軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たな「職業」と屋根裏の訪問者

ギルドカードにはこれまで取得した「職業」が9つ。

【暗殺神:ナイトストーカー】

【隠密神:闇を纏う者】

【投擲神:デッドショット】

【凡混沌神:台風の目】

【森林散歩神:フォレストウォーカー】

【迷宮探査神:ダンジョンウォーカー】

【天道探求神:罪深き者】

【凡市街地夜盗神:タウンシーフ】

【広域市民町民村民救済神:シビリアン】

そして新たに2つの職業が表示されていた。

【広域探知神:グランドソナー】

【下級天ノ遣神:レッサーエンジェル】

ヒカルはボーダーザードを出てからほぼ休みなしでシュスエルカの街へとやってきた。新しい「職業」を試してみるには落ち着いた場所で、と思っていたので、そのチャンスがようやくやってきたということになる。

4文字の「広域探知神」についてはわかる。「探知拡張」を最大の3にまで振ったから出現したのだろう。

経験的に、ヒカルはこの「職業」が相当の効力を持つことを知っている。だから「広域探知神」をギルドカードに設定し、「魔力探知」を使ってみた。

「——おおおおお!?」

割れるように頭が痛い。相変わらずの情報量だ——だけれど確認できる範囲は1キロメートル程度から変わっていない。

「変わらないじゃないか……ん?」

ヒカルはそのとき、探知範囲を「絞れる」ような気がした。

「んんんん?」

ベッドに起き上がり、前方だけに集中する——と、正面だけを確認できた。

わかる。厨房で料理をしている人間、裏路地にいる野良犬、通りを走る馬車、水浴びしているらしき子ども——。

しかも探知範囲を絞り込むことで情報量が少なくなる。頭の痛みはだいぶ軽減される。

「これ、めちゃくちゃ便利だ」

今までは足下や上空など、何者もいない方向まで「なにもいない」という情報が圧縮されて送り込まれていたのだ。上下を抜いた水平に360度で確認し続けても、ちょっと頭が熱いくらいで、続けて発動ができる。

「お、おおお……ヤバ、イ、な、これ……」

誰がどこにいるのかとんでもない広範囲で丸わかりという全能感がヒカルを満たしていく。

「——うっ」

あわてて魔力探知を切った。鼻から血が出てきたのだ。調子に乗りすぎた。

「もうちょっと練習が必要だな……あー、鼻血とかバカみたいだ。ラヴィアに見られなくて良かった……。で、あとは」

ヒカルは布きれで鼻を拭いながらもう一度ベッドに寝転んだ。

「『下級天ノ遣神』ってなんだよ……しかも『レッサーエンジェル』て。そのものずばり『下級天使』じゃないか」

ギルドカードで「職業」を「レッサーエンジェル」に変更してみる。

「…………?」

なにも起こらなかった。

頭に輪っかが乗っかるわけでも、背中に翼が生えるわけでも、手にラッパが現れるわけでも、聖なる気配が湧いてくるわけでもない。

なにも、起こらなかったのである。

「……ていうかなんでこんなのが出てきたんだ?『下級』があるってことは『中級』、少なくとも『上級』はあるんだよな?」

さっぱり、心当たりがなかった。ソウルボードを見ても天使に関係しているような項目もない。

ちなみに「探知拡張」をMAXにしたが、派生スキルはなかった。

「うーん……わからないな。どこかで『職業』に関する研究とかしてないのかな……あるいはこれまでに出現した『職業』をまとめた本とか? 学院に戻ったら調べてみよう」

ソウルカードのシステムができあがってからかなりの年月が経っているから、「職業」に関するなんらかの書物はあるだろう。

この辺りの研究は後回しにして、ヒカルはこれからやるべきことを考えた。

「……にしても、東方四星も面倒な情報を教えてくれたもんだ」

はぁ〜〜〜……と長々とため息をついて、目を閉じる。

夜に備えて仮眠を取るつもりだった。

* *

グルッグシュルト辺境伯領はポーンソニア王国でもフォレスティア連合国に接している土地であるために、冬の訪れは早い。

とは言っても、雪が降るまでにはあと1月はかかるだろうが、今でも夜は肌寒くなるため、一足早く部屋の暖炉には薪がくべられてあった。

これほどの贅沢をしているのはシュスエルカでも数軒の邸宅しかない。シュスエルカを治めるグルッグシュルト辺境伯の邸宅は、その贅沢ができる家だった。

「久しいな、ローレンス」

「お元気そうでなによりです、グルッグシュルト卿。それに——」

騎士団長ローレンスは、暖炉のそばに立つ人物に目をやった。

細身の老人だ。これまで数度、目にしたかどうかという程度だったが——記憶の中の彼と、今の彼とでは明らかに身に纏う空気が違う。

「……ガフラスティ=ヌィ=バルブス殿」

ガフラスティはグルッグシュルトの邸宅に厄介になっている。ここに彼がいることはローレンスも知っていた。知っていて、やってきた。

神経質な学者だと思っていたが、ローレンスを見つめるたたずまいは自然体であり、瞳には叡智があふれているようだった。

(それに……横の女。妙な雰囲気がある)

