まった木々があり、巨大な蛇がそこに巻き付いている。蛇のサイズは丸太のように太く、長さは5メートル以上はある。その表面は光沢のある鉱石で覆われていた。極めて防御力が高く、しかも俊敏な動きをするのがギガントロックヴァイパーだ。

木から木に跳んでいるのはサーラだ。煙幕で目をくらませながら、ヒットアンドアウェイでギガントロックヴァイパー2匹と戦っている。

南側は開けている——のだが、ひどい砂埃が舞っていた。

「『風の精霊に告げる。気まぐれな風よ、手を取り合って輪を作れ。駈け抜ける風を留め、空へと舞い上がれ』——」

砂埃の中からセリカの詠唱が聞こえる。ごうごうと音を立てて初級の風魔法「ワールウィンド」が発生する。彼女はこれで砂塵を舞い上げ、大規模な目くらましとしているのだ。

ギガントロックヴァイパーはとぐろを巻いて警戒している。ただの目くらましだけでないことはすでに彼らも知っているのだ——すでに1匹が、土中から現れた巨大な岩槍によって串刺しになっているのだから。

「『 岩石の壁(ロックウォール) 』」

セリカの周囲に岩石の壁が現れる。何枚も何枚も屏風のごとく立つそれらは、風が円を描くのを阻害しないようにセリカを中心に円を描いている。

風魔法を使用しながら土魔法も併用しているのだ。一度に2種類以上の精霊魔法を運用できる魔法使いというのは非常に珍しいらしい。ヒカルとしてはそれが、セリカのソウルボードにあった「精霊の愛」の効果ではないかと考えているが、確証はない。

『シャアアア!!』

この風をもろともせず突っ込んでいく影があった。襲撃モンスターの中でも2体だけ、二足歩行しているのがいた。ギガントロックリザードである。ギガントロックヴァイパーの顔に、同じ鱗に覆われた身体がくっついている。ただし身長は3メートルはある巨漢だ。武器こそ持っていないが太い二の腕はセリカの張った岩石の壁をパンチ一発で破壊している。

この2体、セリカへと突っ込んで行くことに決めたようだ——が。

『!?』

砂埃の中心に、すでにセリカはいない。ヤツらの行動パターンまで読んでいるのだろう。さすがは魂の位階を104まで上げた 魔物虐殺者(モンスタースローター) である。

「精霊ちゃんたち、頼むわよ!!『 氷雪打擲(アイシクルストライク) 』!!」

精霊魔法を2種類併用できるセリカだからこそ可能な大技、混成魔法だ。あらかじめ詠唱を済ませておいて近くに精霊を待機させておく。水魔法の上位である冷却、そこに土魔法によって生成した岩石のハンマーを組み合わせる。

ギガントロックリザードの体表は鉱物の鎧によって守られているために炎や風は遮ってしまう。中途半端な剣術も通らないだろう。そこで「冷却」と「打撃」だ。鉱物の凍結によって鉱物中に含まれている水分が膨張する。膨張は鉱物を内側から破壊し、そこに打撃を加えることで一気に崩壊させるのだ。

『ギィアアアアァァァァ!!』

体表を破壊されたギガントロックリザードの肉がえぐられて血しぶきが舞うが、舞ったその場で凍りついていく。

『ギ……ギギギ……』

『ギィィィ』

1体は重傷、もう1体は当たり所が浅かったのか軽傷。しかしこの魔法はさらにもう一段恐ろしい。ギガントロックリザードなどはトカゲや蛇と同じ変温動物なのだろう、気温がぐっと下がったことで動きが非常に鈍っている。

「『 業火の恩恵(フレイムゴスペル) 』」

そこへ放たれる大魔法。

ヒカルは、「隠密」によって姿を隠しているラヴィアに気がついていた。巨大な魔法陣が2体の頭上に現れ、そこから大火球が落ちてくる。動きの鈍ったギガントロックリザードに逃げることはできない。断末魔の叫び声さえ上げられず、フレイムゴスペルの炎に飲まれ骨まで燃え尽きる。

(いかに堅牢な鎧を持っていたとしても、剥がれてしまえば火は通じる。……ていうかラヴィアのあの魔法なら、鉱物の鱗なんて関係なく倒せるんじゃないのか……? ま、まあいいか……)

