軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四話 追憶

□【聖騎士】レイ・スターリング

伯爵と契約を交わした後、メンバーのみんなにも本拠地の決定を伝えた。

本拠地が闘技場になったことはやはりみんなの予想外だったのか、珍しいことにルークまでとても驚いていた。

それから各々の部屋を決めて、各々が四番街の市場で自分の部屋の家具を買い揃えた。

今は各自で部屋をセッティングしている。

俺もカーテンやベッド、テーブルセットなどの家具を部屋に置いていく。

それとネメシスの希望で購入した設置型の大型の時間保存式アイテムボックスも置く。普段使っているアイテムボックスよりも大きくて持ち運びは難しいが、入れたアイテム……例えば食品を温度も鮮度もそのままで仕舞っておける代物だ。

高い買い物だったが、それ以上にこれからの食料消費を考えて頭痛がした。

それと翻訳アイテムも購入したので、《極小》で呼んでチビガルに付けさせた。

そのチビガルは開口一番に俺の髪を要求し、今はカットして渡した髪をちびちびと齧っている。

……毛髪回復ポーションも売っていたから使ってるけど、これ髪の毛傷まないよな?

「家具の設置も完了して一段落だのぅ。後は明日の“トーナメント”に集中するだけか」

「今日は報酬選びとか本拠地への引っ越しで一日潰れたから、レベル上げも何も出来てないけどな」

まぁ、一日だけ下級職のレベルを上げても、焼け石に水だったかもしれないけど。

「ぶっつけ本番だな」

「ふむ。まぁ“トーナメント”は結界での決闘だからのぅ。一試合ごとにリセットされるから、特典武具のスキルも使い放題ではある。勝ち目もあろう」

『タダ働きは、やだ、よ?』

ネメシスの言葉に、テーブルの上で髪の毛を食べていたチビガルがそう言った。

「タダ働き?」

『決闘の結界。コストもなかったことになって、解いたら召喚後のデメリットもなくなるんでしょ?』

「ああ。よく知ってるな」

『記憶の共有』

そういえばこいつもネメシスみたいに俺の記憶をチェックできるんだったか。

プライバシーが強い記憶は、覗きづらいみたいだけど。

『決闘はなかったことになるから、やだ』

「まぁ、消費したコストや壊れたアイテムとかも元通りだからな」

あの【魔将軍】はそれを活用して決闘王者の地位に就いていたそうだし。

「……?」

……考えてみると、どうしてそんな仕組みになっているのかが分からない。

ゲーム的には普通だが……この<Infinite Dendrogram>の世界は多くの法則の上で成り立っている。

それらの法則……特にエネルギー保存則をはじめとする原理的には、あの結界はどう収支をつけているのだろう?

例えば、実際に闘っているのは五感を伴う立体映像のシミュレーションとかか?

