軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四話 《悪夢の王国》

■【遊迷夢実 ドリームランド】・内部

「「…………」」

レイ達がカーディナルAと交戦しているのとは別の道にゼクスとキャンディは立っていた。

彼らの周囲の光景も、クリアになっている。

ZZZがレイ達に対して説明を行っていたのと同じ説明……と言うよりは同時中継でゼクスとキャンディも聞いていたのである。

二人はレイやガーベラのように口を挟むことはなかった。

ただ説明を聞いて理解しただけだ。

あるいは、レイよりも幾つか先まで。

「……すっげー意味のない説明だったのネ」

キャンディは不機嫌な顔でそう言い放つ。

「このドリームランドが意思のないモノを受け入れていないことなんて、こっちは先刻承知なのネ。こっちで殺されたら死ぬとか、条件を達成しないと目覚めないとか、それも聞くまでもないことなのネ。情報のメリットがないのに、あっちのスキルが使えるようになったってことなのネ」

そしてキャンディは溜息と愚痴を吐く。

「はぁ。しかも、スキル自体の説明は一切なかったのネ」

手の内を明かした?

否、時間が立てばそうと分かることを伝えただけで、手札を晒してはいない。

元より有利だった相手が、さらに有利になっただけだ。

「ゼッちゃんもそう思ったのネ。……ネ?」

キャンディはそこで、ゼクスが口元に手を当てて何事かを考えていることに気づいた。

「……矛盾している」

それは先刻の情報について吟味している……という訳ではない。

「何が矛盾してるのネ?」

「説明を必要とする<エンブリオ>であること、……ひいてはこの夢の世界そのものです」

もっと根本的な、疑問だった。

「【怠惰魔王】の人となりについての情報は得ています。怠惰であり、欲がなく、寝て過ごしていたい穏健派」

「こっちも似たような情報なのネ」

「であれば、このドリームランドはおかしい。パーソナルに矛盾しています」

「それってどういう……あ、なるほど」

そこでキャンディも気づいた。

「怠けていたいだけの人間が――夢の中でまで 作業を強いられる(・・・・・・・・) <エンブリオ>を好むはずがない」

基本的に、<マスター>は自身の<エンブリオ>の力を嫌わない。

変幻自在のスライムであるゼクスにしても、細菌を生成するキャンディにしても、それぞれの<エンブリオ>の在り方を好んではいる。

だが、怠惰に過ごしたいだけの人間が、怠惰の基本であるはずの睡眠時間を 作業時間(・・・・) に変えてしまうような<エンブリオ>を好むだろうか?

