軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7カ国会議本番

会議は順調に進んでいった。

議事進行を務めるのは連合政府の役人で、必要に応じて筆頭大臣のゾフィーラが説明を加えていく。問題があればその都度発言が許されるが、基本的に毒にも薬にもならないような内容ばかりだから挙手も少なかった。

例を挙げると、

・ウゥン・エル・ポルタン大森林でのモンスター異常繁殖とボーダーザードでの迎撃戦(解決済み)について、褒賞内容の承認

・今年度の秋の収穫における税制調整について(調整値0.1%未満)

・建国記念式典での備蓄放出と残量確認(事後承諾)

・ポーンソニア王国とクインブランド皇国の2国間紛争における現況報告

ポーンソニアとクインブランドの紛争については独自の情報を握っている代表者はにやりとした部分もあったが、追加の情報を出すこともなく、一方的に報告を聞いて終わりだった。

会議は朝10時から始まり、食事の休憩を挟み、夕方5時まで続く。

会議が動いたのは、最終議案・各代表提案内容にさしかかってからだ。

この代表提案は、連合国予算の割り当てを狙って各代表が提案することがある。たとえば今年もコトビ代表が「もっと魔導具制作に予算を割くべきだ」と声を上げるが毎年のことなのでみんな黙殺している。

地域をつなぐ街道の整備や、鉱山の採掘権にまつわる問題、諸国との外交問題などはここでは話されない——結局のところ、冬、「政治の季節」に交渉が行われるのだ。

「よろしいでしょうか」

コトビの錬金王による提案が却下された後、シルベスター=ギィ=ツブラが手を挙げた。

議事進行を預かる連合政府の役人は、

「今の、コトビからの提案に対する意見でしょうか? それともツブラからの代表提案でしょうか?」

「ツブラからの代表提案であります」

このとき、ルダンシャとユーラバの代表は眉をひそめ、ルマニアの代表はじろりと周囲を見た。

ツブラの代表提案など、めったにない——いや、過去に一度もなかったのではないだろうか?

単に「どういうことだ?」と疑問に思った2代表と比べ、ルマニアのビリオン——リーグの父は違った。他の代表の顔色をうかがったのだ。平然としている者は「すでに提案を知っている」ということ。自分の知らぬ間に、根回しが行われているということだ。

(まずいですね)

リーグはここに来て、自分の父がどのように政治の世界で生きてきたのかを思い知らされていた。会話や表情、仕草のひとつひとつが駆け引きの材料なのだ。シルベスターの代表提案は確かに「不意打ち」として成功するだろう。だが、今、リーグの横でビリオンは、「自分がこの代表提案についてなにも知らない」ことを認めた上でキャッチアップ——追いつこうとしている。

「……父上、どういうことでしょうか」

「わからん。むしろお前がなにも知らぬのか。アレは最近、学院に通っておるのだろう」

「申し訳ありません」

リーグは父に寄り添う姿勢を見せる。これは、次になすべきリーグの行動の伏線でもある。

「ジャラザック、コトビは提案内容を知っているな。女王陛下はわからぬが……」

父、ビリオンはすでにそこまで見抜いている。

(焦ってはいけません。私たちにとって有利なのは、父上は——私がシルベスターさんの味方だと知らないこと)

つまり会議の行方は、自分の振る舞いに掛かっているとリーグは自覚した。

シルベスターの提案内容が書かれた用紙が配られていく。「学生連合発足に関する提案」という内容は、すべてリーグが起草したものだ。

会議室が沈黙する。提案内容を知らなかったルダンシャやユーラバの代表は、つまらなさそうな顔で内容を読む。

(思惑通りですね)

一見して「無害」な内容である。学生が学院にいる間により多くの成果を出せるようまとまり、学院に対して意見を出せる協同体を作る——というのが提案の骨子だ。

するとビリオンは、小声で、

「面倒なことを……」

「どうしましたか、父上」

「お前はどう思った?」

質問に質問を返される。ビリオンは、不愉快げな顔だ。どこまでこの「学生連合」の提案内容に関して深読みしたのかがわからない。

(リスクを過小評価するのは止めましょう)

即座に、リーグは決断した。

実はいくつかパターンを分けて考えていた。父がぼんくらである可能性、父が有能である可能性、父が最上の知性を持っている可能性——。

ぼんくらであれば、悲しいが好都合ではあった。有能ならば、難しいが「不意打ち」で勝てる。では最上の知性を持っていれば?

