軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七話 メイデンの<マスター>

□<クルエラ山岳地帯> 【聖騎士】レイ・スターリング

<マジンギア>。

< 魔法と歯車(マジック・アンド・ギア) >の略語であり、ドライフの主力戦闘兵器の通称であるという。

その兵器の右手に乗り、揺られながら俺はあることを考えていた。

俺が<Infinite Dendrogram>に入って初めて見た<エンブリオ>――兄のバルドルも同様に兵器だった。

だが、そちらは兵器であってもあくまで個々の<マスター>によって様々な形をとる<エンブリオ>の一形態であり、技術で造られたものじゃない。

対して、<マジンギア>は世界観に根づいたドライフ皇国の科学技術で造られた兵器だ。

<マジンギア>を造ったドライフ皇国は、魔法の存在する<Infinite Dendrogram>の世界で唯一科学技術が発展した国らしい。

ここで気になるのは、ドライフ皇国で科学技術が発展したのなら他の国々はなぜやらないのか、という点だ。

技術革新とは始まるのはどこか一国でも、すぐに他の国々に広まるものだ。

ドライフが今のような技術体制になってから百年以上の時が経っているらしい。

普通に考えれば、他の国にも科学技術が広まっているはずだ。

ゲーム的に考えれば各国に特色を持たせる都合程度の話かもしれない。

しかし、プレイヤーのログアウトすら根幹設定に含めるのがこの<Infinite Dendrogram>だ。

違いすぎる技術体系にも何かしらの理由付けがされている気がした。

だから、この疑問をゴゥズメイズ山賊団の根城への移動中、ユーゴーに尋ねてみた。

「どういうことだと思う?」

『フッ。その疑問に答えるにはある文明について説明しなければならないな』

「文明?」

『ああ、先期文明、あるいは先々期文明と呼ばれている文明だ』

……その名前、どこかで見たような。

ああ、そうだ。俺がガチャで手に入れたシルバーの解説だ。

あれにも先々期文明がどうとか書いてあった。

『その文明があったのは、<Infinite Dendrogram>の世界で今から数千年も昔のことだ』

ユーゴーが言うには、<Infinite Dendrogram>世界は数千年前に科学文明が栄えていたそうだ。

ドライフ皇国と似ているがそれよりも高度な科学力を持つ文明。

しかして、その文明は消失した。

今では細々と出土する当時の機械や文献にその面影を残すだけであるらしい。

「それだけだとよくわからないが」

『巨大文明の消失、それが科学文明により増長して分を弁えなくなった人間に対する神の怒りだという説があってな』

「神の怒り?」

『空の彼方から飛来した一の神と十三体の眷属が各地の文明を滅ぼして回った、という言い伝えがあるそうだ。ドライフとグランバロア以外の五ヶ国は概ねそれを信じていて、科学技術を研究していない』

なるほど。

天罰を恐れ、努めて触れていない訳か。

ん……グランバロア?

「ドライフとグランバロアは違うってことか? そもそも、グランバロアも科学技術持っているのか?」

『そうだな。グランバロアは科学技術を有しているとも言えるし、有していないとも言える』

どっちだよ。

『まずドライフについて話をさせてもらおう。ドライフは昔から「我々こそが文明の後継者である」と看板を掲げ、科学技術の研究を続けている。もっとも、当時の技術は再現できず、結局は<マジンギア>のように人間の魔力で稼動する機械技術が発展を遂げた』

「人間の魔力で稼動?」

『ゲーム的に言えばMPを消費して動かしているわけだ。私の【マーシャルⅡ】の場合、今は分間MP1程度。戦闘になれば秒間で1は消費するな。ドライフ製の機械は大なり小なりそういう仕組みだ』

秒単位のMP消費。俺の《逆転》と同じだな。

しかし、納得もした。

それが理由でユーゴーのジョブである【操縦士】、【整備士】、【高位操縦士】はいずれもMPの成長にも特化していたわけか。

「昔のマシンは違うのか?」

『出土したものの多くは内部にジェネレーターを内蔵していたらしい。駆動するための魔力を自ら生み出す、 今は失われた技術(ロストテクノロジー) だそうだ』

へぇ。

シルバーはどうなんだろ?