単に眠らせるだけではなく、力の行使に本人の説明を必要とするような<エンブリオ>を……。

「どちらかの捉え方を誤っています」

怠惰に過ごしたいだけというZZZのパーソナルか。

夢の世界に引きずり込むというドリームランドの能力か。

どちらか、あるいは両方が……ZZZの敵対者が持つ認識とズレているのだ。

ズレた結果……何らかの予期せぬスキルを持ち合わせている可能性は高い。

そしてそれこそが――現実においてアプリルを苦しめているスキル。

名を、《 悪夢の王国(ドリームランド) 》と言う。

「現時点では情報と検証が足りませんね。ですが……何が来てもおかしくはない程度には考えておきましょう」

「リョウカーイなのネ」

そうして二人は再び道を歩き出そうとして、キャンディがふと気づいた。

「ゼッちゃん。その指、どうしたのネ?」

キャンディが指摘したのは、ゼクスの左の小指。

それが…… 無い(・・) 。

いつからそうなっていたのか、左の小指がなくなっている。

「……もしかして時間経過で体の端っこから無くなっていく系のスキルなのネ?」

巨大な生き物に丸呑みされた気分がして、キャンディは自分の体は無事か確かめる。

だが、当のゼクスは微笑を浮かべたまま、「心配はいりませんよ」と言った。

「これは【怠惰魔王】のスキルではなく、この私が自分でやったことですから」

「?」

「そろそろいいでしょう」

ゼクスはそう言って、左手を後方……これまで自分達が歩いてきた方角に向けた。

すると、暫しのときを置いて、小さなスライムが視界内に入ってきた。

「これって……」

「ええ。ちょっとした検証です。ここに来てすぐに分離していました」

小さなスライムはピョンとゼクスの手の中へと跳ねて、左手の小指に変じた。

「たしかゼッちゃんのスライムって……」

「ええ。分体のサイズにもよりますが、本体である最大体積の塊から離れると消滅します。ですが、今の分体は本来の消失距離から十倍以上離しても消えていません」

「つまり、距離に関する法則が違うってことなのネ?」

「あるいは実際の体は繋がったままだからなのか。どちらにしても差異を活かすことはできそうです」

ゼクスがそう言って右手を剣の<エンブリオ>に変えて……自分の首を斬り飛ばした。

直後、残った体はバラバラになり、それぞれが小さなスライムへと変わる。

何体かには羽も付いていた。

「分体を五〇体ほど作りました。これでドリームランドの内部を偵察することにします。運が良ければガーベラさんか【怠惰魔王】を見つけることができるでしょう」

小型分体の拡散。通常であれば分体が次々に消滅する自殺行為だが、距離を離しても分体が消えないのであれば最適の偵察方法である。

そうして、スライムは四方八方へと向かっていく。

中には夢の道から落ち、落下していくモノも何体かいた。

「んー、流石のGODもここまで思い切りのいい手口は使えないのネ」

「私も安全マージンは考えていますから、いずれか一体が距離法則で消滅した時点で引き戻しますよ。ああ、キャンディさんにお願いが」

「何なのネ?」

「頭、運んでもらえますか? この私は分体の操作に集中するため、動きにくいのです」

「……ちょっと普段のアプリルの気持ちが分かるのネ」

キャンディは苦笑しながら、ゼクスの頭を抱えたのだった。

◇◆◇

□■レジェンダリア北端・<羊毛種族の集落>改め<スロウス・ヴィレッジ>

レジェンダリアの中でも王国との国境に近い森林地帯。

森の中に隠れるように、小さな集落があった。

集落の周囲にはミスリル製の【スラル】が徘徊し、周囲のモンスターをはじめとする招かれざる客から集落を守っていた。

それらの【スラル】は【怠惰魔王】ZZZから半ば自律した設定になっており、彼がログアウトしても集落に残って警備を続けるようになっている。

【魔王】の配下がうろつく小さな集落の中心には、 魔王城(・・・) と言うには小さな屋敷があった。

