軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六話 ユーゴー・キューコ・<マジンギア>

□決闘都市ギデオン 【聖騎士】レイ・スターリング

俺とネメシス、ユーゴーは難易度:八の突発クエストである【救出――ロディ・ランカース】に挑むことになった。

今回のクエストは、以前のミリアーヌのクエストと同様に時間との勝負になるだろう。

だが、このクエストを達成し、子供を救出するには二つの問題がある。

一つはクエストの難易度。

俺は難易度:八がどの程度のものか知らなかったので、ユーゴーに尋ねると……。

「個人で挑んだ場合は500レベルカンストに達したティアンでもまず失敗する難易度、といったところかな。ティアンだけならばパーティでも怪しい」

との答えが返ってきた。

付け加えるように「もっとも一度の生しかないティアンは、<マスター>と比較すれば自然とレベル上げにリスクが伴うため、500レベルに達する者自体あまりいないがね」とも言っていた。

しかし、500レベルカンストでも失敗する難易度……ね。

ティアンと<マスター>の差はあるにしても、50レベルにも達していない俺が挑むには、あまりにも高い壁ではある。

だが、それを理由に救出を断念するつもりはない。

最悪の場合、俺がデスペナになっても誘拐された子供は救出する。

そしてもう一つの問題は……。

「あいつらを逃がしたのはまずかったな」

先刻、俺達が相手取った五人の悪党。

一人は俺が殴ってから伸びたままだったので、今は逃げられないようにユーゴーが持っていたワイヤーで縛っている。

衛兵に引き渡すため、現在は俺達が助けた女性――レベッカという名前らしい――が衛兵の詰め所に向かっている。

しかし問題はそいつではなく、他の四人。

捨て台詞と共に逃げられてしまっている。

連中の所属する組織がゴゥズメイズ山賊団だということはレベッカから聞いて分かっているが、俺達はあいつらのアジトを知らない。

奴らが先にアジトに戻ればここでの顛末を知られ、彼女の弟が害されるかもしれない。

「毒ガスでも吸わせておくべきだった」

【瘴炎手甲】から一吹きしておけば身動きも出来なくなっただろうに……。

「それ、街中でやったらテロではないかのぅ」

……たしかに。

いや、それなら左の火炎放射で足を炙って歩けないように……。

「何やら穏やかでないことを考えているようだね、レイ。けれど、連中のことなら心配は無用だよ」

ユーゴーは連中が逃げた先の路地を指差す。

通路は途中でくの字に折れ曲がり、曲がった先はここからは見えない。

しかしズルズルと、重いものを引きずるような音が曲がり角の先から聞こえてきた。

「何だ?」

その音の主は少しずつ近づいてきて、やがて角の向こうから姿を現した。

「おまたふぇゆーごー」

現れたのは一人の少女だった。

背丈は、頭に被った白いロシア帽を除けばネメシスと同じくらいだろう。

そう、彼女の第一印象は、白、だった。

白い髪、白い頬、白い帽子

加えて寒くもないのに白いフェルト製のロングコートと白いマフラーを着込んでいる。

なぜか口には白いおまんじゅうをくわえている。

唯一、瞳だけが青だった。

「フッ。ご苦労様、キューコ」

「ごくん。めんどいけど、ざこだから、よゆー」

見れば、彼女は両手で人間――先ほど逃げ出したチンピラ達――を引きずっていた。

その襟首を掴んで片手に二人ずつ、計四人を一人で引きずっている。

見かけによらない力だが、よく観察すれば彼女の左手の甲には<マスター>であることを示す紋章があった。

<マスター>なら不思議でもない、か。

……ところでさっきからすごい棒読みだがそういうロールプレイなのか、元々の喋り方なのか、どちらだ。

「…………」

「む?」

と、俺の視線に気づいたのか、彼女はジッと俺とネメシスを見ている。

彼女は俺とネメシスを順に一瞥してこう言った。

「ふぇみにすとのゆーごーが、ろりこんを、つれてきた」

「誰がロリコンか!」

「誰がロリか!」

初対面の第一声で異常性癖扱いされたぞ!

