軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一二七話 Result Ⅶ 前編

□■カルチェラタン地方・山岳部

初代フラグマンの作った概念実証機であるモルド・マシーネは、化身により変容した世界に適応した存在である。

二〇〇〇年前に自己進化機能のみを持たせて世に放たれた一万体近い【賢者之証明者】。

それだけの実験台の内、現在まで稼働する個体の占める割合はパーセンテージにしてコンマ以下。

モルドはその数少ない生き残りであり、中でも戦闘力に特化した個体である。

死亡したモンスターのリソース化現象に適応し、死したモンスターから通常より多くのリソースを自身の内に溜め込む。

必要に応じてリソースを消費し、自らの擬似的な器のステータスを任意増強する。

さらには<UBM>を撃破しその概念とリソースを取り込めば、その能力を再現できる。

相対するフィガロは知る由もないが、<遺跡>の内部で猛威を振るったカタと極めて近い性質を有する。

両者の違いとしてモルドには捕食という過程が存在せず、代わりにニーズヘッグという生命維持装置もないことだろう。

また人型に近くなるよう進化した機体フレームは、形状変化もカタほど自由ではない。

だからこそ、と言えるほどの理由にもならないだろうが。

(――不可解)

――交戦中のフィガロが徐々にモルドとの戦いに適応しはじめた。

モルドは次々に違う<UBM>の力を行使して翻弄していた。

その手札は数え切れず、見切ることも読み切ることも不可能に思えた。

それこそ、《生命の舞踏》が封じられた今のフィガロにとっては完全上位互換とも言うべき相手がモルドなのだ。

しかしフィガロは戦いの中で、次第に モルド自身の癖(・・・・・・・) を掴みはじめている。

どんな能力が来るかは不明でも、『 モルド(彼) ならどんな意図で、どんなタイミングで仕掛けてくるか』をフィガロは読む。

適応と言うならば、この男ほど恐ろしい適応力を発揮する者はいない。

科学は人間が生み出し、人間を超えるもの。

モルドはその権化とも言える科学の結晶。

しかしその科学の結晶を、生身で超えんとする人間がいる。

そう、【超闘士】は超えていく。

(――人間であるかを疑問視)

無論、モルドの手札はまだまだ尽きていない。

ステータス増強にも余裕があり、全ステータスをさらに十倍引き上げることも可能だ。

しかしそれをすれば溜め込んだリソースの消耗が著しく、機体フレームにも激しい負荷を掛けることになる。

その上、モルドはフィガロを足止めする必要はあれど、倒す必要はない。先の任務の障害となり、従魔の退去等の理由もあって撃破しなければならなかったキャサリン金剛とは違うのである。

なお、目の前のフィガロと倒したキャサリン金剛が兄妹であるなどとモルドは知らない。

しかしフィガロの方も気づいていないため、奇妙で皮肉なマッチアップとも言えた。

ともあれ、必要なのはクリスが何かの確認を済ませるまでの時間稼ぎ。

ゆえに、消耗と成果のバランスを思考しながら、モルドは戦いを進めんとして……。

『ライザー……キック!!』

フィガロに思考を割いた僅かな隙を突かれた。

あまりにも自分に対応してくるフィガロに気を取られ、この戦場に置かれたもう一つの駒への警戒が薄くなっていた。

『…………』

しかし、その攻撃に被弾することはない。

攻撃が届く位置と距離だとしても、モルドの思考と動きは対応して回避する。

それが特典武具と併用された二方向からの同時攻撃でも同じこと。避けられる。

「――《極竜光牙斬》」

が、不意打ちを回避したために生じた動きの歪みをフィガロに突かれることは不可避。

フィガロが、ソロ専門の決闘王者が、他人の動きに合わせてモルドを狙い討つ。

否、他人であって他人でなし。

闘技場にて幾度も拳を交えた相手。動きの理解は友の如し。

ゆえにフィガロの攻撃は完璧な連携として機能し、それを回避することはモルドにもできない。

ステータスの切り替えも間に合わない状況。モルドの選択は……。

『 強制解放(Release) ――【風竜王 ドラグウィンド】』

無制御による<UBM>能力の零距離解放。

モルドの左腕から、全方位に向けて強大な暴風が解き放たれた。

それはフィガロとライザー、そしてモルド自身までも薙ぎ払う。

「へぇ……」

『クッ……!?』

発動速度とノックバックを目的としていたために威力は抑えていたが、それでもフィガロの全身には裂傷が生じ、ライザーのスーツは罅割れている。

しかし爆心地となったモルドの左腕も指がひしゃげ、腕部のフレームも歪んでいた。

必要経費だが、無視できない損害だ。

ここからどうすべきかとモルドが思考したとき……。

『……作戦終了。撤退せよ』

クリスから、ようやく任務終了の報せが届いた。

その指示に対してモルドは機械仮面の内でなお鉄面皮を維持しながら……。

『…………』

正直に言って、安堵していた。

◇◆◇

■???