この集落では最も大きい建築物だが、王都の貴族の邸宅よりも……あるいは小さな地方貴族の屋敷よりも小ぢんまりとしている。

『Zzz……』

その小さな屋敷の二階にある寝室で、ZZZは眠りについていた。

フワフワとしたベッドの上で寝返りも打たずに熟睡している。

夢の中でも着ていたバクの着ぐるみが寝袋代わりになっていそうなものだが、構わず毛布がかけられていた。

「…………」

そんな彼の姿を、寝室の扉の横でジッと見つめている者達もいる。

羊毛種族の侍女であり、複数人いるこの屋敷に住み込みの使用人だ。

自分達の支配者である【魔王】……ZZZは彼女達の前で眠っている。

これが支配者と奴隷の関係であるならば、あるいは復讐の機会とも言える。

寝首を掻くのは一見すると容易いだろう。

だが、彼女達にはそんなつもりは毛頭なかった。

眠るZZZを見つめる彼女達の瞳には安堵と、確かな敬愛があった。

【魔王】を見る目ではなく、まるで 救世主(・・・) を見るようであった。

それは間違いではない。

彼女達、羊毛種族にとって……【怠惰魔王】は救世主に他ならないのである。

◇◆

頭部に巻き角を持ち、手足と背中に羊のような体毛を生やした羊毛種族。

彼女達の集落はレジェンダリアの北端にあるが、彼女達も最初からここに住んでいた訳ではない。

レジェンダリアの中央から落ち延びた結果、北端に辿り着いたに過ぎない。

羊毛種族の体毛、特に若い女性の綿毛は最上級の衣服や寝具の素材として重宝される。

かつて、それを理由に人間範疇生物でありながら他の人種から狙われたのである。

あたかもレア素材を落とすモンスターのように。

むしろ、モンスターよりも確実にドロップするゆえに、なお性質が悪かったとも言える。

家畜にも近いその立場を良しとしなかったために、彼女達はレジェンダリアの外れにひっそりと移り住み、隠れ潜んで時を過ごすことになった。

それから数百年、彼女達は辺境で時と世代を重ねた。

部族としてレジェンダリアの議会に参加することもなく、忘れられた弱小部族の一つとして生きていた。

数多の部族がひしめくレジェンダリアにおいても、それは指折りに惨めな境遇であっただろう。

けれど、良いこともあった。

彼女達が選んだ住処が、絶妙であったことだ。

その地域は【螺神盤】という<UBM>の縄張りから、ギリギリで外れていた。

ギリギリで縄張りから外れていたため、生贄を要求されなかった。

同時に、【螺神盤】を恐れてモンスターもあまり寄ってこない位置でもあった。

だからこそ、数百年もの年月を羊毛種族は静かに暮らすことができたのだ。

しかし、時代は流れ、状況は変化する。

【螺神盤】が討伐されたことで、モンスターの生息域が変化したのである。

それまでは近寄ってこなかったモンスターが、集落の近くに出現するようになった。

彼女達に抗う力はない。

部族全体で戦闘職への適性が低いためだ。服飾系の生産職、そして【生贄】というティアンにとっては何の役も立たないジョブへの適性が高いのだ。

だというのに、今現在この地域に生息するモンスターは強い。

それこそ、レベル三〇〇以上の<マスター>が適正狩場と定める程度には。

誰かに守られねば、いずれモンスターに集落ごと食い殺される。

しかし緩衝地帯に近くともレジェンダリア側であるため、他の縄張りの地域と違って王国に併合されておらず……庇護下にない。

そもそも、世俗の情報が三強時代で止まっている彼女達の集落にとって、レジェンダリアの外は奴隷狩りに遭う危険地帯でしかない。

しかしレジェンダリアにおいても、隠れ住んでいた羊毛種族は存在しないようなもの。

世に出たところで再び狩られ、刈られるだけだ。

死ぬか家畜かの二択。

考えて、彼女達は死を選ぶことになる。

正確に言えば、答えが出ないうちにモンスターが集落の中に入り込んだのであるが。

あるいは家畜になった方がマシだったかもしれないと、考えてももう遅い。

狼に似た魔獣型のモンスターが羊毛種族を牙にかけようとしていた。