「そのたいらなむね、ひくいしんちょうは、ろりいがいのなにものでもない。そして、ろりをはべらせているなら、まことにろりこん」

俺は無実だ。

ネメシスは俺の分身でもあるからノーカウントだ。

「違うわ! 造形美! 私のこのフォルムとデザインこそが究極に造形美なのだ!」

「……そのふぉるむを、ぞうけいびとかいっちゃう<えんぶりお>の、<ますたー>は、まじめに、ろりこん」

「おのれー! 言わせておけばー!」

「くるかー」

ネメシスは彼女に飛び掛り、彼女もまた無表情棒読みで相対した。

そして喧嘩、と言うより子猫のじゃれ合いといった風情で二人は闘っている。

……ネメシスが俺以外にここまで遠慮なしなのも珍しいな。

「それでユーゴー、あの棒読みで人をロリコン扱いした子は誰なんだ?」

「キューコ。私の……パーティメンバーだよ。さっき連絡して、逃げた連中を押さえてもらっていた。口は悪いが、見ての通り、頼りにはなる。ああ、一言だけ言わせてもらうと今日の発言はまだぬるい」

「……ぬるいのか」

「うちのクランのオーナーに叩きつけた毒舌に比べれば余程ね」

……一体どんな言葉を叩きつけたのだろう。

だがまぁ、何にしてもこれで<マスター>が三人。

クエストを成功させる目も増えたはずだ。

「それではキューコ、情報を」

「あいー」

ネメシスと両手の指を組み合わせた押し合い――プロレスで言うロックアップ――をした体勢のまま、首だけをユーゴーに向けてキューコが話し始める。

「あいつらをしめて、じんもんしたら、あじとのばしょしゃべった。ひがしもんのむこう、<くるえらさんがくちたい>にあじとがある。しょうさいはあいつらのもってたちずでー」

キューコは器用に口で懐から丸めた地図を引き抜き、それを首だけでユーゴーに投げた。

「<クルエラ山岳地帯>?」

まだ行ったことがないマップだ。

「この街の東にある山々のことさ。また、山々の向こうは<ヴァレイラ大砂漠>だ。そこまで行くと、カルディナの領土だね」

「つまり隣国との国境でもあるわけか」

「山賊が根城にするには良い場所だ。アルター王国の軍が<クルエラ山岳地帯>で行動すれば否応にもカルディナを刺激する」

「山賊撲滅のために協力とかしないのか?」

国境地帯に山賊がいたら邪魔だろう。

二ヶ国共同で撲滅運動とかしないのだろうか。

「ああ、それは無理だ。あの国は基本的に金になることしかしないし、金になることなら何でもする」

「と言うと?」

「金が貰えるなら山賊でも“客”と看做すだろうね」

……グルってことか?

「恐らくは高額の見返りと消極的な協力。王国の軍に動く兆しがあれば反応してみせる、というくらいか。それでも、王国は手が出しにくくなる、と」

ユーゴーはそう言って、キューコから受け取った地図を開く。

地図には左側にギデオン、右側に砂漠が描かれており、真ん中には幾つかの山が重なっている様子が描かれている。

ギデオンの東門から見て二つ目の山中の一点に丸印がついている。

「ここか」

「そうらしい。山一つ越えた先か、少し急ぐ必要があるな」

「ああ。走ろう」

「……え?」

俺がそう言うと、ユーゴーはなぜか不思議そうな顔をした。

「どうしたんだ?」

「レイ、君は【聖騎士】だろう? 騎獣には乗らないのか?」

「……馬はいるが、《乗馬》スキルを持っていないので乗れない」

「…………そうなんだ」

「…………ああ」

空気が重い!

「フッ。《乗馬》スキルを持っていない騎士系統を見たのは初めてだ」

「普通持っているのか?」

「『俺はスイマーだ! だがクロールと背泳ぎと平泳ぎとバタフライは出来ない!』と言われるのに近い」

それほど!?

「ていうかその四泳法抜いたらあとは何があるんだスイミング!?」

「犬掻きや古式泳法ではないか?」

それ、なんかスイミングと違う。

「しかし事情は分かった。任せたまえ。連中のアジトまでの“足”は私が何とかしよう」

「……助かる」

余談だが、ネメシスとキューコはいつの間にか硬く握手を交わしていた。

バトルの末に友情が芽生えたらしい。

まぁ友達が増えるのはいいことだ。

色も黒白で数十年前の女の子向けアニメの主役コンビみたいだし。

俺達のパーティ――俺(ネメシスは大剣化)、ユーゴー、キューコ――はギデオンの三番街区にある東門を抜けて、<クルエラ山岳地帯>の入り口に立っていた。

山中に向かう方向には切り開かれた山道があり、馬車なども通行している。

ここからはユーゴーの言う“足”で連中のアジトを目指す手筈だが……。

「それでユーゴー、その“足”っていうのは?」

「ここではまだ出せない。もう少し人目のないところでなければな」

人目のあるところでは出せない?

