軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一二八話 Result Ⅶ 後編 & Shadow

□【聖騎士】レイ・スターリング

カタが光の塵になると、あいつから生じた餓竜も全て消滅した。

決着よりも前に死んで遺っていた死体さえも分解されている。

恐らく本体であるカタが死ぬと諸共に消える、そういう仕様だったのだろう。

その結果、餓竜が何も遺さず、<マスター>であるカタが流した夥しい血痕も消えて、寸前までの戦いを証明するものは喰い抉られた壁や床だけになった。

「……終わった、か」

遅れて訪れた決着の実感に体と、心が少し重い。

言葉を、矛を、牙をぶつけ合ったメイデンの<マスター>。

カタは最期に……何を見たのか。

「え? 消えた? 終わった? 終わりましたね……いやっほぉおおおぅ!!」

カタについての重い思考を遮るように、めちゃくちゃはしゃいだ歓声が聞こえた。

まぁ、誰のものかは言うまでもない。

……空気読んで。

『……あやつ』

「俺も色々言いたくなるけど……あれでかなりの功労者なんだよ……」

彼がいなければティアンの技術者達に犠牲者が出ていた公算が高い。

人格に反して能力が有能すぎる……。

『ああ、キツネーサン枠か』

それだ。

……気のせいかな、『いくらなんでも心外やー』という幻聴が聞こえた気がする。

成仏してください女化生先輩。

「レイさん……」

そんなことを考えていると、《ユニオン・ジャック》の解けたルークが起き上がった。

「ルーク、大丈夫か……?」

「……少し気を失っていましたが、彼の声で起こされました」

ルークは何とも言えない視線をパレードに送っている。

だが、そうするルークの顔色は目に見えて悪い。

どうやら、相当の無茶をしたらしい。

「いえ、レイさんの無茶ほどではないですよ」

「久しぶりに心読まれた気がするな……」

俺がやった無茶とは、《風と歩む魂》でカタの口の中に飛び込んだことだ。

今回、事前に【煌玉騎】のレベルを上げておいてよかった。スキルを俺の意思で使えるようになっていなければ、こんな無茶な使い方はできなかっただろう。

シルバー単独なら絶対にしないというか、俺が移動先を考えたときに『正気か?』みたいな反応をされた気がする。

まぁ、それでも実行してくれたけれど。

『レイ、身欠いてはおらぬか?』

「今のところは身体に違和感もないから、多分大丈夫だ」

《風と歩む魂》は失敗すると手足や臓器を再構成し損ない、場合によっては死ぬらしい。

今回の場合、移動先はともかく限界まで近づいてから使用したので距離は安全圏だったはずだ。

しかし、リソースに分解されてるときは一切の物理干渉を受けないし透過もするけど、リソースそのものに干渉されたらどうなるんだろう。

カタと違い、『周囲のリソースを無差別吸収』みたいな奴がいたら一発でおしまいかもしれない。そんなメタな相手と会うこともそうそうないだろうけど。

『全生存者に通達! <遺跡>を襲撃した皇国勢力は全て撃破されました!』

「ん?」

そんなことを考えていると、施設のスピーカーからそんな報告が入った。

声は例のカタを嗾けた者ではなく、元々通信室にいた者の声だ。

制御を取り返したのか、あるいは声の主が退いたのか。

そう思いながら聞いていると、スピーカーからは各所の状況が順に報告されてくる。

……え? フィガロさん来てたの?