最も新しき<超級>と化した【喰王】カタ。

そして、レイ・スターリングを筆頭に、カタに挑んだ王国の<マスター>達。

その戦いの一部始終を<遺跡>内に仕込まれた装置で観察していた者がいる。

「…………」

人型なれど、人でないもの。

量産型煌玉人【水晶之調律者】――個体名クリス・フラグメント。

彼女の意図したとおり、発破をかけられたカタはその力を振るった。

彼女の計画したとおり、転移という逃げ道を封じられた王国勢は彼に抗った。

そして、その状況下において……彼女が見たかったものは見れた。

その対象はカタではなく、【魔王】でもなく、無論パレードでもない。

「……【白銀之風】とレイ・スターリング」

自らの創造主が遺した『作品』と、その所有者だ。

「以前、インテグラがあれをチェックしたときのデータは確認していたが……」

それはギデオンで“トーナメント”が始まるよりも前、インテグラが王城にレイを呼び出したときのことだ。

あのとき、インテグラはシルバーの内部機構を理解することは叶わなかった。

既知の機構からある程度の予想はできたが、結論付けるには至らなかった。

そのときのデータは受け取り、目を通していた。

結論を言えば、インテグラよりも多くの情報を持っている彼女にも不明だった。

つまりは、初代フラグマンが意図的に……【水晶】や次代以降の【大賢者】に情報を遺さなかったということだ。

数多の決戦兵器の捜索、管理、運用さえも委ねられている彼女達にも秘された逸品。

それが、【白銀之風】だ。

しかし今回、その性能を発揮している状況を観測したことで、クリスはその内部機構の正体を理解した。

「【白銀之風】は……“天秤の化身”のコピーだ」

煌玉馬、最終号機【白銀之風】。

初代フラグマンが彼としての『ポリシー』……『手ずから作る一品物では同じ仕様のものを作らない』を持ちながら最後に作成した機体。

それに搭載されたのは、奇しくもモルドと同じ……変化してしまった世界を象徴する現象。

即ち、『モンスターの死体のリソース化とアイテム化』である。

モンスターが死んだ際に光の塵となり、アイテムを遺す現象。

これは先々期文明の崩壊後に“天秤の化身”がこの世界に足したルールだ。

世界そのものを最も大きく変化させた力。

初代フラグマンは、【白銀之風】にそのルールを応用した機能を持たせた。

自らと搭乗者、装備品を リソースへと変換(・・・・・・・・) 。

リソースのまま移動し、移動先で 元の形に再構成する(・・・・・・・・・) 。

「自由に組み替える……までは至らない。移動に際しては『完全に分解前と同じ』条件で固定することで、再構成の成功率を上げている。【殺人姫】のような完全回復を伴う再構成ではない」