そんなときだった。

突然、世にも奇妙で不格好なモンスターの群れが現れ、狼を薙ぎ倒し始めたのである。

【スラル】という名を持つモンスターが、魔獣型のモンスターを蹴散らしていく。

その内の一体は、なぜか大きなバクのぬいぐるみを抱えていた。

否、違う。

抱えられながら寝返りを打ったそれは……着ぐるみだった。

『……もうたべられないよー……』

ベタな寝言を言うバクに構わず、【スラル】は狼を殲滅していった。

やがて狼が壊滅した後、【スラル】はその場で停止した。

羊毛種族の視線は【スラル】……中でも着ぐるみを抱えたモノに集中する。

バクは奇妙な存在だったが、頭上に名の表示はなくモンスターではない。

では、一体何者なのか。

普通なら<マスター>の存在に思い至るだろう。

だが、隠れ住んでいた彼らは<マスター>の増加など、知る由もない。

彼らにとっては伝説の中の存在だ。彼らが隠遁し始めた三強時代では、<マスター>とは【猫神】と同義語だったのだから。

『……Gi』

自身と自身が抱えたバクに向けられた視線に気づいた【スラル】は、しばしどう対応するか考えた。

しかし結局、自分では対応できないと判断してバクをつついて起こすことにした。

『むにゃむにゃ……人里ついた?』

目覚めたバクは周囲を見回し、そこが人里であることだけ確認してから……。

『【怠惰魔王】のZZZです。よろしくねー』

そう、自己紹介した。

羊毛種族は驚いた。

名乗られた名前も、また伝説の存在だったからだ。

『食料が切れかけているので、補充したいのだけどー。ハングリー。あー、なんか【 暴食魔王(ディス) 】みたいだわこれー。あ、お金はありまーす。ハウマッチー』

寝惚けた口調だが、《真偽判定》に反応はない。

【魔王】を名乗ったことも含めて、全ては真実だ。

伝説にある【魔王】。

<神造ダンジョン>の攻略者。

人知を超越した実力と運否天賦を持つ者。

その力を手にした者は、世に混乱を巻き起こすことも多かったという。

だが、【魔王】であっても、彼らにとっては救世主だった。

「「「…………」」」

彼女達は顔を見合わせる。

先刻の、狼に襲われた際の後悔。

だからこそ次は間違うまいと、意を決し発言した。

「どうか我々を……あなたの臣下に加えていただけないでしょうか! 命以外、あらゆるものを捧げる覚悟です!」

『いーよー』

即答だった。

分かって回答したのかは分からない。

少なくとも、彼女達の境遇については知らなかっただろう。

『じゃあ衣食住はお願いねー。ぼくは寝ますー。スリーピー』

そうして、ZZZは再びスヤスヤと眠り始めた。

かくして、羊毛種族の隠れ里は……【怠惰魔王】の縄張りとなったのだった。

◇◆

そのような顛末があったため、羊毛種族にとってZZZは救世主だ。

ZZZは支配者となった後も食事と寝床くらいしか求めない。

しかも【スラル】が警備や畑仕事でも尽力するため、集落の暮らしぶりはよくなったほどだ。

羊毛種族にとって、最良の支配者と言える。

だからこそ、不思議でもある。

羊毛種族の中でZZZの専属侍女を務める者の一人が、かつて尋ねたことがある。

これほどに無欲で温厚なZZZがどうして指名手配されたのか。

そして、どうして【魔王】になったのか。

その答えは……。

『指名手配はねー。ぼくが悪いよー。ドリームランドが第七形態に進化した後に覚えたスキルが思ったより広範囲でさー。都市機能一時的に麻痺させちゃってー……。そりゃあ指名手配されるよねーって。ウォンテッドー』

『【魔王】? ああ、うん。実はぼくって友達いるんだけどさー。ベネトナシュとディスとオメガって言うんだけどー。フレンズー』

『でも三人とも超級職なっててさー。『いいなー』とか、『うらやましいなー』とか、そういうんじゃないけどー。なんか『置いてかれる?』って思ったらもやーってしてさー。「悪いなZZZ、この超級職三人用なんだ」的な? 超級職って一人用だけどー。ソロプレイー』

