軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一八九話 ラストダンス part2

□【聖騎士】レイ・スターリング

装備スキルを封じる空間。

それは事実なのだろうが、違和感がある。

……いや、逆か。 違和感がない(・・・・・・) 。

【瘴焔手甲】などから得られるSTRの補正はまだ残っているように感じる。

実際、視界の端でウィンドウを視れば、いずれの装備も俺に装備された状態だ。

装備と装着者のパスを阻害すると言うが、装備補正までは潰せていないのか?

その辺、どうだ?

『たしかに、集中してみれば私とレイの間を阻む何かは感じるのぅ……。だが、塞がれたパスも完全な不通ではないようだし、私は奴の言うように迂回路……別の繋がりでそれを補えているようだ』

つまり、装備スキルが使えない程度の阻害だが装備補正は受けられる、と。

完全に閉じられなかったのは出力不足か、奴の方でも理由があってそうしたのか。

……後者だな。

『なぜそう思う?』

あのコクピットだよ。

特殊装備品で中の人間のAGIなりENDなりを高める装備補正があるんだろ。

くっついている自分が戦況を視つつ、振り回されて死なない程度の保険だ。

装備スキルが有効にならない以上、対ショックの類のスキルはつけられなかっただろうからな。補正で補っているんだろ。

装備補正は潰せていないのではなく潰していないんだ。

『なるほど。さも自分は影響がないように言っていたが……そこまでは言わなかったということか。あやつらしいのぅ』

ああ。それに……結果は同じだ。

ネメシス以外の装備スキルなしでやらなきゃならないことは変わらない。

『……だが、レイよ。削り切れるのか?』

「…………」

奴はこの結界の維持時間を三〇分と言っていた。

あと二五分程度だろう。

それまでに装備スキルという追加火力なしで、【MGD】を倒せるのかとネメシスは聞いている。

それも、相手は俺対策であえて攻撃力を抑えつつHPを高めた怪物だ。

その命を、削り切れるか。

『念のために言うが、前のダメージカウンターは残っておらぬぞ。《追撃者》のコストで全て消えた』

まぁ、あの極限強化の支払いがゼロになるだけで済んだのならむしろ安い方だろう。部長の好みそうな踏み倒しだ。

だが、使えないなら使えないで、残った手札でやるだけだ。

「試してみるか」

俺はアイテムボックスから《グルーム・ストーカー》を収めた【ジェム】を取り出す。

ジュリエットの伝手で行った店で仕入れた品だ。

【黒纏套】のチャージ用の《グリント・パイル》が残っていれば良かったが、そちらはもうない。それに《煉獄火炎》との属性被りがあるから火力のある《クリムゾン・スフィア》は最初から持ってない。

