軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグA クマニーサンの解説講座 生理現象と<エンブリオ>編

□王都アルテア<天上三ツ星亭> レイ・スターリング

その日の夕飯は兄が行きつけの店を予約していた。

そこはプレイヤーが経営している店で、普通に食事を出すだけでなく材料を持っていけば調理もしてくれるのだとか。兄は事前に山ほどの食材を渡しておいたらしい。

『じゃあレイの初イン&初クエストクリアを祝って、かんぱーいクマー』

「「かんぱーい」」

兄はレム酒(レムの実の果実酒)、俺とネメシスはオレンジジュースに似た飲み物で乾杯した。

<Infinite Dendrogram>はプレイヤーの国籍ごとに年齢制限を参照しているらしく、俺は二十歳になるまでゲーム内でも酒を飲めないらしい。

細かく言えばえっちぃのがR18、酒とタバコがR20だそうだ。

健全と言うべきか、それらがある時点で不健全と言うべきか。

「むぅ、お子様なマスターの影響で私まで酒が飲めぬのぅ。こちらの時間で六年、長いのぅ」

「見た目だけで言えばお前はこの中で二番目に飲んじゃいけない見た目だけどな」

一番は兄。色んな意味で。

クマの着ぐるみがジョッキで酒呑んでいる。

『モグモグモグモグ。さーさーじゃんじゃん食べるクマー。ニク食えニクー。モグモグモグモグ』

兄はテーブルに載った料理を食いながら俺達にも勧めていた。

ていうかその着ぐるみは着たまま飲み食いできるのか。変なところも高性能だな。

「はいはい、っ! なんだこれすげえ美味い!」

勧められた見知らぬ料理を食べてみてその味に驚いた。

未知の食材と未知の調理法で出来ているが、なぜか理解できる美味さにまとまっており、その上で超美味い。

『ここの店主は【 料理人(コック) 】のトップクラス、【 天上料理人(スターシェフ) 】だクマー。鍛え上げた料理スキルは現実世界風に言えば三ツ星クマー』

「しかし、こんなにご馳走食ってから現実に戻るとギャップに苦しみそうだな」

現実の俺はそろそろ夕飯時で腹が空く頃だし。

「そういえば、現実世界の俺は寝転がったままなんだよな?」

『そうだな、この世界では眠ること以外は現実に影響を及ぼさない。ちなみにこの世界で六時間眠っても現実では二時間眠っていることになる』

その辺をもうちょっと詳しく。

『例えば現実の一日はこちらの三日間だな。この世界で十八時間起きて六時間眠りを三日繰り返すと、現実では六時間起きて二時間眠りを三回繰り返して丸一日過ごしたことになる。ゲーム内でも眠らない限り、脳は起きているからな』

つまり、現実で夜寝る前に<Infinite Dendrogram>始めて一晩ずっとインしていても眠ったことにはならず、眠い目をこすって学校や会社に行くことになる、と。

