軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

地獄と殺人と冥王 その一〇

□【装甲操縦士】ユーゴー・レセップス

死とは生命を止める最大のもの。

善行も、悪行も、如何なるものも死んでしまえばそれで止まる。

この<Infinite Dendrogram>にはアンデッドがいるけれど、それだって完全な死ではなく、アンデッドという生命に移り変わったに過ぎない。

死という終わりは全てにあって、それは取り返しのつかないものであるはずだ。

取り返しがつかないと私が考えているからこそ、わたしの<エンブリオ>であるキューコは……死の代償を課す力を持って生まれたのだろう。

けれど、眼前の【殺人姫】エミリーはそうではなかった。

私達が視ている前で、光の塵となったはずの【殺人姫】エミリーが復活している。

<マスター>としての仮初の死すら……このエミリーには与えられない。

エミリーは、止められない。

「な、あ……」

その事実に大きな衝撃を受けたのは、私だけではなかった。

外部からの襲撃を警戒してエミリーを取り囲む形になっていた<マスター>が、眼前の事態を理解するために私の体感時間で数秒動けていなかった。

私も、その時間は動けなかった。

そして殺戮が始まる。

視界の中では他の<マスター>が次々に殺されている。

破格のステータスを持ち、死を迎えようと即座に復活する超越者。

これまで私が見てきた<マスター>の中でも最上位。師匠すら超えて、姉さんと戦ったあの【破壊王】にすら近い脅威を感じる。

『……ッ! 対象をカウント一万以上の<マスター>に絞って再起動!』

『ラジャー』

私が《地獄門》を設定し直して再起動するまでの数秒の間にも、十人近い<マスター>が死んでいた

超音速機動。手近にいた者から順番に、彼女は斧を振るって餌食にしていく。

私には残像しか見えない彼女が、獲物を……<マスター>を捜しては仕留めていることが……理解できてしまう。

そして一瞬、背筋がゾッとするような感覚を味わった。

その感覚で、私が狙われていることと――先刻と違い彼女が私を“敵”として見ていることを理解させられた。

『《地獄、門》……!?』

そして、私が《地獄門》を再展開するよりも早く、【ホワイト・ローズ】の装甲に何かが叩きつけられる音と……コクピットにまで伝わる衝撃が響いた。

重装甲に見合った重量であるはずの【ホワイト・ローズ】が、後ずさってたたらを踏む。

『……ッ!』

だが、その動作のままに後方へと跳んで、少しでも距離をとる。

一瞬の浮遊感の後に、アブソーバーで吸収し切れなかった衝撃がコクピットを揺らした。

『……くぅ』

『キューコ!?』

『だいじょう、ぶ。おのをなげられただけ……。わたしをちょっと くだかれた(・・・・・) けど、そうこうでとまった。おのは、あのこのてもとにもどった』

この【ホワイト・ローズ】はスキルによるダメージ軽減、キューコの氷結装甲、そして本体装甲の三重防御で<マジンギア>では最大の防御能力を誇る。

けれど今、斧の投擲はそれらの防御を貫いて本体装甲にまで届いていた。

『装甲のダメージは……?』

『ちょっと、ゆがんだだけ』

やはりダメージは受けている。

……けれど姉さんが作った神話級金属合金の装甲は、斧の攻撃でも破壊を免れている。

それなら、まだ耐えられる。

けど、投擲ではなく彼女自身が連続攻撃を仕掛けてきた時は長く持たない。

『エミリーは、……!』

『……こおってる』

《地獄門》は二度目も効果を発揮し、エミリーは再び【凍結】していた。

けれど、再び斧が飛翔し、エミリーを砕いて殺し、……そして復活させてしまう。

『…………』

しかし、復活したエミリーはこちらを追撃せず、他の<マスター>を狙っていた。

今の彼女は、まるでバーサーク系のスキルを使ったように、攻撃行動に理性がない。

