軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十五話 規格外

■決闘都市ギデオン中央広場

中央大闘技場の入り口前には、中央広場と呼ばれる開けた空間がある。

平時は屋台や大道芸などで賑わい、大闘技場そのものと合わせてギデオンの名所の一つとなっている。

しかし、ギデオンでも屈指の大イベントが開かれた夜だというのに、今の中央広場は屋台が蛻の殻で、大道芸人も一人としていない。

それも当然ではある。

フランクリンの始めたゲームによってギデオン全域が混乱に陥っている。

この中央広場にいた人々も、蜘蛛の子を散らすように騒ぎの中心点である大闘技場から逃げ去っている。

しかし、代わりに集まってきた者たちもいる。

それは四十人前後の<マスター>と彼らの連れたテイムモンスターと奴隷達だ。

彼らは一様に戦闘準備を整え、大闘技場の入り口を警戒し、囲むような配置で封鎖している。

彼らは、大闘技場の中で暴れるフランクリンのモンスターが街に出てくるのを警戒している訳ではない。

むしろ、ギデオンを包む混乱を収めようとする<マスター>を……排除するための準備をしているのだ。

彼らはフランクリンの駒の一つであり、スポンサー――ヴィゴマ宰相との電話では彼らのことを“寝返り組”と呼称していた。

その呼称が示すまま……彼らは王国の<マスター>であったが、皇国へと亡命することを望んでいる者達だ。

理由は簡単で、利益のためだ。

戦争が再開し、終結したときに……戦勝国にいるのと戦敗国にいるのでは利益がまるで違うのだから。

ゆえに王国の情勢の悪化に伴い、他国へと亡命しようとする<マスター>は引きも切らない。

中には「亡命する前にドライフにとっての手柄を立ててから移住する」という<マスター>もそれなりにいる。

彼らのように。

負け犬にはならず、勝ち馬に乗るために。

彼らはフランクリンが好条件での亡命を餌にして今回の計画に参加させた王国のPKやPK予備軍の<マスター>だった。

「フッフ、奴さん達も低レベルなら抜けられることに気づいたらしいな」

入り口から闘技場のロビーの様子を窺いながらドラゴンの革鎧を身に着けた寝返り組が言葉を発する。

「あら。何もしないままいけると思ったけど、やっぱり出番あるのね」

応えるのは司祭服を身に着けた女。

「ヒャッハー! 釣瓶打ちだぜー!」

それと真っ赤な髪をモヒカンにしてサングラスを掛けた……それでいて魔術師風の格好をした男だった。

彼らはこの中央広場に集まった寝返り組の中でも特にレベルが高い三人。

【 剛剣士(ストロングソードマン) 】ライザック。

【 司教(ビショップ) 】みゃんな。

【 紅蓮術師(パイロマンサー) 】モヒカンレッド。

彼ら以外の寝返り組のレベルは100以上だが、彼らは三人とも合計レベルが300を超えている。

また、旧知の仲でもあったため彼ら三人がこの一団のリーダー格として振舞っている。

もっとも、彼らが寝返り組の中で一番強いというわけではない。

寝返り組の<マスター>にも種類がある。

優秀な戦力を持つ者。

あるいは凡庸であるが亡命を希望する者。

それらの内、前者は闘技場からあぶれた上級戦力の撃破に当てられている。

そして戦力に劣る後者は、この闘技場から出てくるであろう下級のルーキー達を掃除するために配置されている。

つまりこの広場に集められている状況こそが、フランクリンの中での彼らの戦力評価が然程高くないことを意味している。

「さぁて、 お仕事(クエスト) の時間だな」

評価こそは不服であったが、それでも彼らは自分達を幸運だと考えていた。

なぜなら、比較するまでもなく楽な仕事だからだ。

下級職よりも上級職、<下級エンブリオ>よりも<上級エンブリオ>の方が明らかに強いのだから。

格下だけを相手取ればいいこの仕事は、誰がどう考えても簡単だ。

「ヒャッハー、出てくるぜぇ!」

ロビーの様子から、ルーキー達の準備が済んだらしいと寝返り組は判断する。

その人数は凡そ二十人少々。

(勝ったな)