あ、こっちに向かってるんだ。じゃあ合流して一緒に移動することになるのかな。

「報告内容……。こちらの損害は<砦>と、この場にいる者とフィガロさん達を除いた全戦闘要員ですか」

「……そうみたいだな」

プラント以外の防衛部隊や外部での迎撃部隊も甚大な被害を被ったらしい。

あちらはステータスだけなら【獣王】クラスになっていたイライジャという<マスター>と、最終奥義を使った【魔砲王】、そして<超級>になったカタが倒れた。

リタイアした人の数とフラッグで言えばこちらの大敗だけど、痛み分けに近いだろう。

「…………」

皇国の大戦力で残すは、俺が<Infinite Dendrogram>に来た頃から皇国で名が知れていた三人の<超級>達だ。

しかし、【魔将軍】は皇国<砦>の戦いでコストを大量消費していたらしく、戦争で使える戦力は大きく減っているはずだという。

なら、残るは<ウェルキン・アライアンス>を落とした【獣王】と……本人は不気味なほどに姿を見せないフランクリンだ。

<ウェルキン・アライアンス>の戦闘で改造モンスターらしき同種のモンスター群は確認されたが、それ以外ではまるで動きがない。

あいつは自分のプランに相手を嵌めるために、動き回るタイプだ。

現状の動きの少なさには、違和感さえある。

「あ! そうだそうだ! お二人にちょっとお願いしたいことがあるんですよぉ!!」

そんなことを考えていると、パレードが駆け寄ってきた。

「……何ですか、パレードさん」

ルークが戦闘とは別種の疲れを浮かべながら、パレードに応じる。

「あのホワイトモンスター……カタが自白してた内容、オフレコにしていただいてもよろしいでしょうかぁ……?」

「自白……?」

戦争中に街の外にいるティアンを狙ったこと……は戦争中だと適用外か。

それだと……。

「【竜王】を倒したという話ですか。……もしかして、<厳冬山脈>の地竜ですか?」

「イエス! あいつ、そこに踏み込んでコロしたっぽいんですよぉ!」

ルークの顔が引きつる。

<厳冬山脈>の地竜王統、<天蓋山>の【天竜王】、<外海>の【海竜王】。

三大竜王の縄張りに踏み込み、害するのは七大国家共通の大罪だ。

グランバロアは限定条件下で稀に【海竜王】に挑むらしいが、それ以外は全てアウト。

かつてのカルディナで起きた悲劇が再現され、国が亡ぶきっかけになると言われている。

「そうか……。<厳冬山脈>で……」

カタの話から推察すると、自分の大切な人を生贄にされて衝動的に【竜王】を殺した、ということなのだろう。

……カタの言葉を思い出す。

俺はカタの矛盾を指摘し、問いかけ、止めた。

それはきっと間違いじゃない。

けど、俺自身がカタのような状況に直面したとき、俺はどうするのだろう……。

「……罪を明らかにして“監獄”に入れておくべきなのではないですか? 彼を野放しにするのも危険でしょう?」

「いえ!? 公表すると地竜と人類の全面戦争になりますからね!? 世界観と私のビジネスプランがパァになりますよ!?」

俺が考えている間にも、ルークとパレードの話は続いている。

<厳冬山脈>と謎のコネがあると主張するパレードが言うには、あちらはまだ犯人をモンスターだと思っているらしい。