攻撃する相手の明確な優先順位というものが見当たらず、《地獄門》を使う私達ではなく周囲の<マスター>に手当たり次第に攻撃を仕掛けている。

……あるいは自分と距離が近い相手やレベルの高い<マスター>を優先的に攻撃しているのかもしれない。

そうであれば、レベルがカンストから遠く、距離も離れた今の私達はさほど優先順位も高くないはずだ。

「――マイナス――マイナス」

彼女は<マスター>を殺しながら、《地獄門》で【凍結】しては斧に砕かれ、あるいは他の<マスター>の必殺スキルで致死ダメージを受けながら、復活を繰り返す。

……それは、まるで地獄のような有様だ。

『キリがない……』

『なにかてはない?』

『……あるとすれば、あの斧を破壊すること』

恐らく、あの二本の斧がエミリーの<超級エンブリオ>。

それさえなくなってしまえば、彼女は蘇生のスキルを使用できない。

『……だけど、あの斧は破壊できない』

今も飛翔する斧を破壊しようとして、<マスター>の一人が必殺スキルを発動した。

しかし、斧はその必殺スキルにも罅一つ入ることなく、その<マスター>を殺傷してしまった。

アームズの<超級エンブリオ>の破壊は、容易ではない。

あの【尸解仙】迅羽が<超級エンブリオ>の爪を用いてもなお、【超闘士】フィガロの<超級エンブリオ>を破壊できなかったように。

あの【超闘士】フィガロが自身の<超級エンブリオ>の効果を引き上げてからでなければ、迅羽の爪を折れなかったように。

少なくとも、あの斧を破壊することは【ホワイト・ローズ】の火力では不可能。

それはきっと師匠も同じだろう。

王国の【破壊王】ならばできるかもしれないが……それは望めるはずもない。

『手の打ちようがない……』

レイや、私と戦ったルークなら、この状況からでも勝ち筋を見出せるのかもしれない。

だけどわたしには、できない……。

わたしじゃ……あの子の殺戮を止められない。

『……このままでいいの?』

『良い訳がない! だけど……』

わたしじゃ、もうどうすることもできない……。

こんな状況で、どうすればいいかもわたしには……。

『ユーゴー……“女性を守る騎士となること”』

『……え?』

私の心が弱音を訴えそうになったとき、キューコが静かにそう言った。

『キューコ? 突然、なにを……?』

『それが、あなたが ユーゴー(・・・・) にのぞんだものでしょ?』

『…………それは』

それは確かに、わたしがユーゴーに望んだもの。

女性を守る騎士となること。

か弱き女性を苛む悲劇を打ち倒すこと。

美しき花の……棘となる者。

わたしがユーゴーに求め、演じていた人物像。

わたしがユーゴーに託した……願い。

『このままだと、あのこはとまらない。きっとおおくのひとが、ゆーごーがまもりたいとねがったようなひとたちも、たくさんしんじゃう』

『…………』

『わたしは、あなたのねがいからうまれた。だから、わたしはあなたをまもるし、あなたのねがいをまもる』

その言葉を投げかけられた時、今は【ホワイト・ローズ】の装甲となっているはずのキューコに抱きしめられた気がした。

『わたしがまもってあげるから。せなかをむけてあきらめることは、しないで』

キューコの言葉は、

『ねがいに、めをそむけないで……』

『キューコ……』

氷結地獄(コキュートス) の名を持つ彼女の言葉は……とても暖かかった。

そうしてキューコの言葉が胸に届いた時、もう一つ……わたしの心がある言葉を思い出していた。

―― 迷酔(まよ) いすぎだよ、お嬢さん。

かつてわたしが迷い、自ら進むも退くもできなくなっていた頃に吐き捨てられた言葉。

わたしと共通の友人を持ち、人の心を抉るような言葉ばかりをぶつけてくる……私がこの<Infinite Dendrogram>で最も嫌いな少年の言葉。

けれど知っている。

彼の言葉がわたしの心を抉るのは、わたしが見ないようにしているわたしの心の真実を、彼が言葉にして晒し続けたからだ。

今、彼の言葉を幻聴したのも、わたし自身がソレを認識しているからだ。