ライザックが内心でほくそ笑む。

単体での戦力は言わずもがな。数の上でも倍近いこの状況で負けることはない。

ライザックはそう考えた。

「レッド、連中が出てきたら範囲魔法をお見舞いしてやれ」

「ヒャッハー! 汚物は消毒だぁ!」

モヒカンレッドが呪文の詠唱を始める。二十秒ほどで準備が整い、下級職程度では耐え切れない威力をお見舞いすることだろう。

(多少は中の連中の支援魔法で強化されているんだろうが、その程度じゃまだ下級と上級の差はうまらねぇ)

ゆえに、これから始まるのは一方的な殲滅で、戦闘とも呼べないものだ。

ライザックはそう考えて――その考えを崩された。

「なんだ?」

勢いに任せて飛び出してくるかと思われたルーキー。

しかし結界から出ず、その内の一人がなぜか右手だけを結界の外に出している。

そして、

「《地獄瘴気》、全力噴出」

そのルーキーが右手に着けた手甲から、黒紫の煙が猛烈な勢いで噴出した。

その煙は、結界に阻まれて闘技場の中には入らなかったが、中央広場には蔓延し――寝返り組の四割近くが体勢を崩した。

「な、これ、は……」

ライザックの簡易ステータスには【酩酊】の状態異常が表示されている。

パーティメンバーのステータス表示を見れば、ライザックの掛かっている【酩酊】以外にも【猛毒】や【衰弱】に掛かっている者もいる。

「さ、三重状態異常の毒ガスだと……!?」

ライザックは狼狽する。幸いにもライザックは装備していたアクセサリーのお陰で【猛毒】と【衰弱】には掛かっていない。

だが、問題はそこではない。

「何でそんな装備を……下級のルーキーが使えるんだ!?」

それは当然の疑問だ。

装備にはレベル制限がある。

ましてや、「同時に三つの状態異常をかける」など、上級の呪術スキルにも相当するスキルが備わった装備は、本来なら下級が装備できるものではない。

ライザック達のレベルでも厳しいだろう。

だが、例外がある。

それは、その装備がMVP特典であった場合だ。

特典武具の性能は、元となった<UBM>に依存する。

そして、特典武具はMVPとなった者であるなら何の制限もなく使用できるものだ。

もっとも、普通は低レベルでMVPとなる事態がありえないのだが。

「ぐええ……」

「おい! 【 快癒万能霊薬(エリクシル) 】だ!」

「え、でももったいない……」

「馬鹿野郎! こんな状態で戦ったら下級相手でもデスペナ食らうぞ!?」

寝返り組の足並みが乱れる。

元より寄せ集めのPKとPK予備軍、連携など望むべくもないが、予想外の展開に早くも崩れかけている。

【快癒万能霊薬】の使用も本人ならばともかく、連れているモンスターや奴隷への使用をコストから躊躇い、【ジュエル】に戻すことで解決する者も多くいる。

当然、戦力は目減りする。

「チッ!」

しかしその中でも高レベルの三人は<Infinite Dendrogram>暦が長い分だけ判断が早く、早々に【快癒万能霊薬】を服用して状態を回復する。

(やられたな。恐らく連中も闘技場内の上級連中から【快癒万能霊薬】を提供されているだろう。そうしてバフ込みの万全以上の態勢で、状態異常に苦しむこっちを討つ手筈か!)

だが、そうはいかないとライザックはモヒカンレッドを振り返る。

そこには巨大な紅い火球を完成させたモヒカンレッドの姿があった。

(よし、これで今度はこっちが相手の出足を挫く!)

そうして黒紫の煙幕の中、闘技場の入り口で何かが動く気配がする。

それは多くの者が結界を出る気配。

ルーキーが動いた、そう考えて対処しようとしたライザックは……自身の想像と違うものまでも動いているのをすぐに感じ取った。

(何だ、デカイぞ!?)

