作品タイトル不明
第一七九話 空
□■王都アルテア
誰もが、王都の誰もが、空を見上げていた。
北方より軌跡を描いて飛来した砲弾が王都の上空で弾け、直後に巨大な火球に変わる。
遥か空の上にあるというのに、太陽の如く、太陽よりも熱く、地上を灼く。
墜ちればこの地の誰一人として生き残れないだろう人工太陽。
そう、それは墜ちていく。
確実なる死を知らしめるように、【昇華砲弾】はゆっくりと地上への降下を開始した。
◇◆
(……なるほどな)
フォルテスラは墜ちてくる人工太陽を見ながら、一つの納得を得る。
彼はかつて、クレーミルの戦いで他の【四禁砲弾】……【超重砲弾】の発動を見た。
あれと比べても、この【昇華砲弾】は効果の発動と着弾が遅い。
恐らくは対生物用ではなく、対都市・対要塞のために作られた砲弾。
着弾地点を根こそぎ昇華、あるいは 浄化(・・) するための戦略兵器だ。
それが今、王都に向かって墜ちてくる。
「…………ッ」
王城の崩れた壁から見上げた空。
万物を呑み込み昇華せんとする光と、その光に晒される街。
それはフォルテスラの心に、最も忌まわしい瞬間を思い起こさせるには十分だった。
「フィガロ」
「うん。ここまでだ」
このとき、二人はようやく言葉と呼べるものを交わした。
「初弾は俺が片付ける。……次は頼む」
「分かった。任せてもらうよ」
ただ、それだけの言葉。
段取りとも呼べぬ短い会話。
だが残る時間にこれ以上の言葉は許されず、そしてこの二人にこれ以上は必要ない。
再会の約束はない。
必要もない。
いずれまた会うだろう。
しかしそれはきっと待ち望んだ決闘ではなく……今日のような殺し合いだ。
それでも、今は互いに託し、託され、任せ合う。
男達はやるべきことを理解していた。
「ネイリング」
『《エンド・ブレイカー》の再使用可能! 【ゼロ】とのリンク……完了!』
「【ゼロ】」
『Boost On』
砕けた刃が、金銀の魔剣が、主人の呼び掛けに応える。
砕けた刃は己の得た最後の 力(スキル) を回し、金銀の魔剣は己の機能を解放する。
魔剣の柄に埋め込まれた煌玉が輝き、金銀の剣身に回路の如き紋様が浮かぶ。
瞬間、フォルテスラのステータスが跳ね上がる。
それだけではない。彼の周囲にその身を護るような赤いオーラ……《竜王気》に酷似した光が生じ、更にそれは『翼』の如き形に変わる。
「――――」
そして、フォルテスラは超音速機動で一息に天へと翔け上がる。
重力に抗い、空気を切り裂き、堕ちる太陽へと近づく。
◇◆
使用者を強化し、空を……数多の環境を制する力を与える魔剣。
これこそはかつて初代フラグマンがレオナルド・フィリップスより譲渡された超級金属を用いて生み出した【万能魔剣】。
超級金属という優れた土台に、化身侵攻以前のフラグマンが己の持つ技術を詰めた代物。
かの【聖剣】とは別ベクトルに『剣士にとって最高の剣』を目指したもの。
それを【水晶】達は当代の【剣王】たるフォルテスラに貸し与えた。
取り込んだ戦力の有効活用であるだろう。
しかし同時に、己の創造主が生み出した傑作を使いこなせる者に委ねたいという欲求による判断でもある。
その判断は、極めて正しい。
◇◆
「――《オーヴァー・エッジ》」
『――Link』
フォルテスラが一つのスキルを宣言する。
それはネイリングの固有スキルの一つ、光刃による剣身の延長。
ネイリングが必殺スキルの代償に折れてしまった今は、使用不能であるはずのスキル。
しかし今、ネイリングではなく――【グレイテスト・ゼロ】から光刃が延びる。
飛翔するフォルテスラの持つ剣の刃が、迫る人工太陽の直径を上回るほどに伸びていく。
<エンブリオ>の固有スキルが、<エンブリオ>ではなく魔剣を介して発動している。
そして発動は、《オーヴァー・エッジ》だけではない。
「……!」
天上に近づくにつれて纏う オーラ(疑似竜王気) を通してすら、フォルテスラの身を灼き始めた太陽。
彼を殺しうる力。
それを認識したとき……。
『――《エンド・ブレイカー》!』
『――Link』
――【魔剣】はそれを殺し返す力を得た。
【万能魔剣 グレイテスト・ゼロ】。
その最たる機能はステータス強化でも、疑似竜王気でも、環境制覇でもない。
使用者との(・・・・・) 能力リンク(・・・・・) 。
仮に当代の【龍帝】が持てばこの剣は超再生力と更なる《竜王気》を得る。
仮に当代の【天神】が持てばこの剣は星を介して膨大な魔力を得る。
では、当代の【剣王】が……<超級>たるフォルテスラが持てばどうなるか?