モンスター相手なら問題はないが、これが人間となると報復範囲がどこまでになるか分からない。最悪、人類との無差別戦争になりかねない。

なので、ここにいる者だけの秘密にしてほしいということだった。

「…………」

ルークがさらに難しい顔をする。

それはこの一件を秘密にするかどうかを考えている訳じゃない。

この件の問題は俺達以外にカタの自白を聞いていた……いや、口振りからすれば先んじて 全てを知っていた(・・・・・・・・) だろう存在。

つまりは、例の声の主だ。

今回、カタにティアンを襲わせようとした危険な相手。

そんな奴が人間と地竜の間で爆弾となる情報を握っている。

今ではなく、将来的な懸念について思案しているのだろう。

「……このことは、戦争終了後にアズライトとも相談するか」

「そうですね。ひとまず、この場では秘密としましょう」

「おお! センキュー! マジセンキュー!」

……口止めを要請した本人は俺達が何を危険視してるか分かってなさそうだ。

その後、フィガロさんとライザーさんが合流した。

今はさらなる襲撃を警戒しながらも、揃ってアイテムで回復中だ。

月影先輩も既に影の中からティアン技術者達を出し、休んでいる。

「それで、これからどうするんだい?」

「……ここを防衛拠点として使い続けるのは難しいので、移動したいですね」

フィガロさんの問いに、ルークが答える。

人数も設備も夜明け前と比べてボロボロだ。此処に残っても、再襲撃があれば危うい。

「ビフロストが使えれば、王都まで撤退。使えなければ……空路ですね。パレードさん。ビフロストはまだ使えませんか?」

「え? いやいや使えたら苦労しませんよぉ。まったく、肝心なときに使えなぁあああ…………!?」

封鎖中だったビフロストの門に近づき、封鎖されているゲートに寄り掛かったパレードは変な悲鳴と共に 向こう側(・・・・) に転がっていった。

「……え? 通れた? 通れましたよおォオオオオオ! 生還したぁああああああ!! 王都だあああああああ!!」

そして門の向こうからはパレードの歓喜の声が聞こえてきた。

どうやら、無事に移動先だった王都の教会に辿り着いたらしい。

「転移の妨害が消えた……か」

どうやら、声の主も完全にここから手を引いたようだ。

「じゃあティアンの技術者さん達から避難してもらって、俺達も王都に移動するか」

「そうですね」

そうしてカタの襲撃前に中断されていた避難が再開され、人々がビフロストを通って安全圏の王都へと転移していく。

「……ああ、そうだ。レイさんが移動する前に」

ルークは通信でどこかと連絡をとり、二言三言交わして俺に頷いた。

「レイさん、王国の<宝>はまだ落ちていません。今ならレイさんが王都に移動しても、敗北にはなりませんね」

そうだった。<砦>が健在だった時と違い、俺が戦場外の王都にいる状態で<宝>が壊されたらその時点で王国側の敗北となる。

「そのリスクを考えると、俺も王都の中には長居できないな。いつ、どこで、<宝>が壊されるか分かったものじゃない」

「そうだね。何しろ、僕達の誰も<宝>がどこにあるか知らないからね」

<命>は俺に、<砦>は扶桑先輩に預けられた。

なら、<宝>は三位クランのオーナーであるカシミヤに預けられているのだろうか?