『それと、トイレや空腹といった現実側の生理現象も安心だ。何かあればアナウンスが来る』

言われてすぐ、視界の端にウィンドウが開いた。

【アナウンス 尿意】

【アナウンス 空腹】

なるほど。

「じゃあ一回ログアウトするわ」

『おー、なるべく早く戻ってくるクマー』

「早く戻ることだ。マスターが戻らねば私も食事にありつけぬからのぅ」

「はいはい」

そうして俺は『メインメニュー』から『ログアウト』画面を選択した。

【ログアウトします】

【次回ログインポイントはセーブポイントと現在位置のどちらにしますか?】

「現在位置、っと」

【承知しました】

【またのご帰還をお待ちします】

そうして俺の体がこの世界から消失し、夢が覚めるように俺の意識は<Infinite Dendrogram>から遠退いていった。

「……おお」

<Infinite Dendrogram>からログアウトして、俺はまず時計をチェックした。

時間は俺がゲームを始めてから三時間弱。

本当に1/3しか進んでいない。

少し感動してからトイレに行った。

それからゲーム内で少し食事はしていたものの現実の肉体は当然のように空腹を訴えていたので、スティック状のバランス栄養食とミネラルウォーターで栄養補給しておいた。

念のため携帯の着信などもチェックしたが着信件数はなし。PCでニュースサイトも見てみるが目立った事件は特にない。

かれこれ一○分ほどして俺は再びログインした。

『お帰りクマー』

「……おい」

戻ってくるとテーブルの上の料理が一変していた。

どうも最初の料理は全部食ってしまったらしい。

……一人でそれだけ食うって本当にクマかこの兄は。

「ぬわー!? 楽しみだったアラカルトが消えているではないか!」

そして俺のログインと同時に実体化したらしいネメシスが悲鳴を上げた。

「ぬわー」ってなんだ、「ぬわー」って。

『安心するクマ。まだまだ料理は沢山あるクマ。これでまだ1/10くらいクマ』

「多すぎだろ!? 何十人分だよ!」

俺の<エンブリオ>がネメシスじゃなければ二人しかいなかったのに何でそんなに用意してるんだ!?

「……まぁ、いい。ところで兄貴、まだいくつか聞きたいことがあるんだけど」

『この着ぐるみの入手法クマ?』

「違う、……いやちょっと気になるけど、違う」

気になったのはシステム面でのことが二つとリリアーナのこと。

まず聞きやすいほうから聞くか。

「<エンブリオ>って進化すると形変わるんだよな」

『そうクマー。うちのバルドルはドンドン兵器っぽさが増していったクマー。あとでっかくなったクマ』

あのガトリング砲もかなりサイズがあったと思うけど……あれで第二だよな。それ以上のサイズってもう持てないじゃないか。

『ちなみにお披露目できなかったけど、今日使った第四は戦車型クマ』

「戦車!?」

そんなのもアリなのか!?

「……俺のネメシスもそのうち今の人型から別の姿になるのか? それこそ、戦車とか」

横で飯を食っていたネメシスが「縁起でもないのぅ」とびびっていた。

『<エンブリオ>の進化はマスター次第だが、お前のネメシスは基本ずっとメイデンだろうよ。“withアームズ”は別のタイプに変わるかもしれないが』

「そういや剣に変わっていたけど、ネメシスってどういう扱いなんだ?」

『だから、アームズ型に変形するメイデンの<エンブリオ>ってことだ。メイデンは基本、ハイブリッド……複数タイプ混成型だからな』

「へえ」

何だかちょっとお得そうだ。

ネメシスが「お得な女とは何だー!」と文句を言っているが。

『知り合いに一人、お前と同じでメイデンの<エンブリオ>を持った奴がいるが、そいつは基本がメイデンのままwithの方は色々変わったなー。今は< 超級(スペリオル) エンブリオ>に到達しているし』

<超級エンブリオ>?

『<エンブリオ>の第七形態の別の呼び方だ。<エンブリオ>には大きく形態が変わる時期が三度ある。第0から第一の孵化。第三から第四の上級進化。第六から第七の超級進化だ。現状ではこの第七形態が<エンブリオ>の最終到達段階と言われている。上級の限界を“超えた”から<超級エンブリオ>だ』

「最終到達段階、<超級エンブリオ>」

うちのネメシスもいつかそうなるのだろうか。

まだ第一形態なのでそこまで辿り着くのにどのくらいかかるかわからないけど。

『ちなみに<超級>まで到達したプレイヤーはこの世界全体でも百人いないと言われてるな』

プレイ人口数十万の<Infinite Dendrogram>で百人未満?

どれだけ険しい道のりなんだよ……。

「廃人すぎるだろその人達」

『全員がプレイ時間だけで成ったわけでもないさ。発売日に始めてまだ成っていないのは大勢いるし、始めて半年で成ったのもいる』

何か特殊な要素でも必要になるんだろうか?

「あ、そういや兄貴って発売日組らしいけどどこまで進化してんの? 今って第何形態?」

『ヒ・ミ・ツ、クマ』

うぜえ。

あとこのクマ兄が解説では普通に喋るけどこっちを茶化すときにクマ語尾入れるのが分かってきてそれも鬱陶しい。

ちなみに俺とクマ兄が話す横ではネメシスが皿の上の料理を全て平らげていた。

……いや、お前の話をしていたんだけどね。

To be continued