使用者の半身――【超越剣姫 ネイリング】の固有スキルを獲得する。
今の【剣王】フォルテスラは――<超級エンブリオ>を二つ持つに等しい。
此れこそが【ゼロ】……『此処より数を刻む』と銘打たれたモノ。
「――――!」
そして今、太陽を殺す力を得た魔剣をフォルテスラは振るう。
金銀の剣身は熱を受けることなく、逆にその熱を切り裂いて、
――太陽を両断する。
「ッ!」
一斬で太陽は分かたれた。
だが、止まらない。
二つに断たれたまま、それでも地に墜ちて全てを滅ぼそうとする。
それこそが己の本分とばかりに、戦略兵器は降下を続行する。
ただ一度斬られた程度で止まりはしない。
ゆえに……。
「――《ソード・アヴァランチ》」
――【剣王】は万回斬ることにした。
【剣王】の奥義たる超速連続剣。
太陽殺しの光の刃が、雪崩の如く太陽を呑み込んでいく。
幾重、幾十重、幾百重の線が太陽に刻まれていく。
砲弾の術式を維持できないほどの徹底破壊。
そして太陽が賽の目の如くバラけ、一瞬膨らんで――。
――地に墜ちることなく空中でその熱量を爆散させた。
その熱量の奔流の中で、【剣王】もまた消えていく。
しかし消える彼の表情に、失敗を感じさせるものは一つもない。
自分のすべきことを全うした男の顔が其処に在る。
後を託した者も必ず全うすると確信している男の顔が其処にある。
そうして、【剣王】フォルテスラはまた一度……光熱の中に消えた。
◇◆
王城において、急変する状況に取り残された<マスター>は多い。
むしろ、フィガロとフォルテスラ以外の全員が状況についていけなかったと言っていい。
それはゼタも同様だ。
【四禁砲弾】については知っている。関わりもある。少し後ろ暗いところもある。
ゆえに、自分の能力では耐えきれないことも理解している。
そもそも、此処には連れ出すべきミリアーヌもいる。
(《コードⅤ:ロケット》での脱出は……!)
ミリアーヌ……それとテレジアを抱え、高速飛翔用マクロで王都外に脱出する。
それ以外にこの場でできることはないように思えた。
だが、この場にはフィガロもいる。
この状況で己の天敵がどう動くか分からない。
そのフィガロはフォルテスラと何事か言葉を交わし……そしてフォルテスラが天へと飛び立った。
それはゼタの考えた逃走のための飛翔ではなく、墜ちる太陽を迎撃するための飛翔。
そして……。
「ゼタ」
「!」
飛び立った 好敵手(親友) を見送ったフィガロは、どう動くべきかの判断を迫られていたゼタを言葉で制する。
「 今回は君を諦める(・・・・・・・・) 。代わりに、一つ手伝ってほしい」
「え?」
何を諦めるのかゼタには理解できぬまま、フィガロは話を続ける。
「前に僕を燃やしたこともあったろう。あの時と同じように、熱の余波が街に及ばないようにしてほしい。それで 見逃す(・・・) 。フォルテスラも余波には手が及ばないだろうし、僕もそこまで手が回らない」
「…………」
前に燃やした……とは水爆をフィガロに叩きつけたときのことだろう。
あのときも被害の規模を限定するために空気の層で影響範囲をコントロールした。
つまり、同じことをやれと言っているのだ。
そうすれば『今日は追わない』、と。
「…………」
つまりフィガロはフォルテスラが頭上の太陽をどうにかすることを疑っていないし、ゼタがその後始末をできることも疑っていない。
それは直感なのか、戦闘で得た情報を分析した故か、いずれにしろ『お前ならできるだろう』という敵への奇妙な信頼があった。
「……確認。二言はありませんね?」
「ないよ。その子達は終わったらみんなで迎えに行くけれどね」
「…………」
フィガロはミリアーヌとテレジアを見ながらそう述べた。
