軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一九〇話 ラストダンス part3

□■ギデオン上空二万メテル・《舞踏会》

【MGD】バージョンⅡ。

バージョンⅠよりダウンサイジングし、動力炉を使わずとも十全に戦闘機動とスキル発動を賄える仕組みになっている。

バージョンⅡは言うなれば決闘型。

人間サイズと一対一で戦うための……より正確に言えばレイと戦うためのバージョン。

それは能力にも言える。

自身と 対象(レイ) を上空二万メテルに隔離する結界、《舞踏会》。

この《舞踏会》は外部から発見できず、内部では装備スキルを使えない。

頼れるのは自前のステータスとジョブスキル、そして<エンブリオ>だけ。

そして、身体の表面を構成するのは液体金属スライム。

多少のダメージを受けても形態を損なわず、さらには斬糸による切断攻撃も可能。

そして、接触時の自切によってネメシスの要たる固定ダメージを命に届かせない。

フランクリンが己の考え得る全力で生み出した、レイ・スターリングの天敵。

そんなバージョンⅡとの戦いの中で、レイも気づいていた。

自分の手札、バージョンⅡの仕様、《舞踏会》という結界の効果と残り時間。

そして、フランクリンが【契約書】に掲げたパンデモニウム落下の条件。

それらの情報から、レイが辿り着いた一つの結論。

――パンデモニウムの落下は防げない。

そんなどうしようもない現実だった。

◇◆

そして、《舞踏会》の展開から……三十分。

「…………」

フランクリンの眼前には、彼女の望んだ光景が広がっていた。

「――――」

レイ・スターリングは、結界の上に膝をついている。

彼の全身はボロボロだ。

これまでの戦闘によって身に着けた鎧は砕け、体中に幾つもの痣と斬痕が刻まれている。

第二形態を支えにし、スキルで【出血】を反転させることで失血死を防いでいるが、最早戦うことは難しい。

それでも、彼はこの短くも長い戦いをよく耐え抜いた。

圧倒的に不利な条件で、時間が尽きるまで戦い続けた。

だが、ここまでだ。

フランクリンが《叡智の解析眼》で見た彼のHPは既に一割程度。

MPが尽きたので回復魔法が使えず、所持した回復アイテムの類も枯渇したらしい。

満身創痍、打つ手なし。

そして、フランクリンを乗せたコクピットを腹に抱える【MGD】はほぼ万全の状態。

どう見ても、間もなく始まるパンデモニウムの落下を防ぐことは叶わない。

レイ・スターリングは……詰んでいた。

フランクリンの【MGD】は設計通りにレイ・スターリングを完封し、勝利したのだ。

「…………」

しかし、その勝利にフランクリンの心は何も動かない。

この上ない喜びや感動があると期待していた訳でもないが、仇敵に勝利した今という時に、想像以上に 何も感じていない(・・・・・・・・) 。

思えば、バルサミナを嵌め殺したときもそうだった。

相手への対策を万全に積み重ね、完封して、勝利して……けれどその勝利に何も感じない。

むしろ、準備段階の方が心は動いていた。

その準備の末に勝利したというのに、何もない。

「……時間ね」

見れば、《舞踏会》の一部である床が端の方から崩壊していく。

ここにやってきた際に述べた『三〇分』が経過し、連続展開の限界時間に達したのだ。

そして《舞踏会》が終わるのならば、フランクリンは自らの契約を実行するだけだ。

即ち、【《舞踏会》の崩壊タイムリミットまでに『Mr.フランクリン』が死亡しない場合、パンデモニウムを決闘都市ギデオンに落下させる】という契約を。

「…………」

この契約は決意表明……レイに本気で戦わせるための発破。

その上でレイの全てを完封するつもりで戦いに臨み、実際にそれを完遂した。

「……ふぅ」

重く、行き場のない感情を零すように息を吐く。

勝つために準備を徹底したのは間違いではない。

自分を破り、望む道を曲げた敵を許さないのも彼女の 性(さが) だ。

だが、準備と感情の末に導いた結果に、彼女は満足していない。

勝利した喜びよりも、勝ててしまった落胆の方が大きいような……不可思議な感情。

期待外れと言うのが、近いだろうか。

結局自分がどうしたかったのか彼女自身にも分からない。

だが……ここからの彼女は決めた道を進むだけだ。

今更、前言を翻すことはなく、都市一つ滅ぼす悪行を躊躇することもない。

「ディラン」

『――Connect――』

呼びかけと共に【MGD】が背中の装甲の一部を翼へと換装し、ディラン本体と繋ぐ。

もうこの舞台はなくなる。飛行能力がなければ墜ちるだけだ。

「…………」

最後に、レイの姿を見る。

斧槍を支えに何とか体を起こし、しかし俯いている彼の姿を。

今度はギデオンを護れなかった男の姿を。

自分が挑み、壊した宿敵の姿を。

折れず曲がらず諦めない“不屈”が、ついに折れた姿を。

「終わりね……」

そして《舞踏会》が完全に崩壊する。

同時に、フランクリンはパンデモニウムを呼び出す。