『…………』

「ライザーさん?」

俺達の会話を聞いていたライザーさんだが、少し様子がおかしかった。

もしかして……。

「ライザー。もしかして、第一王女は< バビロニア戦闘団(君達) >に<宝>を預けたのかい?」

『……!』

フィガロさんの言葉にライザーさんが身を震わせる。

けど、その反応で俺も確信する。

<バビロニア戦闘団>。かつての王国第二位クランであり……【グローリア】との戦いで本拠地を滅ぼされ、以降規模を縮小した。

けれど、『王国のために戦ったクラン』としてその存在は大きい。

少なくとも、PKクランの<K&R>よりもアズライトは預けるに足ると踏んだのだろう。

『……預かった、という程の話じゃない。移送を任されただけの話だ。移送先は言えないが……』

「はい。僕達も詳しく聞く気はありません。知る方がリスクになる。彼女はそういう戦術を選んだのでしょうから」

「あぁ、そういうこともあるのか。聞いてしまってごめんね」

『構わないさ。……一名、不安な奴はちょうどあの門の向こうだしな』

あ、ライザーさんからもそういう評価なんですね、パレード。

「ただ、<宝>が破壊されるリスクがどの程度あるかだけは聞かせてください」

『……分からない。気づけば即座に壊されるが、気づかれなければ最後まで残る。そういう場所だ』

「…………なるほど」

ルークはライザーさんの言葉に納得したように頷いた。

あれは多分、ライザーさんの言葉を理解したというだけでなく、『<宝>がある場所』にも目星がついた顔だ。

「ルーク、何を懸念してるんだ?」

「既に<宝>の所在もこちらの動きも把握されていて、< 命(レイさん) >が王都に移動したタイミングで<宝>を壊されて戦争に負けることですね」

「……ぁー」

ありうる。

俺がこれまで味わってきた皇国の手口を考えるとないとは言えない。

『みなさーん!? 早くこっちに来てくださいよー! ビフロストの門もずっとは開けられないんですよぅ!?』

と、技術者達の避難が済んだのか門の向こうからパレードが呼びかけてくる。

「……話のタイミングのせいで罠みたいに聞こえますね」

『怪しさしかないからのぅ……』

マジで信用ないよな、あの人……。

しかし、どうしたものか。

「でしたらまずは様子見しましょうか。私がレイ君に変装して潜りますので、一分ほど待ってフラッグの状態に変化がなければレイ君も転移してください」

月影先輩はそう言って、講和会議のときのように特典武具で俺に化けた。

そしてビフロストを潜り、王都へと転移していく。

『お! 一番手ですか。これで<命>は安全。私の未来も安パイで』

『この門、後続が来るのでまだ開けておいてください』

『なんか声変わりしました? ってどこに走ってくんです? 教会の外? 何で?』

そして人目につきやすいように教会を出て行ったようだ。

それから一分ほど待ったが……『王国<宝>破壊』の通達はない。

俺達は頷き合い、揃ってビフロストを抜けていく。

「え? なにこれドッペルゲンガー?」

門を抜けてきた俺達に対し、パレードが驚いたように目を見開いている。

「パレードさん。もう閉じても大丈夫ですよ」

「あ、はい。閉門閉門」

俺達が抜けた後、ビフロストの門は閉じられる。

この門の転移は一人一日一回なので、今後脱出手段として使うことはできない。

「とりあえず<宝>はまだ壊されてない。この後は……」

「<宝>破損のリスクを考え、 戦場に戻ります(王都の外に出ます) 。ひとまずは王都の門のすぐ外で待機して、襲撃があればレイさんはすぐ王都の中に戻って僕達で迎撃という形でどうでしょう?」

