軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグB クマニーサンの解説講座 <マスター>と第一次騎鋼戦争編

□王都アルテア<天上三ツ星亭> レイ・スターリング

俺達の食事会&質問タイムはまだ続いていた。

「じゃあ次の質問、この世界での俺達の立場について」

『と言うと?』

俺はリリアーナの言動を思い返しながら質問する。

「リリアーナが俺のことを「<エンブリオ>に選ばれた<マスター>」とか何とか言ってたんだよ。プレイヤー、とかじゃなくてさ。正直この世界での俺達プレイヤーの立ち位置、設定がまだ掴めてないんだけど」

どうも、あっちは俺をゲームプレイヤーだと思っていなかったように感じる。

『んー、その辺は公式サイトの背景設定とか読むとわかるが……あれは読むと数時間は時が吹っ飛ばされるから手短に教えよう』

そう言って兄の解説講座、世界設定の部が始まった。

『この世界には<マスター>とティアンがいる。そして俺達プレイヤーは全員、ここでは<マスター>と呼ばれている。意味は『<エンブリオ>に選ばれし者』とかそんな感じだ』

そういえばネメシスも俺のことをマスターと呼んでいるな。

『<マスター>は<エンブリオ>に選ばれ、育て、使う者だ。<マスター>の力は絶大であるが、代わりに一つの制約を負っている』

「制約?」

『頻繁に、“別の世界”にその身を飛ばされてしまう』

……ん?

『<マスター>は短くて数分、長ければ数日から数ヶ月もの間、この世界から消失することもある。また、消えた場所に戻ることもあればセーブポイントと呼ばれる特殊な場所に飛ばされていることもある』

いや、それって……。

『しかし<マスター>は死の瞬間にも<エンブリオ>の力でその身を別の世界に飛ばして生きながらえることが出来る。ただしその場合だと最低三日は帰ってこない』

「それってつまり、プレイヤーのログアウトがデスペナルティも含めて……この世界の根幹設定に盛り込まれているのか?」

『そうなる』

「……はー」

開発者も考えたものだ。

リリアーナやミリアーヌと接した限り、彼女達の思考は生身の人間と同レベルに思える。

そんなティアン達にこの世界をゲームだと自覚させずに動かすため、プレイヤーの現実への帰還や不死性を世界の理で定義している。

なるほど、中々どうして。

『ちなみに「この世界はゲームなんだぞー」と触れて回るプレイヤーもたまにいるが、そういうのはティアンから「別世界に飛ばされて気が触れた可哀そうな<マスター>」扱いされるな』

「……あー」

『それと不定期に消える<マスター>はほぼ国の要職には就けない。【 騎士(ナイト) 】の職に就くために騎士団とか入っても、通常の仕事ではなく<マスター>用の仕事を回されたりする』

つまり、途中で不定期に消えても大丈夫な仕事だけ任される、と。

『ま、戦力としては<エンブリオ>分だけ強いから、回ってくる仕事はむしろティアンの仕事より高報酬なパターンが多いけどな』

一人で化物退治してこいとか言われるのかな。

さて、システム面での大きな疑問は解消された。あとは……。

「兄貴、リリアーナと前に何かあったのか?」

『何のことか分からんクマー?』

「誤魔化すなよ。リリアーナは明らかに兄貴を知っている風だったぞ」

付け加えれば、あまり良い印象は持っていなかったようにも思える。

「何したんだ?」

まさか手でも出したのか?

それこそ『イエーイ、本物の女騎士クマー。たまらんクマー』とか言いながら抱きついたとか。

『何もしてない』

しかし予想に反し、兄は真面目な口調で応えた。

『何もしてないから……恨まれているんだろうよ』

「どういうことだ?」

何もしてないのに、どうして?