『でー。一番取りやすそうなの【怠惰魔王】だから取ってきた。ほら、ぼくって 寝てれば無敵(・・・・・・) だからー。スターマリ○ー。ヒアウィーゴ―』

そのようにいずれの質問にもあっさりと回答した。

要するに深い理由や欲望の類ではなかったらしい。

だから、重ねて問うた。

「では、どうして眠りたいのですか?」

普段の彼の在り方に対して、放った質問に対して……。

『――眠れないから』

彼は同じようにあっさりと……矛盾する答えを返した。

『ぼくってリアルだと ここ(・・) がぶっ壊れて眠れないしー。眠れたらいいんだよ眠れたらー。それが夢なら明晰夢でも悪夢でも何でもいいよー。ドリーミング』

自分の頭蓋を指で叩きながら、あっけらかんとした言い方でZZZはそう述べた。

けれど、その言葉に……深い悲哀が混ざっているような気がした。

だからこそ、彼が安らかに眠れているのならば、きっと彼にとってそれ以上に幸せなことはないのだろうと……羊毛種族は理解したのである。

◆◆◆

■ZZZについて

【怠惰魔王】ZZZは……ZZZのリアルは夢を見た記憶がない。

幼少期の事故による、脳の機能障害だ。

どれほどに瞼を閉じようと、肉体が疲労の極致であろうと、自然な形では睡眠に至れない。

それこそ薬剤を用い、夢も見ないほどに強力かつ強制的に脳を落とさなければ、彼に眠りは訪れない。

あるいは今の時代でなければ、そんな対症療法さえできずに衰弱して死んでいたかもしれない。

そんな彼にとって、眠りたい、夢を見たいというのは必然の欲望だ。

生物が生物として必要な三大欲求の一つが、彼には欠けているのだから。

だからこそ、彼が眠るためにダイブ型VRMMOに手を出したのは自然なことだった。

しかし多くのゲームは彼をその世界に入れることすら拒んでいた。

夢を見るように没入させるものだけでなく、五感に信号を伝えるタイプも彼の脳が抱えた機能障害によって十全に起動しない。

この解決方法を諦めていた彼だが、最後に<Infinite Dendrogram>を選んだ。多くのプレイヤーがそうであるように、惹かれたとも言える。

結論を言えば、彼は問題なく<Infinite Dendrogram>にログインできた。

彼は<Infinite Dendrogram>のアバターを得たことで、<Infinite Dendrogram>の内部ならば自然と眠りにつけるようになったのである。

彼の最大欲求は、そこで叶った。

だからこそ一つ、ボタンの掛け違いが起きた。

<エンブリオ>は孵化する前に<マスター>のパーソナルや願望を読み取り、大なり小なりそれに由来した形をとる。

ZZZの場合であれば、パーソナルでも願望でも『眠り』に関したことであるのは間違いなかった。

だが、彼は<Infinite Dendrogram>に足を踏み入れた時点で、望んだ眠りを手に入れていた。

ゆえに、<エンブリオ>は それ以外の形(・・・・・・) で彼に沿う力を得る。

彼が安楽に眠りたいという欲求を強く抱いていたならば、まだ変わらなかった。

きっと快適に眠るための<エンブリオ>が生まれていただろう。

だが、彼が望んだのは 眠りそのもの(・・・・・・) 。

安らぐ、安らがないではない。

生物として欠けたそれを埋める事こそが、彼の最大の望みだった。

能力に至る必然と、その動機の欠損。

それが、<エンブリオ>の能力に変化を齎す。

この現象は、稀にあることだ。

かつて、『言葉の隔たり』、『思いが正しく伝わらない』、『人の心に歌が届かず、響かない』という悩みを持っていた歌手が<Infinite Dendrogram>を始めたことがある。