『誘拐』を許容するような言葉だが、それは一つの判断だ。
王都全て消し飛ぶか、友人と親しい娘の誘拐を見逃すかの二択。
そしてフィガロは取り返しがつく……絶対に取り返す後者を選んだ。
加えて、脳筋だがバカではないフィガロはミリアーヌの発した言葉や家系、ゼタの元々の所属から背景事情も凡そ察しがついていた。
「ああ。念のために聞くけど子供達に危害を加える気はある?」
穏やかな質問だが、右手にはまだ【グローリアα】が握られていた。
『返答次第では後先考えず殺しておこう』という分かりやすい示唆だった。
「保障。……お二人の身の安全は保障します。私も彼女を傷つけずにお連れしたい」
「分かった。余波を防いだら後は好きにしなよ。あ、急いでね」
そうしてフィガロが頭上へと視線を移せば、太陽が両断されていた。
その後に何が起きるのか、ゼタにも理解できた。
急がねば間に合わない、と。
「《 天空絶対統制圏(ウラノス) 》!!」
ゼタは本日二度目の必殺スキルを発動させる。
王都上空の大気をコントロールして、王都の空に巨大な『傘』を形成する。
空気と真空の層を幾重にも重ねた、王都よりも大きな空気の『傘』だ。
従来の 空気のバリア(コードⅡ) ほど一つ一つを強固にする必要はない。
ミルフィーユ状に重ねた空気の膜こそが、断熱材として最適であると経験で知っている。
ゆえにバリアほどには消費しないが、規模は桁違いだ。
都市を覆う『傘』などウラノスでも……それをマニュアルで操るゼタの限界が近い。
だが、やらねばならない。
フィガロと戦うよりはマシであり、やらねば自分もミリアーヌも死ぬからだ。
そうして『傘』は形成され――ほぼ同時に太陽が砕けた。
それはギリギリだった。
空中で細断されて弾けた太陽……炸裂した【昇華砲弾】の熱波が届くより僅かに早く、地上を護る大気の『傘』は機能していた。
断熱され、逸らされ、爆熱は王都に届かず流されていく。
地上に流れた熱が大地の草木を燃やすが、それは王都から逸れた場所。
<ノズ森林>の北部がまた燃えた。
「……ッ!」
脳を回し、プログラムを連続で動かし、ゼタは『傘』を維持し続ける。
熱波が殺到したのはほんの僅かな時間だったはずだが、ゼタには何分にも感じられた。
しかし、彼女はその時間を耐えきり、『傘』は熱波を凌ぎ切った。
そうして『傘』が太陽の遺した熱から王都を護り抜いたとき……。
――人工太陽の消えた空から一万にも及ぶ滅びの光が降り注ぎはじめた
◇◆
王都へと放たれた二発目の【四禁砲弾】――多重固定損傷弾頭【生滅砲弾】。
二人の<超級>が懸命に阻んだ一発目から約二分遅れで、それは王都へと到達した。
【昇華砲弾】と同様に王都の上空で起動し、上空で内包する魔法を発動。
そうして、クラスター爆弾のように拡散して……地上へと堕ちてくる。
【昇華砲弾】が墜ちる太陽ならば、こちらは流星群だ。
齎す破壊に大差はなく、防ぎ難さでも甲乙つけがたい。
だが、既にフォルテスラは消えて、全開の大気操作をしたゼタにも余力はない。
「…………」
フィガロは独り……墜ちてくる流星群を見上げていた。
固定損傷弾頭……固定ダメージ弾のことはフィガロも知っている。
触れれば必ず削れる危険な力。
そうした【ジェム】を戦術に用いるクランもあり、何よりシュウのバルドルも時折使う。
ゆえに対処する術を知っている。
その術が、自分にあることも知っている。
だが……。
「…………」
【超闘士】フィガロは戦闘狂である。
穏やかに見えてもその思考は戦闘の判断が極めて速く、即断即決で悩むことなく戦闘の最適解を叩きだす。
そんな彼が今は、何かを悩むように…… 自らの外套(・・・・・) を握りしめている。
それしかないと戦闘頭脳は判断を下し、しかし何かを惜しむ心が留めている。
