軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

巨馬車の「技術」

ケイティの手配したという巨馬車は、6頭立ての馬車だった。幌のついた車両を2両、連結しているのが特徴だ。

「見たまえ、ヒカル。これは単に2両連結している馬車というだけではないのだ」

ケイティが誇らしげに解説する。

「街道には急なカーブもある。ゆえに車輪部分が独立して左右を向けるよう、可動域が設けられている。また後部車両の取っ手を持って人間が力を加えることで、カーブも自在に曲がることができるのだ」

単に収納空間を2倍にしたというだけでなくいろいろ考えているらしい。

「車輪の動作補助に魔導具を利用している他、座面の揺れを押さえるためのスプリングも魔導具化している。さらに! 骨組みにはエルダートレントの木材を使うことで可塑性を高めることができ、室内には折りたたみ式寝台を備えるなど……」

「とりあえず移動しながらでいいですか?」

「うん? そうか、みなそろったか」

ケイティは残念そうに言った。

どうもヒカルが魔導具に深い関心を持っているのだと思っているらしく、こうして解説が多くなる傾向にある。ヒカルとて興味がないわけではないのだが、ガチの研究者であるケイティほどではない。

「おお、広いな」

巨馬車と言うだけあって、室内はふつうの馬車よりずっと広々と感じられた。

後部車両は荷物置き場で、前部車両が客室となっている。客室は電車のボックスシートのような形で、向かい合わせの6席が2セット、備えられていた。

頭上に、網棚のようなものがあるのでよりいっそう電車っぽさがあったが、これが折りたたみ式の寝台らしい。外でキャンプをせずとも馬車に寝泊まりできるのが特徴だ。

今回は、旅程に余裕を持っているので使うことはなさそうだが。

「それじゃ〜出発するよお〜」

「頼む」

御者台に座ったサーラが馬を操る。彼女は御者の経験があり、動物の扱いにも長けていた。冬に入るというこの時期、里帰りをする人々のために御者は引っ張りだこだ。ケイティは高い金額で御者を雇おうとしていたが、サーラが「無駄遣いすることないよ」と自ら御者役に手を挙げたのだった。

「……しかし、僕以外全員女性か」

ヒカルの隣にラヴィアとポーラ。向かいにはセリカ、ソリューズ、シュフィという東方四星の3人がいる。

ケイティとミレイはもうひとつのボックスシートで横になっている。ふたりとも大急ぎで年間報告書を書いてきたため、この数日寝不足だったようだ。

冬は長いのだからそんなに急がなくても、とヒカルは思うのだが、ケイティは「ツブラで面白そうなことがあったらいつ学院に帰るかわからないからな」と目を輝かせ、ミレイは「そのまま帰省するから」と現実的なことを言った。

「もっと喜べばいいのよ! ハーレムじゃない!」

『セリカは僕のハーレム要員じゃないだろ。というかそういう発言をしないでくれるか? ラヴィアに誤解されたくない』

『あら? それじゃあ誤解じゃなく真実になるようにしてみる?』

せっかく面倒ごとを避けようと日本語で注意したのに、セリカはパチンとウインクしてくる。

『面倒なヤツ……』

『面倒ってなによ! あたしはもう高3なのよ! ヒカルは高1でしょ!』

「ああ、ふたりは 同郷(・・) なんだってね。セリカから聞いたよ」

ヒカルとセリカが話しているそこへ、ソリューズが口を挟んできた。

その隣ではシュフィがポーラに「教会に所属なさっているんですか? 地位は?」などと回復魔法使いらしい質問を浴びせている。ポーラは救いを求めてヒカルを見たが、ヒカルとしては「ノーコメントか、適当にはぐらかせ」と事前に指示した以外、言うべきことはない。頑張れポーラ。

「元々……その、知り合いだったの?」

ラヴィアもヒカルとセリカの関係が気になっていたようで、聞いてくる。

「違うわ! 隣の駅だったけどね!」

その「隣の駅」という感覚はきっと、ソリューズやラヴィアには伝わらないのだろうなとヒカルは思う。この世界で言う「駅」とは馬車の停車駅だ。歩いて20分程度の距離にはなく、1日掛かりで向かう先だ。