それでも、上級奥義でどの程度削れるかを視る。

「《グランド・クロス》!!」

初撃。まずは自前で【聖騎士】の奥義である《グランド・クロス》を放つ。

【MGD】の表面が多少灼けるが堪えておらず、動きもろくに阻害された様子がない。

だが、聖属性の奔流が止むと同時に【ジェム】を投げ、《グルーム・ストーカー》を発動。

『――――』

狙いはコクピットのフランクリンだが、そこに届く前に【MGD】が腕を翳して闇属性の追尾弾を受け止める。

少し凹んだが、やはりその動きに支障はない。

どころか、腕を振るうと凹んだ形も元通りになっている。

そしてこちらの攻撃のダメージを微々たるものと言うかのように【MGD】は再度突撃を仕掛けて腕を振るい、俺はそれを防ぎ、弾かれる。

お互いに痛打はなく、傍から見ればいっそ凡戦と言ってすらいい攻防だろう。

「……?」

だが、今の一連の動き……。

『試して足掻くのはいいけれど、自分のことに気づいているかしら?』

「何?」

『レイ!? 耳が……!』

フランクリンの言葉に疑問を覚え、ネメシスの言葉で気づく。

いつしか、左右で音の 聞こえ方(・・・・) が変わっている。

足元を見れば小さな肉片……恐らくは俺の右耳と思われるものが落ちている。

見える断面は、鋭利な刃物で切断されたかのようだ。

「……!」

『単に殴るだけが攻撃手段の訳がないでしょう?』

フランクリンの言葉に、俺は先ほど防いだ【MGD】の腕を注視する。

見れば、夜闇の中で分かりづらいが、結界の床の発光で薄っすらと見える。

揺らめく糸状の何かが腕から伸びている。

その様には、見覚えがある。

「……液体金属スライムか?」

肉体の一部を糸化して伸長する。

ルークのリズがよくやる芸当だ。

『それも正解。この子の装甲素材は液体金属スライムがベースなの』

道理で、さっきの凹みがあっさり治った訳だ。

HPが削れたとしても形はすぐに補い、万全の形状の肉体は動きを阻害されない。

さらには、今みたいに俺の身体に斬糸を引っかけて切断することもできる。

『貴方はデバフを反転できる。けれど、 部位欠損(・・・・) の傷痍系状態異常は対象外。前の戦いの後、しばらく片腕で難儀していたでしょう?』

「……お陰様でな」

『あら? 腕を燃やしたのも、その腕で私を殴って粉々にしたのも貴方じゃなかったかしら。それで責められるのはお門違いだわ』

「…………」

まぁ、それはそうだが……。

『そういう理由でこの子の攻撃方法は二つ。ダメージカウンターを与え過ぎない打撃と、斬糸による部位欠損。どちらもとても有効だと思うのだけれど』

「御覧の通りだ」

『良かった♪』

フランクリンは、クスクスとまた笑う。

「……お前、さっきからずっと楽しそうだな」

『そうかしら? ……ああ、うん、そうだねぇ』

指摘されて、ようやく気づいたようにフランクリンは口調を変える。

まるで、ようやく冷静になって 演じ分け(ロール) を思い出したかのように。

『きっと、これが本当に最後だと思ってるからじゃないかねぇ。本当の意味で後も先もない。立場も、クランも、家族さえも遠く感じている。此処に在るのは自分自身と、自分の作品と、そして君だけだ』

「…………」

『自棄になっているし、心底楽しむしかなくなっている。そういう心境、御分かりぃ?』

「生憎と未経験だ」

『だろうねぇ。抱えすぎ、背負いすぎ、でも折れない。メンタルが神話級金属な君はそうだろうねぇ』

「……神話級金属ってわりと折れるって聞いたぞ?」

『それはそう! じゃあレイ君のメンタルはもっと硬いってことで』

今の話が可笑しかったのか、フランクリンはまた笑った。

俺を相手に、まるで仲間内の笑い話のように話しかける。

『だからまぁ、猶更折りたいよねぇ…… 心(それ) 』

そして、笑い話の中に――ゾッとする気配を滲ませる。

『……それでやることがこの 塩試合製造機(・・・・・・) でレイを嬲ることか?』

『クフッ……!』

ネメシスの指摘に、奴はこれまでよりも一層爆笑した。

そうしてまた、 演技(ロール) の剝がれた口調でまくし立てる。

『そうね! たしかに塩試合! 今どき たたかう(・・・・) コマンドしかないようなゲームはクソゲーよね! でも、そんなクソゲーを前に貴方達はどうするのかしら!』

どうするか……と言われてもな。

「――倒すまでやる」

ギデオンの命運も掛かってるんだ。

それ以外に道はない。

『 君(貴方) のそういう折れないところは 大嫌いだねぇ(大■■よ) 』

俺がそう返すところも分かっていたのか、フランクリンはフゥと息を吐いた。

呆れているのかもしれないが、クソゲーを用意した側が言うには今更だろう。

『…………』

どうしたネメシス?