ガフラスティを守るように立っている女は、どうやら王国の人間ではないらしい。グルッグシュルトから紹介されないところを見ると、単なる護衛のようではあるが。

「今はもう、その名を名乗ってはおらんのだ。ワシは、ガフラスティ=ギィ=ポエルンシニアだ」

現王家の、正統性に疑問を投げかけたガフラスティは、国王の怒りを買ってそれから逃れるためにグルッグシュルト辺境伯を頼った。

グルッグシュルト辺境伯はガフラスティの言葉を信じて今もこうして保護している——それが、ローレンスの知っているすべてだった。

グルッグシュルトから「会いに来い」と手紙を受け、ローレンスは迷った。迷った末、こうしてやってきた。

「ひとりで来たと聞いたが」

グルッグシュルト辺境伯が目を光らせる。白髪交じりの灰色の髪をオールバックにしており、見事なあごひげが生えている。

長年フォレスティア連合国との国境を守っており、戦闘があれば常に先頭で戦ってきた男だ。直接的な武力はないものの、押し出しではローレンスに負けていない。

「はっ」

礼儀正しくローレンスは答える——年齢的にグルッグシュルトはローレンスの倍ほどもあるし、グルッグシュルトの率いる兵団に訓練してもらい世話になったという過去もあった。

「騎士団を動かすとどうしても目立ちます。それにひとりならば往復で3日か4日で済みます」

「卿は守る者がいないほうが強いからな」

「自由を優先した、というだけです」

グルッグシュルトの言うとおり、ローレンスはひとりならば敵に囲まれようとどうにかできる。これが、他の騎士がいっしょだと、全員で生きて帰るということが難しくなる——グルッグシュルトと敵対すれば、だが。

「本題に移りましょう、グルッグシュルト卿。ガフラスティ殿の言葉が正しいのかどうか、私にも納得のいく説明をお願いしたい」

グルッグシュルトが顔を向けると、ガフラスティはゆっくりとうなずいた。

* *

「隠密」を発動したヒカルは天井裏で、3人の話を聞いていた——部屋にいるのは4人だったが、アグレイア=ヴァン=ホーテンスは護衛に徹しているのだろう、まったく話す気配がない。

ガフラスティは、ポエルンシニア王朝の系譜を取り出し説明を始めた。その内容は淀みがなく、王家の血筋にしか反応しない魔力反応もある。説得力は十分だった。真剣な顔で聞いているローレンスの表情は変わらなかったが、言葉少なになっていった。おそらく半信半疑——いや、疑問8割という感じで来たのに、予想以上に信憑性が高かったから驚いているのだろう。

(……変わったな、ジイさん)

ヒカルもまたガフラスティの変化に驚いていた。身体はひょろっとしているが、いつの間に身につけたのか「王家の風格」のようなものがにじみ出ている。

ヒカルは日本にいたときに読んだ本のことを思い出す。日本の政治的なトップである内閣総理大臣。あれは、誰しもがなれるものではもちろんない。だが「適格ではない」者がときとして首相の座に就くことがある。それでも、首相となったときから、その者は身に纏う空気が変わるという。誤解を恐れずに言えば「オーラ」が備わるというのだ。

地位が人間を、その地位にふさわしい人間たらしめるのである。

(ますます面倒になってきたな)

ヒカルとしてはラヴィアと別れて王国に入り、国王に一発グーパンを入れて、二度とラヴィアに手を出さないよう脅し——もとい、説得するつもりだった。だが、東方四星と話していて考えが変わった。

ソリューズが言うには「ポーンソニア王国は混乱している」、と。反国王一派が勢いづいており、グルッグシュルト辺境伯を筆頭に内部分裂してしまった。その台風の目がガフラスティ=ヌィ=バルブスであることは疑いようがなかった。

こんなことになったのは、国王を強力に支えていたモルグスタット伯爵が暗殺されたことにもよるらしい。伯爵暗殺によって貴族たちの力のバランスが崩れ、一発逆転を狙って辺境伯についた者も多いという。

(まるで僕が悪いみたいな言われ方だったが……まあ、多少は責任あるよなぁ……)

内乱が起きてしわ寄せがいくのは一般市民だ。さすがに知らない顔もできないと考え、ヒカルはとりあえずシュスエルカへとやってきた。グルッグシュルト辺境伯がこの国をどうしたいのか確認しようと思ったのだ。

(内乱を治めるとかそこまでは考えてないけど——少なくとも、僕が、枕を高くして眠れるようにはしなきゃな)

部屋では、ガフラスティが説明を終えたところだった。

ローレンスは先ほどから黙りこくっている。

(これは、騎士団長もこっちに傾いたか? 騎士団長がついたら国王ヤバイんじゃないか? いや、逆に言えば一気に内乱終わるかも? ……げっ、そうなるとガフラスティのジイさんが国王になるのか? うーん……)

ひとり、そんなふうに腕組みしていたヒカル。

するとグルッグシュルトが口を開いた。彼が次に言った内容は、ヒカルにとって——あまりに意外な内容だった。

「ローレンス。これは、 あやつ(・・・) の仇討ちでもある」

「……グルッグシュルト卿、まだ気にしておられたのですか」

「当然だ。ワシがそばにいればあんな企みをつぶしてやったものの……あたら若い才能を散らせることはなかった」

深い、深いため息を、辺境伯は吐いた。その重い後悔によって彼は一気に10は老け込んだようにすら見えた。

「 ザラシャ子爵(・・・・・・) が死ぬことはなかった……。『世界を渡る術』を研究していた、彼の息子…… ローランド(・・・・・) と言ったか。少年は、行方不明なのだろう? できれば保護してやりたかった」