と、若干気まずい思いをしていたヒカルだったが、

「冷却だけで十分だったじゃないの! 相変わらず化け物みたいな魔法ね!」

セリカがぶっちゃけてしまった。混合魔法は集中力を要するらしく、セリカはびっしょりと汗をかいていた。いや、混合魔法だけでなくここに到着するや魔法を連発していたのだから、疲労は当然かもしれない。

砂埃の目隠しから逃れた場所で魔法を使ったセリカとラヴィアのふたりは、無防備となる。

だが、心配は無用だった。

「——よし、3匹目、と」

とぐろを巻いたり、ギガントロックリザードに攻撃を任せて警戒だけしていた、残り3匹のギガントロックヴァイパー。

すでにヒカルは「隠密」で接近し、そのすべての首を斬り落としていた。

「すごいな、こいつの切れ味は」

使ったのは脇差しだ。「瞬発力」に5を振っているヒカルは跳躍一発でギガントロックリザードの首に手が届く。そこに「暗殺」も加われば一撃で首を斬り落とすことも可能だった——脇差しの切れ味があってこそのことだが。

最後の1匹は周囲の仲間がやられたことに気がついて、焦って逃げ出そうとしたが、ここで逃がすヒカルではない。投げつけた「腕力の短刀」が後頭部に刺さり、横倒しに倒れたところを、一応、首を斬っておいたというわけだ。

「……あんた何者よ!?」

セリカは先ほどラヴィアに「化け物みたいな魔法」と「比喩」として言っていたが、ヒカルに向けられたまなざしは正真正銘「化け物を見る目」だった。

「冒険者」

「そうじゃなくて!」

「サーラはいいのか? まだひとりで2匹を相手にしてるぞ」

「そうだったわ!」

セリカはサーラのいる北側へと走り出した。

「お疲れ様、ヒカル」

「…………」

「……ヒカル?」

「1匹足りない」

ここに到着したときにはいたはずのダブルネックヴァイパーがいない。

ヒカルは「魔力探知」で探れる範囲を広げていく。一気に調べると脳に負担がすさまじいので、直線方向で円を描くように——半径1キロの範囲まで。

「いた! ——え?」

その1キロぎりぎりのところにいた。ダブルネックヴァイパーはとっくに逃げ出していたのだ。その方向を見やると、針葉樹林帯があって山々が見える。道なき道を逃走していったようだ。

すぐにヒカルの探知範囲からいなくなってしまった。

(あんな距離までもう逃げてるのか? 僕らが来てすぐ逃げたってことじゃないか……まだ戦闘らしい戦闘が始まる前だ)

ひょっとしたら、モンスターにも「直感」のような能力があるのかもしれない、とヒカルは思った。

「——どうやらダブルネックヴァイパーは逃げたらしい」

「逃げた? 追わなくていいの?」

「ああ」

いずれにせよダブルネックヴァイパーが逃げていった方角は人の住んでいない山々だ。深く進めば進むほど強力なモンスターが出現するらしい。わざわざ追いかける必要もないだろう。

説明するとラヴィアも納得した。そのころ、残り2匹のうち1匹のギガントロックヴァイパーの生命反応が途絶えるのをヒカルは感じ取った。もう1匹は——なんとこちらに向かって逃走していた。

身体中から血を流している巨大な蛇がこちらに這いずってくる。這いずるとは言っても、一般人が走るよりもはるかに速い。

「取り逃がすなよ……まったく」

サーラとセリカの死角にいることを確認してから、ヒカルはリヴォルヴァーを取り出して引き金を引いた。爆音とともに巨大な火球が現れてギガントロックヴァイパーの頭が炎に包まれる。ギガントロックヴァイパーは巨大な頭を振って暴れたが、やがて動かなくなった。

「うーむ。やっぱりラヴィアが直接魔法を放つ方が高威力だ」

「3割減ってところね」

「そうだな」

倒れた蛇を眺めてそんなことを言っていたヒカルとラヴィアを、やってきたサーラが信じられないような顔で見る。

「倒しちゃったの!? どうやって!? あー、魔法かあ〜」

「そんなところだ」

リヴォルヴァーのことまで明かすつもりはない。ヒカルは適当に答えておいた。

「さて、と……後片付けが面倒だな」