作品タイトル不明
250、アレクサンドリーネの貞操
私は朝から二時間かけてカスカジーニ山へとやって来た。いつだったか命を狙われたこの山に。
降り立った場所もまさにそこ。カースによって輪っかのように焼き尽くされて、未だに草も生えていない。それより内部ではある程度木も生えてきているのに。
ここから歩いて山を降りながら狩りをしよう。今日は大物に出会えるだろうか。
昼。やはりただ歩いているだけで大物なんてそうそう出会えない。これでは弱いものイジメの小遣い稼ぎでしかない。あれをやるしかない……か。
私にできるのだろうか?
確かにトビクラーやガルーダにも勝ってきた。でもそれはカースが見ていてくれたから。決勝戦で限界以上の力を発揮できたのもカースが一番近くで見ていてくれたから……
私は、弱い……
『豪炎』
カースの火球は岩でも鉄でも溶かすのに、私の豪炎では立木を炎上させるのがせいぜいだ。魔力をしっかり込めてもその程度なのだ。果たしてどの程度の大物が来るのだろうか。
来た!
あれは……ヒクイドリ! くっ、厄介な……
血と火を好むのはトビクラーだけど、こいつは火を好む。私程度の炎にすら反応して寄り付いてきたのか……少し嬉しくなる。
「ギョアァーー!」
速い! 『氷壁』
嘴まで真っ赤な頭部、それ以外は黒い。濡羽色って言うんだったかしら……
全長二メイルに満たず、トビクラーやコカトリスに比べると随分と小さい。だからその分素早く……鋭い!
「ギャオガァーー!」
くっ、氷壁を貫か……『水壁』
なんて鋭い嘴なの!
ギリギリ間に合った……危うくお腹を貫かれるところだったわ……制服は裂かれてしまったけど……
逃げられた……水壁に閉じ込めてやりたかったけど、あっさり逃げられた。なんて速さ……とても氷弾や氷球を撃ち込むことなんてできない。
こんな時カースだったら……
そうよ……カースだったら……
やってやる……カースならきっとこうする……
『氷壁』
『氷壁』
『氷壁』
「ギョアァーー!」
羽を矢のように飛ばしてきた。私の氷弾ほどの威力があるようだけど、氷壁に角度をつけておいたので上手く弾くことができた。途切れなく撃ち込んでくるけど……今のうちに魔力を練らないと……魔力を……
『ダーイヒー ムーケンジョ ウーショガ ホーシゲン クーミョーブル キウ 刹那(せつな) たる氷の脅威よ 大気を 襲(かさ) ね 凍結せしめ 源空(げんくう) を満たせ……吹雪ける氷嵐!』
ここら一帯を獄寒の嵐で覆い尽くす! いくら素早くても避けきれるものか! ほらやっぱり……
「ギョアァ!」
目に見えて勢いが衰えてる。それでもしつこく私を狙ってくる。『氷弾』
だめか……それでもまだ避けられてしまう……もう少しなのに! かなりの広範囲を対象にしたせいで……魔力……残りが……
「ギュアッ!」
嘴で突っ込んできたかと思えば足!? くっ!
危なかった……なんて鋭そうな爪なの……『氷散弾』当たった! バランスを崩してる! 今しかない!
『氷弾』
『氷弾』
『氷弾』
「ギュウヴァァ……」
落ちた……でも、まだよ……収納するまでは油断できない……
「おい、いたぜ!」
「おっ、こんなとこにいたかよ」
「案外上まで登ってやがったか」
「ここなら邪魔は入らんな」
「おーおー派手にやらかしてやがんぜ」
なっ!?
ゾロゾロと現れた冒険者風の男達。目の前には五人だが、おそらくもっといそうだ。
私は……目の前の魔物に夢中で……これだけの人間が近付いていることにも気付けなかったのか……今の残り魔力では……
逃げようか、この距離ならまだ逃げきれる……
「おーっと逃げんなよ?」
「逃げたらお前のお友達が酷い目にあうぜ?」
「そうそう。あのかわいい子が可哀想な子になっちまうぜ?」
「おっ、うまいねぇ」
「おらぁ! 分かったら脱げや!」
まさか、こいつら私の体目当て? こんな危ない山の中で!? 正気なの? 他にも大物が来るかも知れないってことすら分からないの?
『氷散弾』
「いって!」
「くそっ!」
「おい! やっちまうぞ!」
ちっ、二人しか仕留められなかった。
『氷弾』『氷弾』
「ぐあっ」
「くおぁっ」
残り一人!
「これを見ろ! 知らねーぞ!」
『氷弾』
終わった。何を見せたかったのか知らないが、私だってクタナツの女。人質は効かない。
それなりに魔力庫の中身をばら撒いているが、回収の必要があるのはギルドカードと現金ぐらいだろうか。魔力の残量が危ない……もう帰らなければ……
「痛っ!」
首に? まさかまた吹き矢?