「じゃあ、グランバロアは? あそこが機械技術を持ってるって今知ったんだが」

海の上の国としか知らなかった。

てっきり帆船で大航海時代でもしているのかと。

『フッ。あの国は機械技術と言うよりは造船技術に特化している。蒸気船が民間にも流通しているが、自動車の類はない。ある意味ではドライフよりアンバランスな国とも言える。魔法技術がレジェンダリアや黄河帝国の足元にも及ばないのに、帆船は高度な魔法帆船だったりもするからな」

「へぇ」

グランバロアは造船技術に限り、魔法でも科学でも高度な国ってことか。

たしかにアンバランスだ。

『加えて、あそこは独自に海底の遺跡からのサルベージもしているため、実情はドライフでも把握していないらしい』

ちょっと興味が沸いてきたな。

いずれは行ってみたい。

『ふむ、ユーゴーよ。今話してもらった文明の情報も設定とやらに載っているのかのぅ』

『いいや? 考古学者のティアン、それから各地の遺跡を探索している設定考証マニアの知り合いから聴いた話だよ。私の所属するクランは、趣味人が多くてね』

「クラン?」

『ああ。ドライフではそれなりに大きいから人数も多い。もしも君がドライフ皇国に所属することになれば、紹介しよう』

「ハハッ、ないな」

『フッ。それも、後々の戦争の結果次第かな』

たしかに、俺にその気がなくてもドライフが戦争に勝って王国を吸収すればそうなるのかもしれない。

『結果次第では、逆に私が君のクランに入ることになるかもしれないしな』

「クランねぇ。俺はまだクラン入ってないんだよな」

『どこか気に入る面子がいれば所属するのがいいだろう。できることの幅も増える。何なら自分で作ったっていいんだ』

「考えとくよ……っと」

『着いたようだ』

ユーゴーの<マジンギア>が森の中で停止する。

機関の出力を弱め、漏れる音を最小限に抑えながら前進する。

そうして少し進むと、木々の先にある視界が開けていた。

「みえた」

キューコの声。

同時に俺も木々の隙間から確認する。

森を抜けた先の景色には、巨大な建造物があった。

それは石造りの砦だった。

森の中に拓けた数百メートル四方の空間、その真ん中に建てられている。

外壁にはびっしりと蔦が張っている。

随分昔に作られ、今はもう放棄されているようだ。

そこを山賊団の根城にされている、ということか。

『地図の情報とも合致する。あそこで間違いはないだろう。見張りもいるしな』

ユーゴーが言うように、砦の壁の上には見張りらしい山賊団員が立っている。

しかしあまり真剣そうではなく、あくびをしながら周囲を見ているだけだ。

森の中の俺達に気づいている様子はない。

<マジンギア>には気づいてもおかしくはなさそうだが、それも大丈夫そうだ。

木々の背が高いこともあって、<マジンギア>も上手く隠れている。

濃緑の迷彩色なのもあるかもしれない。

あるいは、ユーゴーが敵に見つかりにくくなるスキルでも持っているのか。

『どうするのだ? 一気に全員で仕掛けるかの?』

「馬鹿言え、攫われた子供を人質に取られたらお終いだ」

かと言って、戦って取り戻そうとすればどうしたって人質に取られる。

しかし砦の内部構造も分からない以上、忍び込んで見つからないのも難しい。

そもそも、不真面目な見張りでもこんな拓けた場所に出て行けばすぐ気づくだろう。

『……そのことだが、私に一つ考えがある』

「考え?」

ユーゴーが操る<マジンギア>は器用に頷いて、そして機械の指で自身を指す。

『この<マジンギア>がドライフ皇国の兵器であることは、この世界の人間なら誰でも知っている』

だから、ここに来るまでも人目を避けるルートで移動してきたわけだしな。

『そう、 ドライフ皇国の(・・・・・・・) 、兵器だ。本来ならば敵国であるアルター王国の子供を助けに来る理由など皆無であるドライフの、な』

「……? …………あ!」

そういうことか。

『私が砦に攻撃しても、奴らは誘拐事件とは無関係だと思うだろう。それはそうだ、アルター王国内の誘拐事件でドライフの者が助けに来る理由がない。まず人質には使われない。迂闊に前に出しても、ドライフの者が構わなければ巻き込まれて身代金のタネが減るだけだ』

ユーゴーの本来の立ち位置、それを逆手に取る。

『人質は使われないが、連中は砦を攻撃する私を放置できない。間違いなく迎撃に出てくる。私がそれを引きつけ、相手をしている間にレイが砦に忍び込んで誘拐された子供達を救出する。そういう段取りだ』