捨て難きモノを惜しむのではなく、友の手を離してしまうような……寂寥感。
しかし、時間はない。
一秒が……いや、その十分の一の時間すら、多くの人命を左右する。
削れていく猶予の中で……フィガロはかつての記憶を思い出す。
死闘の末にこの外套を……【クローザー】を得たときのことを。
――どうか、【クローザー】に世界を見せてあげてくださいモグ。
果たして自分は、どれほどのものを見せてやれたのだろうか。
そんな、彼にとっては珍しい悔いのようなものを抱いたとき。
強い――風が吹いた。
熱波を防いだ後に解けた『傘』の影響か、空で生まれた風が地上に吹いていた。
轟々と吹く、強い風。
その風の中に、フィガロは一つの音を聞いた。
『――――』
それは……虎が吼えるような轟きだった。
まるで立ち止まる者の背中を押すような音。
空耳かとも思えるそれに、彼は……一つの意思を感じた。
自分とこの世界で長く共に在った相棒の最後の呼び掛けなのだと、そう思えた。
だから……。
「――《 燃えあがれ(コル・) 、 我が魂(レオニス) 》」
――フィガロは、自らの必殺スキルを宣言する。
戦争で既に使ったこのスキル。
命の上限が一度削れ、そして今は満身創痍。
ここで使えば、もう身体がもたないことは分かっている。
彼の命が音を立てて燃えていく。
残り時間はあと僅か。
それでも、一度の宣言と……最後の別れの言葉だけは言い終える時間がある。
「……今までありがとう、【クローザー】」
蒼い外套へ……自分にとって最初の死闘を繰り広げた好敵手へと言葉を送る。
それから、フィガロは空を見上げる。
太陽が弾けた空を貫いて一万の光の雨が、滅びが、王都へと降り注いでくる。
だから彼は宣言する。
自らの命と、相棒の存在を掛けて、この局面を破る最後の一手を。
「――《断命絶界陣》」
――その瞬間、王都は蒼い輝きに満ちた。
それは幾万の光の欠片、飛翔する小結界。
コル・レオニスによって限界まで力を引き出された結界が、蒼く輝いている。
その色は、かつて在りし虎の毛皮によく似ていた。
直後、幾万の蒼い光は留まらず、天へと昇る。
地へと降りる白い流星群。
天へと翔ける蒼い流星群。
降り注ぐ光を迎撃するように、蒼き結界は自らをぶつけて相殺していく。
それは、固定ダメージ砲弾に対するシンプルな対処法。
砲弾に対して先にぶつけることで無力化する。
皇都において【弓神】エルヴィオンもやっていたことだ。
しかし【生滅砲弾】をそのように対処することは本来不可能だ。
【皇玉座】の迎撃システムと【四禁砲弾】では物量が違う。
万を超える数が、対処を阻む。
対して、フィガロはよりシンプルな回答でそれを覆す。
万の砲弾を、それを上回る数の結界で打ち消すのだ。
「『――――!!』」
蒼い光と白い光が、縞模様の如く夜空を彩る。
先に尽きるのは、誰だ。
先に果てるのは、誰だ。
先に誤まるのは、誰だ。
【生滅砲弾】は降り注ぐだけだ。
万の光を地上に降らし、一発でも地に触れれば死を齎す。
フィガロはその全てをマニュアルの結界操作で防がねばならない。
フィガロはその全てを命が燃え尽きる前に果たさねばならない。
そんなことは困難だ。
そんなことは不可能だ。
そんなことは奇跡に過ぎない。
そんな常識を――【超闘士】と【クローザー】は超えていく。
結界の処理で脳の血管が切れても、止まらない。
燃える血潮に身体が焼き切れても、止まらない。
【超闘士】は最も長く共に在った 特典武具(相棒) の最後の勇姿を、止めさせない。
血反吐を吐く攻防は続く。
蒼と白の光の乱舞は続く。
続き、続き、続き、そして……。
◇◆
クリスによる情報提供のあった王城と異なり、王都にいる人々は何が起きているかを把握できていなかった。