けれど今、そんな彼の言葉がわたしの背を押す。

同時に、一つの光景を思い出す。

強大な敵を前にしても、退くことがなかった……一人の<マスター>の姿を。

『……背を向けるな、 ユーゴー(わたし) 』

自分の意思で選んで、進め。

相手がどれほど強大で得体の知れないものだとしても。

少なくともあの二人は、それで退くようなことはなかったはずだ。

『……選べ、 ユーゴー(わたし) 』

それに、今はあの時とは明確に違うことがある。

多くの人々の悲劇と姉さんを天秤にかけたギデオンではない。

あのときとは迷うものが違う。

眼前の脅威を前に、挑むか諦めるかを迷っているだけ。

ならば、 ユーゴー・レセップス(私) の進むべき道は定まっているはずだろう……!

『……分かったよ、キューコ。わたしも……私もまだ……諦めない!』

『うん、がんばって』

私は進むと……脅威に挑むと決めた。

これからだ。

もう一度、もう一度出来ることがないかを考えなければならない。

『…………』

かつて同じように遥か格上の<超級>……姉さんと相対したレイはこんなことを言い放ったらしい。

――<超級>のお前でも、理由なく無敵のモンスターなんて創れなかったわけだからな。

そう、<超級>であろうと完全な無敵無欠はありえない。

そう見えるとしても、どこかに欠点や不足を抱えているはずだ。

考えるんだ。エミリーの不死身に隙がないかを……!

『……そうだ』

そうして、気づく。

今のエミリーは一三秒毎に【凍結】し、自らを自らの斧で砕き、すぐに復活している。

けれど……【 凍結(・・) 】 はしている(・・・・・) 。

死んで完全回復するとはいえ、全身の【凍結】による行動不能効果はエミリーにも有効に機能し続けている。

『それと、<マスター>を狙って飛翔する斧は……威力が二種類ある』

エミリー自身が投げた時と、斧が自発的に飛翔した時。

その二パターンで明らかに威力が違う。

恐らく、エミリーが投げた時はエミリーのSTRが乗るが、斧が単独で飛翔した場合はそうではない。

前者は【ホワイト・ローズ】の装甲でもそう何度も受けられない。

しかし、後者ならば……装甲で止められる。

そして、

『……【凍結】後の行動が、完全にルーティンワーク化している』

【凍結】した後は、砕かれるまで彼女自身は動けないし、斧は彼女が【凍結】した時点で手を砕いて飛翔する。

あるいは飛翔中ならば、攻撃を中断して彼女の破砕と復帰に向かう。

斧は、たとえ攻撃している相手があと一手で仕留められるという状況でも、二本とも彼女に向かう。

それが意味することは『エミリーの行動不能』を契機に、斧は自動的に彼女を殺して回復するために動くということ。

それが、必要な行動だからだ。

『……砕かれなければ【凍結】したまま』

あの子の回復には、死というトリガーが必須。

光の塵になってからでなければ回復しない。

そう、エミリーは―― 死ぬからこそ(・・・・・・) 不死身なのだ。

……だったら!

『キューコ! 【ホワイト・ローズ】の第二戦闘モードを使う!』

『……ほうげきぼうぎょようのあれを? それに、しょうもうするよ?』

『どの道、このままじゃ長くもたない!』

この【ホワイト・ローズ】は、スキル防御の常時発動と重装甲ゆえに、MPの消耗が早い。

重ねて《地獄門》までも展開していれば尚更だ。

それこそが姉さんに機体と共に渡された説明書にも書かれていた【ホワイト・ローズ】の最大の欠点であり、未完成部分。

――【ホワイト・ローズ】は長期戦用機体でありながら、 短時間しか戦えない(・・・・・・・・・) 。

耐久型でありながら、恐ろしくガス欠が早い。

それはキューコとのシナジーにも言えた。

エミリーのようにカウントが一〇〇を超えた相手ならばすぐに《地獄門》で決着するけれど、あのルークのように半端なカウントしかない相手では長期戦に持ち込まざるを得ない。