『また長い話になるぞ。しかもさっきまでと違って面白くはない』

「構わない」

そう答えると、兄はフゥとため息をついてから話し始めた。

『現実時間で二ヶ月、ゲーム時間で半年前に戦争があった。機械皇国ドライフからアルター王国への侵略戦争だった』

機械皇国ドライフ。

プレイヤーが開始時に選ぶことのできる所属国の一つで、このファンタジー世界において異端にも機械文明が発達した国だったはずだ。

……身内に戦車乗っているらしいクマがいるから異端とか言えた義理じゃないけど。

『国としての理由は肥沃なアルター王国の領土を手中に収めるため。ゲームとして言えば――戦争イベント』

戦争イベント。

それも解説書に書いてあった。

国家間の大規模戦闘であり、所属国同士の命運を賭けたビッグクエストだったはずだ。

『<マスター>とティアンが入り乱れての大決戦。ま、中々起きないイベントだし目玉の一つでもあった……が』

兄貴はそこで溜息をつく。

『結果はアルター王国の惨敗。領土の三分の一を失い、ティアンでは宮廷魔術師でもあった大賢者、騎士団の半数、そして国王が死んだ。つまり国家運営の主要人物の多くが戦死したってわけだ』

「……何でそんなにボロ負けしたんだ? ドライフってそんなに強いのか?」

いや、それは考えにくい。

現実ならともかくゲームなのだから戦力バランスくらいとってありそうなものだ。

『国単位の力は互角だったよ。国力、兵士のレベル、主要人物の戦闘力もな。だがしかし、その上に乗っている<マスター>の力は別だ』

「つまり、ドライフのプレイヤーが多すぎてその差で負けた、と」

ドライフは如何にも好きな人は凄く好きそうな国だし、プレイヤーが沢山集まったのかもしれない。

だが、それならこのアルター王国だって……。

『いや? 負けた理由はアルター王国で戦争に参加可能だった<マスター>の多くが参戦しなかったからだ』

「何?」

予想外の言葉だった。

国の命運が掛かっているし、目玉イベントなのに?

なぜ参加しなかったんだ?

『アルター王国の国王は何というか、古い人物でな。「国の窮地である。今こそわが国に所属する戦士たちよ奮い立て!」みたいな演説をぶちあげて自ら前線に立ったのはいいが、それだけだった』

「それだけ?」

『褒賞がなかった。国に属する者ならば今この窮地に立って当然、と言うわけだな』

……国の存亡掛かっているから仕方ないだろうけど、少しケチな気もする。

中世っぽい国だからそれで普通なのだろうか。

『当然ながら、<マスター>……プレイヤーはこの世界を楽しんではいてもこのゲームに命を預けてはいない。死のうが国が滅びようが、24時間ログインできなくなるだけだ。だから、得るものがなければ国の窮地でも参加をする意味はないと考える者も多かった』

俺などは逆に戦争に参加して死んでもプレイヤーはログイン制限だけなのだから参加しようと思う口だが、それは人それぞれだろう。

戦闘中に使う回復アイテムの経費は掛かるし、他プレイヤー等の強敵と戦って武具が壊れればそれだけ大きなマイナスなのだから。

『この件に関しては、敵対するドライフが明確に褒賞の基準を定めていたのも大きいな。具体的には……』

それは破格であったらしい。

アルター王国兵を倒せば一人につき5000リル。

<エンブリオ>持ち……つまり<マスター>なら50000リル。

さらに主要人物を倒せば別途レアアイテムや国内での優遇など様々な特典が与えられたそうだ。

その結果、ドライフのプレイヤーの士気は上昇し、反面アルター王国のプレイヤーのモチベーションは著しく下がった。

『一部のプレイヤーの間では「ドライフ側で参加したい」、「国が潰れたらレアなイベント起きるかも」なんて声まで上がっていた』

「…………」

ゲームプレイヤーとしてその心情を理解できなくはない。

できなくはないが……。

『そして大敗北の決定打はアルター王国の<三巨頭>……討伐ランキング・決闘ランキング・クランランキングのトップランカーが全員参加を見送ったことだ』

「ランキング? そんなのあるのか?」

『あれだ』

そう言って兄は窓から外を指し示した。

この店は兄との待ち合わせに使った噴水広場に面している。兄が指差したのはあの噴水……の先にある立派な掲示板だった。

『あれがアルター王国のランキング掲示板だ。ゲーム時間で三ヶ月毎に更新される』

現実では一ヵ月毎か。

『討伐したモンスターの成果を競う討伐ランキング。対人戦闘システムの成績を競う決闘ランキング、クランの規模を比較するクランランキング、それぞれのランカーがトップから三十人ずつ掲示される』

「へぇ」

『それと大事な話として、戦争に参加できるのはあのランキングに入っているやつだけだ。もっとも、クランランキングに関しては30位以内のクランのメンバーなら全員が参加できるから、傭兵みたいな形で一時的にクランに入り戦争に参加するって真似ができるけどな。実際、ドライフの<マスター>はそうした』