『いや、何でもない……それより、来るぞ!』

「ああ!」

話は終わりとばかりに、【MGD】が再度攻撃を仕掛けてくる。

これまでと同じように振るわれる腕には、キラキラと斬糸がまとわりついている。

ネタが割れたからこそ、俺の身体に引っかけるために数を増やしたらしい。

俺は目を凝らし、俺の体を断ち切ろうとする斬糸だけは受けないように立ち回る。

その間、相手の打撃はあえて受けてダメージカウンターに回す。

負った傷は回復魔法とアイテムで癒す。

それらの動作を、繰り返す。

愚直に回避と被弾と回復を、ワルツのように繰り返す。

「……最初の頃みたいだな」

思い出すのはまだ<Infinite Dendrogram>を始めたばかりの時期。

あのときは一つも特典武具を持たず、特殊な装備もなく、ネメシスだけを手に、必死に耐えながらダメージカウンターを蓄積していた。

積み重ねて、倒せると思った段階で踏み込む。

そうして、相手を倒してきた。

しかし今は……。

「…………」

繰り返す間に、時間が経過していく。

現時点で約五万のダメージを受けた。

《復讐》ならば一〇万は叩き返せる。

だが、相手はあのサイズで一〇〇〇万のHPを持つ。

消し飛ばせるのは、全体の一%。

講和会議の【獣王】戦よりも尚悪い。

頭部に当てて、致命になるかどうか。

いや、そもそも……。

『あら、どうしたのかしら? あと十五分もしたら私はパンデモニウムを落とすけれど、モタモタしていていいの? まずは致命部位に届くか試してみたら?』

そういうフランクリンの声音が、コクピット越しに奴の姿を幻視させる。

具体的には、【RSK】を仕向けてきたときと同じような表情をしているだろうと感じた。

その気配で、『まだ何かある』と察する。

そこから考えれば……答えはすぐに出た。

「その【MGD】……表面が液体金属スライムって言ったな」

『ええ』

「―― 自切(・・) するだろ」

『――あら、どうしてバレたのかしら?」

前に、ルークとの模擬戦で鋼魔人にやられたことがあるからだ。

接触部から固定ダメージが伝播するからこそ、分離できるスライム相手では自切によって伝播が止まる。

仮に頭に叩き込んだところで、薄皮一枚剥がしてそれで終わり。

攻撃力とHPの不均衡以上に、俺とネメシスへの対策となる。

「そもそも俺がダメージを溜め込むのを分かっていて、殺せもしない打撃を繰り返す意味がない。斬糸だけ使ってればいいだろうに」

『必死に積み重ねて反撃に出て、それが無駄に終わったときの顔も見たかったのよ。前の事件で私が積み重ねたものがダメになったことのお返しね。気づかれたから無駄になってしまったけれど』

俺を詰ませるためにそこまで仕様を追求したってことかよ……!

「本当に性格悪いな……!」

『前も聞いたわ』

自他ともに認める性格の悪さ。

そうでなければこいつは“最弱最悪”などとは呼ばれていない。

だが、これはまずい。

《復讐》を使っても致命に足りるどころか、最小限に抑え込まれる。

装備が使えない現状、ジョブスキルと消費アイテムだけでは当然削り切れない。

ここからどうやって、フランクリンを倒すか。

「…………」

実を言えば、一つだけ……解決法は思い浮かんでいる。

それは大きな、そしてギリギリの賭けになるだろう。

これまでで最も、難しい 試練(クエスト) かもしれない。

しかしそれでも……。

「――クエスト、スタート」

――やってみせるさ。

◇◆◇

□■ギデオン上空二万メテル・《舞踏会》

レイが現状に関する思考をまとめる中、ネメシスもまた思考を回していた。

しかしそれは、レイとは全く違うことを考えている。

(……自切する液体装甲があるならば……)

それは【MGD】の仕様に対する疑念。

フランクリン自身が語った《復讐》対策。

しかし、しかしだ。

そんなものがあるならば……。

――攻撃力を低く、HPを高くする意味はあったのか、と。

(レイを倒すために作られたモンスター。過剰な攻撃力はなく、HPは高く、仲間を寄せ付けず、装備スキルを封じ、身体を切り落とし、そして私の固定ダメージも体を分割することで最小限のダメージで抑える。派手さも、面白味も、何一つないが、道理ではある)

どうしようもなく、今のレイでは倒せないモンスターだ。

フランクリンという<超級>の執念は徹底している。

だが……

(……だが、これはレイを倒すための仕様と言うよりも……)

その徹底の中の不自然さに、ネメシスは気づく。

(『レイに負けないためのモンスター』、あるいは『レイと戦い続けるためのモンスター』ではないか?)

