軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十五話 インパクト・カウンター

□<ファドル山道>

『一〇分が経過しました。これより<ファドル山道>において、<K&R>のハンティングを開始いたします』

最初のアナウンスで予告されていた一〇分が経過し、そんなアナウンスが<ファドル山道>に響き渡る。

この一〇分の間に<ファドル山道>から脱出できなかった<マスター>、あるいは最初から「来るなら来てみろ!」と待ち構えていた<マスター>は、リミットと同時に訪れるであろう襲撃を警戒した。

その警戒は正しく、リミットと同時に“攻撃”が開始された。

最初は矢の雨だった。

どこかから、数百、数千本にもなる矢が雨となって、<マスター>達の頭上に降り注いだ。

それは《五月雨矢羽》と呼ばれる、天地の上級職【 強弓武者(ヘヴィ・ボウ・サムライ) 】のスキル。

一射で百の矢を放つそのスキルを、三十人にもなる<K&R>の集団戦グループが同時に使用し、三千の矢として重ね合わせる。

一本の矢のダメージは百に満たないが、それが三千本と重なれば破格のダメージとなり格上の相手も削り殺す。

致命の雨が降り注いだ<マスター>は全体の一割ほどだっただろうが、その中にはまだマップから脱出できずにいるレイ達も含まれていた。

ネメシスの有する《カウンターアブソープション》は単発ならば二十万ものダメージに耐えるが、このような遠距離からの連射は最も不得手とする相手だった。事実、マリーとの模擬戦では同じ手で容易く破られている。

《煉獄火炎》で焼き払おうにも、生憎それを実行できる左手が今はない。

シルバーの《風蹄》による防壁も展開時間とMPのチャージ量が足りず、流石にこれだけの数を相殺は仕切れない。

ゆえにこれはレイには対処できず、

「《サウザンドシャッター》」

止まった馬車の御者台から飛び降りたビースリーが対処した。

ビースリーがアイテムボックスから取り出した身を隠すほどの大盾を構えると、馬車を隠すほど大きな青い光の壁が出現する。

降り注ぐ無数の矢はその青い光の壁に阻まれ、一本たりとも徹ることはない。

それこそは【盾巨人】のスキル。

自身に一○○○ポイント以上のダメージを与えられる攻撃以外の全ての攻撃を遮断する防御結界。

数が頼りの矢では、まず貫通できない鉄壁の護り。

次いで、矢の飛来した方向に目をやったビースリーは、アイテムボックスからもう一つ盾を取り出す。

そして、矢の雨が途切れた間隙を見計らい、攻め手に移る。

「《 地よ楔を外せ(アンチ・グラビティ) 》、《シールド・フライヤー》」

自身の<エンブリオ>の固有スキルの一つを併用しながら、ビースリーは二枚目の盾を――身を隠す大盾よりさらに数倍のサイズを誇る巨人用の盾を――投擲した。

矢を飛ばしてきた方向に、目算と経験による勘で微修正を加えて投擲されたその巨大盾は、見事に<K&R>集団戦グループの中心に着弾する。

その一撃で【救命のブローチ】を装着していなかった数名がデスペナルティとなる。

着弾の混乱により、矢の雨は次弾が放たれることなく途絶える。

その間に少しでもマップから脱出するべく、レイはシルバーを再び走らせる。

レイは左手の義手で手綱を固定しながらも、右手には大剣状態のネメシスを握って警戒を怠らない。

ビースリーも盾を持ったまま馬車の屋根上に飛び乗り、やはり何かを警戒している。

そうしてレイとビースリーが警戒しながらも馬車を走らせたタイミングで

馬車の右前方――樹木の陰で死角となっていた位置から何者かが飛び出した。

その者の名は、【伏姫】狼桜。

彼女は、二人の警戒の間に生じた僅かな隙を突き――

「《天下一殺》!!」

野伏系統超級職【伏姫】の奥義を……シルバーを走らせるレイに叩き込んだ。

◇◇◇

□五分前

「<K&R>のサブオーナー、狼桜のジョブは野伏系統超級職【伏姫】です」

<K&R>のサブオーナーを「討ち取ってみますか?」と言った先輩は、相手についての情報を俺に話し始めた。

「【 野伏(ダウン・サムライ) 】は【 武士(サムライ) 】から派生したジョブですが、ジョブとしての特徴は【武士】とは大きく異なります」

「【武士】はたしか、こっちで言う【戦士】や【闘士】に近いジョブでしたよね。なら、【野伏】の特徴は?」

「初撃奇襲です。相手に対する その日最初の一撃のみ(・・・・・・・・・・) 、ダメージ量が桁違いなのです。超級職である【伏姫】の奥義ならば、六桁は確実に叩き出すでしょう」

