軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十八話 答え

□■<墓標迷宮>

――良いかい、マリリン。

――今の僕では、僅かな時間しか君に力を与えられない。

――その限られた時間で『勝って』とは言わないよ。

―― 勝利への道(・・・・・) を切り開いてほしい。

◇◆

イゴーロナクの前に立ちはだかり、自ら竜と名乗る女。

その姿に、“不退転”のイゴーロナクを率いるヒカルは思案する。

(あれは……純竜の人化形態?)

知恵持つ純竜や上位純竜、そして【竜王】は人に変化するスキルを獲得する場合がある。

自らの質量とリソースを別空間に保管して作る義体にして、擬態。

その場合、ステータスは竜本来のものから大きく低減するはずだ。

(それにしては……)

メロの用意したバリケードを貫き、イゴーロナクを一撃で粉砕した。

人化してなおこれだけの力を発揮するならば、真の性能はどれほどのものか。

(王国には“四大冥土”という強力な人化モンスターを従えるテイマーがいるとは聞いていた。これはその内の一体?)

あるいは、と考える。

このモンスターの本来の姿は迷宮に入れるサイズではなく、それをこの局面で運用するために人化状態のままで戦闘に突入したのではないかと。

いずれにしろ、本来のスペックを発揮できないならば上位純竜クラスだろうと打つ手はいくらでもある、……が。

「ヒカル。今は相手の視界を潰せない」

現状、モクモクレンはモンスター対象の視界シャッフルはできない。

それをすれば、今のイゴーロナクの視界になっている【ブロードキャストアイ】までも対象になる。

<マスター>か、ティアンか、<エンブリオ>か、モンスターか。

そして、パーティメンバーか否か。

《うしろのしょうめんだあれ?》は強力な代わりに消耗が激しく、選別もその程度にしかできない。

パーティメンバーはコクピットの五人と、迷宮内のメロで枠が埋まっている。

それにモンスターを対象にすれば、効果範囲内の全モンスターが対象。そしてその数に応じてスキルでのMP消費も加速する。ダンジョン内ともなれば。猶更だ。

「まともに交戦するしかない、な」

二重の理由で相手の視界は潰せない。

「ヴィトー、遠距離攻撃で誘導。少しずつ階段前から引き離せ」

しかし正面からの戦いで相手を倒す気もない。

「ラージ、クールタイムが明けたら階段前に跳んでレイ・スターリングを追う。スモール、跳躍後に三体目の【アイ】を放出」

「「「了解!」」」

優先すべきは敵対者を倒すことではなく、『命』であるレイ・スターリングの撃破。

ならば倒してから追跡するのではなく、捲くってしまえばいい。

はっきり言って、問題は位置関係のみ。

それゆえまずは位置交換を行い、レイ・スターリングに追撃をかけることを選択した。

(レイ・スターリングも脚部に重傷を負っている。まだ追いつける)

【ブロードキャストアイ】が中継する映像の中、マリリンは動かない。

イゴーロナクが一歩下がっても、それを追うことなく不動。

このまま階段前に立ち続けられれば、転移をしても引き離せないが……問題はない。

「撃て」

ヒカルの号令の直後、イゴーロナクが両脇に抱えたマシンガンを撃ち放つ。

ヴィトーのジョブスキルの一部を使用できるイゴーロナク。今使用しているのはヴィトーのメインジョブである【 炸裂銃士(バースト・ガンナー) 】の奥義、《トリガー・ハッピー》。

銃身へのダメージを増大させる代わりに、火薬式銃器の威力を数倍に引き上げるスキル。

本来であれば撃ち続けた銃身が焼けつき、砕けるスキル。

だが、メロの刻印が施された銃器はMPを消耗することで万全の状態に回帰する。

アイテムボックス式の追加弾倉を装着したマシンガンは、砲弾の如き威力で途切れぬ弾幕をマリリンへと撃ち込んでいく。

(動く気がないならばそれでもいい。行動不能になるまで弾丸を浴びせる)

鎧の形状や槍――本来は角と思われる器官――から推測するに元は地竜。

ダメージを減算するスキルも積んでいるかもしれないが、人化状態ではそれも万全ではないはずだ。

上位純竜であろうと人間並みの体躯に収まり、スキルとステータスが不全であるならばこの猛攻によって傷つき、身体機能を損なっていく。

レイ・スターリング同様に足に傷を負えば、彼を追うイゴーロナクを追尾することもままならない。

だからこそ、銃撃を止めるべく竜はイゴーロナクへと近づくはずであり、そこで階段手前に転移して捲くる。

そう考えての、連続射撃。

――しかし、人化した竜は銃撃を意に介さぬようにその場に立ち続けている。

竜殻の鎧に当たった弾丸は、明後日の方向に跳弾していく。

それどころか顔面に命中した弾丸さえも、命中後に皮膚の上で潰れて地に落ちる。

僅かに皮膚が赤くなっているだけで、ダメージらしいダメージも見えはしない。

「何なんだ、こいつ!?」

ヴィトーが狼狽するが、ヒカルも内心では同感だった。

本来の姿ならばまだしも、人化して弱まった竜がこれ程の性能とは考えられない。

それこそ、人化した【竜王】でももう少しばかりダメージがあるはずだ。

まるで広間での交戦でバルバロイ・バッド・バーンが《アストロガード》で守りを固めたときのような、桁違いの防御性能である。

(……あるいは、本当にそれか?)