一辺一キロメテルの巨大な立方体に脚が生えた巨大要塞。

この巨大質量物を空中から墜とし、ギデオンを滅ぼす。

それで決着だ。戦争の後のラストダンスはこれで終わりだ。

「……さようなら、 ムクドリ・サン(レイ・スターリング) 」

全てが終わったとき、フランクリンは動けぬレイが落下するのを見下ろして……。

「――この瞬間を待っていた」

――顔を上げた彼の不敵な笑みを視る。

「!?」

その表情への驚愕の中で、彼の身体を光が包む。

それは回復魔法の輝き。

既に枯渇していたMPがどこかから……否、彼の両足から供給される。

それは、特典武具【紫怨走甲】。

落下するはずだった彼の身体は、空中で異なる何かに受け止められ、駆け上がる。

それは、煌玉馬【白銀之風】。

「――《 風と歩む魂(ソウル・ドリフト) 》」

一瞬の後、眼下にあったはずのその馬影は【MGD】の眼前にあった。

「ッ!? ディラン!」

『――――!』

咄嗟に【MGD】が腕を掲げて防御態勢をとった直後、

『――《 選刃(セレクト) ・ 光(シャイン) 》』

――眩い光の刃がその装甲を灼き斬っていく。

「!?」

「ッ! 属性は当たったが威力はハズレか!」

『汝の現在の制御権は一三%。属性のみに絞っても確率は二六%。狙った属性が出ただけでも幸運である』

「そうかよ!」

レイの右手は、手綱を掴んでいない。

左手も、先の戦いで焼け焦げている。

ゆえに人型に戻ったネメシスが後ろから彼を抱えながら、彼の代わりに手綱を握っている。

そして彼の右手は黒き外套……【黒纏套】に包まれ、無銘の斧を握りしめていた。

ブーツ、特殊装備品、外套、武器。

封じられていたはずの全てが、いま彼の力となって此処に在る。

「……!」

「驚くことはないだろ?」

【MGD】の中で目を見開くフランクリンに対し、レイは告げる。

「三〇分経てば、あの結界は崩れる。お前が言ったことだし、見ての通りだ」

既に、《舞踏会》は存在しない。

内部の装備スキルを封じていたあの結界は消え失せた。

ならば必然、レイの装備も解禁される。

「……けど、それが今更どうしたというの?」

だが、そんなレイの再起に、フランクリンは疑問をぶつける。

本当に、今更それがどうしたというのか、と。

「もう、パンデモニウムは落としてしまったわよ。あなたはギデオンを護れなかった。もうこの戦いは私の勝ちで終わったわ」

まさか完敗した後に、ギデオンが滅ぶのが確定した後に、せめてもの反撃でフランクリンを倒そうというのか。

そんな情けない仕返しをするために耐えていたのかと、苛立ちを交えて問いかける。

だが……。

「いいや、まだ終わっちゃいないさ」

答えるレイの目に昏さはない。

その目の輝きは、意思は、まだ何も諦めてもいないし後ろ向きでもない。

むしろ、前に在る唯一つの可能性のために、その意思は向けられている。

「何を……」

「t=√2h/g」

「…………!」

困惑するフランクリンにレイが返したのは一つの数式。

ともすれば意味不明だったが、フランクリンにはその意味が理解できた。

それは 自由落下(・・・・) の方程式。

tは落下にかかる時間、hは落下距離、gは重力加速度。

どれだけ巨大だろうと、重かろうと、落下物は全てこの方程式に従う。

そして今、落下距離は二〇〇〇〇メテル、重力加速度は変わらず9.8。

√2×20000÷9.8

導き出された数値は……約64秒。

さらに言えば、大きければ大きいほど空気抵抗を受けて遅くなる。

「あなた、まさか……!?」

つまりは……。

「パンデモニウムがギデオンに落下するまで、 あと一分ある(・・・・・・) 」

そして、パンデモニウムは<エンブリオ>だ。

かつてのスーサイドシリーズとは違い、フランクリンの生死と無関係ではない。

<マスター>が消えれば、共に消えるのが<エンブリオ>の 運命(さだめ) 。

ゆえに――。

「――今から一分以内にお前を倒せばパンデモニウムはギデオンに墜ちない」

――それが、真のタイムリミット。

フランクリンが【MGD】に施したレイ対策の数々は完璧だった。

レイですら、そのままでは勝てないことを悟っていた。

完封された状態では【MGD】を倒せない。

ゆえに、レイは自分の見つけた突破口に賭けた。

《舞踏会》の崩壊後……封じられた力が解禁された後の一分間で決着をつける可能性に。

「最後の勝負だ……フランクリン!!」

彼は折れない。曲がらない。諦めない。

己の全てを賭して、望む可能性を掴むために戦う。

その目に、強い意志を宿して。

「……ッ、レイ!!」

そんな彼の姿に、折れず曲がらず諦めないその姿に。

どれほどの壁を前にしても、自分と同じ所には決して堕ちてこない彼の在り方に。

我知らず……彼女の口元は笑っていた。

そうして、泣いても、笑っても、残り一分。

それが“不屈”と“最弱最悪”の―― 最終決戦(ラストダンス) 。

To be continued