「了解」

「そうだね。迎撃は僕やライザーに任せてほしい」

『ああ』

そうして、俺達は王都の門の外……ちょうど俺が初めてログインしたあたりへと向かう。

なお、パレードは皇国勢に見られないためなのか教会の中に独り残り、「いってらっしゃーい」と手を振っていた。

……うん、まぁ、いいのか。一緒にいるとルークの胃袋にダメージ入りそうだし。

「出たタイミングでの襲撃、あると思うか?」

「どうでしょうね。三日目は皇国の<マスター>も大きく減っているでしょうから」

特に王都は内も外もこちらの準<超級>戦力が巡回して狩って回っていたらしい。

また、フィガロさんの方も王国内で東奔西走する内に結構な数を仕留めたそうだ。

……そういえば、『誰にやられたか分からない』準<超級>が半数って話だったな。

あれは結局、誰の仕業だったんだろう。

『――――』

「……ん?」

王都の門へと向かっていると、不意に、耳に届く音があった。

見れば、周囲の人々の中には空の一点を指さしている人もいる。

「何だ……?」

指された一点を注視している内に、誰かの言葉が小さな羽音と共に聞こえてくる。

『――Mr.フランクリンよりレイ・スターリングへ』

――それは、聞き覚えのある声だった。

「フランクリン……!?」

王都の上空に浮かび、耳に覚えのある声で話す羽の生えた目玉。

その形は、記憶にある怪物――【 ブロード(フランクリン) キャストアイ(の改造モンスター) 】と酷似していた。

あの日のように映像が写されることはなかったが……代わりに声が響く。

それは同じ言葉を繰り返し再生して伝えるメッセージ。

響き渡る言葉は――。

『今日の日没、旧<ジャンド草原>にて待つわ』

『あの日と同じ場所で、決着をつけましょう』

『あなたが来なければ、ギデオンを消し飛ばす』

『そちらはどれだけの戦力を集めても構わない』

『こちらは私と、私のモンスター達で迎え撃つ』

『君は王国の<命>で、私の手には 皇国の(・・・) < 宝(・) >がある』

『戦争の趨勢を決める一戦であり、私達の最後の戦いになる』

『繰り返すわ。――決着をつけましょう』

極めて真っ直ぐな、――果たし状だった。

◆◆◆

フランクリンからレイへの 果たし状(ラブレター) が王国の 主要都市全て(・・・・・・) に流れた。

宿敵へと届かせるために放たれたメッセージは、戦争を左右する戦いの報せ。

それは一人の<マスター>と一人の<超級>の決着へのカウントダウンであり、

同時に、密やかに動き出そうとしていた者達の契機にもなる情報だった。

鎌持つ監視者が。

大気の支配者が。

怪獣の女王達が。

幾人ものヒトが―― その時(・・・) へ向けて動き出す。

◆◆◆

――されど。

――されど、それはヒトの言葉、ヒトの思惑、ヒトの情動。

――この盤面には既に、ヒトならざるモノが落ちている。

◆◆◆

■王国某所

レイが気に掛けていた、『皇国所属準<超級>の多数脱落』。

王国勢の誰も討っていないはずの相手が、半数近くが落ちている不可思議な事態。

しかし、それは別に不思議な話ではない。

単に、 割合(・・) と 分布(・・) の話でしかないのだ。

皇国の準<超級>の方が遥かに多かったから。

皇国の準<超級>はほぼ全てが王国の街中ではなくマップで活動していたから。

だから、 ソレ(・・) の被害者がそちらに 偏った(・・・) だけなのだ。

ソレは、王国か皇国かなど区別していない。

ソレは、今が二国間の戦争中であることなど気に留めてはいない。

事実、最初の被害者は王国の準<超級>だった。

その<マスター>は超級職だが戦闘職ではなく、ランカーでもなかった。

それゆえ、戦争期間中……非参加者にとっては加速のボーナス期間を有意義に過ごすべく戦場の外……王国国境の東側で狩りと素材採集をしていた。

結果、活動していたフィールドのすぐ傍に ポップした(・・・・・) ソレに見つかり、襲われ、討たれた。

そう、ソレは突如として何もない場所に現れたのだ。

先々期文明兵器のように特別な<遺跡>から出撃した訳ではない。

封じられた<UBM>のように砕けた珠から解き放たれた訳ではない。

<SUBM>のように運営から投下された訳ではない。

……しかし、ある意味では三番目が最も近い。

ソレが現れた場所は何もないが……とある事件の現場ではある。

一人の< 超級(災厄) >が討たれ、一つの装備品が破壊された場所。

その場所から、まるで リスポーン(・・・・・) でもするかのように……ソレは現れたのだから。

そして、ソレは辿る。

かつての道行きを再開するように、西へ、西へ。