(全力でミスリードするしかありません)

己の責務を果たすために、リーグは言った。

「この提案は危険です。父上もそうお考えなのでしょう?」

「……続けてみろ」

「我々ルマニアは、上位氏族の中でもあまり冴えない若者を学院に押し込んでいます。これは女王陛下肝いりで進めている学院改革に協力する姿勢を見せるため、人員を供出しているとアピールするためです。ですがこの学生連合は、ある意味、女王陛下と我々の間でバランスしている状況を、ひっくり返しかねない第三極を作る可能性があります」

「ツブラの利益はなんだ?」

「学生連合を牛耳ることで、ネットワークを作りたいのでしょう。学院卒業者から情報を仕入れることもできます」

「……ワシの見立てと同じだ。やるな、リーグ」

父のその言葉がほんとうかウソかはわからない。だが、リーグは「ほんとう」だと考えておくことにした。甘く見て足をすくわれたらたまらない。

「父上、発言を任せていただけませんか」

「お前が発言する、だと?」

「私が在学中に、この提案。ナメられているとしか思えません」

ビリオンは、くつくつと喉を鳴らして笑った。それだけだった。それは、「許可する」という意味だった。

「——学生連合を結成することで、より学院生活が向上することと思われます。私も学院に通い始めましたが、いろいろと考えるところがあり、こうして代表提案に至った次第です」

シルベスターが一通り説明をしたところだった。

各国の代表者はそれを聞きながら、側近と耳打ちしたりしている。

「では各地域代表から質問、ご意見などいただければ——」

「発言をお許しください」

「リーグ=緑鬼=ルマニア殿ですね。どうぞ」

リーグが立ち上がり、同様にすでに立ち上がっているシルベスターを見据えると、一部がざわついた。これまでまったく発言していなかったリーグが立ち上がったからだろう。

「学生連合について必要性を感じません」

真正面から反対を表明した。シルベスターがピクリを眉を動かし、不満げに言う。

「なぜでしょう」

「私も学院の学生ですが、現状に不満はありません。不満を持っている学生もいるはいるでしょうが、よほど大きな問題はすでに解決され、存在しているのは細かい不満のみという状況でしょう。その中で新たに協同体を作ることは、学生の権限をいたずらに拡大させ、学院の運用を難しくする弊害が大きいと考えます」

「リーグ殿はご家庭が裕福でおられるがゆえに、不満を感じないのでしょう。大半の学生は学院に不満があり、これを伝える術を持っておりません」

「私は、自らも通っているために興味が深く、学院の運用状況を財務面から確認したことがあります。学院は事務員の雇用に多くの予算を割いており、この事務は、『学生の不満の受け皿として機能している』と学院の年間報告書にも記載されております」

一部で「おお……」と声が上がる。そこまで読み込んでいる学生などいないのだろう。リーグは視界の隅で父を見ると——父は疑問を持ったような顔をしていた。

(……ちょっと都合良く話し過ぎましたか。父上が、私に疑いを向けては元も子もありません……手加減しましょう。難しいですね)

一方でシルベスターは、そこまで突っ込まれるとは思っていなかったのか、わずかに表情を青ざめさせる。「おい、やりすぎじゃないか」とでも言いたげではあるが、抗弁する。

「報告書と実態は違うでしょう。失礼ですが、リーグ殿は自分で事務員になにか不満を伝えたことがありますか? 実際に事務員と接触を持った私の知人はこう言っていました。『事務員は与えられた職務しかこなさず、また身分が保障されているためにまったく創造的な仕事をしない』と」

リーグは笑いそうになるのをこらえた。今、シルベスターが言ったのはヒカルのことだ。ヒカルが事務への文句を言ったことがあり、リーグもそれを聞いていた。

「もしシルベスター殿が仰ったような事実があったとしても、学生の自治に任せるのは感心できません。このように、代表者がそろう会議の場があるのですから、こういった場を活用して学院改善を訴えればよいではありませんか? それが連合国のこれまでの歴史です」