しかし、<Infinite Dendrogram>には完璧な言語翻訳機能がある。

彼女の望みはそこで叶い、結果として<エンブリオ>は『言葉の隔たりを消す<エンブリオ>』としては生まれなかった。

『隔たりを消して伝える<エンブリオ>』……耐性消去の<エンブリオ>となって生まれてきた。

ドリームランドも、また同じ。

眠らせるだけの<エンブリオ>ではない。

眠った後に、眠る主を守る力。

眠らせた後に、眠らせ続ける力。

眠ることで、現実より干渉されなくなる力。

眠らせることで、現実を離れた夢に招き入れる力。

夢の王国(ドリームランド) として、その力を成立させた。

それはエデン同様、主の意図とは少しズレてはいたが……構わない。

自分が眠っている。

眠って、夢を見ている。

ならば、それが現実の延長であっても彼は構わない。

本物の夢など記憶にはない。

夢を見ているという事実があれば、彼の心は安らぐのだから。

彼は 休みたい(・・・・) 、 怠けたい(・・・・) のではない。

眠りたい(・・・・) 、のだから。

それがイコールでなくても……構わないのである。

そしてその眠りに誰を巻き込み、誰が悪夢を見ていたとしても、構わない。

《 悪夢の王国(ドリームランド) 》の名のままに。

《悪夢の王国》。

それこそは、【怠惰魔王】ZZZが今まで何者にも敗れていない最大の理由。

彼と彼が選択した従属者の、 夢と現実を(・・・・・) 入れ替える(・・・・・) スキル。

その効果はHP……本体を 夢の中に置く(・・・・・・) というもの。

夢の中で誰かを害しても、現実では傷つけられない。

それと同じように、そして真逆に……このスキルの対象となったモノは現実では傷つけられない。

現実の彼は眠っているが、眠って夢の中にその身を置いている限りは何があろうと傷つくことがない。

彼の手足となって戦うカーディナルAも同様だ。

ゆえに、アプリルがどれほど強度を下げようと……傷つけることは叶わないのである。

そして、これが目覚めることができない理由だ。

夢の門番……夢の中に本体を置くカーディナルAという【スラル】がいる限り、ドリームランドを付与された【スラル】は全滅せず、眠った者達は目覚めることができない。

逆に夢の中でカーディナルAと相対したとしても、夢にいる限りは現実の【スラル】に対処できず、肉体を砕かれる。

現実でカーディナルA以外の【スラル】を全滅させて、夢でカーディナルAを倒す。

夢と現実、二重の掃討を果たさねばドリームランドからは脱出できない。

それが意味するのは……勝利不可能という結論。

夢と現実の両方で活動する者がいない限り、絶対に敗れない戦術。

【怠惰魔王】ZZZがこれまで生き残ってきた最大の要因である。

無論、理由なく無敵な存在がいないように、このスキルにも欠点……制約はある。

まず、ZZZ以外を無敵化させるには、夢の中でドリームランドの概要と、基本スキルにして夢に招き入れるスキルである《ウェルカム・トゥ・ドリーム》に関する説明をする必要がある。(効果を説明する必要であり、スキル名を出す必要はない)

説明を行わなければ本人以外は無敵化がスタートしない。戦闘開始からしばらくカーディナルAが前面に出なかったのはそのためだ。

説明した相手が全て夢からいなくなった時点で、彼以外の無敵化は解ける。

また、《悪夢の王国》が発動中は対象一つにつき彼のSP上限が一割削れる。

カーディナルAに行った『夢の中での配置移動』などの他スキル使用も考えれば、十全に使用できる対象は五体までだろう。

さらに、SP上限以外にもコストを要求される。

それは一定時間ごとに、《ウェルカム・トゥ・ドリーム》で眠らせた相手を殺傷しなければならないというものだ。

殺傷なしでは一時間という効果時間を《悪夢の王国》の対象とした者の数で等分した時間、今回の場合はZZZとカーディナルAで等分した時間しか発動できない。

眠らせた相手を殺さない限り、三〇分で無敵化のスキルは解ける。

しかし眠らせた相手を一人、または一体殺傷するごとに相手のレベル×一〇の秒数だけ効果時間が延びる。(その時間も等分する)

夢の中で、レイ達を襲撃した理由がこれだ。

ZZZはゼクスの戦力を大と評価し、彼に関しては夢の中で戦うのではなく現実の肉体を殺すべきだと判断した。

だが、それを妨害するアプリルの存在があり、長引く可能性を考えた。無敵化がなければ敗北する相手だということも察していた。

だからこそ、夢の中でも脅威度が低いであろうレイとガーベラの二人を撃破して効果時間を延ばし、その延びた時間で現実のゼクスとキャンディを殺傷する心算だった。

それにゼクスとキャンディを夢の中に置き続ければカーディナルAの無敵は維持され、アプリルの護衛を掻い潜って殺す機会もある。

もっとも、本来であればそれをする必要もなく、全員を放置していても良かった。

適当な野生のモンスターを夢に取り込み、それを殺傷しても時間は稼げるのだから。

実際、<安寧の流刑地>攻略ではそれによってずっと眠り続けたままダンジョンを踏破した。

当時の彼は大型ゴーレムを作成する上級職【 巨像職人(コロッサス・マイスター) 】だったが、それでも<神造ダンジョン>の踏破に問題ないほどの優位性があった。

しかし今は、ゼクスの脱獄の際に発せられた轟音やエネルギーによって、付近のモンスターは既に遠くへと退いている。

加えて、彼の縄張りにおいては、かつての【螺神盤】の縄張り同様にモンスターが遠退いている。

効果時間を延ばすには今夢の中にいるレイ達を殺傷するしかない。

ゆえにこの戦いは、夢の中のレイ達と現実のアプリルが《悪夢の王国》の効果時間終了まで耐えきれるかどうかである。

少なくとも、ZZZはそう考えていた。

To be continued