奇襲ね……落ち武者狩りなんかが元だろうか。

しかし、六桁ダメージ……兄の打撃や、【応龍牙】を使った迅羽と同格の威力か。

上限が二○万らしい《カウンターアブソープション》でも耐え切れるかは分からない。

そもそも、奇襲に対して展開できるのだろうか。

「狼桜の初撃について耐える、避ける努力をする必要はありません」

「え?」

「そのまま直撃させてしまえばいいんです」

……先輩、何を言っているかわかりません。

「野伏系統の奇襲攻撃は、サービス開始からしばらくは猛威を振るいました。ええ、一撃のダメージソースとしては破格ですからね。特に奇襲を仕掛けることが多いPKでよく用いられ、【野伏】の最初の一撃でデスペナルティになるというケースが相次ぎました。ですが、ある時期を境にそれは収まります」

先輩はそう言って上着をめくり……その懐に着けていたあるものを俺に見せる。

それは俺もよく知り、今も身に着けているアクセサリー。

「【救命のブローチ】の存在です。一定以上のプレイヤー層が、これを装備するようになって野伏系統の優位は消え去りました」

「……なるほど」

最初の一撃のみが最強であるがゆえに、致死ダメージを無効化する【救命のブローチ】の存在は野伏系統にとって致命的だったわけだ。

威力が高すぎて、初撃で致死に至ってしまうのも問題だったのだろう。

「【獣王】の出現で衰退した“ガードナー【獣戦士】理論”もそうですが、環境の変化によって過去の戦術が通用しなくなることはMMOでは多々あります」

所謂メタゲームと言う奴だ。MMORPGでなければ、トレーティングカードゲーム界隈などでよく聞く話だろう。

「もっとも、あの【伏姫】は超級職として鍛え上げたステータスで、今もあの戦術を敢行しています。『初撃で【救命のブローチ】を潰せるなら十分さね』、と」

先輩はその【伏姫】自身がそう言っていたことを、まるで自身の耳で聞いたことを思い出したかのように語る。

「ですが、最強の初撃を【救命のブローチ】で無効化できるという事実は動きません。ですから、初撃の瞬間こそが相手の最大の攻勢であると同時に――」

――こちらにとっても、最大の好機。

「ッ!!」

敵手の放った一撃が俺の胸に突き立ち――【救命のブローチ】によってダメージの全てを消失する。

こちらのHPに数十倍する致死ダメージを無効化した代償で、鎧の内側で【救命のブローチ】が砕け散る。

だが――それで十分。

胸に衝撃を感じたのと同時に、俺の右腕は既に動き出している。

反撃の手は既に決まっている。

“相手の攻撃を食らった瞬間に、そのダメージを相手に倍返しする”。

「 《復讐するは(ヴェンジェンス) ――」

俺は、かつてフランクリンの【DGF】を前に 死(デスペナルティ) を覚悟しながらイメージした技を、

「―― 我に(イズ) ――」

ランカーとの数限りない模擬戦の末に会得した技を、

「―― あり(マイン) 》!!」

――【伏姫】に叩き込んだ。

「ッッ!?」

俺に奇襲を当てた【伏姫】は、逆に俺からの 奇襲(カウンター) を受け……そのまま馬車から転げ落ちた。

地面の上を二度三度とバウンドし、そのまま倒れ臥し――

「―― 人(ス) 》、《ストロングホールド・プレッシャー》」

――馬車の上から飛び降りた先輩の、二つ目の巨人盾によって叩き潰されていた。

盾の下からは液体の詰まった何かが潰れるブチュリという音が聞こえた。

「…………」

『…………あれ、盾の下がどうなっているか見るのが怖いのぅ』

倒れた相手に無慈悲な追い討ち。

これに「先輩容赦ない」……とは言わない。

なぜなら、あいつは《復讐するは我にあり》を……六桁ダメージを倍化させた一撃を受けても五体満足に残っていた。

ダメージを十分の一にする【身代わり竜鱗】でも足りないだろうから、まず間違いなくあちらも【救命のブローチ】を有していたのだろう。

模擬戦と違い、向こうも【救命のブローチ】を使用できる。そうなるのも必然だ。

しかしそれでも、先輩の追い討ちで完全に仕留めた。

盾の下からは血の海が広がり、そして今光の塵となって消えていく。

デスペナルティは確実だ。

「……おつかれさまでした。レイ君」

「はい、おつかれさまです、先輩。それにしても本当に先輩の言ったとおり、俺の方を狙ってきましたね……」

相手への対策を話した後、「十中八九御者をしているレイ君を狙うでしょうね」と先輩は言っていた。

俺としてはレベルの高い先輩が狙われると思っていたが、先輩はまず俺が狙われると踏んでいた。

たしかにシルバーの手綱を握っているのは俺だから、まず俺を潰せば機動力が失われる。

だから俺を最初に狙うのは読みとしては分かる。だが、先輩には他にも何か根拠があったように思われる。

「ええ、こうなるとは思いましたよ。以前、私が彼女と戦ったときも、今のレイ君のようにカウンターで今使った必殺スキルを当てましたから。同じ轍を踏まないために、初撃で私は狙わないと読んでいました」