動かない代わりに、防御力を底上げする。

そんな《アストロガード》のような固有スキルをあの竜が持っている可能性を、ヒカルは考えた。

そうであれば、動いて距離を詰めに来るはずもない。

動かずにスキルを使ってイゴーロナクを警戒しながら、レイ・スターリングが逃げ切るなり他者と合流するまでの時間を稼げばいいだけなのだから。

それこそ、同様に人化したモンスターが他にもいれば……レイ・スターリングは難なく地上まで誘導されてしまう。

「引き付けられないならば、切り倒す。武装転送」

現状の武装では埒が明かないと判断し、ヒカルは武装の変更を指示する。

「両腕部を【 鋼裂(スティール・テアー) 】に換装」

それは、広間での襲撃時にも使用したチェンソーだ。

かつて【紅水晶】と同じ遺跡で発掘した魔力式武装――三代目フラグマンの遺物。

起動中は相当量のMPを消費し、燃費も劣悪。

しかし燃費の代償に、一分間で消費するMPと同値だけ相手の防御力や防御スキルの効果を減算して切り裂くことができる。

MPを二〇万も注げば、どれだけの強度があろうと紙同然。

先刻、一セットが【石化】させられたが、それでもまだ複数個がヒカル達のアイテムボックスに収まっている。

「う、うん!」

スモールがゲートを小さく開き、イゴーロナクと【紅水晶】のコクピットを繋ぐ。

その瞬間にヴィトーが《瞬間装備》を使用し、両腕をチェンソーに換装する。

《瞬間装備》のクールタイム中はゲートから直接武装を送り込む必要があるが、《瞬間装備》が使えるならば最小限の接続で装備の変更が可能だ。

「ぶった切ってやる!」

ヴィトーの意を受けたイゴーロナクは、両腕のチェンソーを唸らせながらマリリンへと突撃する。

大量のMPが注ぎ込まれた刃は、もはや耐久特化の超級職でも引き裂くことができる。

あちらも近接戦闘を得手とするが、問題はない。

イゴーロナクは砕かれようと再生する。

肉を切らせて骨を断つ、ではない

骨を断たせて肉を切っていけば、最終的にはイゴーロナクが勝つ。

さらに今は殺し切る必要さえない。イゴーロナクの追撃を阻止できない程度のダメージを与えれば、それで勝利は確定する。

距離を詰めて近接攻撃をぶつけ合えば、イゴーロナクに天秤は傾く。

「――――」

チェンソーを振りかぶりながら距離を詰めるイゴーロナクに対し、マリリンも馬上槍を構える。

前方へと突き込むための構え、それを両の腕で同時にとっている。

「跳ばすか?」

「いや、転移はレイ・スターリング追撃に残す。正面から切り伏せる」

転移で相手の裏を取るかを問うたラージに対し、ヒカルはそう答えた。

その判断は間違いではない。

このまま近接戦闘に持ち込めば、勝つのは防御無視一撃必殺に等しい刃を持つイゴーロナクである。

レイに距離を離されつつあることも含め、追撃のために転移を残す判断は正しい。

ただし、その判断は――、

「――《 ディストーション(・・・・・・・・) ――」

――マリリンに――、

「―― パイル(・・・) 》‼」

――遠距離攻撃がない前提の話である。

瞬間、イゴーロナクの両腕はチェンソーごと跡形もなく消し飛び、胴体部も両側から半円に抉れていた。

まるで、見えない衝角が突き抜けたかのように。

「…………!」

その攻撃はヒカルの想定の外だった。

槍を投げるなりブレスを吐くなりするならまだしも、今の攻撃は明確な槍術。

それも、超級職の奥義の如き代物だ。

モンスターが人間のフリをしている……などという、レベルでは決してない。

(【竜王】の一部には、《竜王気》を操作して攻撃するモノもいるとは聞いたが……)

眼前の竜もその類……ではないだろう。

なぜなら《竜王気》は有色のオーラであり、今の攻撃はそれとは違う。

(これは、一体何なんだ?)

モクモクレンの影響を受けていないため、<マスター>や<エンブリオ>ではない。

ヴィトーに被害はないため、ティアンではない。

人化したモンスターとしては、異様な強さ。

そして、【竜王】でさえない。

(まるで、 人でも(・・・) モンスターでもない(・・・・・・・・・) 何かだ)

ヒカルがそんな答えにもならない考えを抱くのも無理はない。

しかし、ここで最大の問題はヒカルの思考ではなく……。

――それこそが 答え(・・) だったことだ。

◇◆◇

□■ソレらについて

ソレらは、人ではないという。

ソレらは、モンスターではないという。

たとえば、鍛冶師。

人であったが、肉体を失ったモノ。

しかし、陽炎の如き身で数多の武器を鍛え続けたモノ。

たとえば、妖精巨人。

弱き人と強き人の間に生まれ、忌み嫌われたモノ。

しかし、比類なき生命力を得て主に仇なす全ての者の壁となった斧振るうモノ。

たとえば、地竜。

大地から力を吸い上げる大喰らいの怪物。

しかし、創り出す力を獲得し、一つの生態系の覇者となったモノ。

たとえば、改人。

人と異形の力を併せ持つ、軛に繋がれたモノ。

しかし、軛より解き放たれ、最も新しき神の下僕となったモノ。

ソレらは歴史の中に幾度も生まれ落ちて、ソレらを生み出したモノ同様に……あるいはより大きく世界への爪痕を遺していく。

ソレらは、人でもモンスターでもない。

人間範疇生物と非人間範疇生物、 双方の力(・・・・) を持つモノ。

ソレらこそ、一柱の神と一つの魔王に連なる―― 眷属(・・) である。

To be continued