本来は重厚な防御で相手の攻撃を防ぎながら、《地獄門》で時間を掛けて相手を制圧する機体。

けれど、今の私のMPでは【ホワイト・ローズ】を長時間使用できないし、それをサポートするレイの【紫怨走甲】のようなMP供給システムもない。

そういった構造的欠陥を、今の【ホワイト・ローズ】は抱えている。

まして、これから使おうとしている第二戦闘モードは、MP消費に拍車をかける。

稼働時間は五分ももたないだろう。

だけど……それでしかできないこともある。

『この状況を打破するには、それしかない……!』

『わかった』

私は操縦幹の横にあるコンソールを操作しながら、その瞬間を待つ。

今もエミリーは<マスター>を殺し回りながら、《地獄門》の一三秒毎の判定で【凍結】しては、斧に砕かれている。

エミリーの【凍結】から、斧がエミリーの復帰に動くまで……最長で三秒。

勝負は、その三秒間。

『キューコ! 判定までのカウントダウン!』

『つぎのはんていまで、じゅういち、じゅう、きゅう……!』

私の指示で、キューコが判定までの時間を数え始める。

しかし次の瞬間、

『――マイナス』

『……!』

判定を待つ私達に、超音速機動で姿を霞ませながらエミリーが迫ってきた。

見れば、周囲の<マスター>のほとんどは既に殺傷されている。

『いよいよ私達が対象になった……でも!』

エミリーは両手に持っていた斧は投擲している。

斧は旋回しながら、私達以外の<マスター>を襲っている。

そして彼女自身は素手のまま、【ホワイト・ローズ】の装甲を叩いた。

『……ッ!?』

彼女の乱打は重く、機体が大きくバランスを崩す。

それはかつてルークの亜竜と戦ったときよりも激しく、機体のフレームを軋ませる。

こちらの性能はあのときとは比較にならない。けれどエミリーもまた、素手であろうと亜竜クラスとは比較にならない。

『ひょうめんそうこうにダメージ。ヒビはいった』

神話級金属の合金で出来た【ホワイト・ローズ】の装甲を、素手で砕きに掛かる。

まるであの【破壊王】のよう。

『わたしの、からだも……』

『キューコ、大丈夫!?』

『まかせて……!』

けれど、まだキューコと【ホワイト・ローズ】は耐えている。

『私達は……まだ、諦めない!』

そして、数秒という短時間が、数十秒にも数分にも思える乱打の中で、私達は待ち続け、

その瞬間まで――生き残った。

『さん、に、いち……!』

《地獄門》の判定が発生し、エミリーが【凍結】した瞬間。

『【ホワイト・ローズ】 全装甲パージ(・・・・・・) !! ――第二戦闘モードッ!』

エミリーの攻撃で罅割れ歪んだ【ホワイト・ローズ】の装甲が全て外れる。

しかし、それは攻撃による脱落ではなく――自発的な分離。

そうして外れた本体装甲の代わりに、キューコが直に【ホワイト・ローズ】の装甲となる。

『おのが、くる!』

<マスター>を襲っていた斧が旋回し、【凍結】したエミリーへと舞い戻る。

だが、その直前に、私は【ホワイト・ローズ】の最後のギミックを動かす。

『――《 ブーク(遊) リエ・(星) プラネ(の) ッター(盾) 》!!』

二本の斧は自動的に主を解放すべく、主を殺しに掛かる。

そして、先刻までの繰り返しのように斧はエミリーへと迫り、

――エミリーの氷像を守るかのように 浮遊した(・・・・) 【ホワイトローズ】の装甲に弾かれた。

斧はエミリーにまで届かない。

『ユーゴー!』

『……成、功!』

この宙に浮かんだ装甲こそが【ホワイト・ローズ】の第二戦闘モード――《ブークリエ・プラネッター》。

浮遊しながら対象をガードする、浮遊盾。

本来は砲撃や魔法を【ホワイトローズ】本体から離れた場所で受け止めて、本体にダメージを流さないための装甲遠隔操作機能。