「目立ち過ぎるってことか?」

「そうとも言える」

そうして十五分ほど歩き続けた。

それも山道ではなく、森の中に分け入って進んできた。

「…………」

おかしい。

こんな道なき道では馬車の類も通れない。

乗り物に乗るならどう考えてもさっきの山道を通った方がいいだろう。

多少目立つにしても、だ。

「この辺りでいいか」

ユーゴーがそう言ったのは、森の中に拓けた場所を見つけたときだった。

広さは半径十メートルの円形。

そこは不自然に高い木々がなく、植物も生え始めてからまださほど時間が経っていないように窺える。

「魔法職がここで範囲攻撃魔法でも使ったのかもしれないな。だが、今回は都合がいい」

ユーゴーはそう言うと、アイテムボックスから丸めた銀色のシートを取り出した。

それを地面に広げ始める。

そこで気づいたが、シートはかなり大きい。

一辺が四メートルほどの正方形だ。

「【ケージ】の準備はできた。キューコ、索敵は?」

「のーぷろぶれむ。しゅーいにもんすたーもにんげんもいない」

「了解した」

ユーゴーは手元にウィンドウを開き、何事かを操作し始めた。

すると、ユーゴーが地面に広げたシートの 内側(・・) から何らかの機械音が聞こえてきた。

「……機械音?」

そこで、ようやく俺は気づいた。

ユーゴーのジョブは【高位操縦士】だ。

操縦とは機械を操作することだ。

しかし、このファンタジー世界に操縦する機械なんて存在しない。

――“たった一つの国を除いて”。

「ユーゴー、お前は」

「レイ、私は今、一人の<マスター>として、女性という華を守る棘としてこのクエストに挑んでいる」

俺の質問を遮るように、ユーゴーは発言する。

「君はなぜこのクエストをしている。王国の【聖騎士】だからやっているのか? それとも、君という男だからか?」

ユーゴーからの問い掛け。

その問いに俺は、

「これを無視したら後味が悪いと思ったからやっている」

ただ、あのとき思ったままに答えた。

「少なくとも、立場で考えて受けたクエストだとは思ってない」

「私も、そうさ」

ユーゴーはそう言って、薄く微笑み――ウィンドウのボタンを押下した。

そこにはフランス語で“ sortie(出撃) ”と書かれていた。

直後、地面に敷かれたシートが展開する。

シャッターのようにその表面が滑って開き、内部にはシートの厚みを無視した空洞を露呈する。

シートの四隅から四本の柱が立ち上り、五メートルの高さまで伸びる。

直後に空洞の最下から、轟音と共にリフトがせり上がって来る。

地上まで到達したリフトの上には巨大な物体が鎮座していた。

それは、二腕二脚の人型。

けれど決して人ではない。

頭身は凡そ六頭身、されど高さは五メートルに達する。

全体を濃緑色の鋼に覆われ、腰部にはそれのサイズに合わせた銃器とアーミーナイフがマウントされている。

他にも全身の各所に兵器らしきパーツが備え付けられている。

それの胸部は開いており、中にはまるで戦闘機のようなシートが備え付けられている。

まるで、昔見たアニメのように。

それは――人型の戦闘ロボットだった。

「< 魔法と歯車(マジック・アンド・ギア) >――通称<マジンギア>。 ドライフ皇国(・・・・・・) の主力兵器だ」

ユーゴーは――ドライフ皇国の【高位操縦士】は――<マジンギア>のコクピットに乗り込みながらそう明かした。

「……ユーゴー」

「今はただ、レディの涙のために戦う一人のナイトに過ぎない。そうだろう、アルター王国の【聖騎士】ではない一人のナイトよ」

「……ああ」

またも少女マンガかタカラヅカのような雰囲気を纏い、芝居がかった台詞で述べられるユーゴーの言葉に……俺は首肯する。

王国と皇国は戦争をした。

現在は一時停戦中だが、数ヶ月もすればまた戦火を交えると言われている。

仮想敵どころではない明確な敵。

けれどそんなことは今の俺達には関係がなく、あのとき泣いていた女性には関係なく、彼女の弟であり助ける対象でもある少年にも関係ない。

俺達が今すべきことと俺達の立ち位置は一切関係がない。

俺は俺として、ユーゴーはユーゴーとして、一個人としてこのクエストに立ち向かうのだから。

『往くか?』

「応」

俺はユーゴーの操縦する<マジンギア>が伸ばした手に飛び乗った。

反対側の手には早々にキューコが乗っていた。

俺達を両手に抱え、ユーゴーの<マジンギア>は立ち上がる。

『<亜竜級マジンギア>、【マーシャルⅡ】……出撃!』

そして<マジンギア>――【マーシャルⅡ】は山の向こうへ、俺達の目的地へ向けて――駆け出した。

To be continued