「これまでの歴史で変わらなかったのですから、私は変えたい。だからこその学生連合です。学院の創立理念にもあるでしょう、『創意工夫』『独立独歩』と」

「創立理念には『連合国の調和』という項目もあります。学生連合は『調和』に違反するものになりかねないのでは?」

「それは、リーグ殿があまりに危険視しすぎではありませんか? 未来への可能性を、小さな芽の段階から摘んでしまっては、大樹が育ちません——」

* *

「ねぇ、ゾフィーラ」

「……陛下、会議中に話しかけないでくださいって言ったでしょ」

「いや、だってさ、あのルマニアの若いの」

「リーグ殿」

「そう、それ。あれってこの学生連合を作ろうとしてる側じゃなかったっけ?」

「確かそのように聞いていますね」

「本気でつぶそうとしてない?」

「本気でつぶそうとしていますね。そのように見せているんでしょう。彼の父……まあ、陛下の天敵であるビリオンを騙すにはそこまでやらなければいけないんでしょうね」

「はー。すごいな。負けてないツブラ代表もなかなかやるけどね」

「ある程度筋書きはあったにせよ、本気でやり合ってますね。未来は明るいですよ」

「いやぁ、余には無理だわ。無理無理」

「でもやらなきゃいけないときもありますよ?」

「いやぁ、マジ勘弁」

「ほら」

「え?」

「彼らがこっちにボールを投げようとしています」

スッ、とゾフィーラは素知らぬ顔をした。

「え?」

* *

「創立の理念にそぐうものかどうかは、リーグ殿や私が決めることでありません。最高責任者であられるマルケド女王陛下におたずねしたいと考えます。——陛下、どのようにお考えでしょうか?」

シルベスターが水を向けると、議事進行の役人が「女王陛下、大変恐縮でございますが、ご意見をたまわれますよう、お願い申し上げます」と発言を促す。

マルケドは「え?」という顔を一瞬していたが、すぐに表情を戻す——なにを考えているのかほとんどわからない顔に。

「……ふたりの言い分、よくわかった。この国の学院に、これほど優秀な学生が通っており、その未来について深く考えていてくれたことをうれしく思うぞ」

リーグとシルベスターが、目礼する。

「だがな、ここは連合国。余の意見ひとつで決められるものではない。ある程度、議論が進み、余の意見を求めたというのであれば——多数決で決めるべきではないか?」

リーグの頬が一瞬、引きつった。最終的に多数決に持っていくべきなのは間違いないが、まだ早すぎる。マルケドの横にいるゾフィーラも遠い目をしている。どうやら、マルケドは、演技したまま議論を進めることに慣れていないようだ。あるいは単に面倒になったのかもしれない。

「それがいいですな、陛下! どうもこういう細けぇ議論は苦手だ!」

先ほどからあくびをかみ殺していたジャラザックのアレクセイまで賛成すると、ユーラバの代表者は「バカが」という目でアレクセイを見ていた。目は口ほどにものを言う。

予想外の展開だったがそのまま多数決へと進むことになった。あといくつも議論の柱を考えていたリーグは、がっくりしながら腰を下ろす。

「骨折り損だな」

ビリオンがぼそりと言い、リーグは気の抜けかけていた身体を再度引き締める。

「申し訳ありません……まさかこのまま多数決になるとは」

「まあ、お前の顔を売ったと思えばいいだろう。どうせ女王もあらかじめ丸め込まれていたのだ。そう考えると、お前がどう頑張ったところでこの議案は通る前提だった。ツブラ、ジャラザック、コトビ、それにキリハル。1票でも欠ければアウトだったが、それでも勝ちは勝ちだ」

「……はい」

ビリオンがどこまで見通しているのかがわからず警戒しているリーグだったが、ビリオンはそんな息子を「負けて凹んでいる」と捉えたようだ。

「気にするな。学生連合とやらができたとしても、お前が牛耳ればいい。お前が卒業したあとはルマニアの者が牛耳る。そう筋道をつけろ」

「……わかりました」

思いがけず、父のほうから「学生連合へ入れ」と言ってきた。

「しかし——気になるな。これはツブラの若造が描いた絵なのか? それとも、別で筋書きを書いた者がいるのか……?」

父はやはり鋭い、とリーグは感じた。提案したシルベスターではない、ヒカルの存在まで、すでに気にしている——。

ツブラの代表提案「学生連合創設」は4対3で可決された。運営主体は学生だが、管理主体は学院が行うという形になった。

「実は、もう1件、提案があります」

シルベスターの笑顔によって、ビリオンはますます——ツブラの背後に誰かしらの 頭脳(ブレイン) がついたのだろうという確信を深めたのだった。

ただ、この先までは予想できなかったようだ。

合同結婚式、それにキリハルの名家ザハードの男子と、ルダンシャの旧王家の女子による結婚——この提案は、大もめに揉めた。