そうして黒紫の煙幕を突き破って現れたのは――重戦車の如き竜であった。

【 三重衝(トライホーン・) 角亜竜(デミドラゴン) 】。

亜竜クラスのモンスターであり、特殊能力を持たない代わりにステータスは特に高い種族ではある。

ライザックも同種族を倒したことはあるが……。

「何で下級がこんなもん持っていやがるんだ!!」

それがここで出てくることは、やはり想定外であった。

闘技場内の上級から貸与でもされたのか、とライザックが考えている間に、

「VAMOOOOOOOO!!」

【三重衝角亜竜】が雄叫びを上げながら猛然と突進する。

行く手には未だ状態異常から回復していない寝返り組の<マスター>がいる。

「レッドォ!」

「《クリムゾン・スフィ」

ライザックの指示に、モヒカンレッドが詠唱を終えていた【紅蓮術師】の 奥義魔法(クリムゾン・スフィア) を亜竜へと放とうとする。

だが。

「――《断詠》」

“亜竜の背中”から聞こえた涼やかな声と指を弾くような音。

それが響いた瞬間、モヒカンレッドが詠唱を終えていたはずの《クリムゾン・スフィア》は、亜竜を葬らんとした大魔法は嘘のように雲散霧消した。

直後、亜竜は何の妨害もなく【酩酊】と【衰弱】によって反撃の態勢すらままならない<マスター>を轢き潰した。

「レッド!」

「違うぜぇ! 今、俺の魔法をキャンセルした奴が……」

<マスター>を轢き潰した亜竜は今も暴れ続けている。

それだけでなく、いつの間にか亜竜クラスの大怪鳥が出現し、上空から火炎を吐き続けている。

そうして混迷がさらに度合いを深めたとき、煙幕を破って今度こそルーキー達が寝返り組を攻撃する。

(戦力を見誤ったせいで随分先手を取られたな。だが、まだだ。まだこっちの戦力が勝っている!)

ライザックの判断は正しい。

いかに想定外の装備を持ち、上級職相当のモンスターを従えていようと、総力の差は歴然だ。

この場にいる戦力のレベルを合計して比較すれば、それこそ二倍や三倍では利かない。

勝てる。この戦力差があれば間違いなく勝てる。

そう考えたライザックの判断は……至極正しい。

「下級の<マスター>が来たわ!」

「やってやらあ!!」

寝返り組の<マスター>である全身鎧の男と狩人服の女が迫るルーキーを迎撃しようと武器を構え――

「え?」

「あ?」

お互いの武器で、お互いの急所を攻撃した。

鎧男の斧は狩人女を袈裟切りにし、狩人女の放った矢は鎧男の喉を貫いた。

そうして二人は訳もわからぬまま重傷を負って膝を突き……後続のルーキーに倒された。

「何が起き……あぁ!?」

何が起きたのか。

ライザックはすぐそれに気づいた。

パーティメンバーのステータス表示に、【 魅了(・・) 】の二文字が追加されていたからだ。

【魅了】。敵を助け、味方を殺す。精神系状態異常の中でも最悪の部類の一つ。

また、病毒系ではなく精神系であるがゆえに、たとえ【快癒万能霊薬】を飲んでいようと逃れる助けにはならない。

この戦場で【魅了】にかかっているのは先の二人や、ライザックのパーティメンバーにとどまらない。

他の<マスター>、連れていたモンスター、奴隷。

徐々に【魅了】は拡大し、既に本来寝返り組の戦力だったはずの者が過半数、“敵”に回っていた。

下級で上級を相手取るのは困難。然り。

素の戦力で劣る上に数で不利ならば勝利は困難。然り。

ならば戦力を借り受ければいい。

どこから?