王国へと入り、『敵』を探し、東西南北右往左往。

次々に見つかる『敵』を殺して回り、今は……。

――空を征く、新たな『 敵(超級職) 』を見つけた。

三日目の昼、残る皇国準<超級>の一人である【竜征騎兵】ガンドールは王国の空を飛んでいた。

未だ見つからない王国の<宝>や所在不明の<超級>の捜索。

それに加え、皇国の準<超級>を倒して回る何者かの調査。

飛行可能な準<超級>という利点を生かし、彼は広域でその任を負っていた。

場合によっては、同じく飛行型の準<超級>である【堕天騎士】ジュリエットとの交戦も想定されていただろう。

逆を言えば……彼は こんな相手(・・・・・) の想定はしていなかった。

「何なんやッ、こいつは!!」

飛翔する機械竜、ワイバーンのコクピットでガンドールは叫ぶ。

現在、彼はドッグファイトの真っ最中だ。

しかも、追われる側である。

それ自体は不思議ではなく、挽回可能な問題だ。

追われながらも時間を稼ぎ、《竜王紋章》で反撃する手もある。

だから彼が叫んだのは、相手のあまりの異様さに、だ。

『――――』

空を征く彼を追う相手もまた、空に在る。

だが、それには翼もなく、魔法で飛行しているわけでもない。

ソレは空中を地面のように駆けている。

ソレは高速飛行するワイバーンに徒歩で追いすがっている。

ソレは――空中には似つかわしくない 鎧武者(・・・) だった。

「あれがこっちの戦力落としまくった 正体不明(アンノウン) かいな!? せやけど、正体不明どころか意味不明すぎるやろ!?」

それは黒い武者兜を被り、鬼の面頬で顔を隠し、そして首から下は 影絵(シルエット) のように塗り潰されている。

この時点で不気味だが、より不気味なのはまるで正体が掴めないことだ。

人型だが人間と思えない気配。しかし、頭上にモンスターらしきネームの表示はない。

ならばと《看破》を使っても、何も見えない。表示すらされない。

あまりにも、不気味が過ぎる。ガンドールが『その見た目の幽霊なら出る国間違えとんで!?』と言いたくなるのも無理からぬことだろう。

しかしあえて言うならば、このときの彼が使うべきは《看破》ではなく、《 鑑定眼(・・・) 》だった。

それなら、 名前の断片(・・・・・) くらいは見えただろう。

影打(・・) 、と。

『――■■』

ワイバーンを追う鎧武者の指先に、いつの間にか四枚の札が握られる。

鎧武者がそれを宙に放てば、札は 黒い鳥(式神) に変わり、ミサイルの如くワイバーンを追尾する。

至近に達した黒い鳥は爆裂し、炎と雷光でワイバーンの装甲を炙る。

「ちっ! あのリーフみたいな真似しくさってからに!」

回避しきれない。

ワイバーンは昨日の<ターミナル・クラウド>の激戦のダメージが完全には回復していない。機体のHPも、ステータスも、万全には程遠い。

仮に《迅翼紋章》を使っても、この鎧武者の追跡を振り切れるかは不明だ。

「せやけどなぁ……これで三分や!!」

ゆえに、ガンドールは逃げるのではなく、戦うことを既に選んでいる。

「《 我が竜を見よ(ドラゴン・エンブレム) 》ッ!! 《 剛剣竜王(ロイヤルブレード) 》ォッ!!」

そして、最終奥義の発動と共にワイバーンは機械竜人へと姿を 変貌(かえ) る。

【飛将軍】リーフを破ったガンドールの切り札。

補充分も合わせた全てのカードを消費しての反撃。

距離を詰めて来るなら構わない。近接戦闘でケリをつけてやる、と。

炎の剣を振り上げ、迫る鎧武者に対して逆に斬りかかる。

その攻撃の起こりは、鎧武者よりも確実に速かった。

対して、鎧武者は腰に佩いた太刀へと手を掛けて、

『――《 一刀両断(我) 》/《 剣禅一致(流) 》/《 霞の太刀(魔) 》/《 雲鷹(剣) 》』

――複数のスキルと奥義を並列起動し、

『――――《大蛇》』

――――後より出でて先んじる一刀を抜き放つ。

抜き放たれた刃は金属と思えぬ程に伸長し、

妖蛇の如く湾曲してワイバーンの機体の亀裂から内部に飛び込み、

――内にいたガンドールを粉々に切り刻む。

自身の全力の一撃がカウンターされたことを自覚するよりも早く、ガンドールはワイバーン諸共に光の塵となった。

戦場であった空には……追った獲物を斬り殺した鎧武者のみが佇む。

鎧武者は準<超級>であるガンドールを討ったことに、特に感慨を抱いた様子はない。

ただ、一言。

『――超級職【 竜征(ますたぁ) 騎兵(どらぐなぁ) 】、 討伐候(とうばつそうろう) 』

――機械的にそう述べて、鬼のような兜と面頬の鎧武者…… 影法師(シャドウ) は次の獲物へと動き出した。

To be continued