……先輩、前にも戦ったことあったのか。

道理で詳しいわけだ。

「それにしても、超級職の実力者にこうもあっさり勝てるなんて……」

「プレイヤーの戦いは、レベルとステータスの多寡が全てではありません。如何に相手の力を出させず、自分の切り札をぶつけるかです」

それで言えば、今の戦いは正にその典型だっただろう。

【ブローチ】で相手の初手を潰し、その隙に俺のカウンターと先輩の必殺スキルという切り札を当てて勝利したのだから。

「それにしても、今のカウンターは見事でしたね。相手の攻撃を受けると同時に当てるなんて」

「あれは大分練習しましたからね。決闘のランカーの人達にも模擬戦で手伝ってもらって……」

相手の最大の一撃を受けると同時に、カウンターで叩き返す。これはデンドロのスキルではなく、俺自身が会得した技術だ。

着想からデンドロで一ヶ月、模擬戦で磨いたお陰で実戦でも使えるレベルになっている。

模擬戦の中で自然と試す機会が多かったが、特にビシュマルさんが熱心に手伝ってくれた。

なにせ毎回毎回、必ず最初に必殺スキルで突撃してきてくれるのだから。

俺のためにわざわざそうしてくれるのでなければ、あんな戦術を使ってこないはずだ。

……まさか、いつもあんな戦い方の訳はないだろう。

お陰であの人にだけは勝ち越してしまったのだが。

他のランカーの人達は初見以外対処してきたし。

「あのカウンターはタイミングの見事さもそうですが、何より」

「――――《天下一殺》」

一瞬、何が起こったかわからなかった。

気がつけば、先輩の胸に槍が突き立ち……馬車の扉に叩きつけられていた。

いや、わかる。

今のスキル宣言には聞き覚えがあり、今の槍には見覚えがある。

今の一撃は、

今の一撃を放ったのは……、

「ま、あんたももちろん【救命のブローチ】は持ってるだろうねぇ、ビースリー」

【伏姫】――狼桜。

「でも、そいつも今ので砕けちまっただろう?」

「……なぜ生きているのです?」

馬車に叩きつけられた先輩は、それでも倒れることなく地面に立つ。

しかし、その胸元からは砕けた【ブローチ】が零れ落ちた。

「レイ君の一撃で【ブローチ】が砕け、次いで私の必殺スキルを併用した一撃で即死したはずでは?」

「ああ、普通ならそうだろうねぇ。あんたの必殺の威力は相変わらずだし、そこの“不屈”のカウンターも見事なもんさ。ただ生憎……」

【伏姫】は、自分の手首にぶら下がっているものを見せた。

それはブレスレットのように腕に絡まっていたが、よく見れば干からびた小さな人形だった。

「最近、<UBM>を一匹仕留めてたからねぇ。そこで手に入れた特典武具の効果さね。効果は……予想がついてんだろう?」

「血や光の塵も踏まえて考えると……『致死ダメージが入る直前で、身代わりを作って入れ替わる』といったところですか」

「流石だねぇ、データ女。概ね合ってるよ」

つまりは、この【伏姫】は二種類の致死回避アクセサリーを所持していたのだ。

……ありかよ、それ。

「【救命のブローチ】以外の致死回避アイテムは希少ですからね。よく手に入れたものです」

「ハッハァ、日頃の行いって奴さね」

「冗談にもなりませんね」

二人はまるで友人同士のように話しているが、言葉と裏腹に殺気が蔓延しているのが俺でも分かる。

まるで昨日のフィガロさんと扶桑月夜の焼き直しだ。

けれど、先輩は攻撃を仕掛けられない。

それはきっと先輩が耐久型であるため。自分から迂闊に動けば、隙を突かれるのだろう。

「さぁて、これでお互い致死ダメージを回避する手はなくなった。あたしはもうあんたらに対しての初撃は使っちまったし、ビースリーは虎の子の必殺スキルを使っちまってクールタイムが空けるまで再使用できない。だろう? あんたの必殺は あたしの奴(・・・・・) ほどじゃあないが、クールタイムは長いはずだからねぇ」