……なるほど。

しかし何にしても、あのランキングに入らなきゃプレイヤーは戦争に参加できない、と。

そして先の戦争の折、各ランキングの頂点に立つトップランカー達、通称<三巨頭>は参加を求める王国に対してこう言ったらしい。

討伐ランキングトップである名称不明の【 破壊王(キング・オブ・デストロイ) 】は「大規模イベントに参加して不用意に顔を晒したくない」、と。

決闘ランキングトップである【 超闘士(オーヴァー・グラディエーター) 】フィガロは「雑な戦いに興味はない」、と。

クランランキングトップクラン<月世の会>のオーナーである【 女教皇(ハイプリエステス) 】扶桑月夜は「国との交渉で折り合いがつきませんでしたので」、と。

結果、他のランカーも元より低くなっていた参加へのモチベーションがさらに失せた。

負け戦になるのが目に見えていたのだろう。

そうして、多くのランカーを欠いたまま戦いは始まった。

参加したのは少数のランキング入りクランと、そこに間借りしたリリアーナなどの人気NPCのファンクラブのメンバーや純朴なプレイヤーばかりであったらしい。

結果は……惨憺たる有様だった。

戦場の光景は蹂躙としか言いようがなかった。

プレイヤーの数の違いと、何より致命的だったのはドライフ側のトップランカーは全員参加していたことだ。

ドライフ皇国討伐ランキングトップ、【 獣王(キング・オブ・ビースト) 】名称不明

ドライフ皇国決闘ランキングトップ、【 魔将軍(ヘル・ジェネラル) 】ローガン・ゴッドハルト

ドライフ皇国クランランキングトップ、<叡智の三角>オーナー【 大教授(ギガ・プロフェッサー) 】Mr.フランクリン

三人の内の二人は<超級エンブリオ>の<マスター>でもあり、その戦力は絶大だった。

ドライフ側のトップランカー三人により、有力NPCであった当時の近衛騎士団長や大賢者は殺害され、王も討たれた。

『そのまま行けば間違いなく亡国一直線だっただろうな。しかし領土の三分の一を呑まれたところで、ドライフに対して第三国であるカルディナが侵攻を開始。ドライフ側は攻め落とした領土の駐留軍以外は本国に撤退したため、ギリギリでアルター王国は生き延びた』

ただし、もうカルディナはドライフから撤退しているし、あと数ヶ月もすればまた攻めてくるだろう、と兄は続けた。

「…………」

……なるほど、たしかに面白くはない話だ。

この街、この国が既に死に掛けていたとは。

「リリアーナに恨まれている、っていうのは」

『俺もあそこのランキングに載ってはいても参加しなかったランカーの一人だよ。戦う力があるのに参加しなかったから嫌われているんだろ。戦死した前の騎士団長はリリアーナとミリアちゃんの父親だったらしいしな』

「……全く」

本当に、面白くない話だ。

「で、面白くない話を聞いたところで御主はどうする気かのぅ、マスター?」

今まで飯を食ってばかりで話に参加していなかったネメシスが、俺に問うている。

「どうするも何も、ね」

ドライフが攻めてきたときどうするか、……まぁ、現時点で腹の中は決まっている。

「しっかし、いくら褒賞が出ないからって参加しないってのはどうだろうな。出費があっても参加する価値はありそうなもんだが」

ゲームのイベントとして見ても、な。

『ま、その通りではある。しかし、あのときのプレイヤーの風潮はむしろケチな国に対するボイコットの向きが強かったからなぁ。ひょっとするとドライフはその空気を作るために破格の褒賞を用意したんじゃないかって気もするぜ』

だとすれば、アルター王国は実際に戦う以前に戦略でドライフに負けていたのだろう。

「兄貴は何で出なかったんだよ。やっぱり褒賞なかったからか?」

『……俺の場合は武具破壊=素顔バレなんだよ』

「…………」

ああ、うん。

それはまぁ、デカイ問題ではあるけどさ。

『ま、あれからこの頑丈な【はいんどべあ】も手に入れたから、今度は出るさ』

たしかにその着ぐるみのステータスは防御力補正や物理ダメージ軽減が凄まじかった。

どう見てもネタ装備だけど。

『ただ次やるとしてもあっちは国力を更に増強しているし、こっちは弱体化しているわけだから厳しいかもな』

「弱体化?」

『敗戦してから『亡命イベント』で別の国に籍を移すプレイヤーが多くてな。NPCでも国を出るのがいるくらいだし、ネットの専用掲示板でも『アルター王国はオワコン』『オワタ』みたいなことはよく言われる』