要するに、古典SFの電送装置だ。

それも転送前後の存在の同一性を問題視される類の手法である。

とはいえ、この世界においては魂が【冥王】の《観魂眼》をはじめとしたスキルによって観測可能であり、同一性の問題は解決されているとも言える。

要は、分解したリソース群に魂を保持させたまま移動させればいい、と。

ゆえに、初代フラグマンはこの機能に《 風と歩む魂(ソウル・ドリフト) 》と名付けたのだろう。

「《風蹄》というスキルも予測がつく。インテグラは分子操作と読んでいたが、近くはあった」

自身と搭乗者、装備品の分解。リソース移動。そして再構成。

それらを実現するため、【白銀之風】は自身の周囲の構成物質そのものを操る力が搭載された。

《風蹄》という基本機能は、その省力版。自身と人体を分解し再構成することに比べれば、周辺気体を集中・圧縮・固定して足場やバリアに組み直すのは容易である。

「……空間転移よりも余程に無茶で、有効距離も短い。恐ろしく実験的なシステムと言える」

この機能、《風と歩む魂》の最大の問題点は成功率。初代フラグマンでさえも、この機能のシミュレーションを繰り返しても失敗のリスクを消せなかった。

【白銀之風】本体はともかく、搭乗者の方は失敗すればそのままバラバラのリソースとして霧散する。

完全に再構成される場合もあるが、体や装備が部分的に再構成されず、場合によっては完全にリソース化したまま死亡するパターンもあると算出された。

移動距離が伸びるほどに成功率は著しく低下する。

安全とされる距離さえも、本当に安全かは状況次第。

ゆえに搭乗者が権限を持たぬ内は、【白銀之風】自身の判断で使用を決断する。

これまでにシルバーの判断で使用した二度のケースは、使用しなければ絶命必死という状況且つごく短い距離での使用だった。

【アクラ・ヴァスター】との激突を避けるための、華牙重兵衛の斬撃を回避するための短距離移動だからこそ、失敗せずに済んでいた。

あるいは何かしらの不具合が起きても、その後に治されたので気づかなかっただけかもしれない。

「《煌玉権限》に加え、【白銀之風】自身に搭乗者の機能使用への許諾を任せたのは一種の安全装置ということか。無茶な使い方をする搭乗者ならば、最悪諸共に塵になって終わりだ。流石に創造主様もそれは望まな…………いや」

むしろ大笑いするかもしれないと、クリスは思った。

クリスが直接は知らない“化身”襲来以前の初代フラグマンの……過去の記録に残っていた姿にはそういう部分があった。

誰よりも知識を持ちながら『趣味』に走り、世界を動かす。

そんな楽しい 異世界生活(・・・・・) をしていた創作者。

それが創造主……初代フラグマンなのだから。

そして【白銀之風】とはそんな彼にとって最後の……『趣味』の産物。

興味本位で、息抜きで、昔のように。

楽しく作り、完成を愛した。

そんな、唯一無二の作品だ。

「…………」

クリスにとって、人格はエミュレートしたものに過ぎない。

都合によって、TPOによって、いくらでも切り替えることができる。

しかしそれでも、どんな人格にしたとしても……。

仮初の心のさらに奥底から湧き上がる――羨む――という思いは消えない。

量産機だからこそ抱いてしまった……彼女自身の『感情』なのだから。

最も自由で、自分とは違う道を進む兄弟から目を逸らし、クリスはモルドに通信を繋ぐ。

「……作戦終了。撤退せよ。転移遮断結界は解除した」

『了解した』

なお、クリスはシルバーの戦いを見ていてモルドの戦いは見ていなかった。

気付けば相当の損傷を負っていたため、訝しみながらも尋ねる。

「その損傷で退却は可能か?」

『問題ない。慣れている』

その声と共に、フィガロと戦闘していたモルドは退いた。

攪乱のための残照励起を使用しながらの見事な撤退であり、転移の隙を作って無事に逃げおおせていた。

クリスは『一〇〇〇〇体近く作られた【賢者之証明者】は初期性能の低さゆえに現代には殆ど残っていない。だが、現代まで残れたのは単に強く自己進化を遂げただけでなく、退くのが上手いということでもあったか』と納得をしていた。

ともあれ、これでこの戦場は手仕舞いだ。

戦争自体も大きな戦いはあと僅かだろう。

クリス達の陣営にとって、この戦争の勝敗は後の戦略に大きな影響を及ぼさない。

彼女達にとっての本命までは、まだ世界の準備が足りない。

ゆえに今は、後手に回りすぎない程度――議長相手に先手を取るのは困難であるため――に情報を蒐集する。<史折>との情報交換もそのためだ。

「門の劣化化身の機能も回復する。連中も退くだろう」

戦闘で生じたプラントの損害は辛うじて再建可能な範囲といったところ。クリスには他の案もあったが、残るのならばそれはそれでいい。 普及率(・・・) が上がるだけだ。

そう結論付けて、クリスは<遺跡>から目を離す。それでここでの活動はおしまいだ。

カタやシルバーのこともあってずっと<遺跡>にのみ集中していたが、彼女の仕掛けた観測装置は王国各地にある。

それらから、何か情報は入っているかと目を通し……。

「…………何?」

一点の、無視できない情報が目に入った。

To be continued