「…………」

「それに……」

そこで言葉を切り、【伏姫】は視線を俺に移す。

「“不屈”のカウンターの種も割れた。相手に刃が触れてさえいれば、本人の姿勢や力の込め具合が関係ないってえスキルを使ってるんだろ?」

「……!」

こいつ、既に俺が使ったカウンターの根幹を把握している。

そう、《復讐するは我にあり》は刃に触れさえすれば、その部位に倍のダメージを叩き込む。

体内にコアがある大型モンスターに対しては刃を体内に突き入れる必要があるが、人間サイズならその過程も不要。

どれほど無理な姿勢でも、力が篭っていなくとも、刃を触れさせれば成立する。それこそ、相手の攻撃に被弾して体勢が整っていないときでも。

だからこそ成立するのがさっきの同時カウンターだ。

その仕組みを、【伏姫】は一撃受けただけで完全に理解している。

「差し詰め、 衝撃即応反撃(インパクト・カウンター) といったところかねぇ」

……名づけられてしまった。

変な名前でもないから別にいいけど。

「ちらりと聞いてたが、ランカー相手に模擬戦やってたって? どうせビシュマルあたりが突撃して練習台になってたんだろう?」

『御主、ランカーにも随分と詳しいようだのぅ』

「ああ、そいつぁ当然さね」

ネメシスの言葉に、【伏姫】はニィッと笑って答える。

「――あたしが決闘ランキングの五位だからねぇ」

……三位だけでなく五位も、<K&R>のPKだったのか。

「ま、ダーリンがあたしの趣味に付き合ってくれるから、あたしもダーリンの趣味に付き合ってるのさ。決闘ってーのも悪くはないからねぇ」

「初撃奇襲が使えないのは困りもんだけどさ」と【伏姫】は笑う。

「ああ、そりゃあ決闘で奇襲が出来るのなんてあの迅羽くら、い…………?」

待て。

こいつ自身が言ったように、決闘では野伏系統の長所である初撃奇襲攻撃は使えない。

――じゃあ、どうやってこいつは五位にランクインしているんだ?

そんな俺の疑問に答えるように、

「さーて、ジョブの奥義も使えないことだし――ここからは真っ向勝負でぶっ殺そうか」

【伏姫】はアイテムボックスから、何かを取り出した。

それは――【伏姫】の身体よりも巨大な竜の頭骨だった。

【伏姫】はその頭骨を、手にした槍の穂先で軽そうにクルクルと回し、

「――《 兵どもが夢の跡(ガシャドクロ) 》」

一言、そう宣言した。

【伏姫】の持っていた骨が一瞬で粉末へと変じ、槍に飲まれていく。

その光景に俺は、決闘の五位が“骨喰”と呼ばれていたことを思い出した。

しかし、その光景は骨を飲んだだけでは終わらず、

「 化(カ) ァァァァァァ!!」

槍から光と共に、白いオーラが噴出した。

オーラは、瞬時に【伏姫】の全身に纏わりつく。

そのとき、

「――《ストロングホールド・プレッシャー》」

全身が包まれた瞬間――光とオーラで【伏姫】の視界がゼロになった瞬間に動き出していた先輩の、巨人盾による一撃がその身体を捉える。

それは先刻の焼き直しのように真上から【伏姫】を叩き潰し――

『――もう効かねぇさ!』

白い 外骨格(・・・) を纏った【伏姫】に受け止められた。

それはまるで竜と人骨を混ぜ合わせたかのような異形だったが、感じさせる威圧感が別物だった。

まるで熟練の戦士と強大な怪物が一つの身体に同居しているかのようだ。

「ッ!」

先輩は咄嗟に巨人盾から手を離し、後方に飛び退いた。

『破ァ!!』

直後――外骨格の右腕が巨人盾を木っ端微塵に粉砕した。

まるで壁の如く堅牢で巨大な盾が、ただの一撃で……。

『なんという馬鹿力だ、まるでクマニーサンだの……』

ネメシスが呻くのもわかる。

流石に兄ほどではないだろうが、そのパワーは先刻とは別物だった。

まず間違いなく、これが【伏姫】の<エンブリオ>の必殺スキル。

ライザーさんと同じ……強化変身能力の<エンブリオ>。

【伏姫】は真の切り札を切ったわけだ。

「……強い、な」

発揮された力と威圧感から、眼前の相手が間違いなく決闘場のランカーの一人であると実感した。

そして思う。

ならば、まだ……、

『勝つ可能性はある。であろう?』

「……ああ」

ネメシスに言葉に応じ、俺は強大なランカーに挑む決意を再度固めて――大剣を握り締めた。

To be continued