ある程度の操作や自動防御設定も可能で、【ホワイト・ローズ】本体を護ることも出来るし、エミリーの氷像に使ったように……他者を 護らせる(・・・・) こともできる。

エミリーの斧は飛翔しながら幾度も装甲に激突する。

けれど、エミリーによる投擲を介さない斧だけの攻撃では、想定どおり神話級金属合金の装甲を破壊できない。

自動的な動きを繰り返す斧はエミリーのHP全損を最優先としているのか、傍にいる【ホワイト・ローズ】に攻撃してくる様子はない。

壊れない盾に、幾度もぶつかっていく。

そして盾に阻まれて――斧はエミリーを 殺せない(・・・・) 。

『これで……詰みだよ』

これこそが、唯一の勝機。

飛来する斧からエミリーを護り、彼女を死なせない。

そうすれば、彼女が死ぬことも…… 蘇ることもない(・・・・・・・) 。

『エミリーを護る』ことこそが、エミリーを止める唯一の道だった。

『……《地獄門》を、解除。残ったMPは《ブークリエ・プラネッター》の維持に回すよ』

『ラジャー』

『キューコも、休んで』

『……うん。すこし、やすむね』

私は《地獄門》を解除し、消耗したキューコは装甲からメイデンへと戻る。

機体を動かさず、《地獄門》も使わない。《ブークリエ・プラネッター》だけならば、MP回復アイテムでの回復と相殺できる。

それに《地獄門》自体を解除しても、【凍結】は続く。

この【凍結】時間は、同族討伐数に比例して長くなる。

砕かれない限り……【殺人姫】である彼女は数日間、ここで【凍結】し続けるはずだ。

恐らくはその間にログアウトの必要が生じる。

けれど、【凍結】状態では通常のログアウト処理は出来ない。

彼女はログアウトするために、自害システムを使用することになるだろう。

あるいは、ログアウトしない彼女を心配した家族が機器を外そうとすれば、強制的に自害システムが使用される。……そういう仕様だったはずだ。

自害システムは彼女の蘇生の対象外であることは間違いない。

そうでなければ、何度も斧で自らを殺す必要もないし……今も蘇っているはず。

だから、もう決着している。

『…………』

こうしている今も、斧は変わらず盾に向かうだけだった。

<マスター>との戦闘といい、彼女の戦い方は人間を相手にしている気がしない。

まるで、行動ルーティンを設定された古いゲームのCPUのような短絡さがある。

それでも尋常な手段では彼女を止められなかっただろう。

如何なるダメージも、死も、不死身にして莫大なステータスを持つ彼女を止めることはできない。

国際指名手配も、<マスター>の中で最大級の悪名を持つことも、納得せざるを得ないほどの超越者だった。

被害は大きく、周囲の人影はすっかり少なくなっていた。

バザールにいたティアンの多くは逃げ出し、生き残った<マスター>も今は両手足の指で数えられてしまうほど。

さらに、周囲にはティアンの死体……とも呼べなくなってしまった骸が散らばっている。

『………どうして』

【凍結】したエミリーを《ブークリエ・プラネッター》越しに見ながら、私は思う。

『この子は……どうしてこんな殺戮を引き起こしてしまったのだろう』、と。

もちろん、みんなが私のようなメイデンの<マスター>じゃない。

ドライフの【魔将軍】のようにティアンをNPCとしか見ず、壊してもいいオブジェクト程度に考えている者もいるだろう。

けれど、カフェで話したこの子……エミリーはそうではなかったと思う。

他者の<エンブリオ>を友達と呼び、楽しげに話す。

普通の、純真な女の子だったはずなのに。

『あなたは、なぜ【殺人姫】になってしまったのだろう……』

問いかけても、氷像となった彼女からの返事は……無論ない。

きっと……私が彼女の理由を知ることは永遠にできないのだろう。

戦いが終わったバザールには、彼女の斧が《ブークリエ・プラネッター》にぶつかる金属音だけが、寂しげに響いていた。

To be continued