「わかった。だが、囮役だぞ。大丈夫なのか?」

『この【マーシャルⅡ】は堅固な機体だ。然う然う落ちない。それに、キューコもいる』

「うん。なにする?」

『私の援護を。【スモークディスチャージャー】も使用する。煙幕に紛れながら数を減らすように』

「うぃ、えーっと……むっしゅー」

『レイの砦への接近も煙に紛れるのがいいだろう。可能な限り見つからずに人質を救出してくれ』

「分かった」

『うむ! 私とレイならばやってみせるわ!』

『これは恐らく時間との戦いだ。迅速さと正確さが要求される』

「ああ」

子供の救出、時間との戦い。

まるで、ミリアーヌを助けるために向かった最初のクエストだ。

しかしあのときはリリアーナがいて、何より兄がいた。

兄がいなければ俺はミリアーヌの元に辿り着くことさえ出来なかっただろうし、地下で【デミドラグワーム】を相手してくれていなければ状況はもっと悪化していただろう。

それが、難易度:五のクエストだった。

今回はそれよりも格段に難易度が高い難易度:八。

どんな化け物が出てくるか分かったものではないし、無事に終わるとは思えない。

ミリアーヌのときに頼りにしていた兄とリリアーナもいない。

だが、ユーゴーとキューコがいる。

俺もあのときより強くなっている、ネメシスも俺と共にいる。

それで、今はどこまでやれるのか。

「どっちにしろ子供の命が掛かっている以上、失敗なんざできないがな」

『え?』

と、声に出ていたか。

『…………』

俺の発言が聞こえたのか、<マジンギア>――【マーシャルⅡ】という機種――の頭部のカメラが俺の顔に向けられている。

「何だよ」

まぁ、何が言いたいかは分かる。

ゲームである<Infinite Dendrogram>に対して本気になりすぎているとでも思われたんだろう。

けど、ゲームの中と言えど、子供が死ぬってのは後味悪いだろ。

『…………』

ユーゴーは何も言わない。

何事かを思案する沈黙と共に、カメラ越しに俺を見ている。

「言いたいことがあったら言えよ」

『……そうだな』

俺がそう言うと、ユーゴーは口を開いた。

しかしてその言葉は俺の予想とは違うものだった。

『なに……私が思っていたのは、レイもメイデンの<マスター>だったな、ということさ』

「?」

発言の意図が不明だ。

俺がネメシスの、TYPE:メイデンの<マスター>であることと俺が言った言葉に何の関係があるのだろう。

『レイはTYPE:メイデンの<マスター>に多く見られる共通点を知っているかな?』

「共通点?」

『ああ、知り合いの<マスター>が言っていたが、メイデンの<マスター>には共通点がある』

俺は俺以外のメイデンの<マスター>と会ったことはないけど、そんなものがあるのか?

「どんな共通点なんだ」

『“この<Infinite Dendrogram>をゲームだと思っていない”』

…………何?

「バカ言うなよ。俺はちゃんと分かっているよ」

まさか昔の小説よろしく、「ゲームかと思ったら実は異世界に来ていた」なんて夢想はしていない。

<Infinite Dendrogram>はゲームだと理解している。

『知り合いもそう言っていた。頭では分かっている、しかし心の底ではそう思っていない。だから…………』

「だから?」

『……いや、これから突入だというのに変なことを言ってすまなかったな。少々脱線し過ぎてしまった』

思わせぶりに言いっぱなしにするなよ。

『ああ、そうだ。相手がティアンであっても指名手配の犯罪者や正当防衛の場合は殺傷しても罪にはならない。覚えておいてくれ』

「ああ……それは、わかった」

そう言うと、ユーゴーは黙ってしまった。

結局、さっきは何を言いかけたんだ?

『マスター』

何だよ。

『彼奴が言いかけたことが、わかるか?』

分かる訳がない。

ネメシスにだって分からないだろ?

『そうでもない、の。だが、知らぬなら、知らぬままが幸せかも知れぬ』

「?」

どういう意味だ?

『……! レイ、あれを見ろ』

俺の疑問を遮るように、ユーゴーの【マーシャルⅡ】の指が砦を指す。

見れば、砦の門が徐々に開いている。

「あっち、ばしゃが、くる」

今度はキューコが指した方向を見る。

そこは砦を囲む森の一部が開いており、山道の一部であるらしい。

その山道からは数台の馬車が砦に向かって移動していた。

「また子供を誘拐してきたのか?」

『そうらしい』

「なにか、はなしてる」

キューコは両耳に手を当てて、目を閉じ、意識を聴覚に集中させているようだ。

「とりでにもどったら。ころす。なかま。つかまった。はらいせ。がき。ころす」

「…………!」

『まさか!』

捕まった手下共……街で俺達が倒して衛兵に引き渡した連中のことか!

『街の中にあの五人以外にも仲間がいて、気づかれたようだな』

じゃあ、あいつらが砦に戻ってから殺そうとしているのは、連中が取引を担当していたレベッカの弟……!