決まっている。

相手から(・・・・) だ。

「【魅了】……【魅了】だと!? 馬鹿な!」

ライザックが馬鹿なと口にするのも無理はない。

彼らは曲がりなりにも上級職であり、装備を整えている。

無論、状態異常を警戒してそれらを無効化するアクセサリーも装備している。

事実、【猛毒】と【衰弱】をライザックは防いでいる。

しかし、<Infinite Dendrogram>における状態異常の種類は膨大であり、全ての状態異常に対策を打てるわけがない。

そうして防ぐべき状態異常の取捨選択を行ったとき、この戦場における防ぐべき対象から真っ先に外された状態異常の一つ……それが【魅了】だった。

なぜならば、【魅了】を引き起こすスキルは【女衒】など少数の非戦闘職でしか習得できない。

上級ならばスキルを得るため、あるいは同じく【女衒】の《女魔物強化》で【従魔師】の《魔物強化》の効果を強めるため、【女衒】を修めることも稀にあるだろう。

だが、合計レベル50以下……つまりはほぼ一職目から【女衒】を選択した非戦闘職が、この戦場に飛び込んでくるケースなど……彼らの誰も想定していなかったのである。

「ああ!? 【女衒】の《雄性の誘惑》は女にしか効かないはずだろう!? 何で男まで!」

「知るかよぉ!!」

彼らのもう一つの想定外。

それは【女衒】だけでなく、【魅了】を引き起こす力を持った<エンブリオ>までもがいたこと。

自然界で【魅了】を使うモンスターはいずれも強力で、テイム難易度も高く、値も張り、やはり下級職が易々と入手できるはずはない。

しかし、<エンブリオ>が淫魔ならば話が別だ。

その淫魔は、戦場の混乱の隙間を縫いながら、少しずつ男を魅了していった。

「みゃんなぁぁ!! 回復だ! 【魅了】の回復をぉ!!」

ライザックは高レベルの【司教】であるみゃんなに呼びかける。

彼女の有する回復魔法スキルならば、【魅了】にかかった者達を回復させられるはずだと考えて。

しかし、それに応える声はなかった。

「どうした! やられたのか! みゃんなぁ!?」

やはり返る声はなく、【魅了】の回復も行われない。

パーティを分けてそれぞれがレベルで劣る他の<マスター>を率いていたために、みゃんなの状態を察することがライザックには出来なかった。

しかし、何の返答もないことからこの襲撃の内にやられてしまったのだろうと結論づけた。

(なんでだ、なんで、勝てる勝負だったはずだ……!)

圧倒的有利から、五分五分……否、不利へと落ち込んだ状況は、ライザックを悩ませた。

しかしそれでも、熟練した彼の体は思考しながら自分へと向かってきたルーキーの<マスター>を一振りで切り伏せる。

(そう、まだだ。まだ負けちゃいない。まだ俺と、レッドがいる!)

ライザックはそう考えて気を取り直し、剣を振るう。

「ヒャッハー! 今度こそ消毒だぁ!」

また、モヒカンレッドも再度の詠唱を終えて《クリムゾン・スフィア》の発動準備を完了させていた。

「《クリムゾン・スフィア》!!」

今度は邪魔が入らなかった。

モヒカンレッドは最大威力の魔法を、一人の<マスター>へと撃ち放った。

それは先ほど結界越しに瘴気を吐き出したあの手甲を嵌めた<マスター>だ。

モヒカンレッドは先刻の仕返しも兼ねて一瞬で消し炭にしようと狙いを定めていたのだ。

完全に注意が逸れている隙を突いたため、《クリムゾン・スフィア》は狙いを過たず直撃する。

「ヒャッハー! 消毒だぁ!」

手甲の<マスター>が炎に包まれる。

炭さえも残らず光の塵になる。

モヒカンレッドはそんな一秒後を想定し、

「ッ!」

炎の中から飛び出してきた<マスター>に、肉薄された。

「ひゃは?」

モヒカンレッドは目の前の現実に、呆気にとられた。

そして手甲の<マスター>の懐から、壊れた【身代わり竜鱗】が落ちた直後、

「《 復讐するは(ヴェンジェンス・) 我にあり(イズ・マイン) 》!!」

ただの一撃で、250以上レベルが勝るはずのモヒカンレッドを消滅させた。

「れ、レッドォォォォォォォォ!!!?」

あるはずがない光景だった。

自分同様に、この場では破格の高レベルだったはずのモヒカンレッドが、遥か格下のルーキーに一撃で倒されたのだ。

「な、なんで、こうなる!」

まだ剣は振るえる。

しかし、頭は極限まで混乱し、口は思考を駄々漏れにする。

「俺達は上級の集団だったはずだ……。それもステータスも、<エンブリオ>の進化段階も格上だった……。それが、何でこんなに一方的に、ありえない……」

もはや残る戦力は半数以下。

残存戦力も四割が【魅了】されている。

最大戦力の一人であるモヒカンレッドを失った今、中央広場の寝返り組は瓦解したも同然だった。

「……ま、まだだ! 俺はまだ負けちゃいない!」

必死で己に活を入れ、高レベルの【剛剣士】として眼前の敵を切り伏せていく。

(勝つために、ドライフ皇国に寝返ろうとしたんだ。ここで負けたら、あべこべだ……!)

必死に、必死に目の前の敵を倒す。

それがルーキーであるのか、【魅了】にかかった元仲間であるかは最早判別が付いていない。

敵として向かってくるものを迎撃していた。

「ッ!」

そんな折、強敵が現れた。

銀色の全身鎧に身を包んでいる……否、《看破》によってその銀色の全身鎧が【ミスリルアームズスライム】という名のモンスターであると察する。

(そうか、液体金属系スライムを鎧のように纏っているのか。これは頑丈そうな相手だ……だが!)