かつて『もう負けたくないから』と語っていた姿を思い出す。

ある意味では、その権化だろう。

しかし同時に、これはあの時に語った『生き方を遮る者を蹂躙する』ものではない。

これまでのモンスターや前の【MGD】にあった攻撃性が欠如している。

――自由に生きて、自由に作って、自由に世界を楽しみたいから。誰にも私を縛らせない。

かつて、フランクリンはそう語った。

しかし眼前のこれはひたすらに受け身であり……むしろレイを縛り、その道を塞ぐためのものだ。

何のために、そんな仕様なのか?

時間切れになって、パンデモニウムをギデオンに落とすため?

いいや違う。それならば、そんな条件などつけずにすぐ実行できる。

パンデモニウムの落下を《舞踏会》の時間切れまで待っているのはフランクリンの意思一つ。あの【契約書】は決意表明に過ぎない。

ゆえにパンデモニウムの落下は、レイがギデオンを守るために己の可能性を尽くして戦うための前提条件。

悲劇を防ぐべく戦う彼の可能性を悉く叩き折り、余すことなく時間を使い切るための仕様が今の【MGD】。

『レイが足掻く様を限界まで見るための悪趣味な機体』。

レイはそう判断した。

フランクリン自身もそのつもりだろう。

だが、ネメシスの辿り着いた答えは違う。

この話は複雑で……簡単だ。

人の心のように、絡まりながらもシンプルなのだ。

『…………』

ネメシスは察している。

フランクリンがレイに向ける感情の色が憎悪だけではないことは、彼女だからこそ分かる。

レイには分からないことでも、フランクリンが自覚していないことでも、ネメシスには分かる。

それ(・・) は彼女の中にも在るものだから。

(ああ……。貴様、……そういうことなのか)

フランクリンは絶対にレイには勝ち目のないモンスターを作っただけ……そのつもりなのだろう。

だが、生み出された作品は本人の心の鏡だ。

この戦争を、レイとの最後の戦いにすることは決めていたのだろう。

可能な限り、レイとの一対一になるように周囲の状況も、そして【MGD】のスキルも設えたのだろう。

前の【MGD】や怨念動力に囚われたティアンの命、様々な難題を超えたレイを迎える最後の舞台として用意していた。

難題を超えたならば、戦争は王国の勝利になるであろうことも分かっていた。

そうなればフランクリンには後がない。

だからこその 最後の舞台(舞踏会) 、 最後の戦い(ラストダンス) 。

その時間を、少しでも長く。

そして……。

(この逼塞した状況を……レイがそれでもなお打ち破れるかを問うているのか)

自分の全てを掛けたこの局面。

自分にとっての最期の挑戦。

用いるは、自分がレイのためだけに創り上げた全身全霊の作品。

その作品により、不可能とも思えるほど行き詰まった未来を宿敵に叩きつけて。

自分と違う宿敵が、行き止まりの未来をどうするのか。

自分と違って行き止まりから逃げることのできない彼が、この道をどう進むのか。

憎くも眩い彼が彼らしく……これでもなお望む未来の可能性を掴めるか。

問いかける フランクリン(フランチェスカ) の心が、 作品(鏡) には映されている。

この事実を対象となるレイは気づかず、作り手である フランクリン(フランチェスカ) も自覚せず。

ただ、ネメシスだけが……求めるものが『勝利』に限らないと気づいていた。

To be continued