それこそ、リアルに対するこの<Infinite Dendrogram>のような……。

でも、迅羽が結界外までぶち抜くような攻撃をしてるし……分からないところもあるな。

考えると、謎が多い。

……一応はこの第八闘技場も俺達の本拠地となったことだし、機会を見て誰かに調べてもらうか。

『ともかく、闘技場はやだ。呼んだ後に指くらい食べさせてくれるなら考えるけど……』

「……だから俺がデメリットを負うことでお前に何のメリットがあるのかと。あとお前も食欲の権化か」

「お前も、とはどういうことだ! 私はカニバリズムではない!」

「……さっきチビガルに釣られて俺を味見しようとしたよな?」

うちの 相棒(メインウェポン) 達はどうしてこんな食性になってしまったのか。

「やれやれ……ん?」

二人の言動に溜息を吐いて、部屋の窓……闘技場の舞台に面したガラス窓から闘技場を見下ろした。

すっかり日も落ちた闘技場。

その観客席に見覚えのある……しかしあまり見たことのない姿が見えた。

それは兄だったが……着ぐるみを脱いでいるようだった。

「…………」

なんとなく気になって、俺はそちらに向かうことにした。

部屋を出る直前、ネメシスが皿の上に載った髪の毛をつまもうとして、チビガルに噛みつかれているのが見えた。

何やってんだあいつら……。

◇◇◇

□【破壊王】シュウ・スターリング

先刻、ゼクスのことを思い出したせいだろう。

あれこれと、これまでの日々について思いを馳せてしまう。

思考に集中するには【はいんどべあ】に備わっているエアコンの空調も煩わしく、着ぐるみを脱いだ。

普段なら、外で着ぐるみを脱ぐこともない。

しかし、クランの本拠地であることが、少し気を抜ける要因になっているのか。

この闘技場の上部は見た目こそ開けているが、結界の調整によって外部からの視認を阻害する仕組みもある。

そういった点も含めて、有用な物件ではあった。

「…………」

結界を通して入り込んできた自然の風に吹かれながら、俺は目を閉じる。

するとこれまでの日々が……これまでに俺が戦ってきた中でも別格だった連中の姿が思い浮かぶ。

砂漠で相対した地上最大の魔力を持つ男、“魔法最強”。

――私は、与えられるべき中身を失った杯です。

――父は私に何も継がせてはくれませんでした。

――私を恐れたから、国を共和制などに変えてしまった。

――私に継がせないために。

――おかげで、私の展望は全て崩れてしまいました。

―― 創造ははるかに遠く(ファー・アトゥム) 。

――だからこそ、この世界での私は自ら獲得します。

――自らに与えられるべき、全てを。

――私の行く道を示すと妻は言いました。

――代わりに、妻の行く手を阻む全てを私が打ち崩します。

――そして妻が言うのです。

――『シュウ・スターリングはいずれ私達の邪魔になる』、と。

――先ほどの共闘でも、君の実力は感じられました。

――だから今度は……直接君の力を測定させてもらいますよ、シュウ。

神衣を得て天地を去る寸前に遭遇した規格外の技を持つ男、“技巧最強”。

――使わねば。

――使わねば、伝来の技を揮うこの指はなまってしまう。

――皮を撫で、肉を切り、骨を断ち、生殺を与奪する。

――それだけが鍛錬になる。

――だからと言って表の世で生ける物を使えば、住処を変え続けなければならない。

――それはとても煩わしい。

――しかし此処ならば、鍛錬で生ける物を使っても問題がない。

――誰かに継ぐまで技の質を落とせないから、僕達はここにいる。

――ところで、僕達は<カムイの森>の神獣を生き試しに使うつもりだった。

――それを君が倒してしまった。鍛錬の相手がいなくなった。

――代わりに君で鍛錬をすべきだと考える。

決闘都市で出会った最強の肉体を持つ獣とその主、“物理最強”。

――ならば構いません。私は、貴方と純粋な力の闘争が出来ればいいのですから。

――ですから、あれは貴方が闘争以前の相手でないかの最終確認です。

――あっさり殺されるような相手は敵ですらない……ただの小石なのだから。

――やはり貴方は私達の敵に相応しかった。

“最強”と称される連中との記憶を振り返り……俺は大きく溜息を吐いた。

振り返って、改めて思い知る。

「どいつもこいつも……人を何だと思ってんだ」

誰も俺が憎いだとか恨みがあるだとか、そんな事情は持っちゃいない。

だというのに、俺と戦おうとする奴が多すぎた。

測定だの、鍛錬だの、闘争だの……人の都合はお構いなし。

“最強”などと呼ばれる連中は、頭のネジが外れすぎている。

ゼクス含めてリアルまで常識という言葉から外れた世界に生きて……。

「いや、ベヘモットだけは……リアルではまともだろうな」

俺が思うに、アイツは多分……。

「珍しいな。戦闘時でもないのに着ぐるみ脱いでるなんて」

不意に、横合いからかけられた声に思考が遮られる。

振り向けば弟の……玲二の姿があった。

考えに没頭していたせいか、今回は気づかなかった。

「ま、ちょっと考え事をしててな。……風に当たりたくなった」

「ああ。着ぐるみ着たままじゃムリだな、それ。それにしても……」

「どうした?」

「いや、今の格好が普通の筈なのに、なんだかクマの着ぐるみじゃないと違和感があるような……」

「それ前にも知り合いに言われたクマー」

言ったのはレイチェルだが。

レイチェルか……あいつもあいつでネジが外れている。

むしろこの場合、ズレていると言うべきか。あいつの行動原理……抱えた夢は子供の頃にも聞いたが、この<Infinite Dendrogram>の 仕様でズレた結果(・・・・・・・・) があの恐るべき<エンブリオ>……エデンが誕生した理由なのだからシャレにならない。