嘘? 体が痺れる? 動かない!? 魔力があまり残ってないから抵抗できない!?
「やっと大人しくなったかよ」
「高い金払っただけあるよな」
「全くだぜ」
「見ろよあの顔! いつも余裕かましてるクセによ!」
「ギャハハ! ザマぁねーなー!」
「闇ギルド特製の麻痺毒だぜ! お貴族様御用達の高級品だぜ?」
「好きだろ? 高級品はよぉ!」
「そんなオメーにはさらにプレゼントだ! なんとこの首輪! 金貨五枚もしたんだぜ?」
「高級品だぜ! ありがとうございますって言えよ!」
「バーカ! 麻痺して喋れねーよ!」
「よーし! んじゃ俺からだからよ! 見張りを頼むぜ!」
「仕方ねーなー。早くしろよ!」
「どうせ早ぇーに決まってんだろ!」
なぜ、これだけもの人数が……
なぜ、私はそんなことにも気付かず……
カースがいないと周囲を警戒することすらできないなんて……くっ、首輪が……
「おーおー! あれってヒクイドリじゃねぇ?」
「マジかよ! こいつぁいいや! 貰っておいてやんぜ!」
「こりゃあツイてたぜ! いい値で売れるもんなぁ!」
「おう! 誰が解体しとけや! 俺がやってる間によぉ!」
「バカか! 十秒で解体なんざできるかよ! やった後にてめぇで解体しろよ!」
「ギャハハぁ! 早くやれやぁ! 後がつかえてんだからよ!」
「おら! さっさと脱がせろや!」
私が仕留めた獲物まで……
いや、獲物だけじゃない……私の命まで……
「おい! こいつ生意気に泣いてやがるぜ!」
「ハーッハァー! いいねいいねー! その顔が見たかったんだぜ!」
「いつもいつも男を舐めやがってよぉ! そんなに舐めたいんならいくらでも舐めさせてやるからよぉ!」
「ベイルリパースだ? ノーブルーパスだ? 知るかよそんな店!」
「カァーこいついいコート着てやがるぜ!」
「おーおーそんなコート着て呑気に狩りですかぁ? お貴族様は優雅ですなぁ?」
「オメーら喋ってねーでさっさと脱がせろや!」
「あぁ? てめーが先なんだろうが? てめーで脱がせろや!」
「なんなら俺が先でもいいぜ? お手本ってやつを見せてやるぜ?」
「どっちでもいいから早くやれや!」
「くそっ、脱がせにくいコート着やがって!」
「オメーの手際が悪ぃんだよ。どら、どいてみろ」
何の抵抗もできない……
カース以外の男に……
なのに舌も噛めない……
カースから借りてるコート、真っ白なコートが剥ぎ取られていく……
「やっぱこいついい体してんなぁ!」
「そんなセリフは全部脱がしてから言えや!」
「手を止めるんじゃねぇよ! さっさと脱がせろや!」
「うるせぇな! 俺ぁゆっくり脱がせる派なんだよ!」
「そうそう、焦んじゃねぇよ。どうせこの女は今日から俺らの奴隷なんだからよ!」
「そうそう、いつでもやり放題だぜ?」
「闇ギルド様様だな!」
一体何を言っている?
私が奴隷?
今日から?
殺す気はないの?
甘いやつら……
それならそれでいい……
今日を生き延びられるのなら……いつか絶対皆殺しにしてやる……
「うひょー! きれいな肌してやがんなぁ?」
「さすがお貴族様だぜ!」
「高そうな下着つけやがってよぉ!」
「とっとけよ? 売れんじゃねぇ?」
「どこにだよ? 古着屋か?」
「青髪変態貴族とかによ?」
「オメー冴えてんなぁ!」
「さーて、ようやく最後の一枚だぜ」
「上下とも黒のレースかよ! いやらしい女だなぁ!」
「期待してたんだろ? 男に捨てられて寂しくてよぉ?」
「ほーら言ってみろよ? 寂しいから男が欲しいですってよ!」
「だから喋れねーって。早くやれや!」
カースにしか見せたことがないのに……
いいわ……私の純潔はすでにカースに捧げた。
やるならやれ。
こいつらの顔は絶対忘れない!
何年経とうと……必ず殺す……
「あっ……」
「ん? どうした?」
「なんだこいつ! 脱がせてもないくせにもうイッちまったの?」
「ギャハハ! 早すぎだぜ!」
「まあいいや、イッたんならどけや。まさかもう一回とか言うなよ?」
「おい、さっさとどけや! 次ぁ俺だぞ!」
臭い……
汚い男が私の上にのしかかって動かない……
やるならやれとは覚悟はしたけど……
カース……ごめんなさい……
「さっさとどけって!」
「まだやんのか?」
「あれ? こいつ……」
「おい! 死んでんぞ!」
「この女ぁ! やりやがったな!」
私ではない……
できるはずがない……
ああ……
こんな時に……何でこんな時に来てくれるのよ!
カース!
「お前ら皆殺しだ。」