軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

揃ってくたばれ

「……答えられない、か」

顔色がとても悪くなったイレネ、呆然と立ち尽くしているカディル、座り込んで何も発言すらできなくなっているヘンリックをそれぞれ見て、ヴェルンハルトは大きなため息を吐いてから、手を伸ばしてぐっとリルムを抱き寄せた。

「まぁ良い、こんな奴らと縁続きになってしまうことはとんでもなく嫌なことではあるが……リルムが手に入ることで我が国は大変潤う。ついでにフェリシア嬢、そしてその一族、また、彼女らと志を共にする者らを連れて、俺は国へと帰るとしよう」

「ま、待ってくれ!」

「何だね」

「リルムを……いいや、姉上を連れていくなど、やめてくれ!」

そのカディルのあまりに身勝手ともとれる発言を聞いて、ヴェルンハルトはひくりと口元をつり上げた。

「……は?」

よくよく見れば、額に青筋まで浮かんでいる。

「(ヴェルンハルト様、お顔が)」

「(ああすまんなリルム、これほどまでに愚か極まりないクズだとは思いもよらず、つい)」

「な、何をこそこそと!」

内緒話をしている二人を見てカディルは大声を出したが、リルムが冷たい視線を向け、冷え切った声音で言葉を続けていく。

「……今まで人の名前を呼び捨てにしていたくせに、今更姉上呼びとか気持ち悪いんだけど」

「ぐっ」

「大体ね、陛下が王命を使ってわたくしから王太女の地位を奪ったのを、どうやったら『譲った』とかいう思考回路になるの。お前がそうやって周りに言いふらしているのを、しっかりとこちらは聞いているんですからね! それと、王命を使われた以上、こちらには何にもできないことぐらい、その粘土でも詰まっていそうな頭で考えたらいかが!?」

まさに弾丸。

ここぞとばかりにカディルに対して口撃を仕掛けるリルムは、どこか目がきらっきらしている。今まで溜まりまくっていたうっぷんを晴らす絶好の機会、と思っているのだろう。実際うっぷん晴らしにちょうどいい機会を狙っていたのに、カディル本人が用意してくれたのだからリルム的にはラッキー、なのである。

「そ、そんな風に言うことはないだろう!」

「……まだ言う? ねぇヴェルンハルト様、この国ごと滅ぼしてくださらない? しかとお力添えさせていただきますので!」

「何でそうなるんだよ!」

「喧しい! 馬鹿が王族名乗って、真実すら見抜けないクソ貴族しかいないような国なんて、百害あって一利なしでしょうが!」

「リルム嬢が望むなら、全力で戦争をふっかけるが……」

ここで、ヴェルンハルトがちらりとフェリシアに視線をやる。

はて、とフェリシアが首を傾げつつ、そちらに近寄って背の高いヴェルンハルトを見上げながら問いかけた。

「わたくしに何か御用でして?」

「フェリシア嬢はどう思う」

「まぁ、わたくしは愛しき友に従うまでです。自分が何でもできるとか妄想しかできない大馬鹿者のいる国、どうせいずれは滅びるのですから、早々に息の根止めればいいだけのことですものね」

にこー、ととても可愛らしく微笑んだフェリシアの背後に、何となく恐怖を感じたカディルは慌てて次の作戦へと移るべく口を開いた。

「で、ではフェリシア! お前を俺の側妃にして……」

「嫌ですわ、気色の悪い妄言をお吐きにならないでくださいまし」

カディルの言葉を遮っての一刀両断。

ズバリと切り捨てられたカディルは、へなへなと父ヘンリックのようにその場にへたり込んだ。

「嘘……だろう……?」

何をもってまだそんなことを抜かしているのだろう、と考えていたら、フェリシアよりもリルムよりも、ヴェルンハルトが行動に移した。

「いい加減にしてくれ鬱陶しい!」

そう叫んだかと思えば、リルムのことを抱き寄せたまま、フェリシアにも当たらないように気を配ったうえで、カディルの顎を狙ってつま先を思いきり振り上げ、ごず、と鈍い音を響かせた。

「……まぁ、見事な蹴り上げ」

ぱちぱち、とフェリシアが拍手をする後ろから『お馬鹿!! なーに楽しそうにしているの!!』とミシェルの怒りの声が聞こえてきたので、フェリシアはこほん、と咳払いをした。

ヴェルンハルトの足は綺麗にカディルの顎をとらえ、的確にヒットしたものだから、その場でへろりと完全に伸びてしまっている。何とも間抜けな……と笑いをこらえるのに必死なリルムだったが、フェリシアは口元を扇で隠して笑っている。