「…………」

亡命と難民と蔓延する諦観。

リアルに国が潰れる流れじゃんそれ。

『この間の更新でランキングも七割入れ替わったしなぁ』

「ふぅん」

逆に言えば、今はランカーになる機会でもあるのか。

「なら、その辺りから始めるかな」

話を聞いていて方針が定まってきた。

いや、方針は同じだが、目標が増えた。

「新たな目的が決まったかの?」

ネメシスの声に、俺は頷く。

「今のままだと出来ることは少なそうだし、その戦争にも参加できない」

だから……。

「まずはレベルを上げて……ランカーでも目指してみようか」

◆◆◆

■地球 某所チャットルーム

参加者 ― 教授

【将軍がInしました】

【じゅうおうがInしました】

参加者 ― 教授、将軍、じゅうおう

教授:こんばんはぁ

将軍:今晩は

じゅうおう:こん

教授:お二方とも

教授:私が<Infinite Dendrogram>で送った映像は見ていただけましたか?

じゅうおう:みた

将軍:だからここにいるのだろうが

教授:そうですよねぇ

教授:さて、今回の有力ティアン潰しですが一言で言ってしまえば

教授:失敗ですねぇ

将軍:失敗だな

教授:私があのダンジョンに放流しておいたアレ

教授:デミドラグワームの群れは全滅ですねぇ

将軍:そもそも作戦に穴があったのではないか?

将軍:ターゲットの妹に虫除けの香を渡して果樹園に誘導

将軍:そこでターゲットを罠にかけるという作戦自体にな

教授:本来ならまた別の段取りだったんですけどねぇ

教授:なぜかレムの実が市場から消えてしまいまして

教授:私が作戦に使う分まで無くなっていたんですよねぇ(笑)

教授:残念です

教授:毒入りのレムの実を妹ちゃんに渡して

教授:お姉さんを毒殺してもらう予定だったのに

教授:妹「おねえちゃんおめでとー」

教授:姉「ありがとー、ぐはっ」

教授:妹「おねえちゃーん!」

教授:ってなるはずだったのに本当に残念ですよねぇぇぇぇ!?(泣)(笑)

将軍:お前の残念は問題ではない

将軍:問題は、変更後の作戦が潰されたことだ

教授:怖いですよねぇ、あのクマ

教授:百近いデミドラグワーム相手に単騎で

教授:かつ“無傷で”勝つだなんてねぇ

教授:一体で上級職一人分ですのにねぇ(笑)

将軍:あれは然程でもない

将軍:レベルを上げた強者なら可能……俺にもできることだ

将軍:だが……ジョブなしのレベル0でデミドラグワームを倒す

将軍:そんなふざけた真似が出来た覚えはないな

教授:おやおや、では将軍閣下はあのクマではなく初心者を警戒ですか?

将軍:フッ……潰すのが楽しみだ

教授:相変わらずのテンプレ悪幹部ロールですねぇ

教授:私もですけど!(笑)

将軍:抜かせ。これが素だ。

教授:(笑)

将軍:しかし、悪と言われて否定も出来んな

将軍:国が滅びる、このゲーム初の一大イベント

将軍:それをドライフが、否、我々が達成する機会が待ち遠しいのだから

教授:ま、前回は主要人物と一部の領土で終わって消化不良でしたからねぇ

将軍:近衛騎士団長は戦っていて楽しかった

教授:国王はつまんなかったですねぇ

教授:あれなら兵士大盛りの方がマシです

将軍:大賢者は……じゅうおうが潰したんだったか

教授:あれ凄かったですねぇ。流石はうちの最高の戦力です

将軍:おい

教授:ああ、はいはい。将軍閣下とじゅうおうの二人が最高戦力ですねぇ(笑)

将軍:フン、まあいい。次の戦争で証明してやる

将軍:今度こそ、アルター王国の息の根を止めてな

教授:ええ、是非に見せてもらいたいですねぇ(笑)

将軍:ところで、じゅうおうはずっと無言だが、何か言うことはないのか?

じゅうおう:クマが、すごく、かわいかった

将軍:……………………

教授:……………………(笑)

将軍:……じゅうおうのセンスは分からん

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