『どうやら、猶予はないらしい』

膝立ちの姿勢だった【マーシャルⅡ】が立ち上がる。

『私はあの馬車の連中に攻撃を仕掛ける。すぐに砦の中の戦力も出てきて応戦に回るはずだ。そうしたら煙幕を撒くから、レイは突入してくれ。キューコは援護を』

「……応!」

『うむ!』

「いえっさー」

俺達の応答を確認してすぐに、ユーゴーの【マーシャルⅡ】は森を飛び出して突撃した。

森の中を走っていたような二足歩行ではなく、脚部の車輪を使用したローラーダッシュ。

その高速移動状態のまま、腰部にマウントしていた銃器を手に取り、馬車隊の先頭へと砲火を放つ。

一撃で馬車を引いていた馬が弾け、その衝撃で御者は吹き飛ばされ、馬車も横転する。

突然の惨事に後方の馬車が足を止める。

しかし【マーシャルⅡ】はその間隙を見逃さず、馬車の周囲にいた山賊団員に対して発砲し、殺傷する。

「……?」

その光景に、俺は何か心地の悪いものを感じた。

『…………』

【マーシャルⅡ】は尚も攻撃を続ける。

数人の山賊が殺傷されてから、ようやく山賊側も迎撃の態勢が整ったらしい。

しかしそれは組織だった動きではなく、各々が自分の武器や攻撃手段で【マーシャルⅡ】を攻撃している。

それは剣や手斧、弓矢だった。

常識で考えれば、戦車の如き【マーシャルⅡ】にそれらの歯が立つわけもないが、ここは<Infinite Dendrogram>。

山賊連中は下級の戦闘職だと思われるが、それでも常人より高いステータスを持つ山賊の攻撃は度々【マーシャルⅡ】の装甲板に突き刺さり、食い込んでいる。

『――フッ!』

それでも【マーシャルⅡ】は止まらない。

近づくものはアーミーナイフで斬る。【マーシャルⅡ】にとってはナイフでも、人にとっては大剣に等しいそれは山賊達の鎧を切り裂き、あるいは胴を断っていた。

遠くのものは銃器で撃つ。大砲の如き一撃を受け、弓矢を放っていた山賊が四散する。

数は明らかに山賊が多いが、戦力比較では【マーシャルⅡ】が優勢だ。

眼前の光景は昨日見た光景を、【ゴブリン】の群れの中で暴れまわる【 亜竜(マリリン) 】を連想させる。

恐らく戦力としても同程度だろう。<亜竜級マジンギア>の言葉が示すように……一体で【亜竜】クラスの戦闘力はある。

加えて、ユーゴーの操作は巧みだった。

また、道中ユーゴーから聞いた話によれば操縦士系統の《操縦》スキルは乗っている機体の性能を引き上げる。

それもあり、数に勝る山賊団に対して優位に戦闘を運び続けている。

「でも、無敵じゃない」

次々と倒しているとはいえ、山賊の攻撃もまた【マーシャルⅡ】に命中している。

それは少しずつ、【マーシャルⅡ】にダメージを蓄積しているはずだ。

「けってん」

俺の隣で待機していたキューコが「欠点」と口にした。

「まじんぎあ、かいふく、できない。かくのうして、しゅうりしないと、かいふくしない」

「……そうか」

【マーシャルⅡ】は魔力で動くとはいえ機械だ。

人やモンスターのように、回復魔法や薬が有効なわけではない。

回復しないHPと常時掛かるMP消費により、あの鉄の巨人は限られた時間しか戦闘できない。

それでも尚、ユーゴーは作戦のため、子供達を救うために矢面に立って囮になっている。

「だから、わたしたちも、がんばる」

「勿論だ」

そうして俺が答えたのと時を同じくして、砦の中からさらに数十人の山賊が姿を現した。

襲われている仲間の救援のため、襲撃してきた<マジンギア>の迎撃のため……砦の中の戦力を放出して。

「いま」

キューコの言葉より早いか遅いか。

【マーシャルⅡ】が腰部に装着していた缶状の物体を辺りにばら撒いた。

それは地面に転がった後、独りでに回転し、中から猛烈な勢いで白煙を噴出した。

「【すもーくでぃすちゃーじゃー】……いまなら、いける」

そう言って、キューコは俺の隣から姿を消した。

なぜかパーティウィンドウからも消失していたが、恐らくユーゴーの援護のために動いているのだろう。

「俺達もいくぞ、ネメシス!」

『任せよ!』

白煙が砦と砦周辺の野を埋め尽くすと同時に、大剣のネメシスを携えた俺も砦へ向けて走り出した。

ユーゴーの作ってくれたこの機会を、活かすために。

囚われの子供達を、生かすために。

俺は白煙の中を駆け抜けて、砦の内部へと突入した。

To be continued