ライザックは己の剣――TYPE:アームズの<エンブリオ>に手を添える。

そして宣言する。

「《 枢崩斬硬剣(デュランダル) 》!!」

それはライザックの<上級エンブリオ>、デュランダルの必殺スキルの使用。

デュランダルの必殺スキルは、同じく<上級エンブリオ>であったフレーズヴェルグやポセイドンのそれとは異なる。

あれらが一撃の技に込めるタイプであったのに対し、デュランダルの必殺スキルは強化だ。

これより一分間――デュランダルに切れないものはない。

【ミスリルアームズスライム】が如何なる硬度強度を持とうとも、それを切り裂いて内部の<マスター>を斬殺できる。

「イクゾォ!!」

ライザックの踏み込みに反応し、【ミスリルアームズスライム】は刃付きの触手を振るう。

それは上級前衛の速度に匹敵するか上回るものであったが、《枢崩斬硬剣》の副次効果で筋力と速度が上昇したライザックに見切れないものではない。

ライザックはデュランダルを二度振るい、触手を容易く切り飛ばし、敵手の懐へと潜り込む。

そうしてさらに一度、相手の胴を薙ぐように剣を振るう。

「終わりだ」

極限にまで切れ味を高めたデュランダルに、手応えはない。

しかし確実に【ミスリルアームズスライム】の防御を容易く破り、内部の人間を真っ二つにした。

胴から下が、【ミスリルアームズスライム】の半分ごとボトリと落ちる。

【ミスリルアームズスライム】の上半分はそれでも動き、断面から流れる血を止血しようとする。

(無駄だ。もうデスペナルティは確定してい、る……………………)

【スライム】の体積は、止血のために移動した分だけ他の部分の面積が減った。

そうして、スライムの中にいた<マスター>の顔部分の【ミスリルアームズスライム】が退けて、その顔が顕わになる。

――その顔は ライザックの(・・・・・) 仲間である(・・・・・) 【 司教(・・) 】 みゃんな(・・・・) のものだった。

猿轡(・・) のように口いっぱいに【ミスリルアームズスライム】を詰められている。

さらに【ミスリルアームズスライム】の内側で身動き一つ出来ないように拘束されていた。

仲間の姿と自分が仲間を真っ二つにしたことにライザックの思考が空白化したのは一瞬。

その一瞬で、足元に落ちた【ミスリルアームズスライム】の体積の半分が槍状に変形。

――股間から脳天までライザックを貫通した。

「ォゲ?」

急所への致命傷を受けて、ライザックのHPが全損する。

蘇生可能時間の分だけわずかに意識が繋がっているが、主要臓器の損壊が激しくそれも長くはない。

「混乱すれば、隙だらけ。それに、急所へのクリティカルヒットなら即死を狙える」

ライザックがデスペナルティ直前に見たのは、【ミスリルアームズスライム】が擬態した鎧から解放されて光の粒子になるみゃんなと……仕事を終えた【ミスリルアームズスライム】が這い寄る少年の姿だった。

「うん、教えてもらったとおりだね」

まるで雪の妖精のように美しいその少年は、戦いの序盤に流れたものと同じ涼やかな声で【ミスリルアームズスライム】に話しかけている。

「隙さえ出来れば、相手が格上でも当てられる。スパーリング通りだね。今度はちゃんとやれたよ、リズ」

少年の姿は美しいはずなのに。

その微笑が、今のライザックにはこの上なく恐ろしい。

(ああ、畜生)

消えながら、ライザックは考える。

(こんな奴が、こんな連中がルーキーにいるって分かっていたら)

こんな真似はしなかったのに……そんな後悔の念を抱きながら、ライザックはデスペナルティとなった。

リーダー格たる最大戦力三人を失って間もなく、中央広場の寝返り組は壊滅した。

そうして中央広場を突破したルーキー達は街の各地に散り、モンスター撃破の応援とフランクリンの捜索に向かう。

この戦いはこの夜の緒戦に過ぎない。

しかし、この戦いは本来ならばルーキー側が勝利しうるものではなかった。

この中央広場の戦いは寝返り組にとって無数の想定外があったが、それは突き詰めればたったの二つ。

レイとルーク……二人の規格外の存在に他ならなかった。

To be continued