王城から避難を通達する報せも出されたが、それも【昇華砲弾】までの一分足らずの時間では衛兵の詰所など公的機関に通達するのがやっとであり、そこから民衆に避難を呼びかけるにはあまりにも時間が足りなかった。
まして、ヴォイニッチの身代わりとなって王都の<マスター>達が次々に変死する異常事態からまだ間もない。
王都の人々は情報のない混乱の中にあった。
そんな人々も、空の有り様だけは全員が平等に知ることができた。
墜ちてくる太陽を見た。
太陽が両断され、細切れにされ、弾ける瞬間を見た。
太陽から溢れた熱波が、見えない何かに遮られる様を見た。
そして天から地へ降り、地から天へと昇る、白と蒼の流星群を見た。
天の光と地の光が空でぶつかり打ち消し合って消えていく。
降り注ぐ白い光の一つ一つが家屋を消し飛ばし、幾人もの人間を殺傷するものだとは王都の誰も知らなかった。
天へ昇る蒼い光の一つ一つが王国の英雄とその相棒たる武具の最期の輝きだと王都の誰も知らなかった。
だからだろう。
人々はその光景を……『美しい』と思った。
光と光が織りなす空の軌跡を、素直に『綺麗』だと称賛した。
感嘆の息を漏らし、ヴォイニッチによって起きていたそれまでの混乱すらも、今が戦争の渦中であるという事実さえも一時人々の思考から消えて、夜空を見上げていた。
そして、短くも長い時が過ぎて……。
◇◆
「――――」
地上で、独りの男が息絶える。
生命力が尽き、その全身は焼死体の如き有り様。
この戦争を駆け抜けた【超闘士】フィガロは、この最終局面で燃え尽きた。
彼は空から降り注ぐ万の光の、99.99%を己の力で撃墜した。
人間業ではない。
思考と直感の果てにある芸当だった。
彼は不可能と思える領域を実現した。
しかし、それでも……。
それでも、99.99%
一万分の一だけ、迎撃を逃れて地に墜ちる光がある。
あとコンマ一秒でも命が続けば、僅か数ポイントでもHPがあれば、フィガロはその最後の一発とて撃ち落としてみせただろう。
だが、ほんの僅かに……足りない。
既に彼の命は尽きた。
彼はもう、蒼い光を……小結界を動かせない。
墜ちる光が大勢を動かすことはない。
地に墜ちて被害を齎したところで、【邪神】にも戦争にも、今後の王都にも影響はない。
一発分の悲劇が起きて、人々が見上げた美しさが、恐怖の記憶で締めくくられるだけだ。
それとて、仕方のない最小限の犠牲で済んだと多くの者が納得するだろう。
それでも、万の光を止めようとしたフィガロは『それは嫌だな』と思っていた。
『――――』
――それは 彼(・) も同じだった。
フィガロが息絶え、後は消えるばかりだった蒼い光。
それが、再び動き始める。
地に墜ちていく最後の砲弾を、蒼い光が追いかける。
フィガロにはもう動かすことはできない。
彼以外にこれを動かせる人間はいない。
誰が結界を動かしているのか。
フィガロ以外でそれができる存在は――ただ一つ。
◇
特典武具とは、<UBM>の魂と概念が変じたモノ。
魂は在れど意思が遺らぬものは多い。
意思が在れど物言わぬものも多い。
然れど、去れど、其処に魂は在る。
◇
一つの奇跡を、その理由を、知る者が居らずとも。
蒼い光は白い光を追尾する。
駆けて、翔けて、懸けて。
疾走の果てに……蒼い光は我が身をぶつけて最後の砲弾を打ち消した。
そうして、白い光は跡形もなく消え失せ、
燃え尽きた【超闘士】は光の塵へと還り、
天に残る蒼い輝きも、空へと散っていく。
消えていく光を、その後の夜空を、王都の多くの人間が見上げていた。
太陽と流星の後、残ったのは雲一つない満点の空。
『――――』
人々は何故か……その空に響く虎の咆哮を聞いた気がした。
To be continued