「それで、明日の“トーナメント”の準備はできたのか?」

「まぁ、やるだけやってみるだけかな。自分の全部でぶつかるだけさ。……ガルドランダは決闘で使うなって言ってるけど」

「自意識持ちの召喚モンスターや、知能の高いテイムモンスターにはままある話だな」

「……ルークのところの三匹はそういうこともなさそうだけどな」

ま、あれは惚れた弱みってのもあるだろう。

もっとも、それで言えばガルドランダも遠くはなさそうだが。

玲二自身が気づいているかは別として、昔から人に好意を持たれやすいからな。

その結果の一つが例の南米アマゾネス事件な訳だが。

……南米まで迎えに行くのは大変だったな。姉貴や師匠みたいなジャンル違い連中が沢山いたから大変だった。

姉貴が玲二を連れていったって聞いた母さんは心労で倒れたし。

そもそも当時の姉貴がバイトで南米まで行ったことからまずおかしい。

今の仕事もその延長線だが……。

……つうか迎えに行くときに使った交通費をまだ姉貴に返してもらってないな。

「どうしたんだよ、兄貴?」

「ちょっと昔のことを思い出しただけクマ。それより玲二。話は変わるが、なんだか妙な斧を手に入れたって?」

「ああ。これなんだけど」

そう言って、玲二はアイテムボックスから黒い布に覆われた片手斧を取り出した。

「ちょっと見せて欲しいクマ」

「ああ」

手渡されたそれを眺めて、雰囲気を感じ取って、

――拳を振り下ろした。

俺の拳と片手斧の激突音が、観客席に響き渡る。

「ぬぇ!?」

それを見て、仰天した玲二が妙な声をあげた。

だが……、はっきり言って仰天したかったのは俺だ。

「……なるほど」

納得が半分、驚愕が半分。

雰囲気から『そういう代物じゃないかと思っていた』という納得。

それと相対する――『俺の全力打撃で 罅の一つも入らない(・・・・・・・・・) 』という驚愕。

俺の全力打撃なら、神話級金属でも砕ける。神話級金属を圧縮して生成したというファトゥムの《超硬神器》にも罅くらいは入れられた。(当時はバルドルを使用したが)

特殊な防御スキルがあっても、耐久力が俺の攻撃力を下回るならば《破壊権限》が行使される。

つまりこの片手斧は明らかに、俺の攻撃力を上回る強度で作られている。

あるいは、今の俺がバルドルの必殺スキルを使っても傷つかないかもしれない。

「いきなり何すんだよ!?」

慌てた玲二が、俺の手から片手斧を取ってかき抱いた。

「いやー、冗談クマー。本気じゃないクマー」

実際には全力だったが。

だが、俺の打撃で罅割れないこの斧が、部分的に欠けている。

一体何を相手にして欠けたのかも、気になる点ではあった。

「とりあえず、それ結構頑丈だから最悪 盾(・) としての運用もありだと思うクマ」

と言うよりも…… 武器(・・) として振るった時に何が起きるか想像がつかない。

「はぁ……。まぁ、どっちにしてもまだ解呪も済んでないから装備はできないけどな。ひどいデメリットあっても困るし」

「ハッハッハ」

ない方がおかしいだろう。

「ふぅ、クマの時と違って、その格好で突拍子もない行動されると心臓に悪いぜ。昔の大会の時とか思い出すよ」

「……かもな」

少しだけ、あの時の感情を思い出しそうになる。

しかしそれは、また仕舞いこんだ。

「じゃあ俺は部屋に戻るよ。明日は“トーナメント”だし、コンディションくらいは整えときたいしな」

「そうか」

「明日からの“トーナメント”の結果如何で、皇国との戦いでどれくらいやれるかも変わってくる。【獣王】に負けて、自分がまだまだ力不足だって分かったから……頑張るさ」

「…………」

“トーナメント”の後……遠からず<戦争>が起きるだろう。

きっとティアンも……ハンプティのような管理AIもそのように動く。

だからきっと玲二にとって初めての、そして俺にとって二度目…………いや、俺にとっても 初めて(・・・) の<戦争>は間もなく起きる。

「兄貴?」

俺を不思議そうに見る玲二に対し、かつてのことを話すべきかを悩む。

「……いや、何でもないクマー。今日はもうゆっくり休むクマー」

しかし結局……何も言わなかった。

「ああ、分かった。……今更だけど、その格好でクマ語尾はきついぞ」

「クマー」

そうしていつものように会話を交わし、玲二の背中が遠ざかるのをただ見送った。

「…………」

俺が話すべきか悩んだのは、昔話だ。

今から何ヶ月も前の皇国との<戦争>に際して、俺が出られなかった理由。

それが半ば言い訳に過ぎないから、話すのを止めた。

弁解であり、後悔。

それは……俺とゼクスが 最後まで(・・・・) 戦った時の話だ。

To be continued