フェリシア側の貴族たちの中にも、数名必死に笑いをこらえている者がいるのだが、リルムが一人ぶふっ、とふき出してしまったことで、理性は呆気なく崩壊した。

「あっはっは!! いやお見事!!」

「見事な体術!」

「周りにも当たらないように配慮もなさっておりますなぁ!!」

伸びきってしまった王太子、もとい婚約者を、イレネは呆然と見ている。

ここまで何も反論していないところを見ると、反論したくてもできない、が正解ではあるところなのだが、カディルがこんなにあっさりと蹴り飛ばされた挙句に気絶させられるとは予想もしていなかったのだろう。

「……よくも……カディル様を!」

「あらあらまぁまぁ、そんな極悪人のようなお顔、聖女様とは到底言えませんわねぇ」

イレネが自分の手をかざしてまがい物の力を振るおうとした、そのタイミングに合わせてフェリシアは素早く能力を発動させる。

勿論、狙いはイレネの手の甲にある傷跡。

「さぁ、お戻りなさいませ。そして、己の愚行をほんのわずかでも良い、後悔なさいませね!」

的確に、正確に、イレネの手の甲の時間を戻してしまえば、そこにあったはずの傷跡は消えていく。みるみるうちになくなっていくそれを、イレネは消さないでと言わんばかりに体で庇おうと必死になるが、そんなことをしてみても無駄なのはわかりきっているものだ。

「あ、ああ、あああああああ!!」

すぅ、と静かに消えていった手の甲にあった刻印もどき……もとい傷跡に、イレネの悲鳴が大きく響く。へたりと尻餅をつき、嫌だ、どうして、と泣きじゃくるイレネを見ても、フェリシアには何の感情も湧き上がってこない。

続けて、フェリシアはイレネの元へと歩いていくと、彼女の目の前にしゃがみ込んでから、両肩をがっちりと掴み、ずい、と顔を近づける。

「ひっ!」

「まぁいやだ、人をお化けみたいに」

「ば、化け物でしょう!? この魔女! お前なぞさっさと処刑してやっていれば、こんなことになんかならなかったのに!!」

「あら……化け物はそちらだというのに、まだ吠えるのね」

「……へ?」

何を言っているのだろうか、と愕然としているイレネにしか聞こえないようなほどの小さな声で、フェリシアはわざとゆっくり言葉を紡いだ。

「お前……本当にハイス侯爵家の娘の、 イ(・) レ(・) ネ(・) なの?」

「…………は?」

ひくり、とイレネの頬が引きつる。

フェリシアが何を言っているのか、イレネは意味が分からなかった。

だって自分はハイス侯爵家の大切な娘で、そして聖女。更には王太子カディルの婚約者で、まさにこのゲームのヒロインたるに相応しい存在ではないか、……などとは言えないが、何がどうあれハイス侯爵家の娘なのは変わらない、とイレネは思っている。

「いやお前、何、言ってるの、よ」

「何、って」

フェリシアはイレネの肩を掴んでいる手に、ぎりぎりと力を込めていきながら言葉を続けた。

「……ハイス侯爵夫妻は、お前のことを疑っているのにねぇ……?」

「!?」

ぎょっとして、イレネは己の両親を探す。

きっとこの場に来ているはずだ、と思って目を忙しく動かすが見当たらない。

「探しても無駄よ」

「……!」

「貴女のご両親、貴女を捨てたもの」

「………………はぁ?」

何でもないことのように告げてきたフェリシアに、イレネは何を言っているのだろうか、と考えるが、思考回路が停止している。

両親がどうして自分を捨てるのか。

まさか、カディルと婚約したのを疎ましく思っていたとでもいうのだろうか。

どれだけ考えてもイレネには思い当たる節はない。

どうして、何で、と必死に考えていたのだが、フェリシアはそんなイレネを見ながらとても楽しそうにまだまだ言葉を続ける。

「ふふっ、思考が追い付いていない? でもごめんなさいね、事実なの。それとね、貴女のご両親から泣きつかれて、必死に頼まれればそれを叶えてあげないといけないかな、って思ったのよ」

もう、イレネは声が出せなかった。

フェリシアの放つ雰囲気に呑まれ、フェリシアから目を逸らせずに無言のままで彼女の言葉を待つことしかできなくなっていた。

「『本当の娘を返して』、ですって」

無邪気に告げるフェリシアに、イレネは目を見開いた。

「(……どこで、ばれた)」

心臓の音が、どくどくと煩い。

一体フェリシアがこれから何をしようとしているのか、予想できそうで出来ない。

イレネはフェリシアに対して、ただただ、恐怖しか抱けないままだった。