「君たちの故郷にはだいぶ面白い文化があったようだね」

「まあ……そうだな。僕から見たら 異世界(こっち) も十分面白いと思うけど」

「そうかな?」

「まず神が実在するということが不思議だ」

正確には「システムとしての『神』が存在している」ということだったが、その辺ははしょって言った。

「神様はいるよ。それが私たちにとって当然の常識だけど……セリカやヒカルにとっては違うのかな?」

「ここまで実利的な神様はいなかったわね!」

「宗教団体はいっぱいあったけどな……」

「神様以外に信仰を捧げる相手がいたということ? 悪魔とか、邪神とか?」

「あー、違うよ。神様がいっぱいいたんだ」

「神様は把握できないほど多く存在していると思うけど」

「そう言う意味じゃなくて……ここまでわかりやく、人間の前に顕現しなかったからね。いろんな神様を想像して、みなバラバラにあがめているんだ」

「へえ……不便だね」

「ああ、不便だったよ」

宗教が引き金となる戦争も多かった。この世界にはそれがない。神託を与えるでもなく、人格があるわけでもないが、明確な実利をもたらす神。

今のところ、ヒカルにとって「神」とはメリットだけを与えてくれる存在ではあった。

「それで、東方四星はフォレスティアを見てどう感じた?」

ポーンソニア王国を出て、移住先を探している彼女たち。

長居したわけではないがそれなりにこの国を見て回ったはずだ。

「……そうだね。正直に言えば、 脆(もろ) い、と感じたね」

ソリューズは言った。

「軍事力という視点において、この連合国は大陸でもいちばん下でしょう。強兵政策を進めたポーンソニアは言うに及ばず、先帝の混乱から立ち直ったクインブランド皇国とも大きく水をあけられている。『強い人間に地位を与える』と公言している多人国家アインビスト、海軍が精強なヴィレオセアンもこの国よりはるかに強いね」

「攻められれば弱い、と?」

「もちろん。これまで攻め込まれなかったのは、国境を接しているポーンソニアやクインブランドが、この国に興味がなかったせいだよね。農耕地は少なく、鉱山は多いけれども冬が長く輸送手段が限られている。となれば無理に攻め込む必要はない」

なるほど、とヒカルはうなずいた。ソリューズのその考えは、これまでヒカルが聞き知ったことと変わらない。

でも、とソリューズは言った。

「来てみてわかったこともあるんだ」

「へぇ、なんだろう」

「街は小さく、武力は低いけれど、文化面が進んでいる。この馬車だってそうだ。ポーンソニアはもっと原始的な馬車を使っているよ」

「学術面で他国を上回っていると言いたいのか?」

「そう言う側面もある、ってだけだけどね。人が少ないから技術を進歩させなければいけないというのはもちろんそうでしょう。だけど、今度はそれが目立つようになると、他国から侵略されるかも」

「ふぅん……」

「さて、そんな連合国だけれど、君たちの故郷では似たようなケースはなかったのかい? 強国に囲まれた小さな国家。それがどう生き延びたかという生存戦略があるのなら是非聞かせて欲しいな」

ソリューズは、地球の歴史に関心があるらしい。

ヒカルとセリカの視線が合う。

『台湾とかかな? 中国の従属圧力をうまくかわしてる』

『あたしは永世中立国のスイスを思い出したけど。ウィーン会議で永世中立国となったのよね』

『あれは国民全員が兵士としている徴兵制だし、ちょっと違う気もするけどな』

少し悩んだが、

「……僕らの生きていた時代では、結局のところ戦争もビジネスなんだ。投資効率が悪ければ戦争をしない。外交で調略するだろうね」

「ふむ。となるとフォレスティア連合国にとって、ポーンソニアやクインブランドが『魅力はあるが攻めたら損をする』と思わせればいいと」

「そうだな。あとは……もっと大きな国と同盟を結ぶ、とかか」

「ポーンソニアを軽く凌駕するような国はこの大陸にはないけど——そうだね、あると想定して、その大国はフォレスティア連合国と同盟してどんなメリットがある?」

「それは——ああ、そういうことか」

ヒカルが納得すると、ソリューズは、

「うん、やっぱり私の考えていたことは間違いではなかったみたいだね」

と花が開くように笑った。

「……なに勝手に納得し合ってるのよ!? 意味不明だわ!」

「ヒカル、どういうこと?」

「あー、さっきの話だよ。この国の強み、それが『技術』だとするなら、技術供与をテコにして大国と同盟を結べるかもね、っていうことだ」

「大国、とまでは行かないけれども、ポーンソニアとクインブランドへの牽制ならアインビストで十分じゃないかしら」

「……はあ、なんだよ。最初から答えは出てるんじゃないか。話し合いをしているフリをして結論を誘導するなんて趣味が悪いぞ」

ヒカルが言うとソリューズは「ごめんごめん」と笑った。悪気はないらしい。

ソリューズはすでに腹案を持っていたのだ。この国が持つべき財産のひとつは技術。技術ならば提供しても減るものではないから、同盟の対価として使いやすい。敵国への優位性を保ったまま、同盟国家に利益を与えられるのだ。

そして同盟先は多人国家アインビスト。獣人王が治めている国だ。

(割と本気でこの国への移住を考えていたということなのかな。ランクB冒険者ともなると、国の外交政策まで視野に入れるんだな)

今までの冒険者はろくなヤツらがいなかったが、ソリューズは一枚も二枚も上手のようだ。

「アインビストと同盟を組んだら、ポーンソニアはフォレスティアへ侵攻しても背後を突かれる可能性がある。これは『ビジネス的に大損』よね。ただ、まだまだ同盟の対価とするには技術力が足りないね」

「今すぐに同盟とはいかないだろうな。できるのなら、最初からしているはずだ」

マルケド女王や筆頭大臣ゾフィーラだってそこまでバカではない。ソリューズのアイディアはすでに検討したことがあるだろう。

「でも、ひょっとしたら——この問題は解決するかもよ? ふたりの力で」

ソリューズはヒカルとセリカを指差して、イタズラっぽく笑った。

「ツブラの遺跡が、他国を動かす切り札になるかもしれないってこと。——もちろん、この国にそこまでする義理がないのなら、技術だけ盗んで亡命するってこともできるけどね」